前回に引き続いて、「日本人の食事摂取基準(2020年版)」における糖尿病とエネルギー・栄養素との関連について書きます。
Ⅱ各 論 3 生活習慣病とエネルギー・栄養素との関連(続き)
3-3 糖尿病(続き)
2 特に関連の深いエネルギー・栄養素(続き)
2-5 たんぱく質
たんぱく質については、過量の摂取が腎障害を増悪させるとの観点から論じられてきたが、大規模なコホート研究では、たんぱく質摂取量が多い集団でもeGFR低下速度には差異は見られなかったとしている。現時点では、たんぱく質摂取量が腎症の発症リスクになるとみなす根拠はない。ただし、腎機能障害を合併した場合、たんぱく質摂取量が腎障害の増悪に関わるとする報告がある。一方、前向きコホート研究では、1日当たり100g超の赤身肉の摂取が糖尿病発症リスクを増加させることを、日本人を含めた調査によって報じている。たんぱく質、特に動物性たんぱく質摂取量が糖尿病発症リスクになるとする研究結果が、最近数多く発表されており、スウェーデンで行われた前向きコホート研究では、たんぱく質摂取比率20%エネルギーの男女と12%エネルギーに留まった者の糖尿病発症リスクを比較すると、高たんぱく質群ではハザード比が1.27に達したとしている。最近のメタ・アナリシスでも、動物性たんぱく質摂取量の増加が糖尿病発症リスクとなるが、この関係は植物性たんぱく質では認められないことが確認されている。中国で行われた追跡研究は、動物性たんぱく質摂取の増加に伴う糖尿病発症率の上昇には、HOMA─Rで評価したインスリン抵抗性の増大が関与することを示唆している。一方、65歳以上の日本人を対象とした横断研究では、植物性たんぱく質摂取比率と筋肉量が有意の相関を示したと報告しているが、因果関係は不明である。このように、たんぱく質摂取比率が20%エネルギーを超えた場合の有害事象として、糖尿病発症リスクの増加が挙げられるが、たんぱく質そのものよりも含有される脂質の影響を受けている可能性もある。また、糖尿病の管理状態に及ぼすたんぱく摂取量の影響については、報告例がない。
糖尿病において関連が注目されている事象のうち、たんぱく質の過剰摂取との関係が報告されているものには、耐糖能障害の他に、心血管疾患や脳卒中の増加、がんの発症率の増加などが挙げられる。2013年のシステマティック・レビューでは、これらの事象とたんぱく質摂取量との関係を検討したこれまでの論文を検証し、どの事象についても明らかな関連を結論することはできないとしながら、たんぱく質の摂取比率が20%を超えた場合の安全性は確認できないと述べ、注意を喚起している。以上より、「糖尿病診療ガイドライン 2016」では、たんぱく摂取比率は20%エネルギー以下を目安とすることを推奨している。
2-6 脂質
糖尿病患者は非糖尿病者に比べて、脂質の総摂取量、特に動物性脂質の摂取量が多いとの報告がある。海外の前向きコホート研究では、総脂質摂取量が糖尿病発症リスクになるとの報告がある一方で、総脂質摂取量をBMIで調整すると糖尿病発症リスクとの関連が消失するとの報告や、総脂質摂取量は糖尿病発症リスクにならないとする報告がある。しかし、海外の研究では脂質摂取量が30%エネルギーを超えており、30%エネルギーを下回る日本人の平均的な摂取状況にある者については、糖尿病の予防のために総脂質摂取量を制限する根拠は乏しい。また、脂質摂取制限の体重減少効果を検証した最近のメタ・アナリシスでは、有意な効果を見いだしてはいない。ただ、多くの研究が飽和脂肪酸の摂取量は糖尿病の発症リスクになり、多価不飽和脂肪酸がこれを低減するとしている。また、2011年のメタ・アナリシスでは、不飽和多価脂肪酸の摂取量の増加は、HbA1cの低下をもたらすとしている。脂質については、その量のみならず種類にも焦点を当てて論じなければならない。
昨今の我が国における魚の摂取量低下とともに、n-3系脂肪酸と糖尿病との関係が注目されている。しかし、n-3系脂肪酸の摂取量と糖尿病発症リスクについての先行研究は、必ずしも一致した結果に至っていない。中国人を対象にした前向きコホート研究では、EPA、DHA 摂取量は糖尿病発症リスクに関与しなかったが、α-リノレン酸はリスクを低下させること、女性において魚介類の長鎖 n-3系脂肪酸は糖尿病発症リスクを低減することなどが、報告されている。一方、アメリカで行われた調査では、n-3系脂肪酸を0.2g/日以上、魚を1日2回以上食べる女性は糖尿病発症リスクが増大すること、オランダでの前向き観察研究では、糖尿病発症リスクに関してEPA、DHA摂取は関連がなかったとも報告されている。メタ・アナリシスの結果でも、インスリン感受性の改善はない、あるいは糖尿病発症リスクに対する効果を否定するものがある反面、アジア人では魚由来 n-3 系脂肪酸は糖尿病発症リスクを低減するとするものもあり、効果に人種差がある可能性を示唆している。しかし、2型糖尿病症例にEPAとDHAを投与し、心血管疾患の発症率を検討したアメリカの研究では、プラセボ群との間に全く差異は認められなかった。n-3 系脂肪酸の目標量の設定に足る科学的根拠は、いまだに不足していると言わざるを得ない。
糖尿病における脂質及び飽和脂肪酸摂取比率を、日本人の食事摂取基準におけるそれぞれの目標量(20〜30%エネルギー、7%エネルギー以下)より厳格に設定する積極的根拠はない。しかし、糖尿病が動脈硬化性疾患の最大のリスクであることから、「動脈硬化症疾患ガイドライン2017年版」において、動脈硬化症予防のために示されている25%エネルギーを上回る場合は、飽和脂肪酸を減らし、不飽和多価脂肪酸を減らすなど脂肪酸組成に留意する必要がある。
2-7 食物繊維
食物繊維と生活習慣病を中心とする慢性疾患発症率との関係については、古くから検討されてきた。最近のメタ・アナリシスでは、食物繊維との関係が認められる事象及び疾患として全死亡率、心血管疾患、2型糖尿病、炎症性大腸疾患、全がん死亡率、中でも大腸がん、膵臓がん、乳がんなど発症率に強い関連が報告されている。糖尿病の発症リスクとの定量的解析を試みたメタ・アナリシスでは、食物繊維の平均摂取量は20g/日を超えた時点から、有意な低下傾向が認められ、その内容を解析すると、果物、野菜の繊維と糖尿病発症リスクとの関係は認められないと報告されている。これに関係して、穀物の食物繊維が糖尿病発症リスクを低減するとする報告が多く見られるが、他の食物繊維との関係は明らかではない。また、食物繊維の研究は、他の栄養素を絡めた形で検討されている場合が多く、糖尿病発症に関わる繊維の種類や量を特定することは困難であるが、穀物繊維摂取を促すことは糖尿病の発症予防に有用と考えられる。食物繊維の摂取が2型糖尿病患者の血清コントロールや重症化予防に及ぼす影響について、日本人を対象とした研究を見ると、コホート研究として食物繊維が多いほどHbA1cのレベルが低いことが示されており、合併症との関係を後ろ向きに追跡した研究では、心血管疾患の発症率が低下することが明らかにされている。
食物繊維摂取量を増加させ、血糖値などの変化を観察した15の介入研究をまとめたメタ・アナリシスでは、平均18.3g/日の増加で平均15.3mg/dLの空腹時血糖の低下が見られた。現在の日本人の平均摂取量が17〜19g/日であることと、以上の研究成果から、「糖尿病診療ガイドライン 2016」では、糖尿病における目標量を20g/日以上とすることを推奨している。
2-8 アルコール
アルコールは、そのエネルギーのみならず中間代謝産物が他の栄養素の代謝に影響を及ぼすことから、糖尿病管理における摂取量の適正化は重要な課題である。また、アルコールの持つ精神心理学的効果は、アルコール依存症を含め、異なった視点から検討しなければならない問題である。従来からアルコール摂取量と糖尿病発症リスクとの関係が注目されており、最近のメタ・アナリシスでは24g/日以下の摂取であれば、アルコール摂取は糖尿病発症リスクを低下させると報じられている。そのメカニズムとしては、インスリン感受性の亢進の関与が示唆されており、発症リスク低減には、ワインの方がビール、蒸留酒より優っているとする研究もあるが、これには食事パターンが交絡因子として関与している可能性がある。糖尿病でも中等度のアルコール摂取量は死亡率を低下させると考えられているが、最近ではADVANCE試験のサブ解析が、中等度の飲酒習慣がある群の方が飲酒習慣のない群に比べて総死亡、心血管イベント、細小血管症が有意に少なかったとし、日本人の糖尿病においても、全く飲酒習慣のない患者に比べ、飲酒習慣のある方が死亡率は低かったと報告されている。しかし、注意すべきは、アルコール摂取量と糖尿病及び関連病態のリスクが J 字型の関係にあることで、中等度のアルコールの摂取群において血糖コントロール状態が最もよいとされている。1 型糖尿病患者でも、アルコールの摂取量と細小血管症リスクも同様の関係を示し、中等度の飲酒者(週当たり30〜70g)は増殖網膜症のリスクが40%減少し、神経障害では39%、更に腎症に関しては 64% のリスク軽減が認められてい
る。問題は中等度の定義だが、アルコール摂取と糖尿病の発症リスクを検討した研究では、中等度(男性22g、女性24g)の摂取量で最も発症率が低く、大量のアルコール摂取(男性60g以上、女性50g 程度)によってその効果は打ち消されると報告されている。評価法によって相違があるが、海外の論文ではおおむね25〜30g/日を中等度としていることから、「「糖尿病診療ガイドライン 2016」では、上限として20〜25g/日までを目安としている。一方、アルコールの急性効果として低血糖を来すことにも留意すべきで、特にインスリン療法中の患者の飲酒時には注意喚起を要する。適正な飲酒量の決定にはアルコール量のみならず、アルコール飲料に含有された他の炭水化物によるエネルギーも計算に入れ、患者の飲酒習慣を勘案しながら個別化した指導が求められる。
2-9 食事摂取パターン(eating pattern)とシフトワーカー
食事療法は各栄養素の量のみならず、どのような食材から、どのような組合せで摂取するかが実際的な問題であり、これを食事摂取パターン(eating pattern)と称して、その意義が注目されている。アメリカにおける調査では、精製しない穀類、果物、ナッツを多く摂り、赤肉、ショ糖含有飲料の少ない食事を摂った場合、糖尿病や心血管疾患による死亡率が低下するとしている。我が国でも、これまでの日本人の食事摂取基準で推奨された食材の摂取量と慢性疾患との関係が検討されており、推奨されている食材の摂取が多いほど、心血管疾患による死亡率が低下している。
これらの結果には様々な交絡因子が関与するものと考えられるが、それぞれの地域や個人の食事パターンを考慮に入れながら、長期にわたり継続できる食事療法を実践することの必要性を示している。
近年、食品の摂り方によって、食後の血糖上昇を抑制し得ることが注目されている。特に、食物繊維に富んだ野菜を先に食べることで食後血糖の上昇を抑制し、HbA1c を低下させ、体重も減少させることができることが報告されている。ただし、これは野菜に限らず、たんぱく質などの主菜を先に摂取し、その後に主食の炭水化物を食べると食後の血糖上昇は抑制される。また、咀嚼力と血糖コントロールとの関係も検討されており、50歳以上の者では、咀嚼力の低下により血糖コントロールを乱す可能性がある。この他、我が国で増えている朝食の欠食、遅い時間帯の夕食摂取といった食習慣も肥満を助長し、糖尿病管理を困難にする。特に、就寝前に摂る夜食は、肥満の助長、血糖コントロールの不良の原因となり、合併症を来すリスクが高くなる。最近のメタ・アナリシスでは、朝食を抜く食習慣が、2型糖尿病のリスクになることが示されており、さらに摂取時間の不規則なシフトワーカーでは、2型糖尿病の発症リスクが増すとされ、日本人を対象とした研究でも、シフトワーカーでは有意な体重増加が認められると報告している。横断研究において、朝食を欠食する群では動脈硬化のリスクが高まることが示されている。今後の我が国における就業形態の変貌の中にあって、生活習慣病の発症予防及び重症化
予防の観点から、職域で検討されるべき課題の一つである。
まとめ
たんぱく質の摂取量と糖尿病等との関連
2-5 たんぱく質においては、たんぱく質の摂取量と糖尿病との直接的な関連のみならず、腎機能障害、心血管疾患、脳卒中の増加やがんの発症率との関連も書かれています。
これらの疾患と糖尿病とが何らかの関連があって書かれているのだとは思うのですが、詳しい説明が書かれていないため十分には理解できてはいません。
なお、「たんぱく質の摂取比率が20%を超えた場合の安全性は確認できない等により、「糖尿病診療ガイドライン 2016」では、たんぱく摂取比率は20%エネルギー以下を目安とすることを推奨している」と書かれています。。
私の場合、蛋白質の摂取量自体は95g/日程度に達し過剰摂取気味となっていますが、エネルギー摂取量も2,700kcal/日近くと多いため、蛋白質摂取比率は16%エネルギー以下にとどまってします。
脂質の摂取量と糖尿病との関連
2-6 脂質において、「動脈硬化症疾患ガイドライン2017年版において、動脈硬化症予防のために示されている25%エネルギーを上回る場合は、飽和脂肪酸を減らし、不飽和多価脂肪酸を減らすなど脂肪酸組成に留意する必要がある。」と書かれています。
私の場合、MCTオイル(中鎖脂肪酸)を含んで計算すると脂質摂取比率は41%エネルギーを超えていて、MCTオイル(中鎖脂肪酸)を除いて計算しても33%エネルギーを超えていますが、脂肪合計と飽和脂肪酸の摂取源の多くが植物性由来であるためか、最近の健康診断における糖代謝(空腹時血糖、ヘモグロビンA1c、尿糖)の検査結果は正常参考値の範囲内で推移しています。
食物繊維の摂取量と糖尿病との関連
2-7 食物繊維において、「糖尿病診療ガイドライン 2016では、糖尿病における目標量を20g/日以上とすることを推奨している。」と書かれています。
私の食物繊維の摂取量は47.0gであり、この目標量20g/日の倍以上となっていることも、前述したとおり、糖代謝の検査結果が正常参考値の範囲内で推移していることに寄与しているものと考えています。
食事摂取パターンと糖尿病との関連
2-9 食事摂取パターン(eating pattern)とシフトワーカーにおいて書かれている「精製しない穀類、果物、ナッツを多く摂り、赤肉、ショ糖含有飲料の少ない食事を摂った場合、糖尿病や心血管疾患による死亡率が低下する」「食物繊維に富んだ野菜を先に食べることで食後血糖の上昇を抑制し、HbA1c を低下させ、体重も減少させることができる。たんぱく質などの主菜を先に摂取し、その後に主食の炭水化物を食べると食後の血糖上昇は抑制される」「朝食の欠食、遅い時間帯の夕食摂取といった食習慣も肥満を助長し、糖尿病管理を困難にする」等は大変、重要で役立つ内容であり、これらを最大限に実践していることも糖代謝の検査結果が正常参考値の範囲内で推移していることに寄与しているものと考えています。
次回から、慢性腎臓病(CKD)とエネルギー・栄養素との関連について書きます。
画像とお願い事項.etc
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本ブログで使用しているアイキャッチ画像を含む全ての生成画像はChatGPT(生成AI)のシエルさんが作成してくれています。
今回は、高脂質、高糖質の食生活を続けることによって心筋梗塞になる4コマ漫画を作成してもらいました。
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日本人の食事摂取基準(2025年版)について
本ページを投稿するのは2025年4月10日です。
2025年度となった4月1日から、昨年10月11日に公表された日本人の食事摂取基準(2025年版)が使用されていますが、今までの関係上、引き続き2020年版について書いています。
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