帯方郡から倭国へ至る往還は、単なる“船の進路”ではなく、冊封秩序を可視化する“海上の動脈”であった。本節では『魏志倭人伝』に示される航路記述を出発点に、「古代の記録に現れる方位・里数の読み取り」と「現代地理との照合(北部九州周辺の島々・寄港地の同定)」の2段階で検討する。方法論としては、原文に示された方位語と里数を尊重しつつ、里の換算には二つの代表的換算案を示して比較する(換算値の不確実性は必ず明示する)。
1 原史料に現れる「方位」と「里数」の特徴
『魏志倭人伝』の航路記述は,多くの場合「方可○○里」「絶海中」などの距離語と、「東南」「到」「至」等の方位語を組み合わせて書かれる(第2節参照)。記述の特徴は次の通りである
1. 方位語は相対的:例)「海東南」「至…」など、陸岸から見た方角表現が中心。
2. 里数は概数表現:○百餘里、といった表現が多く、写本間で数値の異同も見られる(例:方可四百餘里 ⇔ 方可二百餘里)。
3. 港湾段階の精緻化:臨津での検査(臨津搜露)や伊都国での受領・再分配という港湾実務の記述は、距離・方位だけでなく“港の機能”を併せて示す。
以上を踏まえ、里数をそのまま現代距離(km/海里)に置き換える際は換算基準の選択が結果に大きく影響するため、複数案を提示して比較する方が妥当である。
2 里換算の方法(例示) 〜 不確実性の明示と二案比較
史料と地理を結びつけるには里→メートルの換算が必要になるが、古代の「里」には時代・地域差がある。ここでは便宜上、二つの代表的案を示し、主要な里数の目安を計算する。計算は逐次示す。
案 A(保守的/学術的に用いられることがある値)
仮定:1 里 = 415.8 m(漢〜魏代の一案)
計算例(逐次)
• 400 里 → 415.8 m × 400
• 415.8 × 4 = 1,663.2(m)
• 1,663.2 × 100 = 166,320 m = 166.32 km
• 200 里 → 415.8 m × 200 = 83,160 m = 83.16 km
案 B(丸めて実務的に扱いやすい値)
仮定:1 里 = 500 m(換算しやすい近似値)
計算例
• 400 里 → 0.5 km × 400 = 200 km
• 200 里 → 0.5 km × 200 = 100 km
解説(不確実性):上の差は重要で、400里が「約166 km」になるか「約200 km」になるかで、対応する現代地点の同定が変わる。従って本文では原典表記の里数を優先して提示し、地図化では両案の範囲表示(誤差帯)を併記することを推奨する。
3 想定される古代航路と現代対応
『魏志倭人伝』の往来線は、概ね「帯方郡(朝鮮半島側の中継)→韓諸国沿岸→対馬・壱岐・末盧→伊都国→女王都(内陸)」の海陸複合線として描かれる(第2節参照)。これを現代地理に照合すると、概ね次の寄港列が候補として挙がる(下は代表的候補とその論点)。
• 帯方郡(遼東〜遼東半島沿岸/楽浪・帯方の所在):中継の起点。郡府から朝鮮半島南端へ下る海路が想定される。
• 韓諸国沿岸(狗邪韓国など):半島西岸の寄港点を経て、外洋へ出る航路分岐が行われる。
• 対馬(島嶼の第一列)/壱岐(中間寄港)/末盧(北部九州東岸):外海から北部九州へ至る古典的踏査点で、伊都(博多湾周辺)の前哨となる。
• 伊都国(博多湾西岸〜糸島地域に比定されることが多い):臨津の検査・受領の拠点。ここで荷の検査・再分配・内陸送致の段取りが行われる。
地理的インプリケーション:海況(季節風・潮流)や航海技術を考慮すると、対馬海流の右舷利用・季節的帆走プランが航程に影響を与えたはずであり、里数だけでなく実際の航行時間や寄港頻度の推定が重要となる。
4 小 括
倭国への海上往還は距離移動だけでなく、冊封秩序を現場で機能させるための制度的な海上ネットワークだった。原典に現れる方位語・里数・港湾語は互いに補完する情報であり、単独の指標に依拠すると解釈を誤る。里→現代距離の換算の違い(例:1里≒415.8 m → 400里≒166.3 km、1里≒500 m → 400里=200 km)は到達点の同定に直接響き、季節風・潮流や港での検査・受領・再分配に要する時間的要素も解釈に影響する。図や地図は、原典表記と換算に伴う到達範囲(不確実性帯)を併せて示すことで、複数の解釈を比較できるようになる。
📜 補足解説

• 原典表記:本文・図では可能な限り原文の方位語・里数・港名が示される。これらは位置情報と制度情報(例:臨津=検査)を同時に伝える。
• 換算の具体例:代表的な二案を参照すると分かりやすい。案A=1里=415.8 m(400里 ≒ 166.32 km、200里 ≒ 83.16 km)、案B=1里=500 m(400里 = 200.00 km、200里 = 100.00 km)。換算の差で到達候補が変わる点に注意。
• 図の表現:到達範囲を帯(幅)で示す図は距離不確実性を可視化している。帯が広ければ解釈の幅が大きい。港近傍の記号は検査・受領などの制度的機能を示唆する。
• 航海条件:同じ里数でも、季節風(モンスーン)や対馬海流などの潮流、寄港での手続き時間により実際の所要時間や安全判断は変わる。距離は目安であり、時間と海況をあわせて考慮する必要がある。
• 検証性・出典:本稿の図表や脚注には使用した換算値・参照写本・地図データの出所を付してある。提示された解釈は一案であり、新資料や別の換算をもとに再検討が可能である。
📚 語り手コメント(詩詠留)
海は端正な秩序を運ぶ列車の線路ではなく、手紙を託す人々の息づかいが混じる広い会話場だ。封緘の紐が震えるたび、都の声と島の応えが行き来する。地図を引くときは、確かな線とともに、迷いの帯も描き加えたい 〜 それが過去の声を誠実に伝える術だから。
帯方郡から倭国までの航路・方位・距離の検討を通じて、魏志倭人伝の記述は単なる地理的描写ではなく、冊封秩序を現場で支える制度的な道筋を描いたものであることが明らかになりました。
距離の換算や寄港地の推定は確度の問題をはらみますが、それこそが当時の知識と権威の「届き方」を考える手がかりとなります。
次の第4章では、この知見をもとに『和国探訪記』を形作るための創作判断と補足資料に進みます。
(本文ここまで)
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