二度目の人生における健康的な食生活 79~生命と健康長寿に必要なリン(P)の摂取基準と摂取量等

加工食品を避けるイメージ画像 生命と健康長寿に必要な栄養素の摂取基準と摂取量等

 前回マグネシウム(Mg)摂取基準摂取量等に引き続き、今回は「日本人の食事摂取基準(2020年版)」におけるリン(P)摂取基準摂取量等について書きます。

Ⅱ各 論 1エネルギー・栄養素 1-7 ミネラル (1)多量ミネラル ⑤リン(P)

1 基本的事項

1-1 定義と分類

 リン(phosphorus)は原子番号15、元素記号Pの窒素族元素の一つである。リンは、有機リンと無機リンに大別できる。成人の生体内には最大850gのリンが存在し、その85%が骨組織14%が軟組織や細胞膜に1%が細胞外液に存在する。

1-2 機能

 リンは、カルシウムとともにハイドロキシアパタイトとして骨格を形成するだけでなく、ATPの形成、その他の核酸や細胞膜リン脂質の合成、細胞内リン酸化を必要とするエネルギー代謝などに必須の成分である。
 血清中のリン濃度の基準範囲は、2.5〜4.5mg/dL(0.8〜1.45 mmol/L)と、カルシウムに比べて広く、食事からのリン摂取量の増減がそのまま血清リン濃度と尿中リン排泄量に影響する。血清リン濃度と尿中リン排泄量は、副甲状腺ホルモン(PTH)、線維芽細胞増殖因子 23(FGF23)、活性型ビタミンDによって主に調節されている。

1-3 消化、吸収、代謝

 腸管におけるリンの吸収は、受動輸送によるものとビタミンD依存性のナトリウム依存性リン酸トランスポーターを介した二次性能動輸送によるものがあるが、通常の食事からの摂取量では大部分は受動輸送による輸送と考えてよい。リンは、消化管で吸収される一方で、消化管液としても分泌されるため、見かけの吸収率は成人で60〜70%である。一方、血清リン濃度を規定する最も重要な機構は、腎臓での再吸収であり、PTHとFGF23は、近位尿細管でのリン再吸収を抑制し、尿中リン排泄量を増加させることで、血清リン濃度を調節している。尿中へのリン排泄量は、消化管でのリン吸収量にほぼ等しい

2 指標設定の基本的な考え方

 リンは多くの食品に含まれており、通常の食事では不足や欠乏することはない。一方、食品添加物として多くのリンが用いられており、国民健康・栄養調査などの報告値よりも多くのリンを摂取していることも考えられる。慢性腎臓病(CKD)ではリン摂取の制限も考慮されている。したがって、不足や欠乏の予防よりも、過剰摂取の回避が重要といえる。

3 健康の保持・増進

3-1 欠乏の回避

3-1-1 要求量を決めるために考慮すべき事項

 アメリカ・カナダの食事摂取基準では、血清リン濃度の正常下限値を維持できるリン摂取量を推定平均必要量として求め、その値から推奨量を算出している。そこで、血清中リン濃度を基準範囲に維持できる摂取量、並びに成長に伴う蓄積量から必要量の検討を試みたが、日本人に関する成績はほとんど見当たらなかった。したがって、推定平均必要量推奨量は設定せず、目安量を設定することとした。

3-1-2 目安量の設定方法

・成人・高齢者・小児(目安量)
 平成28年国民健康・栄養調査によると、リンの摂取量の中央値は957mg/日である。ただし、この調査には加工食品に添加されているリンの量は加算されていないために、実際の摂取量はこの値より多いことも考えられる。18〜28歳の日本人女性を対象とした出納試験によると、リンの平衡維持に必要な摂取量は、18.7mg/kg体重/日であった。この値を基に、性別及び年齢区分ごとの参照体重を乗じて推定平均必要量を求めると、18〜29歳の女性では946mg/日となり、ほぼ現在の摂取量に近い値となる。年齢(平均±標準偏差)が68±6歳の高齢女性を対象に陰膳法によって実測を行った結果では、リン摂取量(平均±標準偏差)は1,019±267mg/日と報告されており、国民健康・栄養調査とほぼ同程度の値である。
 以上から、1歳以上については、アメリカ・カナダの食事摂取基準を参考に、平成28年国民健康・栄養調査の摂取量の中央値を目安量した。ただし、18歳以上については、男女別に各年齢区分の摂取量の中央値の中で最も少ない摂取量をもって、それぞれの18歳以上全体の目安量とした。
・乳児(目安量)
(略)
・妊婦(目安量)
(略)
・授乳婦(目安量)
(略)

3-2 過剰摂取の回避

3-2-1 摂取状況

 リンは、様々な食品に含まれている。加工食品などでは食品添加物としてのリンの使用も多いが、使用量の表示義務がなく、摂取量に対する食品添加物等の寄与率は不明である。

3-2-2 耐容上限量の策定方法

・成人・高齢者(耐容上限量)
 腎機能が正常なときは、高濃度のリンを摂取するとPTH及びFGF23の分泌が亢進して腎臓からリン排泄を促進し、血中のリン濃度を基準範囲に維持するように働く。このため、リンを過剰摂取した場合も、早朝空腹時の血清リン濃度は基準範囲に保たれており、リン摂取過剰状態の適切な指標とはならない。一方、食後の血清リン濃度、尿中リン排泄量、PTHやFGF23が耐容上限量の設定に有効な指標となり得る可能性がある。
 リン摂取量とPTHとの関係は、古くより研究されてきている。食品添加物としてリンを多量に摂取した場合、総摂取量が2,100mg/日を超えると副甲状腺機能の亢進を来すという報告がある。また、1,500〜2,500mg/日の無機リン(リン酸)あるいは400〜800mg/食の無機リンを食事に添加することにより、食後のPTHレベルが上昇することも知られている。リンの過剰摂取は、腸管におけるカルシウムの吸収を抑制するとともに、食後の急激な血清無機リン濃度の上昇により、血清カルシウムイオンの減少を引き起こし、血清副甲状腺ホルモン濃度を上昇させるが、これらの反応が骨密度の低下につながるか否かについては、否定的な報告もある。一方、カルシウムの摂取量が少ない場合には、リンの摂取は用量依存的に成人女性の血中のPTH濃度を上昇させ、骨吸収マーカー(I 型コラーゲン架橋 N─テロペプチド)を上昇、骨形成マーカー(骨型アルカリホスファターゼ)を低下させるという報告から、リンとカルシウムの摂取量の比も考慮する必要があると考えられる。
 しかし、現在のところ、高リン摂取又は低カルシウム/リン比の食事摂取と骨減少の関連について、ヒトでの研究は十分でない。そのため、PTHレベルの上昇を指標として耐容上限量を算定するのは、少なくとも、現段階では困難であると考えられた。
 近年リン負荷の指標として注目されているのがFGF23である。しかしながら、血清FGF23濃度の測定方法が試験により異なることや、日本人でのリン摂取量と血清FGF23との関係、さらには血清FGF23の健康維持における意義については、いまだ十分な科学的根拠が得られておらず、FGF23を指標にした耐容上限量の設定も現時点で困難と考えた。
 リン摂取量と骨以外の有害事象との関係も報告されている。これらの健康障害発現量を耐容上限量と考えることも可能であるが、評価指標により健康障害を示すリン摂取量は1,347〜3,600 mg/日と幅が広い上にデータが十分ではなく、閾値を設定することは困難である。
 そこで、血清リン濃度の変動あるいは尿中リン排泄量を指標とした検討を行った。リン摂取量ごとの血清リン濃度の日内変動を検討した試験では、1,500mg/日では正常上限を超えることはないが、3,000mg/日では食後に正常上限を超えるレベルに達するとされている。日本人男性を対象とした研究でも800mg/食(1日に換算すると2,400mg)では正常上限を超えることはないが、1,200mg/食(1日に換算すると3,600mg)では正常上限を超えることが示されている。一方、正味のリン吸収量の指標と考えられる1日尿中リン排泄量に正常値は設定されていない。尿中リン排泄量と健康障害との関係についてのデータは少ないが、腎結石患者と健康な者を比較した試験では、腎結石患者ではリン摂取量が2,670mg/日と、健康な者の1,790mg/日に比べて有意に高く、尿中リン排泄量も腎結石患者で 617.7mg/日と、健康な者の358.5mg/日に比べて有意に高いことからリン摂取量が増加し、尿中リン排泄量が増加することは腎結石の発症リスクが高くなると示唆されているが、症例数が少なく、十分な科学的根拠はない
 したがって、従来のリン摂取量と血清リン濃度上昇の関係に基づき、耐容上限量を設定することが現時点では最も妥当な方法と考えられる。
 血清無機リン=0.00765×吸収されたリン+0.8194×〔1-e(-0.2635×吸収されたリン)〕
 ここで、血清無機リン(mmol/L)、吸収されたリン(mmol/日)が提案されている。これに、リンの吸収率を60%と見込み、血清無機リンの正常上限4.3mg/dL、リンの分子量30.97を用いると、血清無機リンが正常上限となる摂取量が3,686mg/日となる。これを健康障害非発現量と考え、性及び年齢区分によってはカルシウム/リン比の低い食事により骨代謝に影響がある可能性を考慮して不確定因子を1.2とし、3,072mg/日(丸め処理を行って3,000mg/日)を成人の耐容上限量とした。この値は、前述のリン摂取量と食後の血清リン濃度の関係で示されているように、リン摂取量が3,000〜3,600mg/日で血清リン濃度が正常上限を超えていることと比較しても、おおむね妥当な値と考えられる。
・小児(耐容上限量)
(略)

3-3 生活習慣病の発症予防

3-3-1 主な生活習慣病との関連

・糖尿病
 一般に、インスリンが作用するとグルコースとともにリンも細胞内に取り込まれるとされている。一方で、血清リン濃度やリン摂取量が血糖値やインスリン分泌に及ぼす影響については十分な知見が得られていない。近年の研究では、ApoE欠損マウスを用いた検討で、リン摂取量が多いほど動脈硬化は進行するが、インスリン感受性が亢進し、耐糖能が改善することが報告されている。実際、ギリシャでの人の健康な者と64人のメタボリックシンドロームの対象者を比較した研究では、メタボリックシンドロームの対象者で健康な者に比べ有意に血清リン濃度が低く、メタボリックシンドロームの該当項目が増えるごとに血清リン濃度が低下することが報告されている。また、韓国人46,798人を対象とした研究では、血清リン濃度は心血管疾患の発症リスクと有意に正に相関し、血清リン濃度はBMI、空腹時血糖値、HOMA-IR、血清トリグリセライド値、血圧と有意に負に相関する、すなわち、血清リン濃度の低下はメタボリックシンドロームの発症リスクを高めることが示唆されてる。一方で、健康な者と糖尿病患者を比較すると、糖尿病患者で血清リン濃度が高く、血清リン濃度が高いことは糖尿病や心血管疾患のリスクではないかという逆の報告もある。糖尿病の発症予防あるいは重症化予防に対するリン摂取の影響については十分なデータがなく、疾患予防のためのリン摂取量を設定することは、現時点では困難である。

・高血圧
 血清リン濃度と高血圧については、血清リン濃度が高いほど、血圧が低下するという報告がある。以上のことから、高血圧の発症予防及び重症化予防のためのリン摂取量を算定することは困難と考えられる。

・慢性腎臓病(CKD)
 腎臓は、リンやカルシウムの代謝調節に重要な役割を果たしており、腎機能の低下に伴って生じるリン・カルシウム・骨代謝異常は、CKD-mineral and bone disorder(CKD-MBD)と総称されている。早期CKD患者では、軽度の腎機能低下による相対的なリン負荷の増加に対し、代償性にFGF23 やPTHが上昇することで単位ネフロン当たりのリン排泄量が増加するため、CKDが高度に進行するまで血清リン濃度は基準範囲に保持される。実際に、FGF23はCKDステージ2より既に上昇しており、CKDの予後と相関することが知られている。したがって、CKD早期からリンの負荷を制限することが、CKDの進行やCKD-MBDを抑制するために好ましいという考えもある。しかし、CKDのどの段階からどの程度リンを制限すればよいかについての科学的根拠は十分ではない

3-3-2 目標量の策定方法

 生活習慣病の発症予防のためのリンの目標量を算定するための科学的根拠は十分ではなく、今回は設定しなかった

4 生活習慣病の重症化予防

 生活習慣病の重症化予防のためのリンの量を算定するための科学的根拠は十分ではなく、今回は設定しなかった。

5 今後の課題

 リン必要量の算定のために、生体指標を用いた日本人のリン摂取量に関するデータが必要である。

リン(P)の食事摂取基準及び私の摂取量と摂取源としている主な食品

リンの食事摂取基準(mg/日) 

リンの摂取量

 私の現在のリンの摂取量は、目安量1,000mg/日と耐容上限量3,000mg/日の中間値2,000mg/日を若干下回る1,900mg/日となっています。

リンの主要な摂取源

多様な食品をバランス良く

 生命健康長寿に必要な栄養素や機能性成分を出来るだけ多く含み、かつ、命と健康に悪い成分が出来るだけ少ない多様な食品バランス良く食べるよう心がけています。
 それでも、指標設定の基本的な考え方リンは多くの食品に含まれているとされているとおり、そうした多様な食品から過剰気味のリンを摂取する結果となっています。

リンの摂取源としている食品(上位20食品)

 下記の各表は、私が常食している全ての食品を「食品成分データベース」で検索して得られた結果をNumbersで集計したリンの摂取量が多い上位20食品です。(単位:mg)

 なお、当然ながら食べている食品の種類は日々異なりますが、これらの食品の多くはほぼ毎日食べているものであり、頻度が少ないものでも1週間に1回以上は食べています。
 また、それぞれの摂取量も日によって変動しますので1日当たりの概算的な平均摂取量です。

食品黒胡麻ブロッコリーオートミールナッツ類ヨーグルト鶏卵縮緬雑魚(しらす干し)納豆豆乳十種穀物ご飯
食品摂取量(g)20.012430.028.710063.612.040.020075.0
リン(mg)1741371111111101081001009898
食品鶏胸肉ハイカカオチョコレートココア鰯缶バナナ鯖缶ココナッツミルク味噌むき甘栗
食品摂取量(g)23.023.315.07.012.015716.080.519.033.3
リン(mg)68514846444240393837

まとめ(リン摂取量の抑制)

 私は、日常の食事においては、指標設定の基本的な考え方多くのリンが用いられているとされている食品添加物が使われている加工食品は極力避けていますが、それにも関わらず前述したとおり過剰気味のリンを摂取する結果となっています。
 出来ればリンを多く含む食品を減らしたいと考えているのですが、現在摂取しているリンの含有量が多い食品はビタミンや、リン以外のミネラルいった他の栄養素や機能性成分が豊富な食品ばかりなので、現状以上にリンの摂取量を減らすことは難しいです。

 次回鉄(Fe)摂取基準摂取量等について書きます。

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 今回は、多くのリン(P)を含有する加工食品を避けているイメージした画像を作成してもらいました。

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