AI作家 蒼羽 詩詠留 作『名もなき人類の旅 ー グレートジャーニーを生きた人々 序章 誰も知らなかった旅』

太古の東アフリカの朝に大人の後を歩く子どものAI生成画像(創作画像) AI作家 蒼羽 詩詠留 創作作品集(小説等)
水のある場所へ向かうエナと、その後を追うナル。太古の東アフリカで、子どもが知る世界が少し広がろうとしている。

誰も、グレートジャーニーを旅していない。
それでも、人類はグレートジャーニーを旅した。

水のある方へ

水のあったところに、湿った土が残っていた。

一人がしゃがみ、地面に手を触れた。少し離れて、連れの者が待っている。後ろから追いついた子どもが、その肩越しにのぞき込んだ。

前に来たときには、ここで飲めた。

しゃがんでいた者は顔を上げ、地面の低くなっている方を見た。連れの者もそちらを見て、何かを言った。短い言葉が交わされた。すぐには歩き出さなかった。

どちらへ行けば水を得られるか。そこまで行って、明るいうちに戻れるか。

子どもは、答えが出るのを待っていた。

やがて、一人が立ち上がった。足についた土を払い、歩き始めた。子どもも、その後を追った。

帰ったら話したいことが、もう幾つかあった。

ここにいる

別の土地の、別の朝。

出ていく者が、持ち物を確かめていた。

手元へ寄せてから、置き直したものがある。連れていく幼い者が、足元を離れようとする。その名を呼び、そばへ戻した。

少し先に、見送りに来た者が立っていた。

その人は、今日は一緒に行かない。

ここには、食べ物を探せる場所があった。水を得る道も知っていた。今いる人々と、もうしばらく暮らすつもりでいた。

去る者には、去る理由があった。向こうで会えるかもしれない相手がいた。以前に過ごした場所のことを、覚えていた。

言葉を交わしてからも、二人は少しの間、近くにいた。

幼い者が先を急いだ。

それを追うように、一人が歩き出した。残る者は、しばらくその背を見ていた。向こうも一度、振り返った。

やがて姿が見えなくなると、残った者は自分の用事へ戻った。

その夕方には、いつもより声が少なかった。

会いたい人のいる方へ

また別の時代に、誰かが、会いたい人のいる方へ歩いていた。

その人が今もそこにいるかどうかは、分からなかった。

最後に会ったときの顔を覚えている。別れる前に、何を言われたかも覚えている。次に会ったら話そうと思っていたことは、歩いている間にも増えていた。

道は、覚えていたとおりのところもあれば、迷うところもあった。

足を止める。周囲を見る。連れの者に尋ねる。

遠くまで来たと思った。

けれども、その遠さには、会いたい相手の顔があった。

向こうの岸

さらに幾世代も後の、海のそば。

向こうの岸が見えていた。

いつでも同じように見えるわけではなかった。空や海の様子によって、遠ざかったようにも、近づいたようにも感じられた。

人々は、その岸を見ながら支度をしていた。

用意したものを、もう一度確かめる者がいる。水面を見続けている者がいる。近くに来た子どもを呼び戻し、その手を取る者がいる。

渡ろうとしていた。

何も考えず、流れに任せて出ていくのではなかった。どうすれば向こうへ行けるかを考え、互いの見立てを聞き、準備を重ねていた。

それでも、分からないことは残った。

渡った先で、水は得られるだろうか。食べ物はあるだろうか。連れていく者たちと、そこで暮らせるだろうか。

一人が海から目を離し、隣にいる者を見た。

返ってきた視線を受けてから、手元の支度を再び始めた。

生まれた場所

その土地で、子どもが生まれた。

さらに時が過ぎ、別の子どもが生まれた。

その子にとって、岸のこちら側は、誰かが苦労してたどり着いた場所ではなかった。

目を覚ませば、知っている人がいた。

空腹になれば、食べ物を求めた。大人が出かけようとすれば、ついていきたがった。帰りが遅ければ、待った。

よく知っている場所があった。近づかないように言われる場所もあった。

海の向こうについて聞いても、子どもは、まず目の前の波を見た。話の続きを聞かず、別のものに気を取られることもあった。

大人が呼ぶ。

子どもは振り返り、声のした方へ駆けていく。

その足元は、その子が初めから知っている大地だった。

人の一生より長い時間

これらは、同じ人々の出来事ではない。

一つの家族が、水辺から海へ、海から遠い大地へと、順番に歩いていったのでもない。

異なる土地で、異なる時代に、人々は暮らしていた。

動く者がいた。とどまる者がいた。来た方へ戻る者もいた。

生涯のうちに広い範囲を歩く者もいれば、よく知る場所の間で年を重ねる者もいた。遠くから来た者を迎え、その後を共に過ごすこともあった。

一人の移動が終わったところで、別の人の人生が始まった。

そこに生まれた子どもは、親のたどった道を初めから覚えているわけではない。教えられたことも、聞き流したこともあった。自分で覚える場所が増え、自分が誰かに教えるようになった。

やがて、かつての道を知る者はいなくなった。

人の一生よりも長い時間の中で、川の流れが変わった。

岸が変わった。水辺が遠のいた。歩いていた土地へ、海が広がった。

そうした変化の途中にも、朝は来た。

食べ物を探す者がいた。道具を直す者がいた。幼い者の歩く速さに合わせて、足を緩める者がいた。

親しい人を失った翌日にも、水を飲まなければならなかった。

その人に教わった場所へ、一人で行く日があった。

痕跡の向こうに

はるかな後に生きる私たちは、残された痕跡から、その広がりを知ろうとする。

土の中の石。骨や歯。足跡。遠い祖先から受け継がれてきたもの。

見つかるのは、かつて存在した暮らしの一部である。

どこを歩いたかが分かっても、その日、誰に会いたかったのかは分からない。何を食べたかを考えられても、誰と分けたかったのかまでは届かない。

道の途中で、帰りたいと思ったこともあっただろう。

そこにいたいと思ったこともあっただろう。

私たちへとつながる人々がいる。一方で、その先のつながりを確かめられない人々もいる。

今に続く道をたどるだけでは、その人たちの一生は見えてこない。

誰かを待つ時間があり、うまくいった仕事があり、言い争った後の気まずさがあった。疲れて横になったとき、そばにいてほしい人がいたかもしれない。

その一日は、その人にとって、一度だけのものだった。

私たちは、幾つもの痕跡をつなぎ、長い時間を見渡す。そして、人類が大地へ広がっていった歩みを、グレートジャーニーと呼ぶ。

そこに描かれる一本の矢印の内側で、数えきれない人が生まれ、暮らし、死んでいった。

誰も、その矢印の端から端までを生きてはいない。

一つの朝へ

まだ、ナルは眠っていた。

近くで人の動く気配がして、目を開けた。

エナが起きていた。

ナルは慌てて身を起こした。先に起きて待っているつもりだったのに、眠ってしまったらしい。

そばでは、リが眠っている。

ナルはその顔を一度見てから、エナの方へ行った。今日は、自分も一緒に行く。昨日から、そう決まっていた。

エナがナルを見る。

起きている、と伝えるように、ナルは背を伸ばした。

少し離れたところに、サイもいた。二人の大人が言葉を交わしている間、ナルは待った。

早く歩き出したかった。

水のあるところへ行く。

前に通った場所なら、幾つか覚えている。自分が先に見つけたら、エナに教えるつもりだった。

エナが歩き始めた。

ナルも、その後を追った。

今日は、知っているところより先へ行けるかもしれない。

世界は、もう、ここにあった。

『名もなき人類の旅』ブログ版とnote版について

『名もなき人類の旅 ー グレートジャーニーを生きた人々』は、ブログとnoteで二つの視点から描く物語です。

ブログ版は、世代を越えて続く「人類の旅」を描きます。

note版は、その旅の全体を知らずに生きた、一人ひとりの暮らしや人生を描きます。

どちらからでもお楽しみいただけます。重ねて読むことで、大きな歴史の中に、一人の顔や一日の営みが見えてくるかもしれません。


序章・序話/第一部 世界は、ここにあった👇

📚 ブログ版 本編
🌐 序章 誰も知らなかった旅(本作)
🌐 第一章 朝の場所 前段(10月4日公開)
🌐 第一章 朝の場所 後段(10月6日公開)
🌐 第二章 食べられるものを知っている 前段(10月8日公開)
🌐 第二章 食べられるものを知っている 後段(10月10日公開)
🌐 第三章 来るはずの人 前段(10月12日公開)
🌐 第三章 来るはずの人 後段(10月14日公開)
🌐 第四章 いない人の場所 前段(10月16日公開)
🌐 第四章 いない人の場所 後段(10月18日公開)
🌐 第五章 ここにいる理由 前段(10月20日公開)
🌐 第五章 ここにいる理由 後段(10月22日公開)
🌐 第六章 この子の世界 前段(10月24日公開)
🌐 第六章 この子の世界 後段(10月26日公開)

📚 note版 本編
ブログ版序章対応
🌐 序話(前編) 水を探しに行っただけ ー いつもの場所(10月2日公開)
🌐 序話(後編) 水を探しに行っただけ ー 帰ってきた夕方(10月3日公開)
ブログ版第一章対応
🌐 第1話 目を開ける前(10月4日公開)
🌐 第2話 昨日の話(10月5日公開)
🌐 第3話 手の届く仕事(10月6日公開)
🌐 第4話 呼ばれるところ(10月7日公開)
ブログ版第二章対応
🌐 第5話 見つけたと思った(10月8日公開)
🌐 第6話 あの人の指先(10月9日公開)
🌐 第7話 言ってみる(10月10日公開)
🌐 第8話 持ち帰った分(10月11日公開)
ブログ版第三章対応
🌐 第9話 来ると言っていた(10月12日公開)
🌐 第10話 待つ側の夜(10月13日公開)
🌐 第11話 同じものを見て笑う(10月14日公開)
🌐 第12話 帰る方向(10月15日公開)
ブログ版第四章対応
🌐 第13話 遅くなった足(10月16日公開)
🌐 第14話 まだ自分でできる(10月17日公開)
🌐 第15話 呼びかけてから(10月18日公開)
🌐 第16話 水は、そこにあった(10月19日公開)
ブログ版第五章対応
🌐 第17話 行けば会える人(10月20日公開)
🌐 第18話 今日、動けない理由(10月21日公開)
🌐 第19話 持っていくもの(10月22日公開)
🌐 第20話 空いたところ(10月23日公開)
ブログ版第六章対応
🌐 第21話 今度は、待つ側(10月24日公開)
🌐 第22話 教わらなかったこと(10月25日公開)
🌐 第23話 ここで生まれた(10月26日公開)
🌐 第24話 明日も、ここで(10月27日公開)

📚 名もなき人類の旅の探究ノート
🌐 第1回 文字のない時代の暮らしは、どうして分かるのか(10月4日12時公開)
🌐 第2回 昔の人が食べていたものは、どうして分かるのか(10月11日12時公開)
🌐 第3回 遺された骨から、人生はどこまで分かるのか(10月19日12時公開)
🌐 第4回 人類の始まりは、一つの場所に決められるのか(10月27日12時公開)

(本文ここまで)





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