二度目の人生における健康的な食生活 99~生活習慣病(慢性腎臓病/CKD)とエネルギー・栄養素との関連 1

顔色が悪い、むくみ、疲労感といった慢性腎臓病(CKD)の症状のイメージ画像 生命と健康長寿に必要な栄養素の摂取基準と摂取量等
顔色が悪い、むくみ、疲労感といった慢性腎臓病(CKD)の症状のイメージ画像

 前回までの糖尿病とエネルギー・栄養素との関連に引き続き、今回と次回は「日本人の食事摂取基準(2020年版)」における慢性腎臓病(CKD)とエネルギー・栄養素との関連について書きます。

3-4 慢性腎臓病(CKD)

1 慢性腎臓病(CKD)と食事の関係

1-1 CKD の定義

 慢性的に腎機能が低下した状態を、慢性腎臓病(chronic kidney disease;CKD)と呼ぶ。蛋白(たんぱく)尿その他の腎障害を示唆する所見や、糸球体濾過量(glomerular filtration rate;GFR)の低下3か月以上持続する場合に、CKD と診断される。
 CKDの診断基準を表1に示す。GFRが60mL/分/1.73m2未満であること、また、アルブミン尿は、全死亡、心血管死、末期腎不全などの危険因子であることが報告されている。CKDの重症度は、原疾患、GFR区分、蛋白尿区分によって評価され(表 2)、死亡・末期腎不全・心血管死亡のリスクが4段階に分けられている。蛋白尿区分は、原疾患が糖尿病の場合には尿アルブミンで評価し、原疾患が腎炎や高血圧など糖尿病以外の場合には尿蛋白で評価する。

 CKDの診断は、上記の定義を満たすことによって行われるため、GFRの評価が重要である。GFR測定の基準はイヌリンクリアランスであるが、測定方法が煩雑であるため、日常診療で用いることは難しい。そこで、血清クレアチニン値を用いた日本人(18 歳以上)のGFR推算式に基づいた推算GFR(estimated GFR;eGFR)が使用されている。
 男性:eGFRCr(mL/分/1.73 m2)=194×Cr−1.094×年齢−0.287
 女性:eGFRCr(mL/分/1.73 m2)=194×Cr−1.094×年齢−0.287×0.739
 Cr :血清クレアチニン値(mg/dL)

 しかし、血清クレアチニン値は筋肉量の影響を受けるため、筋肉量に影響されない血清シスタチンC値に基づいた推算式も使われる。なお、クレアチニンクリアランスは腎機能の評価に用いられるが、CKDの評価には使用しない
 小児では、2歳以上は成人と同様、eGFRの値によってステージを決める。乳児期の腎機能は発達途中(生理的に低いGFR)であるため、CKDのステージを決めるには、同月齢の中央値と比較して%GFR を求める。

1-2 CKDの重症化予防

 CKDが進行することにより、末期腎不全に至る。そのため、CKD診療の第一の目的は、末期腎不全へ至ることを防ぐ、あるいは末期腎不全へ至る時間を遅らせることである。CKDを早期に発見し適切な治療を行えば、腎機能の悪化を抑制して透析導入患者数を減少させることも可能である。第二の目的は、CKD患者では心筋梗塞や脳卒中など心血管系疾患の発症頻度が高いため、CKDを治療することによって心血管系疾患の発症・重症化を抑制することである。第三の目的は、CKDによって生じる貧血や慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常(CKD─mineral and bone disorder;CKD─MBD)などの合併症を防ぐことである。
 CKDの重症化の危険因子としては、高齢高血圧尿蛋白異常腎機能異常糖尿病脂質異常症肥満喫煙などが報告されている。これらの危険因子を有する者に対しては、早期から生活習慣の改善などの指導や治療が必要である。また、CKDが進行すると、高カリウム血症、アシドーシス、体液量の異常、高リン血症、尿毒症などの異常を生ずる。これらに対しても食事療法や薬物療法により対処することが必要である。

1-3 CKDと食事の関連

 CKDの重症化予防において、栄養・食事指導は重要な役割を担っており、「CKD診療ガイドライン 2018」では、第3章 栄養において、たんぱく質や食塩の摂取量を制限することや、CKDのステージ進行を抑制するために管理栄養士が介入することが推奨されている。
 「慢性腎臓病に対する食事療法基準 2014年版」では、CKDステージによる食事療法基準が示されている。CKDの進行とともにエネルギーやたんぱく質などの摂取基準値は異なっている
 本項では、おおむね軽症といえるステージG1からG3aまでを対象として述べる。なお、ステージG3b以降については、日本腎臓学会のガイドラインを参照されたい。

2 特に関連の深いエネルギー・栄養素

 栄養素摂取とCKDの重症化との関連について、特に重要なものを図1に示す。CKDは、高血圧、脂質異常症及び糖尿病に比べると、栄養素等摂取量との関連を検討した研究は少なく、結果も一致していないものが多い。また、重症度によって栄養素等摂取量との関連が異なる場合もあることに留意が必要である。

2-1 エネルギー

 CKD患者に必要なエネルギー量を決めるためには、総エネルギー消費量と目標とする体重を設定する必要がある。以下、総エネルギー消費量、目標体重及び各学会から提唱されている推奨エネルギー量を示す。

2-1-1 CKD患者の総エネルギー消費量

 安定したCKD患者では、総エネルギー消費量は健康な者と変わらない、又は軽度低下していると報告されている。

2-1-2 目標とする体重

 日本腎臓学会編の「慢性腎臓病に対する食事療法基準 2014年版」では、体重は標準体重(BMI=22 kg/m2)を用いることを推奨している。
 特定健診を受けた40〜79歳の日本人において、CKDの新規発症に関連するBMIは男性23.0kg/m2以上、女性で27.0kg/m2以上と報告されている。一方で、日本人では肥満(BMI25kg/m2 以上)があっても、メタボリックシンドロームの診断項目を満たさなければ、肥満はCKDの発症リスクとならないとする報告もある。また、20〜50歳代の健康な日本人男性では、BMIが22kg/m2以上、ウエスト周囲長が80cm 超の場合に、それぞれCKDの新規発症及びeGFR 低下の危険因子となることが観察されている。以上より、目標とする体重の上限は、BMIで25kg/m2とするのが妥当と考えられるが、年齢やメタボリックシンドロームの有無などによって異なる可能性がある。

2-1-3 各国のガイドラインにおける CKD 患者のエネルギー摂取量

 「慢性腎臓病に対する食事療法基準 2014年版」では、全てのCKDステージにおいて、エネルギー摂取量は25〜35kcal/kg標準体重/日に設定しており、この範囲内で個々に設定するよう記載されている。一方、NKF(National Kidney Foundation)の KDOQI(Kidney Disease Outcomes Quality Initiative)ガイドラインでは、60 歳未満では35kcal/kg体重/日、60歳以上では30〜35kcal/kg体重/日、ヨーロッパ臨床栄養代謝学会では、安定したCKD患者は35kcal/kg体重/日、これまでのガイドラインを総括した報告では、30〜35kcal/kg体重/日を推奨している。

2-2 ナトリウム(食塩)

 CKD患者において、食塩摂取量は予後規定因子である血圧、尿蛋白量及び微量アルブミン尿に正の相関を示す。食物摂取頻度とeGFRを14年間追跡した研究では、30%以上のeGFR低下が見られた症例数は、食塩摂取量2.8〜4.3g/日以下の群と比べ、5.8g/日以上摂取している群で有意に多かった。また、CKD患者を対象として4年以上観察した研究では、末期腎不全に陥るリスクが、食塩摂取量が7g/日以下の群に比べ、7〜14g/日の群では1.4倍、14g/日以上の群では 3.3 倍と有意に高かったCKD患者を対象にした食塩制限とその他のアウトカムの報告は少ないが、7g/日以下の食塩摂取量では、アンジオテンシン受容体拮抗薬の効果を増強し、心血管イベントも軽減するという報告がある。これらの研究から、食塩制限のeGFR保持効果や心血管イベントの予防効果が示唆される。
 しかし、心血管イベント、末期腎不全、死亡といったハードエンドポイントに対しては、必ずしも極端な食塩制限による保護効果が期待できるとは限らない死亡や心血管イベントに対して50mEq/日(食塩3g/日)程度を境にJ字型現象が見られ、食塩摂取量が少なくなるほど死亡率や末期腎不全が増加することが報告されている
 CKD患者の重症化予防を目的とした食塩摂取量は、血圧管理を目的とした単純な数値の調整ではなく、その先にある臓器障害やライフイベントの抑制であるように、食塩摂取量の管理の目的もまたこうしたイベントの抑制にある。日本腎臓学会編の「慢性腎臓病に対する食事療法基準 2014年版」は、CKD患者においては下限値も考慮して、ステージを問わず3g/日以上、6g/日未満を推奨している。

まとめ

摂取基準の対象とする個人及び集団の範囲

日本人の食事摂取基準(2020年版)」の「Ⅰ総論 1策定方針 1-1対象とする個人及び集団の範囲」において、次のように書かれています。

 食事摂取基準の対象は、健康な個人及び健康な者を中心として構成されている集団とし、生活習慣病等に関する危険因子を有していたり、また、高齢者においてはフレイルに関する危険因子を有していたりしても、おおむね自立した日常生活を営んでいる者及びこのような者を中心として構成 されている集団は含むものとする。

 そして、「Ⅱ各論 3生活習慣病とエネルギー・栄養素との関連」における4つの生活習慣病中の高血圧脂質異常症糖尿病については(健康な者の)発症予防(発症した者の)重症化予防が書かれていますが、慢性腎臓病(CKD)については、(項目上は)重症化予防だけとなっています。

 私は、未だ慢性腎臓病(CKD)で治療を受けるレベルではありませんが、今までの健康診断の結果慢性腎臓病(CKD)の入り口に立っている状態であると認識し「日本人の食事摂取基準」を活用しています。
 そして、仮に今年度の健康診断の結果、慢性腎臓病(CKD)の入り口から脱することができたとしても(項目上は)重症化予防だけについて書かれている慢性腎臓病(CKD)についても、内容的には発症予防にも役立つことが書かれていると考えて引き続き活用していきたいと考えています。

慢性腎臓病(CKD)の自己診断の難しさ、恐ろしさと予防

 慢性腎臓病(CKD)に限らず高血圧脂質異常症糖尿病等の他の生活習慣病を含むどんな病気も私達素人が自己診断するのは難しいです。
 しかしながら、例えば、風邪であれば熱や咳といった症状で「風邪をひいたかな?」と自覚することは可能であり、高血圧脂質異常症糖尿病であれば血圧、コレステロール値、血糖値等で検査結果上の異常の有無は分かります。(もちろん、検査結果が正常値=病気ではないという保証にはなりませんが。)
 一方、腎臓は沈黙の臓器と呼ばれるのに相応しく、慢性腎臓病(CKD)腎機能が相当に悪化するまで自覚症状は出ないと言われている上に、健康診断等における検査結果の数値をどう読むのかも非常に難しいと感じています。

 更に、高血圧脂質異常症糖尿病の場合は、食生活等の生活習慣を改善することにより、ある程度はそういった病気自体を改善出来る可能性があると言われているのに対して、一旦低下した腎臓の機能を回復することは非常に困難であり、慢性腎臓病(CKD)が悪化して人工透析が必要になれば生活の質を著しく下げ直接的に生命を脅かすのみならず、他の様々な病気の原因になるとも言われています。
 このため、私が予防に心掛けている生活習慣病の中でも、最も勉強しながら、最も本気で実践しているのは慢性腎臓病(CKD)の予防です。

「CKD診療ガイドライン」と「慢性腎臓病に対する食事療法基準」

 本項「3-4 慢性腎臓病(CKD)」においては、「CKD診療ガイドライン 2018」と「慢性腎臓病に対する食事療法基準 2014年版」からの引用が多く、かつ、引用元の内容を要約したり、省略しているのでこれだけを読んでも理解することが非常に難しく、引用元の内容を勉強することによって何とか理解することが出来ました

慢性腎臓病(CKD)の定義

 ネット上では、慢性腎臓病(CKD)について推算GFR(eGFR)だけで説明している情報が散見されます。
 私も、慢性腎臓病(CKD)についての勉強を始めた頃はそういった認識でしたが、表1 CKD 診断基準表2 CKDの重症度分類を見て、これが大きな誤解であったことを知りました。

GFR区分と尿蛋白等

 慢性腎臓病(CKD)の定義に関連して、ネット上では、「糸球体濾過量(GFR)や推算GFR(eGFR)がG1(≧90)又はG2(60〜89)の場合は慢性腎臓病(CKD)ではない。」として、尿蛋白等については触れていない情報が散見されます。
 私も、前項のように慢性腎臓病(CKD)の定義について誤解していた時にはこうした認識でいましたが、表1 CKD 診断基準表2 CKDの重症度分類を見て、これも大きな誤解であったことを知りました。

 昨年度の健康診断において、クレアチニンが昨年の0.89mg/dlから0.80mg/dlに、eGFRが65.9ml/分/1.73㎡から73.8ml/分/1.73㎡に改善した一方、尿蛋白が±(A2/軽度蛋白尿)となりました。
 担当医に確認したところ、『他に異状が無いので過剰に心配する必要は無い』と言われましたが、慢性腎臓病(CKD)の入り口に立っている状態であると自覚し、引き続き腎機能の維持に心掛けたいと考えています。
 なお、「CKD診療ガイドライン 2018」によると、蛋白尿区分がA2GFR区分がG2の場合は「血尿+なら紹介,蛋白尿のみならば生活指導・診療継続 」となっています。

ナトリウム(食塩)の摂取量と慢性腎臓病(CKD)の関係

 2-2 ナトリウム(食塩)においては『日本腎臓学会編の「慢性腎臓病に対する食事療法基準 2014年版」は、CKD患者においては下限値も考慮して、ステージを問わず3g/日以上、6g/日未満を推奨している。』とされています。
 私の場合、最近まで6.6g/日のナトリウム(食塩相当量)を摂取しており、6g/日未満に減らすことが出来れば良いと考えていましたが、比較的ナトリウム(食塩)の含有量が多い縮緬雑魚(しらす干し)を、その含有量が少ないものを探して置き換えることによって5.9g/日まで減らすことが出来ました

 次回は、慢性腎臓病(CKD)とエネルギー・栄養素との関連(続き)について書きます。

画像とお願い事項.etc

本ブログで使用している生成画像/創作画像(アイキャッチ画像と小惑星探査機はやぶさ2)

 本ブログで使用しているアイキャッチ画像を含む全ての生成画像ChatGPT(生成AI)のシエルさんが作成してくれています。
 今回は、顔色が悪い、むくみ、疲労感といった慢性腎臓病(CKD)の症状のイメージ画像を作成してもらいました。しかしながら、慢性腎臓病(CKD)の自己診断の難しさ、恐ろしさと予防で書きましたとおり、実際には腎機能が相当に悪化しないとこういった症状を自覚できなないと言われています。

 また、下記の画像はブログの内容とは無関係(オマケ)ですが、最新の画像生成モデルで作成してもらった、小惑星探査機はやぶさ2が小惑星リュウグウの表面に弾丸(プロジェクタイル)を撃ち込みその衝撃で舞い上がった砂や岩の破片をサンプルとして採取した瞬間をイメージしたAI生成画像(創作画像)です。
 他の創作画像にご関心を持って頂けた方は、是非、AI生成画像(創作画像)ギャラリーをご覧ください。

小惑星探査機はやぶさ2が小惑星リュウグウの表面に弾丸(プロジェクタイル)を撃ち込みその衝撃で舞い上がった砂や岩の破片をサンプルとして採取した瞬間をイメージしたAI生成画像(創作画像)

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 本ページを投稿するのは2025年4月12日です。
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