「二度目の人生」における「健康的な食生活」 その21 常食している食品等に含まれている栄養素と機能性成分 13

伝統的な味噌造りのイメージ画像 二度目の人生における健康的な食生活

 前回までに引き続いて、今回から、「その1 多様な食品をバランス良く食べることについて」で書いた「日常的に食べている主な食品等」のうち、発酵食品等の味噌納豆キムチ酒粕梅干し黒酢ヨーグルトに含まれている栄養素機能性成分について書きますが、今回と次回は発酵食品に共通的で基礎的な事を書きます。

「発酵」の定義等

 「発酵」についての明確な定義はありませんが、『微生物代謝によって、何らかの物質から人間にとって有益な物質が産生されること』といったような意味であり、反対に『人間にとって有害な物質が産生されること』を「腐敗」と言います。
 発酵の場合、一般的に、元の物質も、産生される物質有機化合物ですが、例えば、パン酵母による発酵においては、パン生地に含まれる蛋白質や炭水化物からアルコール等の有機化合物を産生して風味を向上させるとともに、二酸化炭素という無機化合物を産生してパン生地を膨らませます。
 腐敗の場合、多くの場合、有機化合物である有害物質を産生しますが、硫化水素アンモニアといった無機化合物である有害物質も産生します。

 なお、発酵と聞くと、一般的には、味噌醤油漬物といった醗酵食品を思い浮かべますが、腸内に常在している善玉菌によって酪酸等の有益な物質を産生することも発酵であり、悪玉菌によってアミン等の有害物質を産生することも腐敗と言えます。
 そのように考えると、人類は「ヒト=ホモ・サピエンス」に進化してから発酵を利用し始めたのではなく、それよりも遥か昔の約5億年前、唯一の臓器である腸だけを持っている腔腸動物(クラゲやイソギンチャクに近い動物)の時から腸内細菌が常在し、それらの腸内細菌発酵によって産生した様々な物質を利用していたとされています。
 例えば、幸福ホルモンと呼ばれるセロトニンも、この時の腸内細菌の情報伝達物質であったものを宿主である腔腸動物が利用するようになったのが起源であり、原始的な消化器官を持った時から発酵を利用してきたことになり、昆虫やミミズを含む全ての多細胞動物が発酵を利用していると言えると思います。

食品の発酵に利用している微生物

 「食品の発酵」に利用している主な微生物には細菌類真菌類糸状菌)等があり、細菌類には乳酸菌酢酸菌酪酸菌納豆菌真菌類には酵母酵母菌)、糸状菌)には麹菌麹黴)等があります。

乳酸菌

 乳酸菌は、主に糖類を代謝して乳酸を産生する細菌類の総称であり、ヨーグルトや漬け物等の発酵に利用されています。また、嫌気性であり大腸等の消化管に常在して乳酸を産生することによって、腐敗等の原因となる所謂、悪玉菌の増殖を抑制する善玉菌でもあります。
 YouTube等のネット上には、『乳酸菌には「ヨーグルト等由来の(動物性乳酸菌」「漬け物等由来の(植物性乳酸菌」とあり、前者は胃酸で(多くが)死滅するが、後者は胃酸に強く生きて腸まで生きて届く。』という情報がありますが、公益財団法人 腸内細菌学会の「植物性乳酸菌と動物性乳酸菌はどう違うのですか?」には次のとおり書かれていますす。

 乳酸菌は、糖を代謝して多量の乳酸を作るグラム陽性細菌の総称です。乳酸菌は、発酵食品(ヨーグルト・チーズ・漬物など)や植物、ヒト・動物の腸、さらに海洋環境など、地上の多様な場所に生育しています。これらから分離された乳酸菌株は、細胞の形態、生化学的性質、ゲノム情報など多くのデータによって、各々特定の菌属や菌種に同定されます。もちろん、同じ菌属・菌種の菌株どうしは、たとえ分離源が違っていても基本的性質や遺伝子情報がほとんど同一であることがよく知られています。
 それでは、「植物性乳酸菌」と「動物性乳酸菌」という用語を考えてみましょう。(「 」は“カッコ付き”という意味で付けました)「植物性乳酸菌」は、植物から分離され植物質を発酵して生育する乳酸菌で、対比として用いられる「動物性乳酸菌」よりも様々な環境でよく生育し安全で親しみやすく体に良いとも言われているようです。
 しかし、科学的に考えると、乳酸菌を「植物性」と「動物性」に二分する考えは正しいとは言えません。なぜなら、植物性乳酸菌」の代表とされる ラクトバチルス・プランタムやラクトバチルス・カゼイなどは、植物からもヒト腸内や他の素材からも分離され、それらの株には微生物学的性質の違いはありません。逆に、チーズを作る乳酸菌ラクトコッカス・ラクティスや、ヨーグルトを作る2種の乳酸菌は、乳や乳製品はもちろん植物からも分離され、植物質を発酵して生育できます。もちろん、「植物性乳酸菌」が植物の性質を持っていないことは常識です。なにせ植物ではなく細菌なのですから。
 繰り返しになりますが、分離源が違っても同じ菌種の菌株は、性質や遺伝子がほぼ同一ですので、分離源などを根拠にして「植物性乳酸菌」や「動物性乳酸菌」に分けることには多くの矛盾があります。乳酸菌を区分する場合は、あくまでも科学的な分類に基づいて議論することが必要です。分離源を示したい場合は、○○由来乳酸菌乳酸菌○○分離株などと呼ぶのが良いでしょう。
 また、乳酸菌が示す健康効果などは、同じ菌属・菌種で共通な面もありますが、菌株によって大きな差があることも広く知られており、植物や動物など分離源によって効果が分かれるということもありません

酢酸菌

 酢酸菌は、主にアルコールを代謝して酢酸を産生する細菌類の総称であり、食酢の発酵に利用されています。好気性であり、消化管等には常在していません。

酪酸菌

 酪酸菌は、主に水溶性の食物繊維を代謝して酪酸を産生する細菌類の総称です。
 産生される酪酸が不快臭を有するため、酪酸菌の発酵での利用は糠漬け等の特定の食品に限られる一方、酪酸菌は大腸に常在して、産生する酪酸が悪玉菌の増殖を抑制するとともに、大腸上皮細胞の主要なエネルギー源となるため、最近では乳酸菌やビフィズス菌と同等以上にその重要性が認識されつつあります。

納豆菌

 納豆菌は、稲藁や枯草等に存在している枯草菌という生存力と繁殖力に優れる細菌の一種であり、産生する納豆キナーゼという酵素によって大豆蛋白質を分解したり、ビタミンK等を産生します。
 納豆キナーゼには血液中の血栓を溶かす機能性があるという研究結果もありますが、経口摂取した場合、納豆キナーゼ自体が消化され、また、消化されなかった納豆キナーゼは分子量が大き過ぎて吸収できないという否定的な意見もあります。
 納豆のネバネバの主成分は、蛋白質の分解によって産生されたグルタミン酸というアミノ酸が重合したポリグルタミン酸です。
 なお、納豆菌は、その生存力繁殖力から「最強の発酵菌」等と言われることがあり、他の発酵食品現場では納豆菌の侵入対策が重要とされています。

酵母(酵母菌)

 酵母(酵母菌)の中の出芽酵母は、ミトコンドリアを有し好気的条件下では多細胞の動植物と同様の代謝で単糖類(グルコース、フルクトース)や二糖類(スクロース=ショ糖)等からエネルギーを産生し、嫌気的条件下ではこれらを代謝してエタノール、二酸化炭素と共にエネルギー産生します。
 酵母によるアルコール発酵は、飲料(お酒)やパン等の食品燃料化学薬品等としてのバイオエタノールの生産等に利用されています。

麹菌(麹黴)

 麹菌(麹黴)は蛋白質や炭水化物、特に澱粉の分解能力が強く味噌醤油日本酒焼酎泡盛食酢等の醸造に利用されています。
 また、麹菌の澱粉分解酵素であるアミラーゼ(ジアスターゼ)は胃腸薬の成分としても利用されています。

発酵食品

 「発酵」同様、「発酵食品」にも明確な定義はありませんが、『「発酵という過程が加わった「食品」を「発酵食品」』といったような意味です。
 例えば、一般には発酵食品というイメージが薄い「パン」も、酵母による「発酵過程を経たパン」は立派な?「発酵食品」と言えます。

 『「発酵」という過程が加わった「食品」を「発酵食品」』とすることは、当たり前のようですが、これは重要なことです。
 例えば、「漬物」は発酵食品と思われていますが、食品衛生法における漬物の定義は、『通常、副食物として、そのまま摂食される食品であって、野菜、果実、きのこ、海藻等(以下「野菜等」という。)を主原料として、塩、しょう油、みそ、かす(酒かす、みりんかす)、こうじ、酢、ぬか(米ぬか、ふすま等)、からし、もろみ、その他の材料に漬け込んだものをいう。』というだけで、「発酵」という過程の有無は関係ありません
 スーパーマーケットで販売されていたり、家庭で作られている「浅漬け」等、「発酵過程を経ていない漬物」は「発酵食品ではありません

 「キムチ」という漬物がありますが、韓国では発酵させていないものはキムチとしては扱われないようですが、日本のスーパーで販売されているキムチ」の多くは発酵させていない「浅漬け」、即ち、発酵食品ではなく、小規模なスーパーマーケットでは発酵させた「キムチ」を販売していない場合もあります。

 一般的な「梅干し」も梅を塩漬けしただけで発酵させていないので発酵食品ではありません
 一方、「梅酒」も梅を焼酎」等の度数の高いアルコール飲料で漬けただけですが、「焼酎等が発酵食品」なのでそれを使った「梅酒発酵食品」と言えます。

 また、「アルコール発酵」の過程を経て産生されたアルコール飲料である「日本酒等は発酵食品」ですが、同じ「アルコール発酵」の過程を経たものでも、燃料や工業用原料として扱うなら発酵食品ではありません

 なお、「発酵食品の定義」で検索すると、「人為的に発酵させて作った食品を発酵食品と言う」といったものも見かけますが、この定義では、飲用に適する所謂「猿酒」が存在したとしても、それは発酵食品ではないということになります。

 また、腸内細菌による「発酵」で産生された様々な物質は「食品」ではないため、当然ながら「発酵食品」ではありません。

日本の発酵食品の特色(次回)

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発酵食品の健康効果等(次回)

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発酵化学(発酵学)の面白さと勉強(次回)

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