前回の鉄(Fe)の摂取基準と摂取量等に引き続き、今回は「日本人の食事摂取基準(2020年版)」における亜鉛(Zn)の摂取基準と摂取量等について書きます。
Ⅱ各 論 1エネルギー・栄養素 1-7 ミネラル(2)微量ミネラル ②亜鉛(Zn)
1 基本的事項
1-1 定義と分類
亜鉛(zinc)は原子番号30、元素記号Znの亜鉛族元素の一つである。
1-2 機能
亜鉛は、体内に約2,000mg存在し、主に骨格筋、骨、皮膚、肝臓、脳、腎臓などに分布する。
亜鉛の生理機能は、たんぱく質との結合によって発揮され、触媒作用と構造の維持作用に大別される。亜鉛欠乏の症状は、皮膚炎や味覚障害、慢性下痢、免疫機能障害、成長遅延、性腺発育障害などである。我が国の食事性亜鉛欠乏症は、亜鉛非添加の高カロリー輸液施行時、低亜鉛濃度の母乳や経腸栄養剤での栄養管理時に報告されている。
1-3 消化、吸収、代謝
亜鉛の恒常性は、亜鉛トランスポーターによる亜鉛の細胞内外への輸送とメタロチオネインによる貯蔵によって維持される。腸管吸収率は約30%とされるが、亜鉛摂取量に伴って変動する。また、食事中共存物、中でもフィチン酸は亜鉛吸収を阻害する。亜鉛の尿中排泄量は少なく、体内亜鉛の損失は、腸管粘膜の脱落、膵液や胆汁の分泌などに伴う糞便への排泄、発汗と皮膚の脱落、及び精液又は月経血への逸脱が主なものになる。
2 指標設定の基本的な考え方
日本人を対象とした報告がないので、成人の推定平均必要量はアメリカ・カナダの食事摂取基準を参考にして、要因加算法により算定した。
3 健康の保持・増進
3-1 欠乏の回避
3-1-1 必要量を決めるために考慮すべき事項
要因加算法において必要量を算定する手順は、①腸管以外への体外(尿、体表、精液又は月経血)排泄量の算出、②腸管内因性排泄量(組織から腸管へ排泄されて糞便中へ移行した量)と真の吸収量との回帰式の確立、③総排泄量(腸管以外への体外排泄量に腸管内因性排泄量を加算)を補う真の吸収量の算出、④総排泄量を補う真の吸収量の達成に必要な摂取量の算出、である。
3-1-2 推定平均必要量、推奨量の策定方法
・成人・高齢者(推定平均必要量、推奨量)
アメリカ・カナダの食事摂取基準では、亜鉛摂取量20mg/日以下のイギリスとアメリカの成人(18〜40歳)男性を対象とした報告から、腸管内因性排泄量に関して、(図 1…式 1)が成立するとしている。
腸管内因性排泄量=0.6280×真の吸収量+0.2784(mg/日)(図 1…式 1)
この式は、男女間の体重差にかかわらず適用できるとしていることから、日本人の成人男女にもそのまま適用できると判断した。また、総排泄量=腸管内因性排泄量+腸管以外への体外排泄量 (図 1…式 2)腸管以外への体外排泄量=尿中排泄量+体表消失量+精液中又は月経血中消失量より、
総排泄量=0.6280×真の吸収量+0.2784+(尿中排泄量+体表消失量+精液中又は月経血中消失量)
となる。
アメリカ・カナダの食事摂取基準では、男性成人の亜鉛の尿中排泄量、体表消失量、精液中消失量をそれぞれ 0.63、0.54、0.1mg/日、成人女性の亜鉛の尿中排泄量、体表消失量、月経血中消失量をそれぞれ 0.44、0.46、0.1mg/日と見積もっている。これらの数値をアメリカ・カナダの食事摂取基準における成人男女の参照体重(男性76kg、女性61kg)に対するものと考えて、我が国の18〜29歳における男女それぞれの参照体重との比の0.75乗を用いて外挿すると、
男性:総排泄量=0.6280×真の吸収量+0.2784+(0.549+0.470+0.087)(mg/日)
女性:総排泄量=0.6280×真の吸収量+0.2784+(0.379+0.396+0.086)(mg/日)
となる。これらの式から、総排泄量=真の吸収量となる値、すなわち出納がゼロとなる値は男性3.722mg/日、女性 3.062 mg/日となる。
一方、イギリスとアメリカの成人男性を対象にした研究からは、回帰式「真の吸収量=1.113×摂取量 0.5462」が得られる。この式の真の吸収量に上記の数値を代入すると、摂取量は、男性 9.117 mg/日、女性 6.378 mg/日となる。これらの値を18〜29歳における推定平均必要量とし、男女それぞれの年齢区分の参照体重に基づき、体重比の0.75乗を用いて外挿し、男女それぞれの年齢区分における推定平均必要量を算定した。
推奨量は、推定平均必要量に推奨量算定係数 1.2 を乗じて算出した。なお、値の算定法における精度の限界を考慮し、数値は整数値とした上で、一部の年齢区分(18〜29 歳の女性)において値の平滑化を行った。

・小児(推定平均必要量、推奨量)
(略)
・妊婦の付加量(推定平均必要量、推奨量)
(略)
・授乳婦の付加量(推定平均必要量、推奨量)
(略)
3-1-3 目安量の策定方法
・乳児(目安量)
(略)
3-2 過剰摂取の回避
3-2-1 摂取状況
平成28年国民健康・栄養調査における日本人成人(18 歳以上)の亜鉛摂取量(平均値±標準偏差)は 8.8±2.8mg/日(男性)、7.3±2.2mg/日(女性)であり、通常の食品において過剰摂取が生じることはなく、サプリメントや亜鉛強化食品の不適切な利用に伴って過剰摂取が生じる可能性がある。
3-2-2 耐容上限量の策定方法
・成人・高齢者(耐容上限量)
大量の亜鉛の継続的摂取は、銅の吸収阻害による銅欠乏がもたらすスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)活性の低下、鉄の吸収阻害が原因の貧血、さらに胃の不快感などを起こす。
18人のアメリカ人女性(25〜40 歳)において、亜鉛サプリメント50mg/日の12週間継続使用が血清HDLコレステロールの低下、10週間継続使用が血清フェリチン、ヘマトクリット、赤血球SOD活性の低下、血清亜鉛増加を起こしている。これらの女性の食事由来の亜鉛摂取量を19〜50歳のアメリカ人女性の亜鉛摂取量の平均値(10 mg/日)と同じとすると、総摂取量60mg/日となる。この値を亜鉛の最低健康障害発現量と考え、アメリカ・カナダの19〜30歳女性の参照体重(61kg)と不確実性因子1.5で除した0.66mg/kg体重/日に、性別及び年齢区分ごとの参照体重を乗じて耐容上限量を算定した。
・小児・乳児(耐容上限量)
(略)
・妊婦・授乳婦(耐容上限量)
(略)
3-3 生活習慣病の発症予防
亜鉛摂取量又は血清亜鉛濃度を指標にして対象者を分割し、糖尿病又は心血管疾患の発症リスクを比較している多数のコホート研究をレビューした報告では、高亜鉛状態が心血管疾患発症リスクを低下させるのは、糖尿病を有するか、心血管造影において高リスクと診断されている集団のみであり、一般には亜鉛状態とこれらの疾患の発症リスクとの関連は明確でないとしている。これより、生活習慣病発症予防のための目標量(下限値)は設定しなかった。
4 生活習慣病の重症化予防
糖尿病患者に亜鉛サプリメントを投与した多数の研究をレビューしたメタ・アナリシスにおいて、亜鉛サプリメント投与は糖尿病患者の空腹時血糖、HbA1c、血清総コレステロールの値を明らかに低下させるとしている。さらに、別のメタ・アナリシスにおいては、亜鉛サプリメント投与が、糖尿病患者に加えて、他の慢性代謝性疾患患者の空腹時血糖と HbA1cの値も低下させるとしている。ただし、これらのメタ・アナリシスにおいて、レビューの対象となった研究での亜鉛の投与量はほとんどが 30mg/日以上であり、耐容上限量を上回る投与量も散見された。以上より、糖尿病に対する亜鉛の効果は薬理的なものであることから、重症化予防のための量(下限値)は設定しなかった。
5 活用に当たっての留意事項
設定した指標はいずれも習慣的な摂取量に対するものである。亜鉛の場合、献立ごとに摂取量が増減することが予想されるが、1〜2週間の範囲の中で十分な摂取を目指すべきである。
6 今後の課題
亜鉛の推定平均必要量の算定に用いた諸量の中で、特に腸管以外の排泄量(尿中排泄量、体表消失量、精液排泄量、月経血消失量)について、日本人の数値が必要である。
亜鉛(Zn)の食事摂取基準及び私の摂取量と摂取源としている主な食品
亜鉛の食事摂取基準(mg/日)

亜鉛の摂取量
私の現在の亜鉛の摂取量は、推奨量11mg/日を若干上回る11.6mg/日です。
亜鉛の主要な摂取源
多様な食品をバランス良く
生命と健康長寿に必要な栄養素や機能性成分を出来るだけ多く含み、かつ、命と健康に悪い成分が出来るだけ少ない多様な食品をバランス良く食べるよう心がけています。
そして、亜鉛は、主にそういった多様な食品の中の植物性食品から幅広く摂取しています。
亜鉛の摂取源としている食品(上位20食品)
下記の各表は、私が常食している全ての食品を「食品成分データベース」で検索して得られた結果をNumbersで集計した亜鉛の摂取量が多い上位20食品です。(単位:mg)
なお、当然ながら食べている食品の種類は日々異なりますが、これらの食品の多くはほぼ毎日食べているものであり、頻度が少ないものでも1週間に1回以上は食べています。
また、それぞれの摂取量も日によって変動しますので1日当たりの概算的な平均摂取量です。
食品 | 黒胡麻 | ブロッコリー | ナッツ類 | オートミール | 鶏卵 | 十種穀物ご飯 | 豆乳 | 納豆 | ココア | ハイカカオチョコレート |
食品摂取量(g) | 20.0 | 124 | 28.7 | 30.0 | 63.6 | 75.0 | 200 | 40.0 | 7.0 | 15.0 |
亜鉛(mg) | 1.1 | 1.0 | 0.9 | 0.8 | 0.7 | 0.6 | 0.6 | 0.5 | 0.5 | 0.5 |
食品 | 酒粕 | ヨーグルト | 縮緬雑魚(しらす干し) | 韃靼入十割蕎麦/十割蕎麦 | バナナ | むき甘栗 | 味噌 | 鰯缶 | 玉葱 | 鯖缶 |
食品摂取量(g) | 20.0 | 100 | 12.0 | 157 | 33.3 | 19.0 | 12.0 | 96.8 | 16.0 | |
亜鉛(mg) | 0.5 | 0.4 | 0.4 | 0.4 | 0.3 | 0.3 | 0.2 | 0.2 | 0.2 | 0.2 |
まとめ
推奨量を満たす亜鉛の摂取
亜鉛は不足しやすいとされています。私の場合も、前述したとおり推奨量を若干上回ってはいますが、仮に、黒胡麻、ブロッコリー、ナッツ類、オートミール、鶏卵といった亜鉛の摂取源上位の食品を一品でも摂取しなければ推奨量を満たせなくなってしまいます。
亜鉛のサプリメントの摂取と中断
亜鉛のサプリメントを摂取していた理由と中断した理由で書きましたとおり、体調や食事内容等によって亜鉛の摂取量が不足する可能性がある等の理由で亜鉛のサプリメントを摂取していましたが、亜鉛アレルギーの可能性があるため現在は中断しています。
次回は銅(Cu)の摂取基準と摂取量等について書きます。
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今回は、亜鉛(Zn)と亜鉛を含む食品をイメージした画像を作成してもらいました。
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