前回までの炭水化物の摂取基準と摂取量等に引き続き、今回からビタミンの摂取基準と摂取量等について書きます。
先ず今回は「日本人の食事摂取基準(2020年版)」におけるビタミンAに関する記述の要点等について書きます。
Ⅱ各 論 1エネルギー・栄養素 1-6 ビタミン (1)脂溶性ビタミン ①ビタミン A
1 基本的事項
1-1 定義と分類
ビタミンAは、レチノイドといい、その末端構造によりレチノール(アルコール)、レチナール(アルデヒド)、レチノイン酸(カルボン酸)に分類される。経口摂取した場合、体内でビタミンA活性を有する化合物は、レチノールやレチナール、レチニルエステルのほか、β-カロテン、α-カロテン、β-クリプトキサンチンなどおよそ50種類に及ぶプロビタミンAカロテノイドが知られている(図1)。ビタミンAの食事摂取基準の数値をレチノール相当量として示し、レチノール活性当量(retinol activity equivalents:RAE)という単位で算定した。
図 1 レチノール活性当量の計算に用いられる化合物の構造式
1-2 機能
レチノールとレチナールは、網膜細胞の保護作用や視細胞における光刺激反応に重要な物質である。レチノイン酸は、転写因子である核内受容体に結合して、その生物活性を発現するものと考えられる。ビタミンAが欠乏すると、乳幼児では角膜乾燥症から失明に至ることもあり、成人では眼所見として暗順応障害が生じ、やがて夜盲症になる。角膜上皮や結膜上皮の角質化によって角膜や結膜が肥厚し、ビトー斑という泡状の沈殿物が白眼に現れる。また、皮膚でも乾燥、肥厚、角質化が起こる。
1-3 消化、吸収、代謝
ビタミンAは、動物性食品から主にレチニル脂肪酸エステルとして、植物性食品からプロビタミンAであるカロテノイドとして摂取される。レチニル脂肪酸エステルは小腸吸収上皮細胞において、刷子縁膜に局在するレチニルエステル加水分解酵素によりレチノールとなって細胞内に取り込まれる。レチノールの吸収率は 70〜90% である。β-カロテンの大部分は、小腸吸収上皮細胞内において中央開裂により 2分子のビタミンA(レチナール)を生成する。他のプロビタミンAカロテノイドは、中央開裂により1分子のレチナールを生成する。β-カロテンの吸収率は、
精製β-カロテンを油に溶かしたβ-カロテンサプリメントを摂取した場合と比べると 1/7 程度である。そこで、アメリカ・カナダの食事摂取基準に倣って1/6とした。
β-カロテンからレチノールヘの転換効率は、従来どおり50%、すなわち1/2と見積もると、食品由来のβ-カロテンのビタミンAとしての生体利用率は、1/12(=1/6×1/2)となる。したがって、食品由来β-カロテン12µgはレチノール1µgに相当する量(レチノール活性当量:RAE)であるとして換算することとした。
そこで、全ての食品中のビタミンA含量はレチノール活性当量として下式で求められる。
レチノール活性当量(µgRAE)=レチノール(µg)+β-カロテン(µg)×1/12+α-カロテン(µg)×1/24+β-クリプトキサンチン(µg)×1/24+その他のプロビタミンAカロテノイド(µg)×1/24
なお、サプリメントとして摂取する油溶化β-カロテンは、ビタミンAとしての生体利用率が1/2 程度なので、従来どおり2µg のβ-カロテンで1µg のレチノールに相当し、食品由来のβ-カロテンとは扱いが異なる。
2 指標設定の基本的な考え方
ビタミンAは肝臓に大量に貯えられており、ビタミン A の摂取が不足していても、肝臓のビタミンA貯蔵量が20µg/g以下に低下するまで血液中濃度低下は見られないので、これを策定指標にすることはできない。そこでこれを維持するのに必要な、ビタミンAの最低必要摂取量を推定平均必要量とした。
3 健康の保持・増進
3-1 欠乏の回避
3-1-1 必要量を決めるために考慮すべき事項
ビタミンAの典型的な欠乏症として、乳幼児では角膜乾燥症から失明に至ることもあり、成人では夜盲症を発症する。その他、成長阻害、骨及び神経系の発達抑制も見られ、上皮細胞の分化・増殖の障害、皮膚の乾燥・肥厚・角質化、免疫能の低下や粘膜上皮の乾燥などから感染症にかかりやすくなる。上述のとおり、ビタミンAの摂取が不足していても、肝臓のビタミンA貯蔵量が 20 µg/g 以下に低下するまで血漿レチノール濃度の低下は見られないので、血漿レチノール濃度はビタミンA体内貯蔵量の判定指標としては不適切である。現在のところ、肝臓のビタミンA貯蔵量がビタミン A の体内貯蔵量の最もよい指標となると考えられているが、侵襲性の高い分析法なので一般に測定されることはない。
3-1-2 推定平均必要量、推奨量の策定方法
成人が4か月にわたってビタミンAの含まれていない食事しか摂取していない場合でも、肝臓内ビタミンA貯蔵量が20µg/g以上に維持されていれば血漿レチノール濃度は正常値が維持される。すなわち、肝臓内貯蔵量の最低値(20µg/g)が維持されている限り、免疫機能の低下や夜盲症のような比較的軽微なビタミン A 欠乏症状にも陥ることはない。この肝臓内のビタミンA最小貯蔵量を維持するために必要なビタミンA摂取量が、推定平均必要量を算出するための生理学的な根拠となる。そこで、推定平均必要量は次のように算出することができる。安定同位元素で標識したレチノイドを用いてコンパートメント解析(注意:体内の化合物の動態を調べるときに、例えば体内を「血液」、「肝臓」、「その他」の三つ程度のコンパートメントに分け、その動きをモデル化し、「血液」中の化合物を放射性標識や安定同位体標識により追跡することにより、コンパートメント内の化合物の濃度や流入・流出速度を推定・算出するような解析方法をコンパートメント解析と呼ぶ)によりビタミン A の不可逆的な体外排泄処理率を算出すると、ビタミン A 摂取量・体内貯蔵量の比較的高いと考えられるアメリカの成人で 14.7 µmol/日(4 mg/日)、ビタミンAの摂取量・体内貯蔵量が比較的低いと考えられる中国の成人で 5.58 µmol/日(1.6 mg/日)となり、それぞれ体内貯蔵量の 2.35%、1.64% であった。ビタミンAの体外排泄量は、ビタミン A の栄養状態に関係なく体内貯蔵量のおよそ2% とほぼ一定であると考えられるので、
健康な成人の1日のビタミン A 体外最小排泄量(µg/日)=
体内ビタミン A 最小蓄積量(µg)×ビタミン A 体外排泄処理率(2%/日)
という式が成り立つ(従来、ビタミン A 欠乏者に対する放射性同位元素で標識されたレチノイドの投与による減衰曲線から体内ビタミン A の体外排泄処理率は体内貯蔵量の 0.5%/日とされてきた)。
一方、体重1kg 当たりの体内ビタミン A 最小蓄積量(µg/kg 体重)は、
肝臓内ビタミン A 最小蓄積量(20 µg/g)×成人の体重 1 kg 当たりの肝臓重量(21 g/kg 体重)×ビタミン A 蓄積量の体全体と肝臓の比(19:9)
の積として表すことができる。
そこで、体重1 kg 当たり1日のビタミン A 体外排泄量(µg/kg 体重/日)は、
体内ビタミン A 最小蓄積量(20 µg/g×21 g/kg×10/9)×ビタミン A 体外排泄処理率(2/100)=9.3 µg/kg 体重/日
となる。
したがって、体重1kg当たり1日のビタミンA体外排泄量9.3µg/kg体重/日を補完するために摂取しなければならないビタミンAの必要量は9.3µgRAE/kg体重/日と推定される。
言い換えると、9.3µgRAE/kg体重/日を摂取することにより、ビタミンA欠乏症状を示さないで肝臓内ビタミンA貯蔵量の最低値を維持できることになる。この値を推定平均必要量の参照値とする。
・成人(推定平均必要量、推奨量)
推定平均必要量の参照値である9.3 µgRAE/kg体重/日と参照体重から概算し、18歳以上の成人男性のビタミンAの推定平均必要量は600〜650µgRAE/日、18歳以上の成人女性は450〜500µgRAE/日とした。
推奨量は、個人間の変動係数を20%と見積もり、推定平均必要量に推奨量算定係数1.4を乗じ、成人男性は、850〜900µgRAE/日(≒600〜650×1.4)、成人女性は、650〜700µgRAE/日(≒450〜500×1.4)とした。
・高齢者(推定平均必要量、推奨量)
成人と同様に、推定平均必要量の参照値である9.3 µgRAE/kg 体重/日と参照体重から概算し、65歳以上の高齢男性のビタミン A の推定平均必要量は550〜600µgRAE/日、65 歳以上の高齢女性は450〜500µgRAE/日とした。
推奨量は、個人間の変動係数を20%と見積もり、推定平均必要量に推奨量算定係数 1.4 を乗じ、成人男性は、800〜850 µgRAE/日(≒550〜600×1.4)、成人女性は、650〜700 µgRAE/日(≒450〜500×1.4)とした。
・小児(推定平均必要量、推奨量)
(略)
・妊婦の付加量(推定平均必要量、推奨量)
(略)
・授乳婦の付加量(推定平均必要量、推奨量)
(略)
3-1-3 目安量の策定方法
・乳児(目安量)
(略)
3-2 過剰摂取の回避
3-2-1 摂取状況
過剰摂取による健康障害が報告されているのは、サプリメントあるいは大量のレバー摂取などによるものである。
3-2-2 耐容上限量の策定方法
β-カロテンの過剰摂取によるプロビタミンAとしての過剰障害は、胎児奇形や骨折も含めて知られていないので、耐容上限量を考慮したビタミンA摂取量(レチノール相当量)の算出にはプロビタミンAであるカロテノイドは含めないこととした。
・成人・高齢者(耐容上限量)
ビタミンAの過剰摂取により、血中のレチノイン酸濃度が一過性に上昇する。過剰摂取による臨床症状の多くは、レチノイン酸によるものと考えられている。ビタミン A の過剰摂取による臨床症状では頭痛が特徴である。急性毒性では脳脊髄液圧の上昇が顕著であり、慢性毒性では頭蓋内圧亢進、皮膚の落屑、脱毛、筋肉痛が起こる。
成人では肝臓へのビタミン A の過剰蓄積による肝臓障害を指標にし、最低健康障害発現量を13,500 µgRAE/日とした。不確実性因子を5として耐容上限量は2,700µgRAE/日とした。妊婦の場合は(中略)
レチノイン酸は、骨芽細胞を阻害し破骨細胞を活性化することが知られている中、推奨量の2倍程度(1,500 µgRAE/日)以上のレチノール摂取を30年続けていると、推奨量(500 µgRAE/日)以下しか摂取していない者に比べて高齢者の骨折のリスクが2倍程度になるとの報告がある。
一方、この報告の後に、世界各国で行われた疫学的研究では、否定的な報告も多い。この食事摂取基準では高齢者の耐容上限量を別途決めることなく、他の成人と同じとした。
・小児(耐容上限量)
(略)
・乳児(耐容上限量)
(略)
3-3 生活習慣病の発症予防
ビタミン A による生活習慣病の発症予防は報告されていないため、目標量は設定しなかった。
4 生活習慣病の重症化予防
ビタミン A による生活習慣病の重症化予防は報告されていないため、重症化予防を目的とした量は策定しなかった。
5 その他
5-1 カロテノイドに関する基本的な考え方
β-カロテン、α-カロテン、クリプトキサンチンなどのプロビタミンAカロテノイドからのビタミン A への変換は厳密に調節されているので、ビタミンA過剰症は生じない。ビタミンAに変換されなかったプロビタミンAカロテノイド、リコペン、ルテイン、ゼアキサンチンなどのビタミンAにはならないカロテノイドの一部は体内にそのまま蓄積する。これらカロテノイドの作用としては、抗酸化作用、免疫賦活作用などが想定されている。
世界の代表的なコホート研究のデータをまとめた解析によると、各種カロテノイドの摂取量と肺がん発症率との間に有意な負の関連が示唆されている。一方、β-カロテンをサプリメントとして大量に摂取させた介入試験の結果を総合すると、β-カロテンの大量摂取はがん(特に肺がん)の予防に対して無効であるか、あるいは有害になる場合もあると考えられる。一方、前立腺に蓄積しやすいリコペンは前立腺がんの予防に、網膜黄斑に特異的に集積するルテイン及びゼアキサンチンは加齢性網膜黄斑変性症の改善に寄与することが示唆されている。また、カロテノイドの抗酸化作用は皮膚の光保護に機能すると考えられている。さらに、ルテイン及びゼアキサンチンの摂取は、網膜の色素維持に必須であることが示唆されている。ただし、カロテノイド摂取の有効性と安全性については、今後の研究成果を待たねばならない。カロテノイドの欠乏症は確認されていないので、現時点では食事摂取基準を定めることは適当とは考えられなかった。
6 今後の課題
これまでビタミンA過剰症に関しては、急性毒性が注目されてきたが、上記骨折リスクのように、慢性的過剰摂取による疾患リスク増大に関する検討も必要である。
まとめ(ビタミンAの分類等と過剰摂取について)
ビタミンA(レチノイド)とプロビタミンAカロテノイドの分類等について
最初にビタミンAについて勉強したと時は、ビタミンAやプロビタミンAの分類を覚えたり、ビタミンAの摂取量を計算するためには、プロビタミンAとしての各カロテノイド毎に、1/12とか1/24といった係数を掛ける必要があるのかと、少々面倒な気がしました。
しかしながら、食品成分データベースで検索したら、換算済みのレチノール活性当量が出でくるので、逆に上手く出来ていると感心したことを覚えています。
ビタミンA等の過剰摂取について
推奨量と耐容上限量
男女別と年齢別によって若干前後しますが、ビタミンAの推奨量(65~74歳の男性の場合850μgRAE/日)と耐容上限量(同2,700µgRAE/日)は僅か3倍程度しか違いません。3倍というと、一見、大きいように感じますが、同じ脂溶性のビタミンDが10倍程度、ビタミンEだと100倍程度も違うことに比べると僅かな違いだと言えます。(ビタミンDとビタミンEは推奨量ではなく目安量) 実際、通常の食品だけからビタミンDを過剰に摂りたくてもそれは無理に近く、ビタミンEに至っては絶対に過剰摂取になることはないと思います。
一方、ビタミンAについては、不足していると思い豚レバーを100g食べるだけで、耐容上限量2,700µgRAE/日の6倍以上の17,000µgRAEものビタミンAを摂取してしまいますので、ビタミンAについては、推奨量以上を摂取することはもちろん、耐容上限量を超え過剰摂取にならないようにも注意しています。
慢性的過剰摂取による疾患リスク増大に関する検討
詳細は次回に書きますが、私のビタミンAの摂取量は1,600µgRAE/日強で、「推奨量の2倍程度(1,500 µgRAE/日)以上のレチノール摂取を30年続けていると、推奨量(500 µgRAE/日)以下しか摂取していない者に比べて高齢者の骨折のリスクが2倍程度になるとの報告がある。一方、この報告の後に、世界各国で行われた疫学的研究では、否定的な報告も多い。」という記述は少々気にはなっています。
そして、今後の課題において「上記骨折リスクのように、慢性的過剰摂取による疾患リスク増大に関する検討も必要である。」とあるので、2025年版で何か新し検討結果が示されるか期待していましたが、残念ながらこの点に関する新たな記述は見当たりません。
ビタミンAの摂取を推奨する情報とサプリメント
ネット上では、様々な栄養素や機能性成分の摂取を推奨している情報がありますが、ビタミンAもそうした推奨情報が多いものの一つです。
また、様々なビタミンAのサプリメントも売られていますが、それらの多くが耐容上限量2,700µgRAE/日を超える10,000IU(3,000µgRAE/日)程度であり、中には耐容上限量の3倍近い25,000IU(7,500µgRAE)という驚くような商品もあり、そうした高含有量のものの方が人気があるようです。
次回は、ビタミンAの摂取量と摂取源としている主な食品等について書きます。
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