前回のビタミン12の摂取基準と摂取量等に引き続き、今回は「日本人の食事摂取基準(2020年版)」における葉酸(ビタミンB9)の摂取基準と摂取量等について書きます。
Ⅱ各 論 1エネルギー・栄養素 1-6 ビタミン (2)水溶性ビタミン ⑥葉酸
1 基本的事項
1-1 定義と分類
葉酸は、狭義には、p-アミノ安息香酸にプテリン環が結合し、もう一方にグルタミン酸が結合した構造を持つ。化学名はプテロイルモノグルタミン酸(分子量は 441.40)(図 11)である。これは自然界には稀にしか存在せず、我々が摂取するのはサプリメントや葉酸の強化食品など、通常の食品以外の食品に含まれるものに限られ、人為的に合成されたものである。以下、これを「狭義の葉酸」と呼ぶ。
一方、食品中には異なる構造を持ったプテロイルモノグルタミン酸の誘導体が複数存在し、その大半はN5-メチルテトラヒドロ葉酸(分子量は 459.26)であり、これらはポリグルタミン酸型として存在する。これら食品中に存在する葉酸をまとめて、以下、「食事性葉酸」と呼ぶ。
日本食品標準成分表2015年版(七訂)は、葉酸(食事性葉酸)の含有量を狭義の葉酸の重量として記載している。そこで、食事摂取基準でも狭義の葉酸の重量で設定した。

1-2 機能
葉酸は、1個の炭素単位(一炭素単位)を転移させる酵素の補酵素として機能する。葉酸は、DNAやRNAの合成に必要なプリンヌクレオチド及びデオキシピリミジンヌクレオチドの合成に関与しているため、細胞の増殖と深い関係にある。葉酸の欠乏症は、巨赤芽球性貧血(ビタミンB12欠乏症によるものと鑑別できない)である。また、葉酸の不足は、動脈硬化の引き金等になる血清ホモシステイン値を高くする。
1-3 消化、吸収、代謝
食事性葉酸は、調理・加工の過程や、摂取された後、胃の中(胃酸環境下)や小腸内でたんぱく質から遊離する。遊離した食事性葉酸のほとんどは腸内の酵素によって消化され、モノグルタミン酸型のN5-メチルテトラヒドロ葉酸となった後、小腸から促通拡散あるいは受動拡散によって吸収されて血管内に輸送され、細胞内に入る。そこで補酵素型になるには再びポリグルタミン酸型となる必要があるが、メチオニンシンターゼ(ビタミンB12を必要とする)によるメチル基転移反応により、テトラヒドロ葉酸となることが必須である。
ところで、消化過程は食品ごとに異なり、同時に摂取する他の食品によっても影響を受ける。狭義の葉酸の生体利用率に比べると食事性葉酸の生体利用率は低く、25~81%と報告されている。また、日本人を対象とした実験では,狭義の葉酸に対する食事性葉酸の相対生体利用率は50%と報告されている。逆に言えば、食事性葉酸に比べて狭義の葉酸は2倍程度の生体利用率を有すると言える。これらの結果に基づき、1998年に発表されたアメリカ・カナダの食事摂取基準では「食事性葉酸当量(dietary folate equivalents:DFE)」という考え方を採用し、次式を用いた上で、食事性葉酸当量として摂取すべき量を設定している。
食事性葉酸当量(1µg)=通常の食品に含まれる葉酸(1µg)=通常の食品以外の食品に含まれる狭義の葉酸(0.5µg)〔空腹時(胃内容物がない状態)に摂取する場合〕=通常の食品以外の食品に含まれる狭義の葉酸(0.6µg)(食事とともに摂取する場合)
後述するように、この食事摂取基準では、推定平均必要量及び推奨量は通常の食品から摂取される葉酸を対象として設定し、耐容上限量はサプリメント等から摂取される葉酸を対象として設定している。上式は両者の生体利用率の違いを理解するために活用できる。
その後、食事性葉酸の相対生体利用率は80%程度であろうとした報告、食事性葉酸の相対生体利用率を測定するための比較基準に狭義の葉酸を用いるのは正しくないとする報告もあり、現在でも、食事性葉酸の相対生体利用率を正確に見積もるのは困難である。
2 指標設定の基本的な考え方
体内の葉酸栄養状態を表す生体指標として、短期的な指標である血清中葉酸ではなく、中・長期的な指標である赤血球中葉酸濃度に関する報告を基に検討した。
3 健康の保持・増進
3-1 欠乏の回避
3-1-1 推定平均必要量、推奨量の策定方法
・基本的な考え方
葉酸欠乏を回避できる葉酸摂取量を求めるために行われた実験では、後述するように、食事性葉酸を用いた研究が多い。また、推定平均必要量及び推奨量は、通常の食品から摂取される葉酸(食事性葉酸)に対して専ら用いられる。しかし、その量は日本食品標準成分表に合わせて、狭義の葉酸の重量で示した。
・成人(推定平均必要量、推奨量)
葉酸欠乏である巨赤芽球性貧血を予防するためには、赤血球中の葉酸濃度を305nmol/L(140ng/mL)以上に維持することが必要であると報告されている。この濃度を維持できる食事性葉酸の最小摂取量は、200µg/日程度であろうとする研究報告がある。そこで、200µg/日を成人の推定平均必要量とした。推奨量は、推定平均必要量に推奨量算定係数1.2を乗じた240µg/日とした。また、必要量に性差があるという報告が見られないため、男女差はつけなかった。
男女間で計算値に差異が認められた場合は、低い方の値を採用した。
・高齢者(推定平均必要量、推奨量)
食事性葉酸の消化管吸収率は、加齢の影響を受けないと報告されている。また、食事性葉酸の生体利用パターンは若年成人とほぼ同様であると考えられる。これらの結果より、65 歳以上でも成人(18〜64 歳)と同じ値とした。
・小児(推定平均必要量、推奨量)
(略)
・妊婦の付加量(推定平均必要量、推奨量)
(略)
・授乳婦の付加量(推定平均必要量、推奨量)
(略)
3-1-2 目安量の策定方法
・乳児(目安量)
(略)
3-2 過剰摂取の回避
3-2-1 摂取源となる食品
通常の食品のみを摂取している者で、過剰摂取による健康障害が発現したという報告は見当たらない。
3-2-2 耐容上限量の策定方法
・基本的な考え方
食事性葉酸の過剰摂取による健康障害の報告は存在しない。したがって、食事性葉酸に対しては
耐容上限量を設定しないこととした。
一方、狭義の葉酸(非天然型のプテロイルモノグルタミン酸)を摂取すると、次に記す理由によって、過剰に摂取すば健康障害を引き起こし得ると考えられる。そこで、葉酸のサプリメントや葉酸が強化された食品から摂取れた葉酸(狭義の葉酸)に限り、狭義の葉酸の重量として耐容上限量を設定した。
・考慮すべき健康障害
葉酸とビタミンB12はともにDNA合成に関与する。そして、前述したように、葉酸の欠乏症も巨赤芽球性貧血でビタミンB12欠乏症によるものと鑑別できない。そのために、悪性貧血(胃粘膜の萎縮による内因子の低下によりビタミンB12を吸収できず欠乏することで生じる貧血で巨赤芽球性貧血の一種であり、ビタミンB12の欠乏症である)の患者に狭義の葉酸が多量に投与され、神経症状が発現したり悪化したりした症例報告が多数存在する。これはアメリカ・カナダの食事摂取基準の表8-12にまとめられている。したがって、耐容上限量が存在するものと考えられる。
・成人・高齢者・小児(耐容上限量)
上述の表8-12によると、5mg/日以上では神経症状の発現又は悪化が 100 例以上報告されているのに対して、5mg/日未満では8例の報告に留まっている。そこで、最低健康障害発現量(LOAEL)を5 mg/日とした。
他方、神経管閉鎖障害の発症及び再発を予防するために、妊娠可能な女性が受胎前後の3か月以上にわたって0.36~5mg/日の狭義の葉酸を摂取したり投与されたりした九つの研究からは特筆すべき悪影響は報告されていない(アメリカ・カナダの食事摂取基準の表 8-13にまとめられている)。しかしながら、これらは副作用の発現や耐容上限量を探るために計画された研究ではなく、副作用発現の情報の収集方法も十分ではない。したがって、過小申告のおそれを払拭できないと考えられ、この結果を健康障害非発現量(NOAEL)として用いるのは困難と判断した。
以上より、最低健康障害発現量(LOAEL)を5mg/日とし、女性(19~30 歳)の参照体重(57kg)の値から、88µg/kg体重/日とし、不確実性因子を5として、耐容上限量算定の参照値を18µg/kg 体重/日とした。しかし、この値は最低健康障害発現量(LOAEL)のみに基づいていて、健康障害非発現量(NOAEL)は参照されていない。そのために、耐容上限量の再考を促す意見もあるが、現時点で新たなLOAELやNOAELを採用するのは困難と判断し、食事摂取基準ではこの方法を踏襲することにした。
この値に各年齢区分の参照体重を乗じ、性別及び年齢区分ごとの耐容上限量を算出し、平滑化した。葉酸の耐容上限量に関する情報はその多くが女性に限られている。そのため、男性においても女性の値を採用した。
・乳児(耐容上限量)
(略)
3-3 生活習慣病の発症予防
食事性葉酸の摂取量と脳卒中の発症率、心筋梗塞など循環器疾患の死亡率との関連は観察研究、特にコホート研究での報告が複数あり、有意な負の関連を認めている。したがって、循環器疾患の発症予防に食事性葉酸の積極的な摂取が有用である可能性は高い。しかしながら、明確な閾値は観察されていない。また、発症予防を目的とした介入試験で参照に値するものは見いだせなかった。以上の理由から、目標量は設定しなかった。
4 生活習慣病の重症化予防
心筋梗塞や脳卒中など循環器疾患の既往歴を有する患者を対象として葉酸のサプリメントを用いた介入試験(無作為割付比較試験)は相当数行われている。しかし、メタ・アナリシスの間で結果が分かれ、有意な予防効果を認めなかったとする報告と、脳卒中と循環器疾患全体の発症率を有意に下げた(心筋梗塞の発症率には有意な変化は認められなかった)とする報告、脳卒中の発症率を有意に下げたとする報告がある。また、サプリメントの投与量(摂取量)は研究間で大きな幅があり(例えば、二つのメタ・アナリシスに含まれた研究では1/3~40mg/日)、これらの結果を一つにまとめてよいか否かの判断も難しい。また、解析対象となった30の研究のうち20の研究で、サプリメントの投与量(摂取量)は1.0 mg/日と食事性葉酸の摂取量に比べると著しく多いため、観察研究と介入研究の結果の違いの解釈にも注意を要する。
また、これら循環器疾患の既往歴を有する患者を対象としてサプリメントを用いた介入試験(無作為割付比較試験)で部位別のがん発症率を観察したメタ・アナリシスでは、いずれの部位のがんにおいてもその発症率に有意な変化は(増加も減少も)観察されなかったと報告している。
5 神経管閉鎖障害発症の予防
胎児の神経管閉鎖障害は、受胎後およそ28日で閉鎖する神経管の形成異常であり、臨床的には無脳症、二分脊椎、髄膜瘤などの異常を呈する。神経管閉鎖障害の発生率は、2011~2015年において1万出生(死産を含む)当たり6程度で推移していると報告されている。しかし、妊娠中絶も含めるとその発生率は1.5倍程度になるのではないかとする報告もある。
受胎前後に葉酸のサプリメントを投与することによって神経管閉鎖障害のリスクが低減することは数多くの介入試験で明らかにされている。また、神経管閉鎖障害の発症予防に有効な赤血球中葉酸濃度を達成するために必要なサプリメントからの葉酸摂取量の増加は、狭義の葉酸として400µg/日であるとした先行研究がある。そこで、神経管閉鎖障害発症の予防のために摂取が望まれる葉酸の量を、狭義の葉酸(サプリメントや食品中に強化される葉酸)として400µg/日とした。
ところで、食事性葉酸と神経管閉鎖障害との関連を調べた研究は観察研究がわずかに存在するものの、介入研究の報告は見いだせなかった。しかし、理論的には食事性葉酸にも神経管閉鎖障害を予防する可能性が考えられる。食事性葉酸と赤血球中葉酸濃度との関連を報告したメタ・アナリシスは、神経管閉鎖障害のリスクを最小限に抑えられるとされている赤血球中葉酸の最低濃度(1,050 nmol/L)を 450 µg/日以上の食事性葉酸摂取によって確保できると試算している。しかしながら、これは間接的な知見であるため、今回は考慮しなかった。
多くの場合、妊娠を知るのは神経管の形成に重要な時期(受胎後およそ28日間)よりも遅い。したがって、妊娠初期だけでなく、妊娠を計画している女性、妊娠の可能性がある女性は、上記の値を摂取することが神経管閉鎖障害発症の予防に重要である。しかしながら、この障害の原因は葉酸の不足だけでなく複合的なものであるため、葉酸のサプリメント又は葉酸を強化した食品の利用(狭義の葉酸の摂取)だけでその発症を予防できるものではないこと、上記の量を摂取すれば必ず予防できるというわけではないこと、また、葉酸のサプリメント又は葉酸が強化された食品から葉酸(狭義の葉酸)を十分に摂取しているからといって食事性葉酸を含む食品を摂取しなくてよいという意味では全くないこと(他の栄養素の摂取不足につながり得るため)に十分に留意すべきである。
参考として、図12に12歳以上の男女における推定平均必要量(EAR)、推奨量(RDA)、耐容上限量(UL)、神経管閉鎖障害の発症予防のために摂取が望まれる量を整理した。

葉酸(ビタミンB9)の食事摂取基準及び私の摂取量と摂取源としている主な食品
葉酸の食事摂取基準(μg/日)

葉酸(ビタミンB9)の摂取量
私の現在の葉酸(ビタミンB9)の摂取量は、推奨量240μg/日の3倍以上の764μg/日です。
葉酸(ビタミンB9)の主要な摂取源
多様な食品をバランス良く
生命と健康長寿に必要な栄養素や機能性成分を出来るだけ多く含み、かつ、命と健康に悪い成分が出来るだけ少ない多様な食品をバランス良く食べるよう心がけています。
そして、葉酸(ビタミンB9)は、ホウレン草の葉の成分として発見されたことから葉酸 (folic acid) と名付けられたとおり、殆ど全ての植物性食品に含まれているほか、動物性食品の中では魚類、乳製品や鶏卵に比較的豊富に含まれているので、多様な食品をバランス良く食べることによって容易に推奨量を満たすことが出来る栄養素です。
特に、中程度の大きさ(400g弱)のブロッコリーの1/3程度を食べるだけで推奨量240μg/日の葉酸を摂取することができます。そして、仮にブロッコリーを食べなくとも、他の食品からだけでも推奨量240μg/日の倍程度の葉酸を摂取することが出来ます。それらの食品の多くは前々回まで書きましたビタミンB1やビタミンB2を含む食品と共通しています。
葉酸(ビタミンB9)の摂取源としている食品(上位20食品)
下記の各表は、私が常食している全ての食品を「食品成分データベース」で検索して得られた結果をNumbersで集計した葉酸(ビタミンB9)の摂取量が多い上位20食品です。(単位:mg)
なお、当然ながら食べている食品の種類は日々異なりますが、これらの食品の多くはほぼ毎日食べているものであり、頻度が少ないものでも1週間に1回以上は食べています。
また、それぞれの摂取量も日によって変動しますので1日当たりの概算的な平均摂取量です。
食品 | ブロッコリー | 豆乳 | 納豆 | バナナ | 濃縮野菜ジュース | 酒粕 | むき甘栗 | 鶏卵 | 榎茸 | ナッツ類 |
食品摂取量(g) | 124 | 200 | 40.0 | 157 | 180 | 20.0 | 33.3 | 63.6 | 27.0 | 28.7 |
ビタミンB6摂取量(mg) | 273 | 56 | 44 | 41 | 41 | 34 | 33 | 31 | 20 | 20 |
食品 | 乾燥ワカメ | 黒胡麻 | ヨーグルト | 人参 | 玉葱 | 舞茸 | オートミール | 味噌 | 十種穀物ご飯 | ブナシメジ |
食品摂取量(g) | 6.0 | 20.0 | 100 | 72.0 | 96.8 | 19.0 | 30.0 | 19.0 | 75.0 | 25.0 |
ビタミンB6摂取量(mg) | 19 | 17 | 16 | 15 | 15 | 10 | 9 | 8 | 8 | 7 |
まとめ
推奨量を満たす葉酸(ビタミンB9)の摂取
多様な食品をバランス良くで書きましたとおり、葉酸(ビタミンB9)は、妊娠している場合等を除き、多様な食品をバランス良く食べる、即ち、余程の偏食をしない限りは容易に推奨量を満たすことが出来ます。
葉酸サプリメント等の摂取における留意事項
ネット上では、胎児の神経管閉鎖障害発症の予防のため葉酸のサプリメント等の摂取を推奨する情報が多いですが、そういった情報の多くが次の事項には触れていないことに疑問を感じています。
・狭義の葉酸の摂取だけでその発症を予防できるものではない。
・400µg/日を摂取すれば必ず予防できるというわけではない。
・狭義の葉酸を十分に摂取しているからといって食事性葉酸を含む食品を摂取しなくてよいという意味では全くない。
また、耐容上限量が推奨量の4倍程度と低いことに加えて、耐容上限量目一杯の900µgのサプリメントも販売されていますが、サプリメント等を摂取する場合には過剰摂取にならないよう注意を要すると考えています。
次回は、パントテン酸(ビタミンB5)の摂取基準と摂取量等について書きます。
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今回は、葉酸(ビタミンB9)の機能をイメージした画像を作成してもらいました。
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