多妻を許容しつつも、倭人の婚姻は嫉妬や争いを生まず、
法を犯せば妻子や門戸すら失う厳しさがあった。
尊卑の序列と市場経済、そして交易を監督する「大倭監」。
第42~45段落では、彼らの社会秩序と経済の実態を異文から読み解く。
本節では、『魏志倭人伝』の複数の写本や諸本の間で生じている違いを19回(壱・弍・参・四・五・六・七・八・九・十・十一・十二・十三・十四・十五・十六・十七・十八・十九)に分けて提示しています。
📘第2章 第6節:異文・比較注記(第42段落)
🔹該当段落(中華書局本・基準本文)
其俗,國大人皆四五婦,下戸或二三婦;婦人不淫,不妬忌,不盜竊,少諍訟。
🧾 異文一覧(第42段落)【段落逐次方式】
《注149》【紹熙本】
「國大人皆四五婦」→「國之大人皆四五婦」
• 分類:🅓語句の増補
• 解説:「之」が追加され、「国に属する大人(支配層)」という意味がより明示的になっている。
《注150》【百衲本】
「下戸或二三婦」→「下戸或有二三婦」
• 分類:🅓語句の増補
• 解説:「有」が追加され、「二三婦を有する」という文意が明確になる。意味自体に大差はない。
《注151》【今本】
「婦人不淫」→「婦女不淫」
• 分類:🅔語彙の違い(婦人⇄婦女)
• 解説:「婦人」が「婦女」と改められており、対象をより一般的な女性集団として表現している。文脈的には同義。
《注152》【今本】
「不妬忌」→「不妬不忌」
• 分類:🅓語句の増補(繰返し)
• 解説:「不妬」と「不忌」を独立させることで、嫉妬と忌避を分けて強調した形に整えられている。
《注153》【三国志集解(裴注系)】
「四五婦」について、「婦,妻也」と注釈。
• 分類:🅓補注の解釈
• 解説:裴松之が「婦」は「妻(正妻や側室)」を指すと説明。
📋 異文注記対応表(第42段落)
注番号 | 原文表記 | 異文表記 | 出典 | 分類 | 概説(簡潔な要約) |
---|---|---|---|---|---|
注149 | 國大人皆四五婦 | 國之大人皆四五婦 | 紹熙本 | 🅓語句の増補 | 「之」により、国に属する支配層を指すことが明確化。 |
注150 | 下戸或二三婦 | 下戸或有二三婦 | 百衲本 | 🅓語句の増補 | 「有」が加わり、二三婦を「有する」と明確化。 |
注151 | 婦人不淫 | 婦女不淫 | 今本 | 🅔語彙の違い | 「婦人」が「婦女」に置き換わり、対象が一般化。 |
注152 | 不妬忌 | 不妬不忌 | 今本 | 🅓語句の増補 | 「不妬」と「不忌」を分けて表現、意味は同一。 |
注153 | 四五婦(解釈) | ― | 裴松之注 | 🅓補注の解釈 | 「婦」は妻・側室を意味することを説明。 |
📘第2章 第6節:異文・比較注記(第43段落)
🔹該当段落(中華書局本・基準本文)
其犯法,輕者沒其妻子,重者滅其門戶及親族。
🧾 異文一覧(第43段落)【段落逐次方式】
《注154》【紹熙本】
「輕者沒其妻子」→「輕者沒其妻與子」
• 分類:🅑語順の違い/接続表現
• 解説:「妻子」が「妻與子」と書き改められており、妻と子を並列的に強調している。意味差は軽微。
《注155》【百衲本】
「重者滅其門戶及親族」→「重者滅其門戶并親族」
• 分類:🅔語彙の違い(及⇄并)
• 解説:「及」が「并」に置換。いずれも「〜とともに」の意だが、「并」はやや結合の意味が強い。
《注156》【今本】
「沒其妻子」→「沒其家口」
• 分類:🅔語彙の置換
• 解説:「妻子」が「家口」に置換され、家族全体(妻・子・家人)を指す包括的な表現に変わっている。
《注157》【三国志集解(裴注系)】
「沒其妻子」について、「沒,奪也」と注釈。
• 分類:🅓補注の解釈
• 解説:裴松之は「沒」を「奪う・没収する」の意味と説明。ここでは妻子の身柄を没収する刑罰を示す。
📋 異文注記対応表(第43段落)
注番号 | 原文表記 | 異文表記 | 出典 | 分類 | 概説(簡潔な要約) |
---|---|---|---|---|---|
注154 | 輕者沒其妻子 | 輕者沒其妻與子 | 紹熙本 | 🅑語順の違い | 「妻子」を「妻與子」と改め、並列性を明確化。 |
注155 | 滅其門戶及親族 | 滅其門戶并親族 | 百衲本 | 🅔語彙の違い | 「及」→「并」に置換、意味はほぼ同じ。 |
注156 | 沒其妻子 | 沒其家口 | 今本 | 🅔語彙の置換 | 「妻子」→「家口」で家族全体を包括的に表現。 |
注157 | 沒其妻子(解釈) | ― | 裴松之注 | 🅓補注の解釈 | 「沒」は「奪う・没収」の意味と解説。 |
📘第2章 第6節:異文・比較注記(第44段落)
🔹該当段落(中華書局本・基準本文)
尊卑各有差序,足相臣服。
🧾 異文一覧(第44段落)【段落逐次方式】
《注158》【紹熙本】
「差序」→「差第」
• 分類:🅔語彙の違い
• 解説:「序」が「第」に置き換わり、階層秩序を「序列」よりも明確な段階的序位として強調した表現。
《注159》【百衲本】
「足相臣服」→「則相臣服」
• 分類:🅔語彙の違い(足⇄則)
• 解説:「足(十分に)」が「則(すなわち)」に置換。意味はやや異なり、「十分に臣服できる」から「すなわち臣服する」という因果的表現に変化。
《注160》【今本】
「各有差序」→「各有差次」
• 分類:🅔語彙の置換
• 解説:「序」が「次」に置換され、階層秩序を「順序」として一般的に表現。
《注161》【三国志集解(裴注系)】
「差序」について、「差序,尊卑之秩也」と注釈。
• 分類:🅓補注の解釈
• 解説:裴松之は「差序」を尊卑・階級秩序の意と説明。
📋 異文注記対応表(第44段落)
注番号 | 原文表記 | 異文表記 | 出典 | 分類 | 概説(簡潔な要約) |
---|---|---|---|---|---|
注158 | 差序 | 差第 | 紹熙本 | 🅔語彙の違い | 「序」→「第」で階層の段階性を強調。 |
注159 | 足相臣服 | 則相臣服 | 百衲本 | 🅔語彙の違い | 「足」→「則」で「十分」から「すなわち」に変化。 |
注160 | 各有差序 | 各有差次 | 今本 | 🅔語彙の置換 | 「序」→「次」で一般的な「順序」を表現。 |
注161 | 差序(解釈) | ― | 裴松之注 | 🅓補注の解釈 | 「差序」は尊卑の秩序を意味すると説明。 |
📘第2章 第6節:異文・比較注記(第45段落)
🔹該当段落(中華書局本・基準本文)
收租賦,有邸閣;國國有市,交易有無,使大倭監之。
🧾 異文一覧(第45段落)【段落逐次方式】
《注162》【紹熙本】
「有邸閣」→「有邸有閣」
• 分類:🅓語句の増補(並列強調)
• 解説:「邸閣」が「邸」「閣」の二語に分解され、それぞれが独立した施設名であることを明確化している。
《注163》【百衲本】
「國國有市」→「國國皆有市」
• 分類:🅓語句の増補
• 解説:「皆」が追加され、すべての国に市場が存在することを強調している。
《注164》【今本】
「交易有無」→「交易所有無」
• 分類:🅔語彙の置換
• 解説:「有無」が「所有無」に置き換えられ、語調がやや強化されているが、意味は同一。
《注165》【三国志集解(裴注系)】
「邸閣」について、「邸,舍也;閣,倉也」と注釈。
• 分類:🅓補注の解釈
• 解説:裴松之は「邸」は宿舎、「閣」は倉庫であると説明。倭国の交易拠点に宿泊・保管施設が併設されていたことを示唆する。
📋 異文注記対応表(第45段落)
注番号 | 原文表記 | 異文表記 | 出典 | 分類 | 概説(簡潔な要約) |
---|---|---|---|---|---|
注162 | 有邸閣 | 有邸有閣 | 紹熙本 | 🅓語句の増補 | 「邸」「閣」を分けて並列し施設名を明確化。 |
注163 | 國國有市 | 國國皆有市 | 百衲本 | 🅓語句の増補 | 「皆」が加わり、全ての国に市場があることを強調。 |
注164 | 交易有無 | 交易所有無 | 今本 | 🅔語彙の置換 | 「有無」が「所有無」に置換。意味は変わらない。 |
注165 | 邸閣(解釈) | ― | 裴松之注 | 🅓補注の解釈 | 「邸=宿舎」「閣=倉庫」と裴松之が解説。 |
注:本章における原文は、OpenAI o3 が公開ドメインの旧刻本(無標点)を参照しつつ、中華書局点校本の慣用句読を統計的に再現した「再現テキスト」です。校訂精度は保証されません。引用・転載の際は必ず一次資料で照合してください。
次回は、第46段落から第48段落までの複数の写本や諸本の間で生じている違いを提示します。
(本文ここまで)
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