前回のナイアシン(ビタミンB3)の摂取基準と摂取量等に引き続き、今回は「日本人の食事摂取基準(2020年版)」におけるビタミンB6の摂取基準と摂取量等について書きます。
Ⅱ各 論 1エネルギー・栄養素 1-6 ビタミン (2)水溶性ビタミン ④ビタミンB6
1 基本的事項
1-1 定義と分類
ビタミンB6活性を有する化合物として、ピリドキシン(PN)、ピリドキサール(PL)、ピリド
キサミン(PM)(図7)がある。また、これらのリン酸化型であるピリドキシン5-リン酸(PNP)、ピリドキサール5-リン酸(PLP)、ピリドキサミン5-リン酸(PMP)は、消化管でビタミンB6にまで消化された後、体内に取り込まれるため、ビタミンB6と等モルの活性を示す。食事摂取基準は、日本食品標準成分表2015年版(七訂)に従い、PNの重量(図7)として設定した。

1-2 機能
ビタミンB6は、アミノ基転移反応、脱炭酸反応、ラセミ化反応などに関与する酵素の補酵素、ピリドキサール5-リン酸(PLP)として働いている。ビタミンB6は、免疫系の維持にも重要である。ビタミンB6の欠乏により、ペラグラ様症候群、脂漏性皮膚炎、舌炎、口角症、リンパ球減少症が起こり、成人では、うつ状態、錯乱、脳波異常、痙攣発作が起こる。また、PNを大量摂取すると、感覚性ニューロパシーを発症する。
1-3 消化、吸収、代謝
生細胞中に含まれるビタミンB6の多くは、リン酸化体であるPLPやPMPとして酵素たんぱく質と結合した状態で存在している。食品を調理・加工する過程及び胃酸環境下でほとんどのPLP及びPMPは遊離する。遊離したPLP及びPMPのほとんどは、消化管内の酵素、ホスファターゼによって加水分解され、PL及びPMとなった後、吸収される。一方、植物の生細胞中にはピリドキシン5β-グルコシド(PNG)が存在する。PNGはそのまま、あるいは消化管内で一部が加水分解を受け、PNとなった後、吸収される。PNGの相対生体利用率は、ヒトにおいては50%と見積もられている。消化過程は食品ごとに異なり、一緒に食べる他の食品によっても影響を受ける。アメリカの平均的な食事におけるビタミンB6の遊離型ビタミンB6に対する相対生体利用率は75%と報告されている。一方、我が国で食されている平均的な食事の場合には相対生体利用率は73%と報告されている。
2 指標設定の基本的な考え方
血漿中に存在するPLPは、体内組織のビタミンB6貯蔵量をよく反映する。血漿中のPLP濃度が低下した若年女性において、脳波パターンに異常が見られたという報告がある。いまだ明確なデータは得られていないが、神経障害の発生などのビタミンB6欠乏に起因する障害が観察された報告を基に判断すると、血漿PLP濃度を30nmol/Lに維持することができれば、これらの障害は全く観察されなくなる 。そこで、血漿PLP濃度を30nmol/Lに維持できるビタミンB6摂取量を推定平均必要量とすることにした。一方、ビタミンB6の必要量はたんぱく質摂取量が増加すると増え、血漿PLP濃度はたんぱく質当たりのビタミンB6摂取量とよく相関する(図8)。

3 健康の保持・増進
3-1 欠乏の回避
3-1-1 必要量を決めるために考慮すべき事項
ビタミンB6の必要量は、アミノ酸の異化代謝量に応じて要求量が高まることから、たんぱく質摂取量当たりで算定した。
3-1-2 推定平均必要量、推奨量の策定方法
・成人・小児(推定平均必要量、推奨量)
血漿PLP濃度を30nmol/Lに維持できるビタミンB6量は、PN摂取量として0.014mg/gたんぱく質である(図8)。食事性ビタミンB6量に換算するために、相対生体利用率73%で除した0.019mg/gたんぱく質を1〜64歳の推定平均必要量算定の参照値とし、対象年齢区分のたんぱく質の食事摂取基準の推奨量を乗じて推定平均必要量を算定した。推奨量は、推定平均必要量に推奨量算定係数 1.2 を乗じた値とした。
・高齢者(推定平均必要量、推奨量)
高齢者については、血漿PLPが年齢の進行に伴って減少するという報告はあるが、現時点では不明な点が多い。65歳以上についても、必要量の算定に当たり特別の配慮が必要であるというデータはないことから、成人(18〜64歳)と同様に、0.019mg/gたんぱく質を推定平均必要量算定の参照値とし、対象年齢区分のたんぱく質の食事摂取基準の推奨量を乗じて推定平均必要量を算定した。推奨量は、推定平均必要量に推奨量算定係数1.2を乗じた値とした。
・妊婦の付加量(推定平均必要量、推奨量)
(略)
・授乳婦の付加量(推定平均必要量、推奨量)
(略)
3-1-3 目安量の策定方法
・乳児(目安量)
(略)
3-2 過剰摂取の回避
3-2-1 摂取源となる食品
通常の食品で、可食部100g当たりのビタミンB6含量が1mgを超える食品は存在しない。通常の食品を摂取している者で、過剰摂取による健康障害が発現したという報告は見当たらない。
3-2-2 耐容上限量の策定
・成人・高齢者・小児(耐容上限量)
PN大量摂取時(数g/日を数か月程度)には、感覚性ニューロパシーという明確な健康障害が観察される。この感覚性ニューロパシーを指標として耐容上限量を設定した。手根管症候群の患者24人(平均体重70kg)にPNを100〜300mg/日を4か月投与したが、感覚神経障害は認められなかったという報告がある。この報告から、健康障害非発現量を300mg/日とした。体重の値(平均体重70kg)から体重1kg当たりでは4.3mg/kg体重/日となり、不確実性因子を5として、耐容上限量算定の参照値を0.86mg/kg体重/日とした。この値に各年齢区分の参照体重を乗じ、性別及び年齢区分ごとの耐容上限量を算出し、平滑化を行った。
・乳児(耐容上限量)
(略)
・妊婦・授乳婦(耐容上限量)
(略)
3-3 生活習慣病の発症予防
1997年に初めて、ビタミンB6が大腸がんの予防因子であることが報告された。我が国においては、ビタミンB6摂取量と大腸がんとの関係の調査から、男性においてビタミンB6摂取量が最も少ないグループ(平均摂取量は1.02mg/日)に比べ、それよりも多いグループ(〜1.80mg/日以上)で 30〜40%リスクが低かったと報告している。ビタミンB6が大腸がんの予防因子となり得ると考えられる。日本人のデータを採用すると、ビタミンB6の目標量は2mg/日程度と試算されるが、食事調査方法が食物頻度調査法であること及び報告数が一例であることから、目標量は設定しなかった。
4 生活習慣病の重症化予防
ビタミンB6と生活習慣病の重症化予防の直接的な関連を示す報告はないため、生活習慣病の重症化予防を目的とした量は設定しなかった。
5 活用に当たっての留意事項
たんぱく質の摂取量が多い者、あるいは食事制限でエネルギー摂取量不足で、たんぱく質・アミノ酸の異化代謝が亢進しているときには必要量が増える。
ビタミンB6の食事摂取基準及び私の摂取量と摂取源としている主な食品
ビタミンB6の食事摂取基準(mg/日)

ビタミンB6の摂取量
私の現在のビタミンB6の摂取量は、推奨量1.4mg/日の倍以上の2.9mg/日であり、3-3 生活習慣病の発症予防で書かれている大腸がんの予防を念頭においた目標量の試算2mg/日を0.9g/日上回っています。
ビタミンB6の主要な摂取源
多様な食品をバランス良く
生命と健康長寿に必要な栄養素や機能性成分を出来るだけ多く含み、かつ、命と健康に悪い成分が出来るだけ少ない多様な食品をバランス良く食べるよう心がけています。
そして、ビタミンB6はそうした多様な食品に含まれていて、それらの食品の多くは前々回まで書きましたビタミンB1やビタミンB2を含む食品と共通しています。その上、そうした食品にに含まれているビタミンB6はビタミンB1やビタミンB2に比べて多い傾向にあるため、多様な食品をバランス良く食べることによって比較的容易に推奨量を満たすことが出来る栄養素です。
ビタミンB6の摂取源としている食品(上位20食品)
下記の各表は、私が常食している全ての食品を「食品成分データベース」で検索して得られた結果をNumbersで集計したビタミンB6の摂取量が多い上位20食品です。(単位:mg)
なお、当然ながら食べている食品の種類は日々異なりますが、これらの食品の多くはほぼ毎日食べているものであり、頻度が少ないものでも1週間に1回以上は食べています。
また、それぞれの摂取量も日によって変動しますので1日当たりの概算的な平均摂取量です。
食品 | バナナ | ブロッコリー | 酒粕 | 十種穀物ご飯 | 鶏胸肉 | 玉葱 | むき甘栗 | 豆乳 | 納豆 | 黒胡麻 |
食品摂取量(g) | 157 | 124 | 20.0 | 75.0 | 23.3 | 96.8 | 33.3 | 200 | 40.0 | 20.0 |
ビタミンB6摂取量(mg) | 0.60 | 0.37 | 0.19 | 0.16 | 0.15 | 0.14 | 0.12 | 0.12 | 0.12 | 0.09 |
食品 | ナッツ類 | 鮭 | 人参 | 干し芋 | 林檎 | 鶏卵 | 鯖缶 | ヨーグルト | 十割蕎麦 | 榎茸 |
食品摂取量(g) | 28.7 | 23.3 | 72.0 | 17.3 | 164 | 63.6 | 15.8 | 100 | 14.3 | 27.0 |
ビタミンB6摂取量(mg) | 0.08 | 0.07 | 0.07 | 0.07 | 0.07 | 0.06 | 0.05 | 0.04 | 0.03 | 0.03 |
まとめ
推奨量を満たすB6の摂取
ネット上には、ビタミンB6は一般的な野菜類、穀類、魚介類、種実類などに多く含まれているのみならず、腸内細菌によっても合成、供給されるので通常の食生活では不足しにくい栄養素であるとされています。
私の場合も、ビタミンB6の摂取量で書きましたとおり、日常の食事からだけで推奨量1.4mg/日の倍以上の2.9mg/日のビタミンB6を摂取していますので、これに腸内細菌による合成、供給量を加えるなら、相当な余裕を持って摂取できていると考えています。
チームプレーで働くビタミンB群
ビタミンB6は、たんぱく質からのエネルギー産生、アミノ酸の代謝として免疫機能、皮膚の抵抗力増進、ヘモグロビン合成、神経伝達物質合成などや、脂質の代謝にも必要です。
そして、これらの代謝には他のビタミンも必要となりますが、ビタミンB6の摂取源としている食品(上位20食品)で挙げた食品には他のビタミンB群の多くも含まれています。
次回は、ビタミンB12の摂取基準と摂取量等について書きます。
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今回は、ビタミンB6の機能をイメージした画像を作成してもらいました。
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