前々回の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」における脂質に関する記述のうちの全般・共通的事項と飽和脂肪酸に関する要点等、前回の脂質と飽和脂肪酸の具体的な摂取基準及び私の摂取量と摂取源としている主な食品についてに引き続き、今回は必須脂肪酸であるn-6系脂肪酸(ω6系脂肪酸/オメガ6系脂肪酸)とn-3系脂肪酸(ω3系脂肪酸/オメガ3系脂肪酸)に関する記述の要点等について書きます。
なお、同基準で書かれている脂質、脂肪酸、必須脂肪酸、n-6系脂肪酸、n-3系脂肪酸、「18:2 n-6」といった用語等については、脂質と脂肪酸の概要をご参照ください。
「日本人の食事摂取基準(2020版)」における脂質に関する記述の要点 2
Ⅱ各 論 1エネルギー・栄養素 1-3 脂質 5 n-6系脂肪酸
5-1 基本的事項
n-6系脂肪酸には、リノール酸(18:2 n-6)、γ-リノレン酸(18:3 n-6)、アラキドン酸(20:4 n-6)などがあり、γ-リノレン酸やアラキドン酸はリノール酸の代謝産物である。生体内では、リノール酸をアセチルCoAから合成することができないので、経口摂取する必要がある。
日本人で摂取されるn-6系脂肪酸の98%はリノール酸である。γ-リノレン酸やアラキドン酸の単独摂取による人体への影響について調べた研究は少ない。
5-2 摂取状況
平成28年国民健康・栄養調査におけるn-6系脂肪酸摂取量の中央値は表4のとおりである。
表 4 n-6系脂肪酸の摂取量(中央値:g/日)
5-3 健康の保持・増進
5-3-1 欠乏の回避
完全静脈栄養を補給されている者では、n-6系脂肪酸欠乏症が見られ、リノール酸 7.4〜8.0 g/日あるいは2%エネルギー投与により、欠乏症が消失する。したがって、n-6系脂肪酸は必須脂肪酸である。リノール酸以外のn-6系脂肪酸も理論的に考えて必須脂肪酸である。
n-6系脂肪酸の必要量を算定するために有用な研究は存在しない。したがって、推定平均必要量を算定することができない。その一方で、日常生活を自由に営んでいる健康な日本人には n-6系脂肪酸の欠乏が原因と考えられる皮膚炎等の報告はない。そこで、現在の日本人の n-6系脂肪酸摂取量の中央値を用いて目安量を算定した。
5-3-1-1 目安量の策定方法
・成人・高齢者・小児(目安量)
平成 28 年国民健康・栄養調査から算出されたn-6系脂肪酸摂取量の中央値を1歳以上の目安量(必須脂肪酸としての量)とした。なお、必要に応じて前後の年齢区分における値を参考にして値の平滑化を行った。
・乳児(目安量)
(略)
・妊婦・授乳婦(目安量)
(略)
5-3-2 生活習慣病の発症予防
5-3-2-1 生活習慣病との関連
コホート研究をまとめたメタ・アナリシスで、リノール酸摂取が冠動脈疾患を予防する可能性が示唆されている。また、上述のように、飽和脂肪酸を多価不飽和脂肪酸(現実的に n-3系脂肪酸よりもn-6系脂肪酸が大部分を占める)に置き換えた場合の冠動脈疾患発症率への影響をコホート研究で検討した結果を統合したプールド・アナリシスでは、発症率の有意な減少を報告している。さらに、介入研究(一次予防、二次予防を含む)を統合したメタ・アナリシスで、飽和脂肪酸を多価不飽和脂肪酸に置き換えた場合、心筋梗塞発症率(死亡を含む)の有意な減少が観察されている。その反面、n-6系脂肪酸摂取と循環器疾患予防との関連を検討した介入試験をまとめたメタ・アナリシスでは、両者の間に意味のある関連を認めていない。
これらは全体として、n-6系脂肪酸が冠動脈疾患の予防に役立つ可能性を示唆しているものの、これらの研究報告に基づいて目標量を算定するのは難しいと考えられる。
5-4 生活習慣病の重症化予防
n-6系脂肪酸摂取と循環器疾患予防との関連を検討した介入試験をまとめたメタ・アナリシスでは、発症予防と同様に重症化予防においても、両者の間に意味のある関連を認めていない。n-6系脂肪酸特有の作用としてよりも、飽和脂肪酸を多価不飽和脂肪酸(現実的に n-3系脂肪酸よりもn-6系脂肪酸が大部分を占める)に置き換えた場合の効果が期待されている。詳細は飽和脂肪酸の重症化予防の項を参照されたい。
6 n-3系脂肪酸
6-1 基本的事項
n-3系脂肪酸は、生体内で合成できず(他の脂肪酸からも合成できない)、欠乏すれば皮膚炎などが発症する。したがって、必須脂肪酸である。また、n-3系脂肪酸の生理作用は、n-6系脂肪酸の生理作用と競合して生じるものもある。さらに、n-3系脂肪酸はα-リノレン酸(18:3 n-3)、EPA(20:5 n-3)及び docosapentaenoic acid(DPA、22:5 n-3)、DHA(22:6 n-3)に大別されることから、それぞれの健康効果についても研究が進められている。
6-2 摂取状況
平成 28 年国民健康・栄養調査における n-3系脂肪酸摂取量の中央値は、表 5 のとおりである。
また、日本人成人(31〜76 歳、男女各 92 人)における主なn-3系脂肪酸の摂取量(平均)は図2のとおりであり、日本人にとって最も摂取量の多い n-3系脂肪酸はα-リノレン酸である。
表5 n-3系脂肪酸の摂取量(中央値:g/日)
6-3 健康の保持・増進
6-3-1 欠乏の回避
小腸切除や脳障害等のため経口摂取できず、n-3系脂肪酸摂取量が非常に少ない患者で、鱗状皮膚炎、出血性皮膚炎、結節性皮膚炎、又は成長障害を生じ、n-3系脂肪酸を与えたところ、これらの症状が消失または軽快したことが報告されている。具体的には、0.2〜0.3% エネルギーのn-3系脂肪酸投与により皮膚症状は改善し、1.3% エネルギーのn-3系脂肪酸投与により体重の増加が認められている。しかしながら、n-3系脂肪酸の必要量を算定するために有用な研究は十分には存在しない。その一方で、日常生活を自由に営んでいる健康な日本人にはn-3系脂肪酸の欠乏が原因と考えられる症状の報告はない。そこで、現在の日本人のn-3系脂肪酸摂取量の中央値を用いて目安量を算定した。
6-3-1-1 目安量の策定
・成人・高齢者・小児(目安量)
平成 28 年国民健康・栄養調査から算出されたn-3系脂肪酸摂取量の中央値を1歳以上の目安量(必須脂肪酸としての量:g/日)とした。なお、必要に応じて前後の年齢区分における値を参考にして値の平滑化を行った。
・乳児(目安量)
(略)
・妊婦・授乳婦(目安量)
(略)
6-3-2 生活習慣病の発症予防
6-3-2-1 生活習慣病との関連
n-3系脂肪酸摂取量、特に、EPA 及び DHA の摂取が循環器疾患の予防に有効であることを示した観察疫学研究が多数存在し、そのメタ・アナリシスもほぼこの考えを支持している。しかしながら類似の目的で行われた介入研究の結果をまとめたメタ・アナリシスはこの考えを支持せず、予防効果があるとは言えないと結論を述べている。α-リノレン酸と循環器疾患の発症率及び死亡率との関連を調べたコホート研究をまとめたメタ・アナリシスでは、弱いものの有意な負の関連を報告している。
n-3系脂肪酸摂取量、特に、EPA 及び DHA の摂取による認知機能低下や認知症の予防効果も期待されている。一方で、治療効果についてまとめたメタ・アナリシスでは治療効果があるとは言えないと報告している。
また、糖尿病の発症率との関連を検討したコホート研究をまとめたメタ・アナリシスではn-3系脂肪酸摂取が糖尿病の発症を増加させる可能性を示唆しているが、その結果は他の要因によって修飾されるため、結論を下すのは難しいとしている。
6-4 生活習慣病の重症化予防
n-3系脂肪酸摂取と循環器疾患予防との関連を検討した介入試験をまとめたメタ・アナリシスでは、発症予防と同様に重症化予防においても、両者の間に意味のある関連を認めていない。
n-3系脂肪酸特有の作用としてよりも、飽和脂肪酸を多価不飽和脂肪酸(現実的にはn-3系脂肪酸よりもn-6系脂肪酸が大部分を占めるが)に置き換えた場合の効果が期待されている。また、n-3系脂肪酸単独では、血中総コレステロール及び LDLコレステロールへの低下作用はなく、HDLコレステロールをわずかに上昇させると同時に、トリグリセリド(中性脂肪)を下げる効果が認められている。この他の詳細については、飽和脂肪酸の重症化予防の項を参照されたい。
まとめ(私なりに解釈した「n-6系脂肪酸」と「n-3系脂肪酸)」に関する結論)
n-6系脂肪酸(ω6系脂肪酸/オメガ6系脂肪酸)とn-3系脂肪酸(ω3系脂肪酸/オメガ3系脂肪酸)の競合作用について
「n-3系脂肪酸の生理作用は、n-6系脂肪酸の生理作用と競合して生じるものもある。」の内容を色々と勉強し、生物の不思議さ、巧妙さ、面白さを改めて感じるとともに、両脂肪酸の摂取バランスの重要性を認識することが出来ました。
なお、栄養素や酵素等の勉強をしていると、「競合」「競合作用」「競合阻害」「競争」「競争作用」「競争阻害」「拮抗」「拮抗作用」「拮抗阻害」等が、更には、「競合的作用」「競合的阻害」「競争的作用」「競争的阻害」「拮抗的作用」「拮抗的阻害」等が、果てには「競合的拮抗」等々、あらゆる?組合せの用語が出てきて訳が分からなくなりました。
「日本人の食事摂取基準(2020年版)」におけるn-6系脂肪酸とn-3系脂肪酸の指標について
① 必須脂肪酸であるn-6系脂肪酸とn-3系脂肪酸については、これらの必要量を算定するために有用な研究は存在しないので推定平均必要量を算定することができない。
② 日常生活を自由に営んでいる健康な日本人には、これらの欠乏が原因と考えられる症状の報告はない。
③ そこで、現在の日本人のこれらの脂肪酸摂取量の中央値を用いて目安量を算定した。
即ち、現在の日本人のn-6系脂肪酸とn-3系脂肪酸の摂取量の中央値程度を摂れば不足することはないだろうということは理解できます。
その上で、目安量とはそういうものだとは理解しつつも、実際に活用しようとすると、目安量以上を摂取した場合はどうなるのかという疑問を感じています。この件に関しては、後日、「必須脂肪酸の摂取源としている食品」の中で詳細を書きます。
なお、ネット上には、この目安量を転載する以外に、次のような様々な情報が溢れていますが、その多くはエビデンスが不明確です。
A n-6系脂肪酸とn-3系脂肪酸の摂取量比率は4:1が良い。
B n-6系脂肪酸とn-3系脂肪酸の摂取量比率は2:1が良い。
C n-6系脂肪酸とn-3系脂肪酸の摂取量比率は1:1が良い。
D 定量的なことは示さず、n-6系脂肪酸を減らして、n-3系脂肪酸を増やした方が良い。
n-6系脂肪酸=悪玉 & n-3系脂肪酸=善玉 論について
前項の特にB〜Dと関連しますが、ネット上では『現在の日本人は、食の欧米化が進み、n-6系脂肪酸が過剰となる一方、n-3系脂肪酸が不足している。このため、亜麻仁油や荏胡麻油等でn-3系脂肪酸を摂る必要がある。』旨を喧伝している情報も見受けられますが、その多くはエビデンスが不明確です。
しかしながら、「日本人の食事摂取基準(2020年版)」にはそういった趣旨のことは書かれておらず、それどころか、現在の日本人のこれらの脂肪酸摂取量の中央値を用いて目安量を算定していることから、現在の日本人の多くは現在の摂取量で問題ないとしているものと理解しています。
後述するよう私を含め、目安量以上にn-6系脂肪酸を摂取している者も確かにいますが、「現在の日本人は」と十把一絡げにしていることには疑問を感じています。
また、n-6系脂肪酸の摂取量は、日本植物油協会が「国民健康・栄養調査」による食品摂取実態に基づいて推計した下記の表を見る限りにおいては、1980年から1990年にかけて増加した以降は減少の一途を辿っています。
次回はn-6系脂肪酸とn-3系脂肪酸の具体的な摂取基準及び私の摂取量と摂取源としている主な食品について書きます。
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今回は、n-3系脂肪酸とn-6系脂肪酸の競合作用をイメージした画像を作成してもらいました。
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