二度目の人生における健康的な食生活 56~生命と健康長寿に必要な炭水化物の摂取基準と摂取量等 2

食物繊維のイメージ画像 生命と健康長寿に必要な栄養素の摂取基準と摂取量等

 前回の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」における炭水化物に関する記述のうちの全般・共通的事項炭水化物の目標量の策定方法等に引き続き、今回は、食物繊維アルコール今後の課題等について書きます。

「日本人の食事摂取基準(2020版)」における炭水化物に関する記述の要点 2

4 食物繊維

4-1 健康の保持・増進

4-1-1 生活習慣病の発症予防
4-1-1-1 生活習慣病との関連

 食物繊維摂取量と主な生活習慣病の発症率又は死亡率との関連を検討した疫学研究(及びそのメタ・アナリシス)のほとんどが負の関連を示す一方で、明らかな閾値が存在しないことを示している。アメリカ・カナダの食事摂取基準では、これらの研究論文を中心にレビューを行い14g/1,000kcal を目安量としている(注:アメリカ・カナダの食事摂取基準には目標量はなく、目安量を用いている)。これは、それぞれの研究において最も大きな予防効果が観察された群の摂取量の代表値に基づく値である。

4-1-1-2 目標量の策定方法

・成人・高齢者(目標量
 アメリカ・カナダの食事摂取基準では、上記の限界はあるものの、この基準を参考にすれば、成人では理想的には24g/日以上、できれば14 g/1,000 kcal 以上目標量とすべきであると考えられる。しかしながら、平成 28 年国民健康・栄養調査に基づく日本人の食物繊維摂取量の中央値は、全ての年齢区分でこれらよりかなり少ない。そのために、これらの値を目標量として掲げてもその実施可能性は低いと言わざるを得ない。そこで、下記の方法で目標量を算定することとした。
 現在の日本人成人(18 歳以上)における食物繊維摂取量の中央値(13.7 g/日)と、24 g/日との中間値(18.9 g/日)をもって目標量を算出するための参照値とした。次に、成人(18 歳以上)における参照体重の平均値(58.3 kg)と性別及び年齢区分ごとの参照体重を用い、その体重比の0.75 乗を用いて体表面積を推定する方法により外挿し、性別及び年齢区分ごとの目標量を算出した。ただし、参照体重の平均値には、性及び年齢区分(全 10 階級)における値の単純平均を用いた。
 具体的には、18.9(g/日)×〔性別及び年齢区分ごとの参照体重(kg)÷58.3(kg)〕0.75により得られた値を整数にした上で、隣り合う年齢区分間で値の平滑化を行った(表 2)。
 ところで、目標量の算定に用いられた研究の多くは、通常の食品に由来する食物繊維であり、サプリメント等に由来するものではない。したがって、同じ量の食物繊維を通常の食品に代えてサプリメント等で摂取したときに、ここに記されたものと同等の健康利益を期待できるという保証はない。さらに、食品由来で摂取できる量を超えて大量の食物繊維をサプリメント等によって摂取すれば、ここに記されたよりも多くの(大きな)健康利益が期待できるとする根拠はない
・小児(目標量)
(略)
・妊婦・授乳婦(目標量)
(略)

表 2 食物繊維の目標量を算定するために参照した値(g/日)
表 2 食物繊維の目標量を算定するために参照した値(g/日)

4-2 生活習慣病の重症化予防

 食物繊維が数多くの生活習慣病の発症予防に寄与し得ることは前述のとおりであるため、食物繊維の積極的な摂取がそれらの疾患の重症化予防においても重要であろうと考えられる。例えば、食物繊維が各種疾患及びその生体指標に及ぼす効果を検証した介入試験をまとめたメタ・アナリシス
では、体重血中総コレステロールLDL コレステロールトリグリセライド収縮期血圧空腹時血糖有意な改善が認められている 。また、こうした結果は、糖尿病患者を対象としたHbA1c の改善を指標とした介入試験のメタ・アナリシスでも同様であったことから、こうした指標の改善が関連する各種生活習慣病の重症化予防においては、食物繊維の積極的摂取が推奨される。どの程度の食物繊維摂取量を勧めるかについてはまだ十分な結論は得られていないものの、前述のメタ・アナリシスでは、観察研究も含めて、25〜29g/日の摂取量で最も顕著な効果が観察されたと報告している。これは、現在の日本人成人の食物繊維摂取量に比べるとかなり多く目標量よりも多い。したがって、少なくとも目標量を勧めるのが適当であると考えられる。
 食物繊維が豊富な食品は、グリセミック・インデックス(glycemic index:GI)が低い傾向にある。糖尿病患者に低GI食による効果を HbA1c 及び空腹時血糖の変化を指標として検証した介入試験をまとめたメタ・アナリシスは、HbA1c 及び空腹時血糖の有意な改善を観察している。
 しかしながら、どの程度の GI(値)の食事を勧めるべきかに関する知見はまだ十分ではない

5 アルコール

 ヒトが摂取するアルコールは、エタノールである。
 少量のアルコールを習慣的に摂取している集団飲酒習慣を持たないか、ある一定量以上の摂取習慣を有する集団に比べて心筋梗塞の発症や死亡や糖尿病の発症が少ないとの報告が存在する。その一方で、口腔がんを筆頭に、飲酒は数多くの種類の発がんリスクを上昇させることが多くの研究で示されている。また、195 か国のデータを統合したメタ・アナリシスは、飲酒が関連するあらゆる健康障害を総合的に考慮すると、アルコールとして10g/日を超えるアルコール摂取は健康障害のリスクであり、また、10g/日未満であってもそのリスクが下がるわけではないと報告している。また、およそ 60 万人の飲酒者を含む83のコホート研究をまとめたメタ・アナリシスでは、総死亡率を低く保つための閾値(上限)を100g/週としている。
 アルコール(エタノール)は、ヒトにとって必須の栄養素ではないため、食事摂取基準としては、アルコールの過剰摂取による健康障害への注意喚起を行うに留め、指標は算定しないことにした。

6 今後の課題

 次の二つの課題に関する研究を早急に進め、その結果を食事摂取基準に反映させる必要がある。
① 糖の健康影響はその種類によって同じではない。特に、糖類(単糖及び二糖類)と多糖類のそれでは大きく異なる。その健康影響は、その摂取量実態も含めて日本人ではまだ十分には明らかになっていない。それぞれの目標量の設定に資する研究(観察研究及び介入研究)を進める必要がある
② 乳児及び小児における食物繊維の健康影響は、その摂取量実態も含めて、日本人ではまだ十分には明らかになっていない。小児における食物繊維の目標量の設定に資する研究(観察研究及び介入研究)を進める必要がある。

まとめ(炭水化物に関する記述に関する疑問等)

「主な炭水化物の分類」について

 「1-1 定義と分類」において、「食物繊維の定義はまだ十分には定まっていない」と書かれているとおり、炭水化物に関する資料毎に炭水化物の分類や定義等が異なっていることに注意が必要だと考えています。
 「日本人の食事摂取基準(2020年版)」においては、『易消化性炭水化物を糖質難消化性炭水化物を食物繊維と呼ぶことにする。』とした上で、「表 1 主な炭水化物の分類」においてデンプン(英名: starch/スターチ)のアミロースアミロペクチンを、セルロースヘミセルロースと同じに扱い、難消化性炭水化物食物繊維として分類しています。
 しかしながら、一方では『通常の食品だけを摂取している状態では、摂取される食物繊維のほとんどが非でんぷん性多糖類であり、難消化性炭水化物にほぼ一致する。』と書かれていて矛盾しているのではないかと感じています。

 一方、他の資料等の多くは、デンプン(スターチ/アミロースとアミロペクチン)は食物繊維(セルロースやヘミセルロース)とは区分しています。
 また、最近は、デンプン(スターチ)を易消化性デンプン難消化性デンプンレジスタントスターチ/resistant starch)に区分しているものが増えています。

 なお、例えば炊き立てのご飯や蒸したばかりのジャガイモに含まれているデンプン易消化性デンプンであり、人間のアミラーゼによって二糖類のマルトースに分解できるので、私としてはデンプン全てを難消化性炭水化物/食物繊維として分類することには無理があると考えています。
 因みに、日本食品標準成分表(八訂)増補2023年(食品成分データベース)においては、食物繊維として低分子量水溶性食物繊維、高分子量水溶性食物繊維、不溶性食物繊維、難消化性でん粉(不溶性食物繊維の内数)及び食物繊維総量が収載されています。

 ご参考までに、「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、最大の疑問の種であった「表 1 主な炭水化物の分類」が削除されていますので、デンプン全て難消化性炭水化物/食物繊維として分類する考えは廃したのかもしれません。

「エネルギー源としての炭水化物」について

 「1-2 機能」において、『栄養学的な側面からみた炭水化物の最も重要な役割は、エネルギー源である。炭水化物から摂取するエネルギーのうち、食物繊維に由来する部分はごくわずかであり、そのほとんどは糖質に由来する。』と書かれていますが、前項で書きましたとおり、炊き立てのご飯に含まれているデンプンは易消化性デンプンであり、エネルギーになるので「炭水化物から摂取するエネルギーのほとんどは糖質に由来する」との記載にも疑問を抱いています。

 しかしながら、『したがって、エネルギー源としての機能を根拠に食事摂取基準を設定する場合には、炭水化物と糖質の食事摂取基準はほぼ同じものとなり、両者を区別する必要性は乏しい。』として、エネルギー源としての指標(目標量)としては「糖質」ではなく、「デンプンも含む炭水化物」として定めれられているので実態上は問題を生じていないと考えています。

「指標設定の基本的な考え方」について

 最近、ネット上では、(エネルギー源として)糖質を減らして脂質を増やすべきという意見(糖質制限論)と、糖質はしっかりと摂って脂質は控えるべきという意見(脂質制限論)が対立しているようです。双方とも、一応のエビデンスや理論等に基づいているようですが、どちらが正解なのかの結論を出すことは難しいようです。

 肝心の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」においても、『炭水化物、特に糖質の必要量は明らかにできなく推定必要量を算定する意味も価値も乏しいとした上で、たんぱく質及び脂質の残余として炭水化物目標量(範囲)を算定した。』としているくらいなのでやむを得ない状況だと思っています。

「食物繊維の目標量の策定方法」について

 次の内容を踏まえると、現在の食物繊維の食事摂取基準以上の食物繊維を摂取していても十分とは言えないということだと理解しています。

 アメリカ・カナダの食事摂取基準では、上記の限界はあるものの、この基準を参考にすれば、成人では理想的には24g/日以上、できれば14 g/1,000 kcal 以上目標量とすべきであると考えられる。しかしながら、平成 28 年国民健康・栄養調査に基づく日本人の食物繊維摂取量の中央値は、全ての年齢区分でこれらよりかなり少ない。そのために、これらの値を目標量として掲げてもその実施可能性は低いと言わざるを得ない。そこで、下記の方法で目標量を算定することとした。
 現在の日本人成人(18 歳以上)における食物繊維摂取量の中央値(13.7 g/日)と、24 g/日との中間値(18.9 g/日)をもって目標量を算出するための参照値とした。

 また、『しかしながら、平成 28 年国民健康・栄養調査に基づく日本人の食物繊維摂取量の中央値は、全ての年齢区分でこれら(24g/日や14 g/1,000 kcal)よりかなり少ない。』と書かれていますが、「1-1 定義と分類」上はデンプンが含まれている食物繊維の摂取量がこんなに少ないとは思えませんので、「表 2 食物繊維の目標量を算定するために参照した値(g/日)」にはデンプンは含まれていないだろうと考えています。

 次回は、炭水化物摂取量と摂取源としている主な食品等について書きます。

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 今回は、様々な食品に含まれている食物繊維のイメージ画像を作成してもらいました。

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