前節では、中華書局版『三國志』を底本とした魏志倭人伝の原文を提示しました。
今回から4回(壱・弍・参・四)に分けて、原文に記された各文の意味を逐語的に明らかにすることで、5節の現代語訳への理解を深める準備を行います。
第4節:逐語訳(中華書局版) 壱:海を越えて倭へ 〜 航路と倭国の国々
🔹原文:
倭人在帶方東南大海之中,依山島為國邑。
🔸逐語訳:
倭人は、帯方郡の東南、大海の中に在る。
山や島に依りて、国邑(こくゆう)を為す。
📝補注:
「倭人」=主語、「在〜中」=存在文、「依〜為〜」=手段+帰結構文。
舊百餘國,漢時有朝見者,今使譯所通三十國。
旧(いにしえ)は百余国あり。漢の時代に、朝見する者あり。
今、使者と通訳の通ずる所、三十国なり。
「有朝見者」は存在構文、「所通」は「〜が通じるところ」という形式主語。
從郡至倭,循海岸水行,歷韓國,乍南乍東,到其北岸狗邪韓國七千餘里。
郡より倭に至るには、海岸に循って水行し、韓国を歴て、
乍ち南し、乍ち東し、その北岸──狗邪韓国に到る。
七千余里。
「乍南乍東」は方向を交互に変える意、「狗邪韓国」は最初の寄港地。
始度一海千餘里,至對海國,其大官曰卑狗,副曰卑奴母離。
はじめて一海を度ること、千余里。対海国に至る。
その大官を卑狗と曰い、副官を卑奴母離と曰う。
「始度一海」は倭国ルート最初の航海、「曰〜」は固有名詞の提示。
所居絕島,方可四百餘里,土地山險,多深林,道路如禽鹿徑。
居る所は絶島。面積は方にして、およそ四百余里。
土地は山険しく、深林多し。道路は禽鹿の径の如し。
「方可〜」は「おおよそ〜四方に相当」の意。「如〜」は比喩。
有千餘戶,無良田,食海物自活,乘船南北市糴。
千余戸あり。良田無し。海の物を食して自らを活かす。
船に乗り、南北に市糴す。
「市糴(してき)」=市場で穀物を購入する意。「自活」=自給的生存。
又南渡一海千餘里,名曰瀚海,至一大國,官亦曰卑狗,副曰卑奴母離。
また南に一海を渡ること、千余里。名を瀚海と曰う。
一大国に至る。官もまた卑狗と曰い、副を卑奴母離と曰う。
「名曰〜」は地名紹介構文。瀚海=対馬と壱岐の間の海域名。
方可三百里,多竹木叢林,有三千許家,差有田地,耕田猶不足食,亦南北市糴。
方にしておよそ三百里。竹木と叢林(そうりん)多し。三千ばかりの家あり。
やや田地あり。耕して田とすれど、なお食に足らず。
また南北に市糴す。
「差有」は「少しはある」の意、「猶不足食」=生活苦を示唆。
又渡一海千餘里,至末盧國,有四千餘戶,濱山海居,草木茂盛,行不見前人;
また一海を渡ること千余里、末盧国に至る。
四千余戸あり。山海のほとりに居す。草木は茂り盛んにして、行けば前人を見ず。
「行不見前人」=密林の中、前の人が見えぬほどの茂りよう。
好捕魚鰒,水無深淺,皆沉沒取之。
魚や鰒(あわび)を捕るを好む。水に深浅無く、みな沈没してこれを取る。
「鰒」はアワビ。「皆沈没」=素潜り漁の様子を描写。
東南陸行五百里,到伊都國,有官曰爾支,副曰泄謨觚、柄渠觚,有千餘戶;
東南に陸行すること五百里、伊都国に到る。官を爾支(にし)と曰い、
副官を泄謨觚(えもこ)、柄渠觚(へいここ)と曰う。
千余戸あり。
「泄謨觚・柄渠觚」いずれも倭系の称号とされるが語源未詳。
世有王,皆統屬女王國;郡使往來,常所駐。
世々王有りて、みな女王国に統属す。
郡の使い往来し、常に駐する所なり。
「常所駐」=外交・交通の要衝であったことを示す。
東南至奴國百里,官曰兕馬觚,副曰卑奴母離,有二萬餘戶。
東南に奴国に至ること百里。官を兕馬觚(じまこ)と曰い、副を卑奴母離と曰う。
二万余戸あり。
東行至不彌國百里,官曰多模,副曰卑奴母離,有千餘家。
東に行きて不彌国に至ること百里。官を多模(たも)と曰い、副を卑奴母離と曰う。
千余家あり。
不彌国(ふみこく)は福岡平野一帯に比定されることが多い。
南至投馬國水行二十日,官曰彌彌,副曰彌彌那利,可五萬餘戶。
南に至りて投馬国、水行して二十日。官を彌彌(みみ)と曰い、副を彌彌那利(みみなり)と曰う。
およそ五万余戸なり。
「水行二十日」は距離ではなく航行日数、「可」は「およそ」。
南至邪馬壹國,女王之所都,水行十日,陸行一月,官有伊支馬,次曰彌馬升,次曰彌馬獲支,次曰奴佳鞮,可七萬餘戶。
南に至るに、邪馬壹国。女王の都する所なり。
水行して十日、陸行して一月。官に伊支馬あり、次に彌馬升、次に彌馬獲支、次に奴佳鞮と曰う。
およそ七万余戸なり。
官名の並列は身分序列を表すとされる。「都」は「みやこ」ではなく「おさめる」。
自女王國以北,其戶數道里可得略載,其餘旁國遠絕,不可得詳:
女王国より以北、その戸数・道里、略載するを得べし。
その余の傍国、遠く絶え、詳らかにするを得ず。
「可得略載」は「だいたい記せる」程度、「不可得詳」は「詳述できない」。
次有斯馬國,次有已百支國,次有伊邪國,次有都支國,次有彌奴國,次有好古都國,次有不呼國,次有姐奴國,次有對蘇國,次有蘇奴國,次有呼邑國,次有華奴蘇奴國,次有鬼國,次有為吾國,次有鬼奴國,次有邪馬國,次有躬臣國,次有巴利國,次有支惟國,次有烏奴國,次有奴國,此女王境界所盡。
次に、斯馬国あり。次に、已百支国あり。次に、伊邪国あり。次に、都支国あり。次に、彌奴国あり。次に、好古都国あり。次に、不呼国あり。次に、姐奴国あり。次に、對蘇国あり。次に、蘇奴国あり。次に、呼邑国あり。次に、華奴蘇奴国あり。次に、鬼国あり。次に、為吾国あり。次に、鬼奴国あり。次に、邪馬国あり。次に、躬臣国あり。次に、巴利国あり。次に、支惟国あり。次に、烏奴国あり。次に、奴国あり。
これ、女王の境界の尽くる所なり。
地名の列挙は周辺属国(陪臣国)の提示、「尽」は地理的限界の意。
其南有狗奴國,男子為王,其官有狗古智卑狗,不屬女王。
その南に狗奴国あり。男子を王と為す。
その官に狗古智卑狗あり。女王に属せず。
「不屬」は独立または敵対的立場を示唆。
自郡至女王國萬二千餘里。
郡より女王国に至ること、万二千余里。
全行程距離の総括。帯方郡から邪馬壹国までの推定距離。
注:本原文は、OpenAI o3 が公開ドメインの旧刻本(無標点)を参照しつつ、中華書局点校本の慣用句読を統計的に再現した「再現テキスト」です。校訂精度は保証されません。引用・転載の際は必ず一次資料で照合してください。
次回は、倭人の暮らしとまじないの世界が描かれた原文の意味を逐語的に明らかにします。
(本文ここまで)
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