伊都国は、女王国の中枢と帯方郡との交差点として機能していました。
官職名の表記や支配の継承関係、郡使の駐在地──こうした細部の語句の違いから見えてくるのは、倭国内における制度化された外交と支配秩序の輪郭です。
本節では、『魏志倭人伝』の複数の写本や諸本の間で生じている違いを 回(壱・弍・参・四・)に分けて提示しています。
📘第2章 第6節:異文・比較注記(第9段落)
🔹該当段落(中華書局本・基準本文)
東南陸行五百里,到伊都國,有官曰爾支,副曰泄謨觚、柄渠觚,有千餘戶;
🧾 異文一覧(第9段落)【段落逐次方式】
《注32》【今本・紹熙本】
「東南陸行五百里」→「陸行五百里東南」
• 分類:🅑語順の違い
• 解説:「東南」の語が末尾に置かれており、方向と移動距離の関係が曖昧になる。中華書局本では「東南」が先に明記され、空間的な方向が優先的に示されている。
《注33》【百衲本】
「到伊都國」→「至伊都國」
• 分類:🅓同義語の置換(到⇄至)
• 解説:「到」と「至」はほぼ同義だが、地域的・時代的な言語習慣による置換と考えられる。意味上の差異は小さい。
《注34》【今本・紹熙本】
「官曰爾支」→「官曰伊支」
• 分類:🅕人名・官名の異表記
• 解説:「爾(ニ)」と「伊(イ)」は音写において通用するが、別の字形で表記されている。「爾支」は音義的により適切とされ、中華書局本はそれを採用。
《注35》【今本】
「泄謨觚」→「泄謨」
• 分類:🅓語句の省略
• 解説:「觚」の語が省略されており、官職名の構成が不完全となっている。伝統的な形式名(「〇〇觚」)を崩している点に注意。
《注36》【今本・紹熙本】
「柄渠觚」→「柄渠」/「柄渠觚觚」
• 分類:🅓語句の省略・重複
• 解説:今本では「觚」が省かれ、紹熙本では逆に「觚」が重複しており、いずれも書写・伝写時の混乱が見られる。中華書局本は穏当な構成を保つ。
《注37》【今本】
「有千餘戶」→「有千家」
• 分類:🅔数量語の省略・簡略
• 解説:「餘戶」が「家」に簡略化されており、先の段落と同様、数量の幅や制度的単位の情報が失われている。
📋 異文注記対応表(第9段落)
注番号 | 原文表記 | 異文表記 | 出典 | 分類 | 概説(簡潔な要約) |
---|---|---|---|---|---|
注32 | 東南陸行五百里 | 陸行五百里東南 | 今本・紹熙本 | 🅑語順の違い | 「東南」の位置が後置され、空間的方向の提示が曖昧化している。 |
注33 | 到伊都國 | 至伊都國 | 百衲本 | 🅓同義語の置換 | 「到」→「至」は地域差・文体差による字義の交換とみられる。 |
注34 | 官曰爾支 | 官曰伊支 | 今本・紹熙本 | 🅕人名・官名の異表記 | 音写の違いによる表記差。中華書局本の「爾支」が音義に忠実。 |
注35 | 副曰泄謨觚 | 副曰泄謨 | 今本 | 🅓語句の省略 | 官職名「觚」が省かれ、職名の完全性が損なわれている。 |
注36 | 柄渠觚 | 柄渠/柄渠觚觚 | 今本・紹熙本 | 🅓語句の省略・重複 | 書写時の誤記・混乱が疑われる。中華書局本は構文上自然な形を保っている。 |
注37 | 有千餘戶 | 有千家 | 今本 | 🅔数量語の省略・簡略 | 「餘戶」の語が簡略化され、表現の幅が削られている。 |
📘第2章 第6節:異文・比較注記(第10段落)
🔹該当段落(中華書局本・基準本文)
世有王,皆統屬女王國;郡使往來,常所駐。
🧾 異文一覧(第10段落)【段落逐次方式】
《注38》【今本・百衲本】
「世有王」→「其國有王」/「此國有王」
• 分類:🅕代名詞・主語の差異
• 解説:「世」が「其」や「此」に置換され、意味の焦点が「代々の王」から「現在の支配者」へとずれる可能性がある。中華書局本の「世」は世襲制を示唆する重要な語句。
《注39》【今本・紹熙本】
「皆統屬女王國」→「皆屬女王國」
• 分類:🅓語句の省略(動詞省略)
• 解説:「統屬」の「統」が省かれ、単なる服属関係(従属)の意味合いに簡略化されている。「統屬」は“統治下に属する”という支配構造の二重性を含む語。
《注40》【今本】
「郡使往來」→「郡使來往」
• 分類:🅑語順の違い
• 解説:「往來」が「來往」と逆転しており、語義の違いはほぼないが、筆記習慣や文体的語感の差が反映されている可能性がある。
《注41》【百衲本】
「常所駐」→「所常駐」
• 分類:🅑語順の違い(修飾語位置の入替)
• 解説:「常」の語順が逆転しており、意味上の混乱はないが、文語的な自然さや語勢に差が生じる。中華書局本は「常所駐」によって駐在地としての固定性を強調。
📋 異文注記対応表(第10段落)
注番号 | 原文表記 | 異文表記 | 出典 | 分類 | 概説(簡潔な要約) |
---|---|---|---|---|---|
注38 | 世有王 | 其國有王/此國有王 | 今本・百衲本 | 🅕代名詞・主語の差異 | 「世」を代名詞に置換することで、王権の世襲性に関するニュアンスが失われている。 |
注39 | 皆統屬女王國 | 皆屬女王國 | 今本・紹熙本 | 🅓語句の省略 | 「統」が省かれ、支配関係の階層性が曖昧化されている。 |
注40 | 郡使往來 | 郡使來往 | 今本 | 🅑語順の違い | 「往來」→「來往」への転倒で、語調の違いが見られる。意味は同等。 |
注41 | 常所駐 | 所常駐 | 百衲本 | 🅑語順の違い(修飾語) | 修飾語の位置が逆転。文意に影響は少ないが、文語的な調子には差が出る。 |
📘第2章 第6節:異文・比較注記(第11段落)
🔹該当段落(中華書局本・基準本文)
東南至奴國百里,官曰兕馬觚,副曰卑奴母離,有二萬餘戶。
🧾 異文一覧(第11段落)【段落逐次方式】
《注42》【今本・紹熙本】
「東南至奴國百里」→「至奴國東南百里」/「奴國東南百里」
• 分類:🅑語順の違い
• 解説:「東南」の位置が後置され、地理的な方向指示の明確性が低下している。中華書局本では「東南至~」の形式により、移動方向が主語の前に明示されている。
《注43》【今本】
「官曰兕馬觚」→「官曰兕馬」
• 分類:🅓語句の省略(官職名の欠落)
• 解説:「觚」の語が省かれ、官名としての体系的表記が崩れている。「~觚」は魏志倭人伝に共通して登場する官職構文であり、簡略化は制度理解を妨げる。
《注44》【百衲本】
「副曰卑奴母離」→「副曰卑奴里」
• 分類:🅕固有名詞の異表記
• 解説:「卑奴母離」と「卑奴里」は音写の省略差に起因する異表記。中華書局本の方がより音写の整合性と一貫性を保持している。
《注45》【今本】
「有二萬餘戶」→「有二萬家」
• 分類:🅔数量語の省略・簡略
• 解説:他段落と同様に「餘戶」が「家」に簡略化されており、数的幅や社会構成単位の精密さが欠けている。
📋 異文注記対応表(第11段落)
注番号 | 原文表記 | 異文表記 | 出典 | 分類 | 概説(簡潔な要約) |
---|---|---|---|---|---|
注42 | 東南至奴國百里 | 至奴國東南百里/奴國東南百里 | 今本・紹熙本 | 🅑語順の違い | 「東南」の位置が後置され、移動方向の明確性が低下。中華書局本は一貫して方向先行構文。 |
注43 | 官曰兕馬觚 | 官曰兕馬 | 今本 | 🅓語句の省略 | 官職名「觚」の欠落により、官制用語の体系性が崩れている。 |
注44 | 副曰卑奴母離 | 副曰卑奴里 | 百衲本 | 🅕固有名詞の異表記 | 音写省略による変形。中華書局本の表記の方が、全体の音写形式と一致している。 |
注45 | 有二萬餘戶 | 有二萬家 | 今本 | 🅔数量語の省略・簡略 | 「餘戶」→「家」によって、表現が簡略化され、社会規模の表現幅が削がれている。 |
注:本章における原文は、OpenAI o3 が公開ドメインの旧刻本(無標点)を参照しつつ、中華書局点校本の慣用句読を統計的に再現した「再現テキスト」です。校訂精度は保証されません。引用・転載の際は必ず一次資料で照合してください。
次回は、第12段落から第15段落までの複数の写本や諸本の間で生じている違いを提示します。
(本文ここまで)
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