前回のカリウム(K)の摂取基準と摂取量等に引き続き、今回は「日本人の食事摂取基準(2020年版)」におけるカルシウム(Ca)の摂取基準と摂取量等について書きます。
Ⅱ各 論 1エネルギー・栄養素 1-7 ミネラル (1)多量ミネラル ③カルシウム(Ca)
1 基本的事項
1-1 定義と分類
カルシウム(calcium)は原子番号20、元素記号Ca、アルカリ土類金属の一つである。カルシウムは、体重の1〜2%を占め、その99%は骨及び歯に存在し、残りの約1%は血液や組織液、細胞に含まれている。
1-2 機能
血液中のカルシウム濃度は、比較的狭い範囲(8.5〜10.4mg/dL)に保たれており、濃度が低下すると、副甲状腺ホルモンの分泌が増加し、主に骨からカルシウムが溶け出し、元の濃度に戻る。したがって、副甲状腺ホルモンが高い状態が続くと、骨からのカルシウムの溶出が大きくなり、骨の粗鬆化を引き起こすこととなる。骨は、吸収(骨からのカルシウムなどの溶出)と形成(骨へのカルシウムなどの沈着)を常に繰り返しており、成長期には骨形成が骨吸収を上回り、骨量は増加する。カルシウムの欠乏により、骨粗鬆症、高血圧、動脈硬化などを招くことがある。カルシウムの過剰摂取によって、高カルシウム血症、高カルシウム尿症、軟組織の石灰化、泌尿器系結石、前立腺がん、鉄や亜鉛の吸収障害、便秘などが生じる可能性がある。
1-3 消化、吸収、代謝
経口摂取されたカルシウムは、主に小腸上部で能動輸送により吸収されるが、その吸収率は比較的低く、成人では25〜30%程度である。カルシウムの吸収は、年齢や妊娠・授乳、その他の食品成分など様々な要因により影響を受ける。ビタミンDは、このカルシウム吸収を促進する。
吸収されたカルシウムは、骨への蓄積、腎臓を通しての尿中排泄の経路によって調節されている。したがって、カルシウムの栄養状態を考える際には、摂取量、腸管からの吸収率、骨代謝(骨吸収と骨形成のバランス)、尿中排泄などを考慮する必要がある。
2 指標設定の基本的な考え方
カルシウムの必要量の生体指標としては、骨の健康が重要である。また、カルシウムの摂取と高血圧や肥満など生活習慣病との負の関連が報告されているが、カルシウム摂取による予防効果は確立されているとは言えず、現時点では、骨の健康以外を生体指標としてカルシウムの必要量を決めるのは尚早であると考えられる。
近年、カルシウムの体内蓄積量、尿中排泄量、吸収率など、要因加算法を用いて骨量を維持するために必要な摂取量を推定するため、有用な報告がかなり集積されてきた。アメリカ・カナダの食事摂取基準でも2010年の改定において、それまでの目安量から推定平均必要量、推奨量が示されている。ただし、アメリカ・カナダの食事摂取基準では、必要量の算出に出納試験の結果を用いているが、日本人を対象とした出納試験は近年実施されておらず、今回もこれまでと同様に要因加算法を採用し、骨量を維持するために必要な量として、推定平均必要量及び推奨量を設定した。
3 健康の保持・増進
3-1 欠乏の回避
3-1-1 必要量を決めるために考慮すべき事項
カルシウム摂取量と骨量、骨密度、骨折との関係を検討した疫学研究をまとめたメタ・アナリシスによると、摂取量と骨量、骨密度との間には多くの研究で有意な関連が認められている。
カルシウム摂取量と骨折発生率との関連を検討した我が国で行われた疫学研究では、有意な関連(摂取量が少ない集団での発生率の増加)が認められているが、世界各地の研究をまとめたメタ・アナリシスでは、摂取量と発生率の間に意味のある関連は認められなかった。このように、疫学研究の結果は必ずしも一致していない。
3-1-2 推定平均必要量、推奨量の策定方法
・基本的な考え方
1歳以上については要因加算法を用いて推定平均必要量及び推奨量を設定した。性別及び年齢区分ごとの参照体重を基にして体内蓄積量、尿中排泄量、経皮的損失量を算出し、これらの合計をかけの吸収率で除して推定平均必要量とした(表3)。推奨量は、必要量の個人間変動については明らかではないが、他の多くの栄養素と同様に、個人間の変動係数を10%と見積もり、推定平均必要量に推奨量算定係数1.2を乗じた値とした。
乳児では、(略)

要因加算法による値の算定に用いた諸量
・体内蓄積量
二重エネルギーX線吸収法(DXA法)を用いて全身の骨塩量を測定した報告を基に、性別及び年齢区分ごとに平均骨塩量を算出し、年間増加骨塩量を求め、この値から性別及び年齢区分ごとの年間カルシウム蓄積量を算出した。なお、日本人の小児を対象とした横断的な研究では、対象者が少ない年齢もあるが、今回推定した蓄積量に近い値が報告されている。6歳以下については、年齢ごとの骨塩量増加量に基づいて年間のカルシウム蓄積量を算出した。
・尿中排泄量及び経皮的損失量
カルシウムの尿中排泄量は、カルシウム出納の平衡が維持されている場合には、体重(kg)0.75×6 mg/日と計算される。この計算式で求められるカルシウム排泄量は、実際の日本人女性の出納試験時の 24時間尿中カルシウム排泄量とほぼ等しい。また、カルシウムの経皮的損失量は尿中排泄量の約1/6 と考えられている 。したがって、性別及び年齢区分ごとの参照体重から尿中カルシウム排泄量を算出し、さらに経皮的損失量を算出した。
・見かけの吸収率
カルシウムの見かけの吸収率は摂取量に反比例する。ただし、海外の研究で用いられた摂取量の多くは、日本人の平均的な摂取量よりも多いため、報告された見かけの吸収率をそのまま日本人に用いると過小に評価してしまう可能性がある。また、ダブルアイソトープ法により真の吸収率が推定されるが、この値は見かけの吸収率よりも高く算出される。そこで、出納試験(見かけの吸収率が求められる)あるいはアイソトープを用いた試験(真の吸収率が求められる)の報告を基に、日本人のカルシウム摂取量の現状を踏まえて、性別及び年齢区分ごとの見かけの吸収率を推定した。
・成人・高齢者・小児(推定平均必要量、推奨量)
体内カルシウム蓄積量、尿中排泄量、経皮的損失量と見かけのカルシウム吸収率を用いて推定平均必要量を算定した。推奨量は、個人間の変動係数を10%と見積もり、、推定平均必要量に推奨量算定係数 1.2 を乗じた値とした(表3)。
・妊婦の付加量(推定平均必要量、推奨量)
(略)
・授乳婦の付加量(推定平均必要量、推奨量)
(略)
3-1-3 目安量の策定方法
・乳児(目安量)
(略)
3-2 過剰摂取の回避
3-2-1 耐容上限量の策定方法
・成人・高齢者(耐容上限量)
カルシウムの過剰摂取によって起こる障害として、高カルシウム血症、高カルシウム尿症、軟組織石灰化、泌尿器系結石、前立腺がん、鉄や亜鉛の吸収障害、便秘などが挙げられる。日本人の食事摂取基準2010年版及び2015年版では、最低健康障害発現量の決定にはミルクアルカリ症候群(カルシウムアルカリ症候群)の症例報告を参考にした。ミルクアルカリ症候群の症例報告を見ると、3,000mg/日以上の摂取で血清カルシウムは高値を示していた。
以上から、2015年版と同様、不確実性因子を1.2、最低健康障害発現量を3,000mgとし、耐容上限量は2,500mgとした。日本人の通常の食品からの摂取でこの値を超えることは稀であるが、サプリメントなどを使用する場合に注意するべき値である。2008年、2010年にカルシウムサプリメントの使用により、心血管疾患のリスクが上昇することが報告されている。この報告に対しては様々な議論があるが、通常の食品ではなく、サプリメントやカルシウム剤の形での摂取には注意する必要がある。また、ビタミンDとの併用によっては、より少ない摂取量でも血清カルシウムが高値を示すこともあり得る。
・小児(耐容上限量)
(略)
3-3 生活習慣病の発症予防
3-3-1 主な生活習慣病との関連
カルシウムと高血圧、脂質異常症、糖尿病及び慢性腎臓病とは、特に強い関連は認められていない。
18〜74歳の高血圧の既往のない者を対象にしたアメリカの古典的な疫学研究によると、縮期血圧の平均値はカルシウム摂取量の増加に伴い低下することが示されている。その後、発表された幾つかの疫学研究でも同様のことが証明されている(45歳以上の心血管疾患やがんの既往のない女性の医療従事者 、45〜64歳男性一般住民。介入試験のメタ・アナリシスでは、カルシウム摂取量の平均値は1,200mg/日で、収縮期/拡張期血圧が1.86/0.99mmHgの有意の低下を示した。しかし、2006年のメタ・アナリシスでは、収縮期血圧は2.5mmHgの有意の低下を認めたものの、カルシウム補給による介入試験は質のよくないものもあり、科学的根拠は十分とはいえないとの見解が述べられている。
3-3-2 その他の疾患との関連
十分なカルシウム摂取量は骨量の維持に必要であり、骨量の維持によって骨折の発症予防が期待される。しかしながら、前述のように、カルシウムの摂取量と骨折との関連を検討した疫学研究は多数存在するものの、その結果は必ずしも一致していない。
3-3-3 目標量の策定方法
前述のとおり、今回策定した、推定平均必要量、推奨量は目標量に近いものと考えることができ、目標量は設定しなかった。
4 生活習慣病の重症化予防
カルシウムと生活習慣病の関連については、前述したとおり、高血圧、脂質異常症、糖尿病及び慢性腎臓病とは特に強い関連は認められていない。したがって、重症化予防のための量は設定しなかった。
5 フレイルの予防
カルシウムは、骨の健康を通して、フレイルに関係すると考えられる。これまでに述べたように、カルシウムの摂取量と骨粗鬆症、骨折との関連を検討した疫学研究は多数存在するものの、その結果は必ずしも一致していない。現在の要因加算法による必要量の算出方法は、高齢者では骨量の維持を考慮したものとはなっていないが、現時点でフレイル予防のための量を設定するには、科学的根拠が不足している。
6 今後の課題
食事摂取基準として、骨粗鬆症、骨折を生活習慣病として扱うかどうか、そして、そこにおけるカルシウムの意義について検討する必要があると考えられる。
小児について、我が国の摂取レベルでのカルシウムの骨形成や骨折等への影響を見た研究は少なく、今後の検討が必要である。
また、高齢者については、カルシウム摂取量とフレイル予防との関連を検討した研究も少なく、研究の蓄積と研究結果の検討が望まれる。
カルシウム(Ca)の食事摂取基準及び私の摂取量と摂取源としている主な食品
カルシウムの食事摂取基準(mg/日)

カルシウムの摂取量
私の現在のカルシウムの摂取量は、推奨量750mg/日を30mg/日下回る720mg/日であり、カルシウムは摂取基準に対して僅かとはいえ不足している唯一の栄養素です。
カルシウムの主要な摂取源
多様な食品をバランス良く
生命と健康長寿に必要な栄養素や機能性成分を出来るだけ多く含み、かつ、命と健康に悪い成分が出来るだけ少ない多様な食品をバランス良く食べるよう心がけています。
そういった多様な食品の中で、カルシウムを多く含む食品は、魚類、乳製品、卵、ナッツ類、海藻類、豆類、野菜類と言われているとおり、私も主にそうした食品からカルシウムを摂取しています。
また、植物性食品にはカルシウムの吸収を阻害するシュウ酸やフィチン酸が含まれている一方、食品に加えてサプリメント等からも摂取しているビタミンDやクエン酸はカルシウムの吸収を促進するともされているので、必要としている量のカルシウムは摂取・吸収できているものと考えています。
カルシウムの摂取源としている食品(上位20食品)
下記の各表は、私が常食している全ての食品を「食品成分データベース」で検索して得られた結果をNumbersで集計したカルシウムの摂取量が多い上位20食品です。(単位:mg)
なお、当然ながら食べている食品の種類は日々異なりますが、これらの食品の多くはほぼ毎日食べているものであり、頻度が少ないものでも1週間に1回以上は食べています。
また、それぞれの摂取量も日によって変動しますので1日当たりの概算的な平均摂取量です。
食品 | ヨーグルト | ブロッコリー | 縮緬雑魚(しらす干し) | ナッツ類 | 乾燥ワカメ | 濃縮野菜ジュース | 豆乳 | 鶏卵 | 味噌 | 納豆 |
食品摂取量(g) | 100 | 124 | 12.0 | 28.7 | 6.0 | 180 | 200 | 63.6 | 19.0 | 40.0 |
カルシウム(mg) | 140 | 62 | 61 | 51 | 50 | 41 | 34 | 29 | 25 | 24 |
食品 | 鯖缶 | 人参 | 鰯缶 | 玉葱 | オートミール | 黒胡麻 | ハイカカオチョコレート | むき甘栗 | ココア | 黒糖 |
食品摂取量(g) | 16.0 | 72.0 | 12.0 | 96.8 | 30.0 | 20.0 | 15.0 | 33.3 | 7.0 | 4.0 |
カルシウム(mg) | 22 | 20 | 20 | 16 | 14 | 12 | 11 | 10 | 10 | 10 |
まとめ
推奨量を満たすカルシウムの摂取
カルシウムの推奨量750mg/日に対して不足している30mg/日を満たすためには、魚類、乳製品、卵、ナッツ類、海藻類、豆類等の中から何かをもう少し多く摂取したら良いのですが、現状においてはカルシウム欠乏の症状は全く自覚していないので当面は現在の摂取量で問題はないと考えています。
カルシウムのサプリメントの摂取
耐容上限量の2,500mgを超えるようなカルシウムのサプリメントはあまり見かけませんが、ネット上には、カルシウムとビタミンDのサプリメントの併用を推奨するような情報も多くあります。しかしながら、耐容上限量の策定方法において、ビタミンDとの併用によっては、より少ない摂取量でも血清カルシウムが高値を示すこともあり得るとされていることから注意が必要だと考えています。
次回はマグネシウム(Mg)の摂取基準と摂取量等について書きます。
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