前回のビタミン6の摂取基準と摂取量等に引き続き、今回は「日本人の食事摂取基準(2020年版)」におけるビタミンB12の摂取基準と摂取量等について書きます。
Ⅱ各 論 1エネルギー・栄養素 1-6 ビタミン (2)水溶性ビタミン ⑤ビタミンB12
1 基本的事項
1-1 定義と分類
ビタミンB12は、コバルトを含有する化合物(コバミド)であり、アデノシルコバラミン、メチルコバラミン、スルフィトコバラミン、ヒドロキソコバラミン、シアノコバラミンがある。食事摂取基準の数値は、日本食品標準成分表2015年版(七訂)に従い、シアノコバラミンの重量(図9)として設定した。

1-2 機能
ビタミンB12は、奇数鎖脂肪酸やアミノ酸(バリン、イソロイシン、トレオニン)の代謝に関与するアデノシルB12依存性メチルマロニルCoAムターゼと5-メチルテトラヒドロ葉酸とホモシステインから、メチオニンの生合成に関与するメチルビタミンB12依存性メチオニン合成酵素の補酵素として機能する。ビタミンB12の欠乏により、巨赤芽球性貧血、脊髄及び脳の白質障害、末梢神経障害が起こる。
1-3 消化、吸収、代謝
食品中のビタミンB12は、たんぱく質と結合しており、胃酸やペプシンの作用で遊離する。遊離したビタミンB12は、唾液腺由来のハプトコリンと結合し、次いで十二指腸においてハプトコリンが膵液中のたんぱく質分解酵素によって部分的に消化される。ハプトコリンから遊離したビタミンB12は、胃の壁細胞から分泌された内因子へ移行する。内因子-ビタミンB12複合体は腸管を下降し、主として回腸下部の刷子縁膜微絨毛に分布する受容体に結合した後、腸管上皮細胞に取り込まれる。
消化過程は食品ごとに異なり、一緒に食べる他の食品によっても影響を受ける。正常な胃の機能を有した健康な成人において、食品中のビタミンB12の吸収率はおよそ50%とされている。食事当たり2µg程度のビタミンB12で内因子を介した吸収機構が飽和するため、それ以上ビタミンB12を摂取しても生理的には吸収されない。よって、ビタミンB12を豊富に含む食品を多量に摂取した場合、吸収率は顕著に減少する。また、胆汁中には多量のビタミンB12化合物が排泄されるが(平均排泄量2.5µg/日)、約45%は内因子と結合できない未同定のビタミンB12類縁化合物である。胆汁中に排泄される真のビタミンB12の半数は腸肝循環により再吸収され、残りは糞便へ排泄される。
なお、健康な成人の平均的なビタミンB12貯蔵量は2~3mgである。そして、1日当たり体内ビタミンB12貯蔵量の0.1から0.2%が損失する。
また、食品中には、人がビタミンB12として利用できないシュードビタミンB12が存在する。
2 指標設定の基本的な考え方
血液学的性状(平均赤血球容積が101fL未満)及び血清ビタミンB12濃度(100 pmol/L以上)を適正に維持するために必要な量を基にして算定した。
一方で、血液学的正常に加えて、ヒトがビタミンB12を必要とする二つの酵素、メチルマロニルCoA ムターゼとメチオニン合成酵素活性を十分に発揮させることができるビタミン B12 摂取量も考慮して必要量とする考え方もある。
3 健康の保持・増進
3-1 欠乏の回避
3-1-1 必要量を決めるために考慮すべき事項
健康な成人では、内因子を介した特殊な吸収機構やビタミンB12が腸肝循環して回収・再利用されているため、必要量の評価はできない。このため、内因子が欠損した悪性貧血患者にビタミンB12を筋肉内注射し、貧血の治療に要した量から必要量を算定した。筋肉内投与を経口摂取に変換する方法は、論理的ではあるが極めて特殊な条件下での数値である点に留意すべきである。
3-1-2 推定平均必要量、推奨量の策定方法
・成人(推定平均必要量、推奨量)
ビタミンB12の必要量は、悪性貧血患者に様々な量のビタミンB12を筋肉内注射し、血液学的性状(平均赤血球容積が101fL未満)及び血清ビタミンB12濃度(100pmol/L以上)を適正に維持するために必要な量を基にして算定した。
7人の悪性貧血患者を対象として筋肉内へのビタミン B12 投与量を0.5〜4.0µg/日まで変化させた研究によると、1.4µg/日で半数の患者の平均赤血球容積が改善された。これらの研究結果から、1.5µg/日程度がビタミンB12の必要量と考えられる。
ところで、悪性貧血患者では内因子を介したビタミンB12の腸管吸収機構が機能できないので、胆汁中に排泄されたビタミンB12を再吸収することができない。よって、その損失量(悪性貧血患者の胆汁中のビタミンB12排泄量:0.5µg/日)を差し引くことで、正常な腸管吸収能力を有する健康な成人における必要量が得られ、1.0 µg/日となる。この値に、吸収率(50%)を考慮し、推定平均必要量を 2.0µg/日と算定した(図10)。推奨量は、推定平均必要量に推奨量算定係数1.2を乗じ、2.4 µg/日とした。

血清ビタミンB12濃度は男性に比べて女性で高いことが報告されているが、その詳細は明確になっていないこともあり、男女差は考慮しなかった。男女間の計算値が異なった場合は、低い方の値を採用した。
・高齢者(推定平均必要量、推奨量)
高齢者は萎縮性胃炎などで胃酸分泌の低い者が多く、食品中に含まれるたんぱく質と結合したビタミンB12の吸収率が減少している。しかし、高齢者のビタミンB12の吸収率に関するデータがないことから、高齢者でも推定平均必要及び推奨量は、成人(18〜64 歳)と同じ値とした。
・小児(推定平均必要量、推奨量)
(略)
・妊婦の付加量(推定平均必要量、推奨量)
(略)
・授乳婦の付加量(推定平均必要量、推奨量)
(略)
3-1-3 目安量の策定方法
・乳児(目安量)
(略)
3-2 過剰摂取の回避
3-2-1 摂取源となる食品
小腸での吸収機構において、胃から分泌される内因子によって吸収量が調節されている。通常の食品を摂取している者で、過剰摂取による健康障害が発現したという報告は見当たらない。
また、サプリメント等による摂取においても、特殊な吸収機構を有し、体内への吸収量が厳密に調節されているため、健康障害の報告はない。
3-2-2 耐容上限量の策定
ビタミンB12は胃から分泌される内因子を介した吸収機構が飽和すれば食事中から過剰に摂取しても吸収されない。また、大量(500µg/日以上)のシアノコバラミンを経口投与した場合でも内因子非依存的に投与量の1%程度が吸収されるのみである。さらに非経口的に大量(2.5mg/日)のシアノコバラミンを投与しても過剰症は認められていない。このように、現時点でビタミン B12 の過剰摂取が健康障害を示す科学的根拠がないため、耐容上限量は設定しなかった。
3-3 生活習慣病の発症予防
ビタミンB12摂取と生活習慣病の発症予防の直接的な関連を示す報告はないため、目標量は設定しなかった。
4 生活習慣病の重症化予防
ビタミンB12摂取と生活習慣病の重症化予防の直接的な関連を示す報告はないため、生活習慣病の重症化予防を目的とした量は設定しなかった。
5 活用に当たっての留意事項
ビタミンB12を多く含む食品は偏っているため、摂取量は日間変動が高い。食事1回当たりの内因子を介した吸収機構の飽和量は、およそ2.0µgと推定されており、1日3回の食事から6.0µg程度のB12しか吸収することができない。一度に多量のビタミンB12を含む食品を摂取するよりも、食事ごとに2.0 µg程度のビタミンB12を含む食品を摂取する方が望ましいと考えられる。
高齢者では、加齢による体内ビタミンB12貯蔵量の減少に加え、食品たんぱく質に結合したビタミンB12の吸収不良によるビタミンB12の栄養状態の低下と神経障害の関連が報告されている。
一方で、胃酸分泌量は低下していても内因子は十分量分泌されており、遊離型のビタミンB12の吸収率は低下しないことが報告されている。介入研究の結果としては、ビタミンB12が欠乏状態の高齢者に遊離型ビタミンB12強化食品やビタミンB12を含むサプリメントを数か月間摂取させると、ビタミB12の栄養状態が改善されることが報告されている。しかしながら、まだ研究途上であり、高齢者へのビタミンB12サプリメントが健康の保持に有効か否かの結論は、更なる多くの研究報告の蓄積が必要である。
6 今後の課題
ビタミンB12については、血液学的性状を適正に維持するために必要な量に加えて、ビタミンB12 を必要とする二つの酵素活性を十分に発揮させることができるビタミンB12摂取量も考慮して、必要量を算定するという考え方もある。
こうした中、従来から使用されている推奨量2.4µg/日は、ビタミンB12の適正な栄養状態を維持するには低い可能性を示唆する論文が出始めており、今後の知見の蓄積次第では、更なる検討が必要となる可能性がある。
ビタミンB12の食事摂取基準及び私の摂取量と摂取源としている主な食品
ビタミンB12の食事摂取基準(μg/日)

ビタミンB12の摂取量と吸収量
私の現在のビタミンB12の摂取量は、推奨量2.4μg/日の倍以上の6.0μg/日です。
なお、その多くは夕食での摂取であり、朝食での摂取量は1.3μg/日で、昼食においては全く摂取できていませんが、それを考慮しても、計算上は、朝食からの吸収量1.3μg/日と夕食からの吸収量2.0μg/日を足した3.3μg/日程度を吸収できていて、推奨量2.4μg/日を0.9μg/日上回ることができていることになります。
ビタミンB12の主要な摂取源
多様な食品をバランス良く
生命と健康長寿に必要な栄養素や機能性成分を出来るだけ多く含み、かつ、命と健康に悪い成分が出来るだけ少ない多様な食品をバランス良く食べるよう心がけています。
しかしながら、ビタミンB12はビタミンB群の中では特異な栄養素であり、豊富に含む食品、特に日常的に手に入り易くて、食材として使い易い食品は、特定の魚介類、レバー、赤肉、鶏卵、植物性食品の中では海苔等に限られています。
私の場合、鯖缶、鰯缶、鮭、縮緬雑魚(しらす干し)と鶏卵だけがビタミンB12の実質的な摂取源となっており、こうした食品を食べなければ完全に不足することになります。そして、これらの中でも縮緬雑魚(しらす干し)と鶏卵は、毎日の朝食でも手軽に食べ易い食品であり、ビタミンB12の貴重な摂取源となっています。
ビタミンB12の摂取源としている食品(上位10食品)
下記の各表は、私が常食している全ての食品を「食品成分データベース」で検索して得られた結果をNumbersで集計したビタミンB12の摂取量が多い上位10食品です。(単位:μg)
なお、当然ながら食べている食品の種類は日々異なりますが、これらの食品の多くはほぼ毎日食べているものであり、頻度が少ないものでも1週間に1回以上は食べています。
また、それぞれの摂取量も日によって変動しますので1日当たりの概算的な平均摂取量です。
食品 | 鯖缶 | 鰯缶 | 鮭 | 縮緬雑魚(しらす干し) | 鶏卵 | ヨーグルト | 鶏胸肉 | ブナシメジ | 黒酢 | ハイカカオチョコレート |
食品摂取量(g) | 16.0 | 12.0 | 23.0 | 12.0 | 63.6 | 100 | 23.3 | 25.0 | 21.5 | 15.0 |
ビタミンB12摂取量(μg) | 1.52 | 1.52 | 1.21 | 0.74 | 0.70 | 0.20 | 0.05 | 0.03 | 0.02 | 0.02 |
まとめ
推奨量を満たすB12の摂取
私のように、動物性食品よりも植物性食品からの栄養摂取に比重をおいている場合は、ビタミンB12が推奨量を満たすよう特に心掛けることが必要だと考えています。
また、ネット上には、ビタミンB12は腸内細菌によっても合成されるので、一般に欠乏することはないといった情報がある一方で、ビタミンB12を合成できず消費するだけの腸内細菌も多いといった情報もあるので、腸内細菌によるビタミンB12の合成に安易に期待することは避けた方が良いとも考えています。
チームプレーで働くビタミンB群
前回まで、ビタミンB群のチームプレーについて書いてきましたが、ビタミンB12は、B群の中でも特に葉酸(ビタミンB9)と共同連携して働きます。
次回は、その葉酸(ビタミンB9)の摂取基準と摂取量等について書きます。
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今回は、ビタミンB6の機能をイメージした画像を作成してもらいました。
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