前回に引き続いて、今回は「多様な食品をバランス良く食べることについて」で書いた「日常的に食べている多様で健康的な食品等」のうち、カロテノイドの一種であるアスタキサンチンの作用(機能、働き) とアスタキサンチンのサプリメントを摂取している理由・効果について書きます。
サプリメントの摂取に関する基本的考え方
(本項の内容は「常食している健康的な食品の栄養素と機能性成分 26」の「サプリメントの摂取に関する基本的考え方」と同じです。)
私は、必要とする栄養素や機能性成分は、出来るだけホールフードから摂ることを基本としています。
そして、サプリメントについても、様々なエビデンス等で勉強し、検討した上で本当に必要だと判断したものだけを試行的に摂取し、その効果等を踏まえて続けるものは続け、止めるべきものは止めていますが、その理由は大きく次の2つです。
1 二度目の人生における本気の生活習慣の改善 6~『「完全自炊」による食事とその内容について』の説明の「健康に悪影響を及ぼすとされる次のような食品は出来る限り食べない。」で書きましたとおり、精製された食品はできる限り食べないようにしているから。
2 二度目の人生における健康的な食生活 6〜サプリメント等の健康食品についてで書いたサプリメントを摂取する場合における留意事項等を踏まえて。
カロテノイドの概要
e-ヘルスネットのカロテノイド(かろてのいど)には次のとおり書かれています。
動植物に広く存在する黄色または赤色の色素成分です。水に溶けにくく油に溶ける性質を持っており、カロテン類とキサントフィル類の2種類があります。 カロテン類の代表的なものとしては、β-カロテンやリコピンなどがあり、β-カロテンは動物や人間の体内でビタミンAに変わります。キサントフィル類の代表的なものとしては、ルテインやアスタキサンチンがあります。 これらは活性酸素の発生を抑え、取り除く作用を持っています。このため活性酸素の働きで作られる過酸化脂質が引き起こす動脈硬化を予防したり、老化やがんの発生に対しても効果があると考えられます。 カロテノイドを多く含む食品は緑黄色野菜、マンゴー・パパイヤ・柿・あんず・柑橘類・すいかなどの果物のほか、とうもろこし、赤唐辛子、わかめやひじきなど海藻類、えび・かになどの甲殻類、いくら、卵黄などがあります。 |
アスタキサンチン等のカロテノイドの作用(機能、働き)
日本生物高分子学会の学会誌 食品・臨床栄養「カロテノイドの多様な生理作用(2007 2:3-14)」には次のとおり書かれています。
要旨:カロテノイドは天然に広く分布する黄色、赤色を呈する脂溶性色素である。近年、多くの疫学調査でカロテノイドが生活習慣病の罹患リスクを軽減する事が明らかになり、そのがん予防作用や抗酸化活性などが注目されている。本論文ではカロテノイドのヒトにおける吸収、代謝、体内分布と最近注目されている種々の生理作用について述べる。 1. カロテノイドとは カロテノイドは微生物、植物、動物に広く分布する赤、橙、黄色を呈する天然色素で8個のイソプレン単位(炭素5個から成るユニット)が結合して構成された炭素数40の基本骨格を持つ化合物群である。その構造は9個の共役二重結合からなるポリエン部分とその両端に付くエンドグループから成り立っている。カロテノイドは炭素と水素原子のみで構成されるカロテン類と分子内にアルコール、ケトン、エポキシなどの酸素原子を含むキサントフィル類に分類される。カロテンの名称はニンジン(carrot)から得られた不飽和炭化水素(ene)に、キサントフィルの名称は黄色い(xantho)葉(phyll)の色素にそれぞれ由来する。水酸基を持つキサントフィル類は脂肪酸エステルで存在するものが多い、また藍藻や微生物では糖が結合したものも存在する。カロテノイドのなかにはタンパク質との複合体(カロテノプロテイン)を形成しているものもある。現在までにおよそ750 種のカロテノイドの存在が知られている。 2. 天然におけるカロテノイドの分布、生合成、代謝 カロテノイドは、酸素が存在し、太陽光があたる環境に存在する生物にはほぼ全て存在すると考えられている。すべての光合成生物(光合成細菌、藻類、陸上植物)とある種の酵母や菌類、また古細菌の一部はカロテノイドを酢酸やメバロン酸などから生合成している。これらの生物では生合成遺伝子が解明されているものもいくつかある。一方、多くの動物にもカロテノイドが存在する。しかし、動物はカロテノイドを生合成できないので動物に存在するカロテノイドはすべて食物から摂取されたものに由来する。なお、動物は食物から吸収したカロテノイドを体内で酸化や還元、二重結合の転位など部分的に化学変換をする事ができる。動物は食物連鎖でカロテノイドを取り込みさらに体内で独自の代謝変換をしているので様々な構造を持つカロテノイドが存在する。一例として海洋生物の食物連鎖による植物プランクトンから魚類へのカロテノイドの移行と構造変換を見よう。海洋の植物プランクトン(微細藻類)はβ-カロテンやゼアキサンチンなど黄色のカロテノイドを生合成している。甲殻類などの動物プランクトンはこれらの黄色カロテノイドを植物プランクトンから取り込み体内で酸化的に代謝して赤色のアスタキサンチンに変換している。タイやサケなどの魚類はこの甲殻類を食べてアスタキサンチンを体内に取り込み蓄積している。また、ブリ、マグロ、タイなどは摂取したアスタキサンチンをレモン色のツナキサンチンに還元的に代謝している。 3. ヒトでのカロテノイドの吸収、代謝、体内分布 ヒトが日常摂取する食物の中にはおよそ50種のカロテノイドが含まれ、血液中には食物から吸収された20種類あまりのカロテノイドが存在する。その内でもβ-カロテン、α-カロテン、リコペン、ルテイン、ゼアキサンチンおよびβ-クリプトキサンチンの6種が主成分であり、これらで血液中のカロテノイドの 90%以上を占める。また微量成分であるがリコペン、ルテイン、ゼアキサンチンのヒト体内での酸化代謝物も存在する。トウガラシに含まれるカプサンチンやカプソルビンなど五員環エンドグループ(κ‐エンドグループ)を持つカロテノイドも体内に吸収される。一方、野菜や果物中にはエポキシ基を持ったビオラキサンチン、ネオキサンチンなどが多量に存在するが、ヒトの血液中にはこれらのエポキシカロテノイドは見つかっていない。エポキシカロテノイドは酸性条件で分解されるので、胃酸などにより分解され吸収されないのかもしれない。海藻に含まれるフコキサンチンもエポキシ基を持つカロテノイドである。長尾らはフコキサンチンをマウスに与えたところエポキシ基が脱離しアマロウシアキサンチンA に変換されて吸収される事、さらにヒト消化管細胞であるHepG2 でも同様の変換が見られた事を述べている。これらの結果から今後ヒトにおいてエポキシカロテノイドは全く吸収されないのか、または別の化合物に代謝変換されて吸収されるのか検討する必要がある。 食物から摂取されたカロテノイドは小腸で吸収される。多くのキサントフィル類は食物中では脂肪酸エステルとして存在するが腸管内でリパーゼなどの酵素により加水分解され遊離のカロテノイドになり吸収される。またβ-カロテンなどプロビタミンA 活性を持つカロテノイドの一部は小腸粘膜でβ-カロテン-15,15’-ジオキシゲナーゼによりレチナールに変換され、さらに還元されレチノール(ビタミンA)になり各組織へ運ばれる。野菜や果物中のカロテノイドは繊維質などさまざまなマトリクスに包まれているので生のままではカロテノイドの吸収率は低く 10%未満といわれている。しかし加熱調理をすると上昇し、特に油で調理した物の吸収率は 50%程度になる。 小腸から吸収されたカロテノイドは血液中のリポタンパク質であるキロミクロンに取り込まれ、リンパ管から血中を経て、一部は各組織に分配されながら肝臓へ輸送される。肝臓中のカロテノイドは超低密度リポタンパク質(VLDL)により血液中へ再放出される。β-カロテンやリコペンなどのカロテン類は非極性であるのでVLDLの中心部に、ルテインなどのキサントフィル類は極性基を持つのでVLDLの表面に存在する。このためキサントフィル類は他の組織に移行されやすいと考えられる。カロテノイドはLDL以外にも血漿中に存在する各種リポタンパク質に存在している。最近赤血球にはキサントフィル類がカロテン類より多く存在することも明らかになった。カロテノイドはヒト体内では肝臓、副腎、睾丸、卵巣、皮膚、眼、脳、肺などの臓器や脂肪組織などに広く存在している。ヒトの表皮や皮下組織にはルテインやゼアキサンチンなどのキサントフィル類が脂肪酸エステル体として存在しており光、特に生体深部到達度の高いUV-A(320 – 400 nm)や化学反応性の高いUV-B (280 – 320nm)に対する防御や皮膚表面で光増感反応により発生する一重項酸素の消去をしている。ヒトの脳にはβ-クリプトキサンチン、ルテイン、ゼアキサンチンなどのキサントフィル類が含まれる事が最近明らかになった。眼は紫外線による活性酸素のダメージを最も受けやすい器官である、網膜の黄斑にはβ-カロテンは存在しないがキサントフィル類のルテインとゼアキサンチンが存在し網膜を光酸化から護っている。最近ルテインの酸化代謝産物である 3-ヒドロキシ-β,ε-カロテン-3’-オンが網膜から単離された。これはルテインが網膜で抗酸化活性を発揮した結果、自らが酸化されて生成した化合物と考えられる。ルテインは加齢性黄斑変性(AMD)に有効でありサプリメントとしても用いられている。前立腺にはリコペンが特に多く蓄積しており前立腺がんの予防と進行の抑制に効果があると考えられている。 4. プロビタミンAとしてのカロテノイド ヒトや動物でのカロテノイドの重要な役割としプロビタミン A作用が古くから知られている。β-カロテンなど一部のカロテノイドは動物体内でβ-カロテン-15,15’-ジオキシゲナーゼにより酸化的開裂をうけレチナールになる。さらに還元されレチノール(ビタミンA)に変換されるのでプロビタミンAと呼ばれる。プロビタミン A活性を持つカロテノイドはこの他にα-カロテンやβ-クリプトキサンチンなどがある。レチノールの酸化体であるレチナールは視物質の発色団として視覚の重要な働きを担っている。レチノイン酸は個体発生、細胞分化に重要な働きをしている。ビタミン Aは欠乏すると夜盲症、皮膚の角化、粘膜異常、生殖異常などを起こす事が知られている。なお、ビタミン Aは過剰に摂取すると過剰症が出るが、カロテノイドを多量に摂ってもビタミンA過剰症は現れない。これはカロテノイドからレチノール(ビタミンA)への転換が非常によく制限されているためである。カロテノイドを過剰に摂取すると、ミカンを大量に食べた時に見られるように脂肪組織に一時的に蓄えられて皮膚がオレンジ色になるがやがて排泄されもとの状態に戻る。 5. 活性酸素とカロテノイド 活性酸素やフリーラジカルにはスーパーオキシドアニオンラジカル(O2-・)、過酸化水素(H2O2)、ヒドロキシラジカル(OH・) 、一重項酸素(1O2)、脂質ラジカルなどがある。このうちカロテノイドが強い消去活性を発揮するのは一重項酸素と脂質過酸化に対してである。一方、カロテノイドはスーパーオキシドアニオンラジカル、過酸化水素、ヒドロキシラジカルの消去活性はほとんど持たない。 1968年にFootとDennyがβ-カロテンが一重項酸素の強力な消去活性を持つ事を示して以来、カロテノイドの一重項酸素消去について数多くの研究がなされている。カロテノイドの一重項酸素消去は一重項酸素からカロテノイドへのエネルギー移動による物理的機構である。すなわち、一重項状態の酸素からカロテノイドが励起エネルギーを受け取り酸素を安定な基底状態の三重項状態へ戻すと共に、カロテノイドが受け取ったエネルギーはポリエン(共役二重結合)の振動により熱として放出し消去している。カロテノイドが有意な一重項酸素の消去活性を示すには 9個以上の共役二重結合を持つ事が必要である。β-カロテンはポリエン部に9個、末端のエンドグループに2個の合計11個の共役二重結合を持っている。この11個の共役系の両端にそれぞれ共役するカルボニル基を 2個持つカンタキサンチンやアスタキサンチンはβ-カロテンに比べてさらに強力な消去活性を示す。またポリエン部の 9個の二重結合の両端に共役するカルボニル基を持つカプソルビンや鎖状の11個の共役二重結合を持つリコペンもアスタキサンチンと同等かそれ以上の一重項酸素消去活性を示す。このように共役系が長い、すなわちより赤い色を示すカロテノイドほど一重項酸素の消去活性が強い事が知られている。 植物などの光合成器官では光と酸素によって常に一重項酸素が発生するのでカロテノイドは必須の物質である。魚類の卵はサケに代表されるようアスタキサンチンなどのカロテノイドが蓄積している。カロテノイドは孵化、発生の過程で胚や仔魚を光障害や一重項酸素などの活性酸素から保護している。魚卵のカロテノイド含量と孵化発生率には正の相関がある事が知られている。ヒトの皮膚表面では太陽光紫外線により一重項酸素が発生するのでルテインなどのキサンフィルが存在する。β-カロテンは光と一重項酸素が関与するポリフィリン症の治療薬とて用いられている。さらに、ヒト体内でも細菌や低密度リポタンパク質(LDL)の酸化変性物を好中球やマクロファージが貪食する過程で一重項酸素が発生することが知られておりこれらが炎症や動脈硬化の原因になっている。寺尾らのグループは野菜ジュースを摂取したヒトから調製したβ-カロテンとリコペンを豊富に含む LDL はカロテノイド含量の低い LDLに比べ一重項酸素に対する抗酸化活性が高い事を報告している。 生体膜の構成成分の一つである不飽和脂肪酸は活性酸素やフリーラジカルによりプロトンを引き抜かれると脂質ラジカルになり、さらに脂質ラジカルが酸素を取り込むと脂質ペルオキシラジカルを生じる。脂質ラジカルや脂質ペルオキシラジカルは連鎖的に脂質過酸化反応を進行する。カロテノイドはこの脂質過酸化反応に対して顕著な抑制効果を示す。特に低酸素分圧下では強力な活性を示す事が知られている。生体内の酸素分圧は組織液で 40mmHg、細胞内で1 mmHgであるのでカロテノイドは生体内でラジカル消去の役割を担っていると考えられる。 カロテノイドの脂質過酸化抑制効果も一重項酸素の消去活性と同様に共役系の長いカロテノイドほど強い。幹や寺尾らにより共役カルボニル基を持つアスタキサンチンやカンタキサンチンがβ-カロテンより強い消去効果を持つ事を報告している。キサントフィル類は分子の末端に水酸基などの極性基を分子の中央部には疎水性のポリエン構造を持つので細胞膜内を貫通する形で存在する事ができる。このためキサントフィル類は細胞膜やミトコンドリア膜などの膜脂質の過酸化を防ぐ事ができると考えられる。 また、村上らと著者らのグループはある種のカロテノイドは一酸化窒素(NO)やスーパーオキシドアニオンラジカルの産成系を抑制する事を示した。すなわち12-O-tetradecanoyl-phorbol-13-acetate (TPA) で刺激した炎症性白血球細胞からのスーパーオキシドアニオンラジカルの産生やリポポリサッカライド(LPS)あるいはインターフェロン-γで刺激したマクロファージ由来の一酸化窒素の産生をハロシンチアキサンチン、カプサンチン、カプサンチン 3,6-エポキサイドやカプソルビンが抑制する事を明らかにした。カロテノイドが活性酸素や活性窒素の消去のみならずその産生を抑制する事は注目される。これらの事実からカロテノイドは生体脂質の過酸化に起因する炎症、がん、動脈硬化、心疾患などの有力な予防物質と考えられる。 最近カロテノイドの活性酸素、フリーラジカルの消去機構について分子レベルでの解明が進んできた。カロテノイドは長い共役二重結合を持つのでこの部分で活性酸素やフリーラジカルと反応し活性酸素やラジカルを取り込む事ができる。例えばカロテノイドを酸化的条件でインキュベートすると二重結合が酸化的に開裂してアポカロテナールやアポカロテノンが、また二重結合部がエポキシ化されたエポキシ化合物が生成することが知られている。カロテノイドはそのポリエン部分でラジカルを付加する事ができる。最近いくつかのラジカル付加体が単離されている。衛藤らと著者はペルオキシナイトライト(ONOO-)とカロテノイドを反応させるとポリエン部にニトロ基が付加したニトロカロテノイドが生成することを明らかにした。著者らはトベラの種子からα-トコフェロールがビオラキサンチンのポリエン部に付加した複合体であるピトスポラムキサンチンを単離した。これは構造からトコフェロールがラジカルを消去する事により生じたトコフェロールラジカルをカロテノイドが付加する事により消去した結果生成した化合物と考えられる。トコフェロールラジカルをアスコルビン酸が還元して再生する機構は知られているが種子などの疎水的環境ではカロテノイドがトコフェロールラジカルを消去しプロオキシダントになる事を防いでいるものと考えられ興味深い。 6. カロテノイドとガン予防 1981年に緑黄色野菜の摂取が発がんのリスクを軽減する事をPetoらが報告して以来β-カロテンのがん予防効果が注目され、β-カロテンを対象としたヒト介入試験が行われた。しかし、中国河南省で行われたβ-カロテン、セレン、ビタミンEを投与する研究 (Linxianstudy)で胃がんと肺がんの発生率に有意な減少が見られたという報告を除いて、β-カロテン大量投与によるがん予防の有効性は認められなかった。むしろ喫煙者やアスベスト作業者を対象としたβ-カロテンの大量投与実験では肺がん発生率が増大するという結果が得られた。この結果を受けてその後β-カロテンを用いた介入試験はすべて中止された。しかし、これらの介入試験ではβ-カロテンを通常の食事からとる量の3 – 5倍量にあたる20 – 50 mgと大量に与えた事など日常の食事からのカロテノイド摂取とは大きく異なる点が問題であると考えられた。一方、その後の多くの疫学調査の結果で血液中のカロテノイド濃度が高いほど明確に発がんリスクの軽減が見られる事から、食品に含まれるβ-カロテンをはじめとする種々のカロテノイド、特にα-カロテン、リコペン、ルテイン、ゼアキサンチン、β-クリプトキサンチンなどのがん予防効果が注目され、動物や細胞を用いた実験が行われた。 一般に化学発がんはイニシエーションとプロモーションの二つの段階を経て進行する事が知られており、発がんを予防するにはこのいずれかの段階を阻止すれば良いと考えられている。著者らは抗発がんプロモーター活性のスクリーニング方法として広く用いられているエプシュタイン・バールウイルス活性化抑制試験を用いて日常食する野菜、果物、海藻や魚介類に含まれる50種あまりのカロテノイドの抗発がんプロモーター活性を検討した。その結果、検討したすべてのカロテノイドに活性が認められ、さらにβ-カロテンより強い抗発がんプロモーター活性を示すカロテノイドも数種見つかった。なかでもミカンに含まれるβ-クリプトキサンチンが最も強い活性を示し、レタスに含まれるラクツカキサンチン、多くの野菜に存在するルテインがこれに続いた。またトウガラシに含まれるカプサンチン、海藻のフコキサンチンやトマトのリコペンなども強い活性を示した。これらの結果、野菜や果物、海産物中にはβ-カロテン以外にも発がんを抑制するカロテノイドが多数存在する可能性が示された。 西野や村越らはマウスやラットを発がんイニシエーターとプロモーターで処理して腫瘍を発生させる二段階化学発がんモデルを用いてカロテノイドの発がん予防効果を検討した。その結果、野菜や果物に含まれるβ-カロテン、α-カロテン、リコペン、β-クリプトキサンチン、ルテイン、ゼアキサンチンを始め海産物に含まれるアスタキサンチン、フコキサンチン、ハロシンチアキサンチン、ペリジニンなどが発がんのプロモーター段階を抑制する事を明らかにしている。さらにβ-クリプトキサンチン、カプサンチン、デイノクロームなどは発がんのイニシエーション段階も抑制する事がわかった。また、興味深い事はβ-カロテン、α-カロテン、リコペン、ルテインを一般の食物に含まれる混合比(45:25:19:10)で混合したマルチカロテノイドはそれぞれのカロテノイドを単独で用いるより優れた発がん予防効果を示す事を動物実験によって明らかにしている。著者らもトウガラシに含まれるカプサンチンなどのカロテノイドに動物実験で発がん予防効果を持つ事を認めた。ヒトでの臨症効果も明らかになってきた。西野と神野らのグループは重症の肝臓疾患の患者にβ-カロテン、α-カロテン、リコペンの混合物を与えたところプラセボ群に比べカロテノイド投与群では肝硬変から肝臓がんへの移行が優位に抑制された事を報告している。先にも述べたがリコペンは前立腺や精巣に特異的に蓄積し前立腺がんの予防と進行の抑制に効果がある事が明らかになった。 カロテノイドのがん細胞増殖抑制のメカニズムとして細胞間のギャップジャンクションの増強、アポトーシスの誘導、細胞周期の遅延、免疫機構の賦活化などが提唱されている。細胞間の情報伝達に関わるコネキシンを発現させるとがん細胞の増殖が抑えられる事が知られているが、Bertramはカロテノイドがこのコネキシンの発現を誘導する事を示した。寺尾、長尾らのグループはヒト前骨髄性白血病細胞HL-60やヒト前立腺がん細胞にフィトエン、フィトフルエン、フコキサンチン、ネオキサンチンがアポトーシスを誘導することを示している。著者らはカプソルビンがヒト肺がん細胞 A-549 株の増殖を抑制することを認めた。このメカニズムを検討するため細胞周期関連タンパク質の動態を詳細に検討した結果、カプソルビンはサイクリン Aを特異的に減少し細胞周期のG2からM期への移行を抑制することを明らかにした。またがん遺伝子の重要な転写因子である NFκBを強く抑制する事を認めた。 7. 注目される新たな生理作用 最近カロテノイドと糖尿病の関係が注目されている。内藤らはⅡ型糖尿病モデルのdb/dbマウスを用いアスタキサンチンの長期投与が糖尿病性腎症の進行を抑制する事を報告している。杉浦らは静岡県の住民を対象にした疫学調査の結果、ウンシュウミカンの高摂取群は低摂取群に比べ糖尿病の罹患率が優位に低い事を示している。ミカンに含まれるカロテノイド、特にβ-クリプトキサンチンが糖尿病罹患リスクの低減因子のひとつではないかと考えられている。 カロテノイドの皮膚に対する作用も注目されている。ルテインなどのキサントフィルは皮膚に保湿効果を与える事が知られていた。近年、山下はアメリカの中年女性にアスタキサンチンを経口で摂取したところ皮膚の柔軟性、保湿性、シワの改善などの美容効果が認められた事を報告している。荒金はアスタキサンチンがメラニン生成を抑制する事や、経口投与でなく皮膚に塗布した場合でも光傷害から皮膚を保護する事を認めている。これらの結果アスタキサンチンは化粧品にも添加されるようになった。なお、ウンシュウミカンの主カロテノイドであるβ-クリプトキサンチンにもメラニン生成抑制効果が報告されている。先にルテインは網膜に存在し加齢性黄色斑症などの目の疾病に有効である事を述べたが最近アスタキサンチンも眼精疲労に有効である事がわかった。特に長時間パソコンの画面を見るVDT作業者で効果が認められた。日本人は海藻を良く食べる習慣がある。ワカメなどの海藻に含まれるフコキサンチンについて肥満防止効果をはじめ種々の生理活性が検討されている。 これまで述べたように最近カロテノイドの様々な生理機能が明らかになってきた。しかし中には細胞レベル、実験動物レベルでの結果にとどまるものもありヒトでの生理機能についてはまだまだ不明な点が多く今後の研究が期待される。 |
金沢大学 先進予防医学研究センターの研究成果『サケやカニ由来の赤い色素「アスタキサンチン」にNASHの予防・抑制作用があることを発見!(2015-11-26)』には次のとおり書かれています。
医薬保健研究域附属脳・肝インターフェースメディシン研究センターの太田嗣人准教授の研究グループは,非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の予防・抑制に,‘旬’の食材のサケやカニに含まれる赤い色素「アスタキサンチン」が有効であることを世界で初めて明らかにしました。 今回の研究成果から,アスタキサンチンに,生活習慣の改善以外に,治療手段が確立していないNASHの治療薬としての応用が期待されます。 国内患者数が2,000万人と推定され,肝臓の生活習慣病といわれる非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は,肝臓に脂肪が沈着した単純性脂肪肝,炎症を発症しているNASHに分類されます。このうち患者数が300~400万と推定されるNASHは5~20%が肝硬変や肝がんへと進行します。一方,病因が複雑なため,NASHの治療薬の開発は遅れています。近年の臨床試験では,ビタミンEに比べて優れた成績を示すNASH治療薬は存在しません。本研究グループは,脂質の過酸化抑制がビタミンEの250~500倍強いとされるアスタキサンチンに着目し,アスタキサンチンを製造・供給する富士化学工業株式会社と共同研究を進めてきました。 NASHを引き起こす高コレステロールの餌をマウスに3ヶ月間与え,高コレステロールの餌にアスタキサンチンを混ぜて与えた群と比較しました。その結果,アスタキサンチンを混ぜた群は混ぜないグループに比べて,生活習慣病やNAFLDの基盤にあるインスリン抵抗性が弱まり,肝臓の脂肪沈着が約50%減少し,脂肪肝になりにくいことが明らかとなりました。さらに,脂肪蓄積によって生じる脂質の過酸化(酸化ストレス)が80%以上抑制され,炎症を引き起こすマクロファージ(クッパー細胞)を炎症性のM1マクロファージから抗炎症性のM2マクロファージに変換することで,脂肪肝からNASHの発症が抑えられることが判明しました。 次に,NASHを発症させたマウスに,餌をアスタキサンチンを混ぜたものに切り替えて検討しました。その結果,餌を切り替えたグループでは,切り替えていないグループに比べて,肝硬変につながる肝臓の炎症や線維化が80%近く改善し,治療効果を示すことが判明しました。本研究では,NASHの発症予防および抑制作用をビタミンEと比較検討し,アスタキサンチンにはビタミンEに比べ優れた,強いNASHの予防・抑制効果があることが明らかとなりました。さらに,臨床試験によって,NASH患者においても肝臓の脂肪蓄積が抑えられていることも確認されました。 |
アスタキサンチンのサプリメントを摂取している理由
「二度目の人生における健康的な食生活 2〜日本人の食事摂取基準(2020年版)の概要等について」で書きましたとおり、私は、「日本人の食事摂取基準(以下「摂取基準」とします。)」を「多様な食品をバランス良く食べるための準拠」としています。
カロテノイドの作用(機能、働き)の「カロテノイドの多様な生理作用(2007 2:3-14)」で書かれている多様なカロテノイドについても、その多く、特に植物性の食品から摂取できるものについては、毎日、十分に摂取出来ています。
一方、摂取源が魚等に限定されている一方、強力な抗酸化作用をはじめとする様々な作用を有するアスタキサンチンを摂取しているのは、それを含む魚等を食べた日だけに限定されています。
そして、「カロテノイドの多様な生理作用(2007 2:3-14)」にも書かれているとおり、カロテノイド等抗酸化物質は複数種類を摂ることにより相乗効果が発揮されるとされているため、食事からアスタキサンチンを摂取出来ない日は同サプリメントを摂取しています。
アスタキサンチンのサプリメントを摂取している効果
アスタキサンチンのサプリメントの摂取を開始した頃においても、他のカロテノイド等は十分摂取しており、アスタキサンチンの不足によると思われる身体の不調等は無かったので、そのサプリメントの摂取による効果については不明です。
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