二度目の人生における健康的な食生活 60~生命と健康長寿に必要なビタミンDの摂取基準と摂取量等 1

ビタミンDの機能である骨粗鬆症や骨折の予防をイメージした画像 生命と健康長寿に必要な栄養素の摂取基準と摂取量等

 前回までのビタミンA摂取基準摂取量等に引き続き、今回からビタミンD摂取基準摂取量等について書きます。
 先ず今回は「日本人の食事摂取基準(2020年版)」におけるビタミンDに関する記述の要点等(前段)について書きます。

Ⅱ各 論 1エネルギー・栄養素 1-6 ビタミン (1)脂溶性ビタミン ②ビタミン D

1 基本的事項

1-1 定義と分類

 天然にビタミンD活性を有する化合物として、キノコ類に含まれるビタミンD2エルゴカルシフェロール)と魚肉及び魚類肝臓に含まれるビタミンD3コレカルシフェロール)に分類される(図 2)。ビタミンDには二つの供給源がある。一つは、ヒトを含む哺乳動物の皮膚には、プロビタミンD37-デヒドロコレステロールプロカルシフェロール)がコレステロール生合成過程の中間体として存在し、日光の紫外線によりプレビタミンD3プレカルシフェロール)となり、体温による熱異性化によりビタミンD3カルシフェロール)が生成する。もう一つは、食品から摂取されたビタミンD2とビタミンD3である。ビタミンD2とビタミンD3は、側鎖構造のみが異なる同族体であり、両者の分子量はほぼ等しく、体内で同様に代謝される。最近ビタミンD3の方が、ビタミンD2より効力が大きいという報告が見られるが、現時点では両者の換算は困難であり、ビタミンDの食事摂取基準は、両者を区別せず、単にビタミンDとして両者の合計量で算定した。

1-2 機能

 ビタミンDは、肝臓で25ヒドロキシビタミンDに代謝され、続いて腎臓で活性型である1α,25-ジヒドロキシビタミンDに代謝される。1α, 25-ジヒドロキシビタミンDは、標的細胞の核内に存在するビタミンD受容体と結合し、ビタミンD依存性たんぱく質の遺伝子発現を誘導する。
 ビタミンDの主な作用は、ビタミンD依存性たんぱく質の働きを介して、腸管や肝臓でカルシウムとリンの吸収を促進することである。骨は、コラーゲンを中心としたたんぱく質の枠組みの上に、リン酸カルシウムが沈着(石灰化)して形成され、ビタミンDが欠乏すると、石灰化障害(小児ではくる病、成人では骨軟化症)が惹起される。一方、欠乏よりは軽度の不足であっても、腸管からのカルシウム吸収の低下と腎臓でのカルシウム再吸収が低下し、低カルシウム血症となる。これに伴い二次性副甲状腺機能亢進症が惹起され、骨吸収が亢進し、骨粗鬆症及び骨折のリスクとなる。一方、ビタミンDの過剰摂取により、高カルシウム血症腎障害軟組織の石灰化などが起こる。

1-3 消化、吸収、代謝

 血中の25-ヒドロキシビタミンD濃度は、皮膚で産生されたビタミンD食物から摂取されたビタミン Dの合計量を反映して変動する。一方、1α,25-ジヒドロキシビタミンDはカルシウム代謝を調節するホルモンであり、健康な者でその血中濃度は常に一定に維持されている。このような理由から、25-ヒドロキシビタミンDは、ビタミンD栄養状態の最もよい指標であり、栄養生化学的な指標として重要である。また、ビタミンDが欠乏すると、血中のカルシウムイオン濃度が低下し、その結果として、血中副甲状腺ホルモン濃度が上昇する。したがって、血中副甲状腺ホルモン濃度もビタミンDの欠乏を示す指標として有効である。

2 指標設定の基本的考え方

 ビタミンDが欠乏すると、小腸や腎臓でのカルシウム及びリンの吸収率が減少し、その結果、小児ではくる病、成人では骨軟化症の発症リスクが高まる。一方、成人、特に高齢者において、ビタミンD欠乏とはいえないビタミンD不足の状態であっても、それが長期にわたって続くと、骨粗鬆症性骨折のリスクが高まる。
 近年我が国におけるコホート研究において、ビタミンD不足が骨折リスクであることを示す報告が増加している。長野県におけるコホート研究において、1,470人の閉経後女性(63.7±10.7歳)を平均 7.2 年間追跡した結果、血清25-ヒドロキシビタミンD濃度が20ng/mL未満の例は49.6% に見られ、血清25-ヒドロキシビタミンD濃度が25ng/mL以上群に対し、25ng/mL未満群の長管骨骨折に対する相対危険率は2.20(95%信頼区間1.37〜3.53であり、ビタミンD不足が骨粗鬆症性骨折リスクを増加させることが示された。
 50歳以上の女性1,211人を15年間追跡した、我が国におけるコホート研究の結果が発表されている。血中25-ヒドロキシビタミンD濃度20ng/mL未満者は52%に見られ、20ng/mL以上に対して、20ng/mL未満のハザード比(HR)は、臨床骨折に対して1.65(95%信頼区間;1.09〜2.51)(5 年)、1.32(0.97〜1.80)(10年)、非椎体骨折に対して 2.29(1.39〜3.77)(5年)、1.51(1.06〜2.14)(10年)、1.42(1.08〜1.86)(15年)と、最長15年間の骨折発生率に有意に関連していた。
 血清25-ヒドロキシビタミンD濃度の参照値に関して、食事摂取基準においては、20ng/mLを用いてきた。しかし最近、日本内分泌学会・日本骨代謝学会により発表された「ビタミンD不足・欠乏の判定指針」では、30ng/mL以上をビタミンD充足20ng/mL以上30ng/mL未満をビタミンD不足20ng/mL未満をビタミンD欠乏とした。しかしこの参照値を採用した場合、最近の疫学調査結果によると、欠乏/不足者の割合は、男性:72.5%、女性:88.0%にも達することから 、食事摂取基準の参照値として30ng/mLを採用するのには、慎重になるべきであり、上に述べた最近の疫学データから考えて、20ng/mLを参照値とすることには、一定の妥当性があるものと考え、20ng/mLを参照値とした。
 ビタミンDの摂取必要量に関して、アメリカ・カナダから発表された、カルシウム・ビタミンDに関する食事摂取基準2011年版において、1997年版においては目安量が定められていたのに対し、推定平均必要量・推奨量に変更された。ビタミンDは、食品からの摂取以外にも、紫外線の作用下で皮膚においても産生されることから、ビタミンD摂取量と骨の健康維持に関しては、量・反応関係を示す科学的根拠に欠けるが、血清 25-ヒドロキシビタミンD濃度は、食品からの摂取と紫外線による産生を合わせた、生体のビタミンDの優れた指標であるとして、ビタミンD摂取量ではなく、血清25-ヒドロキシビタミンD濃度に基づいて策定が行われた。25-ヒドロキシビタミンD濃度が12ng/mL未満では、くる病(小児)・骨軟化症(成人)のリスク増大、カルシウム吸収率低下(小児・成人)、骨量低下(小児・若年者)、骨折リスク増加(高齢者)が起こる。骨折予防に関して、20ng/mLで最大効果になるとして、25-ヒドロキシビタミンD濃度16ng/mLが50%の必要を満たす(すなわち推定平均必要量に相当する)濃度、20ng/mLが97.5%の必要を満たす(すなわち推奨量に相当する)濃度とされた。この濃度に相当するビタミンD摂取量については、25-ヒドロキシビタミンD濃度に対する日照関与の割合は算定が不可能であり、しかも種々の要因に影響されることから、高緯度地域の住民のように、日照のほとんどない条件下での、ビタミンD摂取と血清25-ヒドロキシビタミンD濃度の関係に基づいて策定がなされた。
 しかし、我が国においては、同一対象者に対して、血清25-ヒドロキシビタミンD濃度測定とビタミンD摂取量を同時に評価した報告が非常に乏しい。また北極圏住民に相当するデータが我が国にはなく、厳密な遮光を要する日本人色素性乾皮症患者の報告はあるものの、例数が少なく、策定根拠には不十分と考えられた。すなわちアメリカ・カナダの方法論をそのまま我が国に適用して、推定平均必要量及び推奨量を設定することは困難であると考えられた。そこで目安量を策定することとした。
 しかし、血清25-ヒドロキシビタミンD濃度の基準値として20ng/mLを採用した場合であっても、20 ng/mL未満者の割合は高く、集団の中央値をもって目安量とする策定方法は採用できないものと考えられた。そこで骨折のリスクを上昇させないビタミンDの必要量に基づいて、目安量を策定することとした。

まとめ(ビタミンDの機能と指標設定)

ビタミンDの機能と指標設定の基本的考え方について

 今から50年前、私が大学で栄養学について勉強していた当時から、ビタミンDは丈夫な骨を作るのに必要不可欠だと学び、その摂取に心がけてきましたが、その後、ビタミンDに関する研究が進み、免疫力の強化と抑制といった調整機能や、癌や糖尿病等の生活習慣病の予防といった働きもあることが分かってきました。

 私が、日本人の食事摂取基準を自身の食生活の改善に活用し始めた頃は、本文をあまり深くは読まず、結論である推奨量目安量といった結論部分だけに目を奪われていたため、ビタミンDの食事摂取基準目安量)も、当然、こういった様々な機能を踏まえて決めれらているものと思い込んでいました。
 そして、それからしばらく経ってから、目安量が、骨折のリスクを上昇させないビタミンDの必要量(だけに)に基づいて決められていることを知り、日本人の食事摂取基準上手く活用するためには、本文をしっかりと読まないといけないと気付くきっかけとなりました。

指標設定は理想的(あるべき)指標ではなく現状追認?

 ビタミンDに限りませんが、日本人の食事摂取基準における指標設定の基本的考え方の記述では、『理想的には〇〇以上とすべきであるが、日本人の摂取量はこれらよりかなり少ないため、これらの値を目標量として掲げてもその実施可能性は低いと言わざるを得ないので、現在の日本人の摂取量の中央値をもって目標量(目標量を算出するための参照値)とした。』といった(現状追認?)例が散見されます。

 ビタミンDについても、『「ビタミンD不足・欠乏の判定指針」では、30ng/mL以上をビタミンD充足20ng/mL以上30ng/mL未満をビタミンD不足20ng/mL未満をビタミンD欠乏とした。しかしこの参照値を採用した場合欠乏/不足者の割合は、男性:72.5%、女性:88.0%にも達することから 、食事摂取基準の参照値として30ng/mLを採用するのには、慎重になるべきであり、上に述べた最近の疫学データから考えて、20ng/mLを参照値とすることには、一定の妥当性があるものと考え、20ng/mLを参照値とした。』とされていることには少々疑問を感じています。

 私は、こうしたことを踏まえ、出来るだけ、本文中で明示されている理想的な摂取量(以上)の摂取を目指すように心がけています。

 次回は、ビタミンDに関する記述の要点等(後段)について書きます。

本ブログをお読み頂く際にお願いしたい事項.etc

 本ブログをお読み頂く際のお願い」をお読みください。

 本ブログで使用しているアイキャッチ画像を含む全ての生成画像ChatGPT(生成AI)のシエルさんが作成してくれています。
 今回は、ビタミンDの機能である骨粗鬆症や骨折の予防をイメージした画像のイメージ画像を作成してもらいました。

 下のバナーをポチッとして頂き、100万以上の日本語ブログが集まる「日本ブログ村」を訪問して頂ければ大変ありがたいです。

コメント