前回の高齢者におけるエネルギー代謝、栄養と健康、フレイル及びサルコペニアと栄養の関連等に引き続き、今回は「日本人の食事摂取基準(2020年版)」における高齢者の特性等のうちの認知機能低下及び認知症と栄養との関連等と、高齢者の食事摂取基準について書きます。
2-3 高齢者(続き)
4 認知機能低下及び認知症と栄養との関連
血管性の認知症のみならず、アルツハイマー病の発症についても、生活習慣及び生活習慣病と強い関連があることが指摘され始めている。今回は、代表的な栄養素と認知機能低下、認知症発症との関係を検討したが、以下に示すように、各栄養素との関係は発症予防を目的とした目標量を示すほど十分な証拠は今のところなく、文献的考察をするに留めた。
4-1 葉酸、ビタミン B6、ビタミン B12
ホモシステインは、必須アミノ酸 メチオニンの代謝過程で生成され、その代謝には、葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12が関与し、いずれのビタミンが欠乏しても血中ホモシステイン濃度は上昇する。ホモシステインは、血管への影響の他、神経毒性が指摘されており、長らく血管性認知症やアルツハイマー病との関連が指摘されてきた。認知症患者では血中ホモシステイン濃度が高く、血管性認知症患者ではアルツハイマー病患者よりもホモシステイン値が高いとするメタ・アナリシスがある他、ホモシステイン血中濃度の高値と認知機能低下、認知症発症との関連の可能性があることもメタ・アナリシスによって支持されている。
一方、ビタミンB12や葉酸と認知機能との関連は、これらのビタミン欠乏により上昇するホモシステイン濃度との関連で調査・研究が進められてきた。横断研究、症例対照研究では認知症とこれらのビタミン濃度との関連が種々報告されてきたが、一定の関連性を見いだすには至っていない。
さらに、これらのビタミンによる介入研究も幾つか実施され、メタ・アナリシスも幾つか報告されている。しかしながら、葉酸やビタミンB12による介入ともに認知機能に対して有意な効果は認められていない。
4-2 n-3 系脂肪酸
前向き観察研究では、主に魚類由来長鎖n-3系脂肪酸の摂取量が少ないと認知機能の低下や認知症発症に関与するとの報告が存在する。その一方で、関連を認めないとする報告も複数存在する。介入研究は限られているが、現時点で確認された三つの試験の全てにおいて認知機能低下抑制効果などの介入効果は認められていない。
また、既にアルツハイマー病の診断を受けている者を対象とした無作為化割付比較試験(RCT)の結果をまとめたメタ・アナリシスでは、アルツハイマー病の認知機能・日常生活機能・精神症状に対して n-3系脂肪酸の効果は認められていない。
4-3 ビタミンD
血中ビタミンD濃度と認知機能低下との関連を検討した前向きコホート研究をまとめたシステマティック・レビューでは、血中ビタミンD濃度の低値は認知機能低下のリスクであると結論したものもあるが 、その後、関連を否定するコホート研究が複数報告されている。
また、アルツハイマー病を対象とした七つの症例対照研究のメタ・アナリシスでは、認知機能が正常な者と比較し、アルツハイマー病患者では、血清25-ヒドロキシビタミンD濃度が有意に低値であった。認知症の発症に関する七つのコホート研究のシステマティック・レビューでは、血中ビタミンD濃度が35ng/mLまでの範囲では、ビタミンDの血中濃度が高い方が認知症の発症リスクが低くなるが、それ以上の血中濃度では、明確な関連を見いだせないとされた。
このように、ビタミンD摂取量の不足が認知機能低下と関連する可能性はあるものの、摂取量の増加が認知症の発症予防になるとする根拠はない。
4-4 ビタミンE、ビタミンC
抗酸化機能を有する栄養素と認知機能並びに認知症との関連も注目されており、主にビタミンE及びビタミンCとの関連を検討した観察研究が多く報告されている。ビタミンCと認知機能に関するシステマティック・レビューの結果では、認知機能正常者では、低下者と比較し、血中ビタミンC濃度が高値である傾向があるものの、ビタミンC濃度と認知機能の間に相関は認められなかった。
ビタミンE及びビタミンCの摂取と認知症発症予防の効果については、通常の食品を用いた検討の他、サプリメントを用いた検討も行われてきた。これらのビタミンの単独又は複合摂取は、認知症発症に対して予防的に作用するとの報告がある一方で、無効とする報告も存在する。
効果があるとする研究の中には、十分量のビタミンEとビタミンCを併用した場合に、より強い予防効果があり、単独では無効又は効果が減弱するという観察研究の結果がある。このように、ビタミンE及びビタミンCの摂取と認知症発症予防の一致した結果が得られていない状況にある。
5 その他留意すべき栄養素
5-1 ビタミンB12
高齢者では、加齢による体内ビタミンB12貯蔵量の減少に加え、食品たんぱく質に結合したビタミンB12の吸収不良によるビタミンB12の栄養状態の低下と神経障害の関連が報告されている。一方で、胃酸分泌量は低下していても内因子は十分量分泌されており、遊離型のビタミンB12の吸収率は低下しないことが報告されている。介入研究の結果としては、ビタミンB12が欠乏状態の高齢者に、遊離型ビタミンB12強化食品やビタミンB12を含むサプリメントを数か月間摂取させると、ビタミンB12の栄養状態が改善されることが報告されている。
6 今後の課題
サルコペニア及びフレイルの発症予防並びに重症化予防に対するたんぱく質及びアミノ酸摂取の効果は、レジスタンス運動との併用により高まるとの報告が蓄積してきている。しかし、どれほどの摂取量が必要不可欠であるかなど、量的な知見はまだ不十分である。また、同化抵抗性に対する対策もなお不明であり、今後の研究が待たれる。さらにはビタミン、ミネラル等のサルコペニア及びフレイルに対する関与や介入効果に関しても、更なるデータの蓄積が必要である。
認知症発症と栄養素との関連も上記のとおりいずれも結論に至っておらず、観察研究、介入研究ともに、今後更なる科学的根拠の蓄積が必要である。また、認知症患者の認知機能障害の進行(重症化防)に対する栄養素摂取の効果についても、エビデンスの蓄積が必要である。
7 高齢者の食事摂取基準(再掲)
高齢者における食事摂取基準を表4〜7のとおり設定した。


次回は、高齢者の食事摂取基準に基づく私の摂取量について書きます。
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今回は、認知症を予防する食品をイメージした画像を作成してもらいました。
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