前々回と前回のエネルギーの摂取状況等に引き続いて、今回から蛋白質と不可欠アミノ酸(必須アミノ酸)の摂取状況等について書きます。
先ず、今回は『「日本人の食事摂取基準(2020年版)」におけるたんぱく質に関する記述の要点』についてです。
「日本人の食事摂取基準(2020版)」における蛋白質に関する記述の要点
前々回、『「日本人の食事摂取基準」の中でも「エネルギー」に関する記述、特に「エネルギーの指標」は最も理解が難しく、誤解し易い』と書きました。
たんぱく質等の「栄養素の指標」にも色々と種類があって面倒臭くは感じましたが、エネルギーの指標に比べたら、書かれている文言通りに解釈すれば良いので比較的理解は容易でした。
それよりも、各指標を決めるために用いられた方法について、窒素出納法、指標アミノ酸酸化法、良質な動物性たんぱく質における維持必要量、日常食混合たんぱく質における維持必要量等々が詳しく説明されていますが、我々、一般人にとっては直接必要は無いだろうと細かいことは読み飛ばし、各指標の意味、算定方法や自身の食生活への活用要領等、実践に必要なことだけを理解するように努めました。
Ⅱ各 論 1エネルギー・栄養素 1-2 たんぱく質 1 基本的事項
1-1 定義と分類
たんぱく質(蛋白質、たん白質、タンパク質、protein)とは、20 種類のL-アミノ酸がペプチド結合してできた化合物である。たんぱく質は他の栄養素から体内で合成できず、必ず摂取しなければならない。したがって、たんぱく質は必須栄養素である。たんぱく質が欠乏するとクワシオルコル(クワシオルコール又はカシオコアとも呼ぶ)となる。
たんぱく質はこれを構成するアミノ酸の数や種類、またペプチド結合の順序によって種類が異なり、分子量 4,000 前後のものから、数千万から億単位になるウイルスたんぱく質まで多種類が存在する。ペプチド結合したアミノ酸の個数が少ない場合にはペプチドという。たんぱく質を構成するアミノ酸は 20 種である。ヒトはその 20 種のうち、11 種を他のアミノ酸又は中間代謝物から合成することができる。それ以外の9種は食事から直接に摂取しなければならず、それらを不可欠アミノ酸(必須アミノ酸)と呼ぶ。不可欠アミノ酸はヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、バリンである。
1-2 機能
たんぱく質は、生物の重要な構成成分の一つである。また、酵素やホルモンとして代謝を調節し、ヘモグロビン、アルブミン、トランスフェリン、アポリポたんぱく質などは物質輸送に関与し、γ-グロブリンは抗体として生体防御に働いている。たんぱく質を構成しているアミノ酸は、たんぱく質合成の素材であるだけでなく、神経伝達物質やビタミン、その他の重要な生理活性物質の前駆体ともなっている。さらに、酸化されるとエネルギーとしても利用される。
1-3 消化、吸収、代謝
体たんぱく質は、合成と分解を繰り返しており、動的平衡状態を保っている。たんぱく質の種類によりその代謝回転速度は異なるが、いずれも分解されてアミノ酸となり、その一部は不可避的に尿素などとして体外に失われる。したがって、成人においてもたんぱく質を食事から補給する必要がある。
2 指標設定の基本的な考え方
1歳以上の全ての年齢区分に推定平均必要量、推奨量及び目標量を定めることとし、耐容上限量はいずれの年齢区分にも定めないこととした。
3 健康の保持・増進
3-1 欠乏の回避
3-1-1 必要量(たんぱく質維持必要量)
(略)
3-1-2 推定平均必要量、推奨量の策定方法
3-1-2-1 基本的な考え方
たんぱく質の必要量(推定平均必要量)は、
(推定平均必要量)=(維持必要量)+(新生組織蓄積量)
と表される。
また、推奨量は、
(推奨量)=(推定平均必要量)×(推奨量算定係数)
と表される。
3-1-2-2 推定平均必要量 3-1-2-2-1 維持必要量
日常食混合たんぱく質における維持必要量は、すなわち、
(維持必要量)=(良質な動物性たんぱく質における維持必要量)/(日常食混合たんぱく質の利用効率)
とした。
たんぱく質維持必要量は kg 体重当たりで報告されている。そこで、これに参照体重
を乗じて1人1日当たりのたんぱく質維持必要量とした。すなわち、
(維持必要量(g/日))=(維持必要量(g/kg 体重/日))×(参照体重(kg))
とした。
3-1-2-2-2 新生組織蓄積分
新生組織におけるたんぱく質の蓄積は小児と妊婦において生じる。
(即ち、18歳以上は算定不要)
3-1-2-3 推奨量
推定平均必要量から推奨量を求めるときの推奨量算定係数を 1.25 とし、全ての年齢区分(乳児を除く)で用いた。すなわち、
(推奨量)=(推定平均必要量)×(推奨量算定係数)
とした。
3-1-3 目安量の策定方
(乳児対象のため略)
3-2 過剰摂取の回避
3-2-1 耐容上限量の策定方法
たんぱく質の耐容上限量は、たんぱく質の過剰摂取により生じる健康障害を根拠に設定されなければならない。最も関連が深いと考えられるのは、腎機能への影響である。健康な者を対象としてたんぱく質摂取量を変えて腎機能への影響を検討した比較試験のメタ・アナリシスでは、35% エネルギー未満であれば腎機能を低下させることはないだろうと結論している 。また、20% エネルギー以上(又は 1.5 g/kg 体重/日以上又は 100 g/日以上)の高たんぱく質摂取が腎機能(糸球体濾過率)に与える影響を通常または低たんぱく質(高たんぱく質摂取群よりも5% エネルギー以上低いものとする)に比べたメタ・アナリシスでは、有意な違いは観察されなかった 。しかし、試験期間が短いなど課題が多く残されている。したがって、現時点ではたんぱく質の耐容上限量を設定し得る明確な根拠となる報告は十分ではない。以上より、耐容上限量は設定しないこととした。
(私としては、「本来は耐容上限量を設定することが必要であるが、現時点においては、設定し得る根拠が無いので設定できない」ということだろうと解釈しています。特に、健康診断で腎機能の数値が悪化した原因が蛋白質の過剰摂取にあったと思われることから、蛋白質の過剰摂取に注意を払うようになりました。)
3-3 生活習慣病等の発症予防
3-3-1 生活習慣病及びフレイルとの関連
たんぱく質の摂取不足が最も直接的に、そして、量的に強い影響を及ぼし得ると考えられる疾患は高齢者におけるフレイル(frailty)及びサルコペニア(sarcopenia)である。習慣的なたんぱく質摂取量とフレイルの発症率又は罹患率との関連を検討した観察疫学研究(横断研究及びコホート研究)のメタ・アナリシスは、観察集団内における相対的なたんぱく質摂取量が多いほどフレイルの発症率又は罹患率が低い傾向があると結論している。65歳以上(平均75歳)の日本人女性高齢者 2,108 人を対象とした横断研究では、たんぱく質摂取量が 63 g/日未満の群に対して 70 g/日以上の群におけるフレイル罹患率のオッズ比は 0.62〜0.66 であった。
ところで、若年及び中年成人に比べて高齢者では、たんぱく質摂取に反応して筋たんぱく質合成が惹起されるために必要なたんぱく質摂取量が多いとする研究報告が存在する。これは加齢に伴って減少していく筋肉量及び筋力を維持する上で、つまりサルコペニアを予防する上で、若年及び中年成人に比べて高齢者では多くのたんぱく質摂取が必要なことを示している。
フレイル及びサルコペニアの発症予防を目的とした場合、高齢者(65 歳以上)では少なくとも 1.0 g/kg 体重/日以上のたんぱく質を摂取することが望ましいと考えられる。
現時点で特定のたんぱく質(例えば、動物性たんぱく質又は植物性たんぱく質)や特定のアミノ酸、特定の食品を勧める十分な根拠は得られていない。
他には、たんぱく質の摂取不足は脳卒中のリスクになるとするコホート研究による報告もあるが、コホート研究のメタ・アナリシスは両者に有意な関連を認めなかったと報告している。
また、たんぱく質の過剰摂取が2型糖尿病の発症リスクとなる可能性を示唆したコホート研究が複数あり、そのメタ・アナリシスは、総たんぱく質及び動物性たんぱく質は2型糖尿病の発症リスクとなるが、植物性たんぱく質は関連がないか、むしろ予防的に働いている可能性を示している。したがって、たんぱく質そのものが2型糖尿病の発症リスクとなるか否かはまだ明らかでない。また、血圧への影響もコホート研究及び介入試験で検討されており、そのメタ・アナリシスは高たんぱく質摂取が血圧低下につながる可能性を示唆している。しかし、研究によって結果のばらつきは大きく、また、その閾値はまだ明らかでない。高たんぱく質摂取が骨密度の低下及び骨折予防につながるとするメタ・アナリシスも存在する。しかし、研究によって結果のばらつきは大きく、また、その閾値もまだ明らかでない。
3-3-2 目標量(下限)の策定方法
・成人・高齢者・小児(目標量)
たんぱく質摂取量は、低すぎても高すぎても他のエネルギー産生栄養素とともに主な生活習慣病の発症及び重症化に関連する。したがって、目標量を範囲として定める必要がある。また、高齢者では特にフレイル及びサルコペニアの発症予防も考慮した値であることが望まれる。
推奨量と目標量のそれぞれの定義から考えて、そのいずれか一方を満たすのではなく、推奨量を満たした上で、主な生活習慣病やフレイルの発症予防を目的とする場合に目標量を満たさなければならない。すなわち、目標量(下限)は、推奨量以上でなければならない。
1歳から 64 歳の年齢区分(非妊婦及び非授乳婦)において、当該性・年齢階級・身体活動レベル I(低い)の推定エネルギー必要量(kcal/日)を用いてたんぱく質の推奨量(g/日)を% エネルギーで表現すると、50〜64歳女性で12.1%エネルギーと最も高くなり、12%エネルギーを超える。
次に、同じく、65 歳以上の男女について、当該性・年齢階級・身体活動レベル I(低い)の推定エネルギー必要量(kcal/日)を用いてたんぱく質の推奨量(g/日)を% エネルギーで表現すると、11.7〜12.9% エネルギーとなる。これらは専らたんぱく質の維持を目的としており、目標量としては他の健康障害時に生活習慣病の発症のリスクも低く抑えるべきことを考えると、これらの値をそのまま用いるのではなく、目標量(下限)はこれらよりも多めの値とするのが適当と考えられる。
・妊婦・授乳婦(目標量)
(略)
3-3-3 目標量(上限)の策定方法
・成人・高齢者・小児(目標量)
目標量(上限)は、耐容上限量を考慮すべきである。たんぱく質には耐容上限量は与えられていないが、成人においては各種代謝変化に好ましくない影響を与えない摂取量、高齢者においては健康障害を来す可能性が考えられる、20~23% エネルギー前後のたんぱく質摂取については、検証すべき課題として残されているとしたメタ・アナリシスがある。以上より、十分な科学的根拠はまだ得られていないものの、目標量(上限)は1歳以上の全年齢区分において 20% エネルギーとすることとした。
それぞれの身体活動レベルにおける目標量を g/日の単位で表すと表 8 のようになる。
なお、特定の疾患の管理を目的としてたんぱく質摂取量の制限や多量摂取が必要な場合は目標量ではなく、そちらを優先すべきである。
表 8 身体活動レベル別に見たたんぱく質の目標量(g/日)(非妊婦、非授乳婦)
・妊婦・授乳婦(目標量)
(略)
4 生活習慣病等の重症化予防
たんぱく質が関与し重症化予防の対象となる重要な疾患として、フレイル(サルコペニアを含む)、慢性腎臓病がある。なお、研究報告はあるものの、その数が十分でなく、一定の結論が得られていないと判断されたものはここでは触れなかった。また、たんぱく質ではなく、アミノ酸レベルでの重症化予防との関連についてもここでは扱わないことにした。
4-1 フレイル
フレイル又はサルコペニアを有する高齢者を対象として、運動負荷に加えてたんぱく質を負荷して、筋肉量、筋機能等の改善を検討した介入試験は相当数存在する。この種の研究のメタ・アナリシスでは、body mass、握力などの増強を認めているが、これらが運動負荷によるものか、たんぱく質負荷によるものか、両者の相乗的な効果なのかは明らかでない。また、たんぱく質の負荷量は報告されていても、食事からのたんぱく質摂取量は多くの研究で報告されていないために、総たんぱく質摂取量は不明である。そのために、フレイルを改善させ得るたんぱく質摂取量がいくらであるかは明らかでない。一方、フレイル又はプレフレイルの状態にある高齢者を対象とした介入試験では、1.5 g/kg 体重/日のたんぱく質摂取量は、0.8 g/kg 体重/日のたんぱく質摂取量に比べて有意に筋肉量や身体機能を改善させたとする報告もある。しかし、研究数、研究の質ともにまだ十分でなく、フレイルを改善させるためのたんぱく質摂取量に関して結論を出すことはできない。
4-2 慢性腎臓病
慢性腎臓病においては、たんぱく質摂取が腎機能の低下を促進させるおそれがあるため、たんぱく質の摂取制限が長らく行われてきた。最近のメタ・アナリシスは、低たんぱく質食(0.8 g/kg 体重/日より低摂取)は高たんぱく質食(0.8 g/kg 体重/日より高摂取)に比べて末期腎疾患への進行が有意に少なかったと報告している。他のメタ・アナリシスでも類似の結果が得られている。一方、別のメタ・アナリシスでは、この効果はかなり厳しい低たんぱく質食(0.3〜0.4 g/kg 体重/日)に限定されていたと報告している。このように、全体としては、低たんぱく質(0.8 g/kg 体重/日より低摂取)は、慢性腎臓病の病状の進行を遅らせるために有用であると考えられるものの、推奨すべき摂取量の範囲や、そのような食事療法を行った場合の効果の確実さについては、まだ結論が得られていない。
たんぱく質の食事摂取基準
まとめ(私なりに解釈した「たんぱく質」に関する結論)
たんぱく質の摂取必要量を知りたくなって、例えば「たんぱく質の摂取必要量」でネット検索すると様々な数字や表が出てきて、それぞれの数字が異なるため、「どれを信じたら良いの?」と疑問に感じます。
その原因は、大元である「日本人の食事摂取基準(2020年版)」の指標が、推定平均必要量、推奨量、目標量等複数あるためであり、それぞれのサイトによって使っている指標が異なっているからのようです。
私は、最初に「日本人の食事摂取基準(2010年版)」を勉強した時、何故、こんなに幾つもの指標を設けているのか疑問に感じましたが、冒頭で書きましたとおり、各指標の定義等を書かれている文言通りに解釈した結果、次のとおりだろうと推察しました。
1 男女別、年齢、体格、身体活動レベル等の条件が同じでも栄養素の必要量には個人差があるので、「これだけ摂取すれば過不足ない」といった万人に共通する基準を決めることは出来ない。
2 各個人の必要量を決めるためには、誰か(厚生労働省?)が対象者毎に人体実験?を行い、摂取した栄養素の量とその結果から判断するしかないがそれは不可能である。
そういった背景等を踏まえた上で、「個人の食事改善を目的として食事摂取基準を活用する場合の基本的事項」を読むと、たんぱく質を含む栄養素の摂取目標とすべきは基本的には推奨量だと認識しています。
その上で、私は、推奨量と目標量を参考としながら、自分自身の体で人体実験を行いながらたんぱく質の摂取量を管理しています。
なお、目標量は、「表 8 身体活動レベル別に見たたんぱく質の目標量(g/日)(非妊婦、非授乳婦)」と「たんぱく質の食事摂取基準」の2つが示されていますが、前者は私の体重(50〜51kg)と参照体重(65kg/65〜74歳)の乖離(14〜15kg)が大きいので後者を参考としています。
また、後者についても、私の現在の摂取エネルギーが多過ぎ、このままでは適用出来ないためこのあたりを考慮した上で参考にしています。
次回は、今回書きました「日本人の食事摂取基準(2020年版)」におけるたんぱく質の摂取基準に基づく私のたんぱく質の摂取量と摂取源としている主な食品について書きます。
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