正始六年から八年にかけ、魏の使節と倭国の間で外交儀礼が交わされる一方、倭女王卑弥呼と狗奴国男王卑弥弓呼との対立が激化していった。郡の役人が調停を試み、詔書や黄幢を用いた檄告が発せられた。
そして、卑弥呼の死によって倭国の政情は大きく揺らぐことになる状況を中華書局本を基準としつつ、各異本に見られる語句の違いや表現の差異を精査・比較する。
本節では、『魏志倭人伝』の複数の写本や諸本の間で生じている違いを19回(壱・弍・参・四・五・六・七・八・九・十・十一・十二・十三・十四・十五・十六・十七・十八・十九)に分けて提示しています。
📘 第2章 第6節:異文・比較注記(第73段落)
🔹 該当段落(中華書局本・基準本文)
其八年,太守王頎到官,
🧾 異文一覧(第73段落)【段落逐次方式】
《注244》【百衲本】
「頎」→「崎」
• 分類:🅐字形の違い(頎⇄崎)
• 解説:「頎」は人名に用いられる正字で、魏志の他所にも出現。「崎」は地名や形容に使われる字であり、誤写とみられる。
《注245》【今本】
「到官」→「到任」
• 分類:🅔語句の置換(同義語)
• 解説:「到官」は官職に着く意で正式度が高い。「到任」は近代以降も使われる一般表現で、語感がやや口語的。
📋 異文注記対応表(第73段落)
注番号 | 原文表記 | 異文表記 | 出典 | 分類 | 概説(簡潔な要約) |
---|---|---|---|---|---|
注244 | 頎 | 崎 | 百衲本 | 🅐字形の違い | 正字「頎」を「崎」と誤記。意味用法が異なる。 |
注245 | 到官 | 到任 | 今本 | 🅔語句の置換(同義語) | 正式度の高い「到官」を口語寄りの「到任」に変更。 |
📘 第2章 第6節:異文・比較注記(第74段落)
🔹 該当段落(中華書局本・基準本文)
倭女王卑彌呼與狗奴國男王卑彌弓呼素不和,遣倭載斯、烏越等詣郡說相攻撃狀。
🧾 異文一覧(第74段落)【段落逐次方式】
《注246》【紹熙本】
「卑彌呼」→「卑彌呼女王」
• 分類:🅔固有名詞の増補
• 解説:肩書を加えて格式を強調。外交文書や儀礼記録では、こうした肩書追加がよく見られる。
《注247》【百衲本】
「卑彌弓呼」→「卑彌弓」
• 分類:🅓語句の省略(名の一部省略)
• 解説:末字「呼」を省略。誤写か意図的な簡略化かは不明。
《注248》【今本】
「倭載斯」→「倭載師」
• 分類:🅐字形の違い(斯⇄師)
• 解説:「斯」は音写で固有名詞とされるが、「師」は職名にも通じる。意味のニュアンスが変化する。
《注249》【紹熙本】
「烏越」→「烏活」
• 分類:🅐字形の違い(越⇄活)
• 解説:音近似による置換。いずれも音訳人名だが、「活」は誤写の可能性が高い。
《注250》【百衲本】
「相攻撃狀」→「互攻撃狀」
• 分類:🅔語句の置換(近義語)
• 解説:「相」と「互」は双方の行為を表すが、「互」は対等性をより強調する。
📋 異文注記対応表(第74段落)
注番号 | 原文表記 | 異文表記 | 出典 | 分類 | 概説(簡潔な要約) |
---|---|---|---|---|---|
注246 | 卑彌呼 | 卑彌呼女王 | 紹熙本 | 🅔固有名詞の増補 | 呼称に肩書を加え、格式を強調。 |
注247 | 卑彌弓呼 | 卑彌弓 | 百衲本 | 🅓語句の省略 | 名の一部を省き簡略化。 |
注248 | 倭載斯 | 倭載師 | 今本 | 🅐字形の違い | 固有名の一字を職掌名にも通じる字に置換。 |
注249 | 烏越 | 烏活 | 紹熙本 | 🅐字形の違い | 音近似による誤写と推定。 |
注250 | 相攻撃狀 | 互攻撃狀 | 百衲本 | 🅔語句の置換(近義語) | 双方性の表現を「互」で対等的に示す。 |
📘 第2章 第6節:異文・比較注記(第75段落)
🔹 該当段落(中華書局本・基準本文)
遣塞曹掾史張政等因齎詔書黃幢,拜假難升米,為檄告喻之。
🧾 異文一覧(第75段落)【段落逐次方式】
《注251》【百衲本】
「塞曹」→「賽曹」
• 分類:🅐字形の違い(塞⇄賽)
• 解説:「塞曹」は官署名。防衛や辺境管理を担う部署。「賽」は意味が異なり、音近似による誤写とみられる。
《注252》【今本】
「張政」→「張正」
• 分類:🅐字形の違い(政⇄正)
• 解説:「政」は人名として史料に見える正字。「正」は意味が異なり、誤記の可能性が高い。
《注253》【紹熙本】
「黃幢」→「黄旗」
• 分類:🅔固有名詞の置換
• 解説:第72段落《注242》と同系統の異文。儀礼用の大旗を一般的な旗に置き換えている。
《注254》【百衲本】
「拜假」→「假拜」
• 分類:🅑語順の違い
• 解説:第68段落《注229》と同系統の異文。焦点の置き方は変わるが、意味差は小さい。
《注255》【今本】
「檄告喻之」→「檄告諭之」
• 分類:🅐字形の違い(喻⇄諭)
• 解説:「喻」は理解させる意、「諭」は教え諭す意。意味は近いが、後者はやや説得的ニュアンスが強い。
📋 異文注記対応表(第75段落)
注番号 | 原文表記 | 異文表記 | 出典 | 分類 | 概説(簡潔な要約) |
---|---|---|---|---|---|
注251 | 塞曹 | 賽曹 | 百衲本 | 🅐字形の違い | 官署名の字を音近似で誤写。 |
注252 | 張政 | 張正 | 今本 | 🅐字形の違い | 正字「政」を「正」と誤記。 |
注253 | 黃幢 | 黄旗 | 紹熙本 | 🅔固有名詞の置換 | 儀礼用の大旗を一般的な旗に置換。 |
注254 | 拜假 | 假拜 | 百衲本 | 🅑語順の違い | 授与行為の順序表現が入れ替わる。 |
注255 | 檄告喻之 | 檄告諭之 | 今本 | 🅐字形の違い | 説得のニュアンスが異なる字に置換。 |
📘 第2章 第6節:異文・比較注記(第76段落)
🔹 該当段落(中華書局本・基準本文)
卑彌呼以死,大作冢,徑百餘步,徇葬者奴婢百餘人。
🧾 異文一覧(第76段落)【段落逐次方式】
《注256》【紹熙本】
「卑彌呼」→「卑彌呼女王」
• 分類:🅔固有名詞の増補
• 解説:第74段落《注246》と同様、肩書「女王」を加えて格式を強調している。
《注257》【百衲本】
「大作冢」→「大作塚」
• 分類:🅐字形の違い(冢⇄塚)
• 解説:「冢」は古字形、「塚」は通用字。意味は同じだが、時代差・字体差による。
《注258》【今本】
「徇葬者奴婢」→「殉葬者奴婢」
• 分類:🅐字形の違い(徇⇄殉)
• 解説:いずれも殉死・殉葬を指すが、「徇」は古字でやや格式が高い表現。「殉」は後世一般的になった通用字。
📋 異文注記対応表(第76段落)
注番号 | 原文表記 | 異文表記 | 出典 | 分類 | 概説(簡潔な要約) |
---|---|---|---|---|---|
注256 | 卑彌呼 | 卑彌呼女王 | 紹熙本 | 🅔固有名詞の増補 | 呼称に肩書を加えて格式を強調。 |
注257 | 大作冢 | 大作塚 | 百衲本 | 🅐字形の違い | 古字「冢」と通用字「塚」の字体差。 |
注258 | 徇葬者奴婢 | 殉葬者奴婢 | 今本 | 🅐字形の違い | 古字「徇」と通用字「殉」の違い。 |
注:本章における原文は、OpenAI o3 が公開ドメインの旧刻本(無標点)を参照しつつ、中華書局点校本の慣用句読を統計的に再現した「再現テキスト」です。校訂精度は保証されません。引用・転載の際は必ず一次資料で照合してください。
次回は、第77段落から最終段落(第80段落)までの複数の写本や諸本の間で生じている違いを提示します。
(本文ここまで)
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