前回のリン(P)の摂取基準と摂取量等に引き続き、今回は「日本人の食事摂取基準(2020年版)」における鉄(Fe)の摂取基準と摂取量等について書きます。
Ⅱ各 論 1エネルギー・栄養素 1-7 ミネラル (2)微量ミネラル ①鉄(Fe)
1 基本的事項
1-1 定義と分類
鉄(iron)は原子番号26、元素記号Feの遷移金属元素の一つである。食品中の鉄は、たんぱく質に結合したヘム鉄と無機鉄である非ヘム鉄に分けられる。
1-2 機能
鉄は、ヘモグロビンや各種酵素を構成し、その欠乏は貧血や運動機能、認知機能等の低下を招く。また、月経血による損失と妊娠・授乳中の需要増大が必要量に及ぼす影響は大きい。
1-3 消化、吸収、代謝
食品から摂取された鉄は、十二指腸から空腸上部において吸収される。ヘム鉄は、特異的な担体によって腸管上皮細胞に吸収され、細胞内でヘムオキシゲナーゼにより2価鉄イオン(Fe2+)とポルフィリンに分解される。非ヘム鉄は、腸管上皮細胞刷子縁膜に存在する鉄還元酵素又はアスコルビン酸(ビタミンC)などの還元物質によってFe2+となり、divalent metal transporter1に結合して吸収される。この吸収はマンガンと競合する。腸管上皮細胞内に吸収されたFe2+は、フェロポルチンによって門脈側に移出され、鉄酸化酵素によって3価鉄イオン(Fe3+)となり、トランスフェリン結合鉄(血清鉄)として全身に運ばれる。多くの血清鉄は、骨髄においてトランスフェリン受容体を介して赤芽球に取り込まれ、赤血球の産生に利用される。約120 日の寿命を終えた赤血球は網内系のマクロファージに捕食されるが、放出された鉄はマクロファージの中に留まってトランスフェリンと結合し、再度ヘモグロビン合成に利用される。体内鉄が減少すると吸収率は高まるが、充足時では過剰な鉄は腸管上皮細胞内にフェリチンとして貯蔵され、腸管上皮細胞の剥離に伴い消化管に排泄される。
2 指標設定の基本的な考え方
鉄の推定平均必要量と推奨量は、0〜5か月児を除き、出納試験や要因加算法等を用いて算定できる。しかし、吸収率が摂取量に応じて変動し、低摂取量でも平衡状態が維持されるため、出納試験を用いると必要量を過小評価する危険性がある。そのため、要因加算法を用いることにした。要因加算法に有用な研究は多数存在するが、日本人を対象とした研究は不十分である。そこで、6か月児以上(略)
一方、満期産で正常な子宮内発育を遂げた新生児は(略)
3 健康の保持・増進
3-1 欠乏の回避
3-1-1 必要量を決めるために考慮すべき事項
・基本的鉄損失
4集団41人(平均体重68.6kg)で測定された基本的鉄損失は、集団間差が小さく、0.9〜1.0mg/日(平均0.96mg/日)である。最近の研究もこの報告を支持している。そこで、平均値を体重比の0.75乗を用いて外挿し、表1に示した性別及び年齢区分ごとの値を算出した。

・成長に伴う鉄蓄積
(略)
・月経血による鉄損失
(略)
・吸収率
鉄の吸収率として、アメリカの通常の食事で 16.6%、フランスとスウェーデンの通常の食事でそれぞれ16%と14%と見積もる報告が存在する。また、最近の鉄同位体を用いた研究では、ヘム鉄の吸収率を 50%、非ヘム鉄の吸収率を15%としている。鉄の吸収率は、食事中のヘム鉄と非ヘム鉄の構成比、鉄の吸収促進、阻害要因となる栄養素や食品の摂取量及び鉄の必要状態によって異なる。そのため、吸収率の代表値を設定することは困難であるが、日本人の鉄の主な給源が植物性食品であり、非ヘム鉄の摂取量が多いことを考慮して、FAO/WHO が採用している吸収率である15%を、妊娠女性を除く全ての年齢区分に適用した。
・必要量の個人間変動
(略)
3-1-2 推定平均必要量、推奨量、目安量の策定方法
・成人(推定平均必要量、推奨量)
男性・月経のない女性
推定平均必要量=基本的鉄損失(表 1)÷吸収率(0.15)
とした。推奨量は、個人間の変動係数を10%と見積もり、推定平均必要量に推奨量算定係数1.2を乗じた値とした。なお、一部の年齢区分(18〜29 歳)において値の平滑化を行った。
月経のある女性
(略)
・小児(推定平均必要量、推奨量)
(略)
・乳児(0〜5か月)(目安量)
(略)
・乳児(6〜11 か月)(推定平均必要量、推奨量)
(略)
・妊婦の付加量(推定平均必要量、推奨量)
(略)
・授乳婦の付加量(推定平均必要量、推奨量)
(略)
3-2 過剰摂取の回避
高齢女性を対象にして、サプリンメント類の使用と総死亡率との関連を検討した疫学研究において、鉄サプリメントの使用が総死亡率を上昇させることが認められている。さらに成人では、組織への鉄の蓄積が多くの慢性疾患の発症を促進することが報告されていることから、鉄の長期過剰摂取による鉄沈着症を予防することは重要である。
3-2-1 摂取状況
平成28年国民健康・栄養調査における日本人成人(18 歳以上)の鉄摂取量(平均値±標準偏差)は8.1±2.9mg/日(男性)、7.3±2.7mg/日(女性)であり、その70%以上は植物性食品由来である。通常の食生活で過剰摂取が生じる可能性はないが、サプリメント、鉄強化食品及び貧血治療用の鉄製剤の不適切な利用に伴って過剰摂取が生じる可能性がある。
3-2-2 耐容上限量の策定方法
・成人・高齢者(耐容上限量)
60mg/日の鉄を非ヘム鉄(フマル酸鉄)、18mg/日の鉄をヘム鉄─ 非ヘム鉄混合(豚血液由来ヘム鉄を鉄として2 mg/日+フマル酸鉄を鉄として 16 mg/日)、偽薬投与群を設定した二重盲検試験において、非ヘム鉄投与群は他群に比較して便秘や胃腸症状などの健康障害の有訴率が有意に高いと報告されている。胃腸症状を鉄の耐容上限量設定のための健康障害として用いることを不適切とする指摘もあるが、アメリカ・カナダの食事摂取基準では、この試験における非ヘム鉄投与群の食事由来の鉄摂取量が 11 mg/日であることから、70mg/日を最低健康障害発現量と判断し、不確実性因子1.5を適用して、成人の鉄の耐容上限量を一律に45mg/日としている。
一方、FAO/WHOは、着色剤用酸化鉄、妊娠及び授乳中の鉄サプリメント、治療用鉄剤を除く、全ての鉄に対する暫定耐容最大1日摂取量(provisional maximal tolerable intake)を0.8mg/kg体重/日と定めているが、数値の根拠は示していない。
先に述べたように、臓器への鉄の沈着は種々の慢性疾患の発症リスクを高める。南アフリカのバンツー族では、鉄を大量に含むビールの常習的な飲用や鉄鍋からの鉄の混入によって1日当たりの鉄摂取量が50〜100mg であり、バンツー鉄沈着症(Bantu siderosis)が中年男性に発生した。この鉄沈着症は、単純な鉄の大量摂取によって生じたと考えられており、1日当たりの鉄摂取量がおよそ 100mgを超えた場合に発生すると推定されている。これより、100mg/日を鉄沈着症を指標にした場合の最低健康障害発現量と考え、鉄沈着症が胃腸症状よりも重い健康障害につながることを考慮し、不確実性因子2を適用した50mg/日を15歳以上の鉄の耐容上限量の基準値とした。バンツー鉄沈着症の症例は中年男性であるが、その体重は不明である。そこで、15歳以上男性に対する耐容上限量を一律に 50mg/日とし、15歳以上の女性に対しては、男性との体重差を考慮し、耐容上限量を一律に40mg/日とした。
・小児(耐容上限量)
(略)
・乳児(耐容上限量)
(略)
・妊婦・授乳婦(耐容上限量)
(略)
3-3 生活習慣病の発症予防
3-3-1 主な生活習慣病との関連
スペインの若年女性を対象とした研究では、鉄欠乏状態では、カルシウム摂取量が適正であっても骨吸収が高まり、骨の健康に負の影響を及ぼすことが示されている。しかし、この影響は鉄欠乏がもたらすものであり、推定平均必要量・推奨量で十分に対応できるものである。したがって、生活習慣病の発症予防のための目標量(下限値)を設定する必要はないと判断した。
一方、鉄の過剰摂取によって体内に蓄積した鉄は、酸化促進剤として作用し、組織や器官に炎症をもたらし、肝臓がんや心血管系疾患のリスクを高める。先に述べたように、高齢女性を対象にした研究では、鉄サプリメントの使用者では全死亡率が上昇することが認められている。特に、ヘム鉄については、その過剰摂取がメタボリックシンドロームや心血管系疾患のリスクを上昇させるという報告や、総鉄摂取量と非ヘム鉄摂取量は2型糖尿病発症に影響しないが、ヘム鉄の摂取量の増加は明らかに2型糖尿病発症リスクを高めるとするメタ・アナリシスがある。このように鉄の過剰摂取が生活習慣病の発症リスクを高めるという報告は増えつつある。目標量(上限値)を設定するための定量的な情報は不十分であるが、貧血の治療や予防が必要でない限り、鉄の過剰摂取については十分に注意する必要がある。
4 生活習慣病の重症化予防
鉄の摂取と生活習慣病の重症化予防の直接的な関連を示す報告はない。したがって、生活習慣病の重症化予防のための量は設定しなかった。
5 活用に当たっての留意事項
(略)
6 今後の課題
鉄の必要量及び耐容上限量の設定に必要な、日本人を対象にした情報の収集が必要である。また、小児に関しては(略)
鉄(Fe)の食事摂取基準及び私の摂取量と摂取源としている主な食品
鉄の食事摂取基準(mg/日)

鉄の摂取量
私の現在の鉄の摂取量は、推奨量7.5mg/日の2倍を上回る17.3mg/日です。
鉄の主要な摂取源
多様な食品をバランス良く
生命と健康長寿に必要な栄養素や機能性成分を出来るだけ多く含み、かつ、命と健康に悪い成分が出来るだけ少ない多様な食品をバランス良く食べるよう心がけています。
そして、必要量を決めるために考慮すべき事項で日本人の鉄の主な給源が植物性食品であるとされているとおり、私も主に多様な植物性食品から幅広く鉄を摂取しています。
鉄の摂取源としている食品(上位20食品)
下記の各表は、私が常食している全ての食品を「食品成分データベース」で検索して得られた結果をNumbersで集計した鉄の摂取量が多い上位20食品です。(単位:mg)
なお、当然ながら食べている食品の種類は日々異なりますが、これらの食品の多くはほぼ毎日食べているものであり、頻度が少ないものでも1週間に1回以上は食べています。
また、それぞれの摂取量も日によって変動しますので1日当たりの概算的な平均摂取量です。
食品 | ブロッコリー | ハイカカオチョコレート | 黒胡麻 | オートミール | 豆乳 | 納豆 | ココア | 鶏卵 | ナッツ類 | 味噌 |
食品摂取量(g) | 124 | 15.0 | 20.0 | 30.0 | 200 | 40.0 | 7.0 | 63.6 | 28.7 | 19.0 |
鉄(mg) | 1.6 | 1.4 | 1.2 | 1.1 | 1.1 | 1.0 | 1.0 | 1.0 | 0.9 | 0.8 |
食品 | むき甘栗 | 韃靼入十割蕎麦/十割蕎麦 | ココナッツミルク | バナナ | 十種穀物ご飯 | 干し芋 | 乾燥ワカメ | 鯖缶 | 榎茸 | 玉葱 |
食品摂取量(g) | 33.3 | 80.5 | 157 | 75.0 | 17.3 | 6.0 | 16.0 | 27.0 | 96.8 | |
鉄(mg) | 0.7 | 0.7 | 0.6 | 0.5 | 0.5 | 0.4 | 0.3 | 0.3 | 0.3 | 0.3 |
まとめ
推奨量を満たす鉄の摂取
ネット上には、鉄を不足しやすい栄養素として取り上げている情報もありますが、加工食品や精製食品、動物性食品等を偏食することなく、植物性食品を含む多様な食品をバランス良く食べている限りは、男性や閉経後の女性が鉄不足になることは少ないのではないかと考えています。
鉄のサプリメントの摂取
鉄のサプリメントがよく売れているようですが、妊婦さんや月経が多く検査結果等で本当にサプリメントからの鉄分摂取を必要とされている方はともかく、通販のコメントを読むと「何となく鉄分が不足しているような気がして飲み続けている」といった人達も多いようです。
摂取状況で、サプリメント、鉄強化食品及び貧血治療用の鉄製剤の不適切な利用に伴って過剰摂取が生じる可能性があるとされていることから注意が必要だと考えています。
次回は亜鉛(Zn)の摂取基準と摂取量等について書きます。
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