卑彌呼の死後、倭国は再び混乱に沈み、男王の即位も虚しく流血が続いた。十三歳の壹與が王位に就き、ようやく国は安定を取り戻す。魏との外交が再開される中、陳寿は倭国を含む東夷諸国の記録を総括する。
本稿では、混乱から安定への道筋と、史家の視座を異文比較とともに辿る。
本節では、『魏志倭人伝』の複数の写本や諸本の間で生じている違いを19回(壱・弍・参・四・五・六・七・八・九・十・十一・十二・十三・十四・十五・十六・十七・十八・十九)に分けて提示しています。
📘 第2章 第6節:異文・比較注記(第77段落)
🔹 該当段落(中華書局本・基準本文)
更立男王,國中不服,更相誅殺,當時殺千餘人。
🧾 異文一覧(第77段落)【段落逐次方式】
《注259》【紹熙本】
「男王」→「男子王」
• 分類:🅔 固有名詞・称号の表記差
• 解説:「男子王」とすることで、性別を強調した表現に変化している。倭国王位継承の性別区分を明確化した可能性がある。
《注260》【百衲本】
「誅殺」→「誅戮」
• 分類:🅐 字形・語彙の差
• 解説:「戮」は集団処刑のニュアンスが強く、百衲本では殺害の規模・残虐性を強調する傾向が見られる。
《注261》【今本】
「當時殺千餘人」→「於是殺千餘人」
• 分類:🅑 語順・接続語の違い
• 解説:「於是」は前文との因果関係を明確にし、事件の結果としての大量殺害を強調している。時制的なニュアンスの差も生じる。
《注262》【殿本】
「千餘人」→「千餘」
• 分類:🅓 語句の省略
• 解説:「人」の字を省略し、数量のみで表現。漢文ではしばしば見られる簡略法で、意味は変わらないが表現がやや簡潔になる。
📋 異文注記対応表(第77段落)
注番号 | 原文表記 | 異文表記 | 出典 | 分類 | 概説(簡潔な要約) |
---|---|---|---|---|---|
注259 | 男王 | 男子王 | 紹熙本 | 🅔 | 性別をより明確化する表現に変更。 |
注260 | 誅殺 | 誅戮 | 百衲本 | 🅐 | 集団処刑を意味する語に置換し、残虐性を強調。 |
注261 | 當時殺千餘人 | 於是殺千餘人 | 今本 | 🅑 | 接続語の変更により因果関係を明確化。 |
注262 | 千餘人 | 千餘 | 殿本 | 🅓 | 「人」を省き簡潔化、意味差はほぼなし。 |
📘 第2章 第6節:異文・比較注記(第78段落)
🔹 該当段落(中華書局本・基準本文)
復立卑彌呼宗女壹與,年十三為王,國中遂定。
🧾 異文一覧(第78段落)【段落逐次方式】
《注263》【紹熙本】
「壹與」→「一與」
• 分類:🅔 固有名詞の字体差
• 解説:「壹」と「一」はともに「ひとつ」の意だが、「壹」は大字で、公文書や人名において誤読防止や格式を保つために用いられる。紹熙本は簡易字体「一」を使用。
《注264》【百衲本】
「宗女」→「女宗」
• 分類:🅑 語順の違い
• 解説:意味はほぼ同じだが、語順が入れ替わることで「女」の強調度が変化。百衲本ではまず性別を明示し、その後に血縁関係を示す構造。
《注265》【今本】
「年十三為王」→「年十三立為王」
• 分類:🅓 語句の増補(動詞追加)
• 解説:「立」が加わることで即位の能動的行為を強調。儀式性や正式な王位継承を意識した表現となる。
《注266》【殿本】
「遂定」→「安定」
• 分類:🅐 語彙の差
• 解説:「安定」はより平穏・安寧のニュアンスが強く、殿本は政治的混乱が完全に収束した印象を与える。
📋 異文注記対応表(第78段落)
注番号 | 原文表記 | 異文表記 | 出典 | 分類 | 概説(簡潔な要約) |
---|---|---|---|---|---|
注263 | 壹與 | 一與 | 紹熙本 | 🅔 | 大字「壹」を簡略字「一」に置換、人名の字体差。 |
注264 | 宗女 | 女宗 | 百衲本 | 🅑 | 語順逆転により性別の強調度が変化。 |
注265 | 年十三為王 | 年十三立為王 | 今本 | 🅓 | 「立」を加え即位の行為性を強調。 |
注266 | 遂定 | 安定 | 殿本 | 🅐 | 「安定」は平穏・安寧をより明示。 |
📘 第2章 第6節:異文・比較注記(第79段落)
🔹 該当段落(中華書局本・基準本文)
政等以檄告喻壹與,壹與遣倭大夫率善中郎將掖邪狗等二十人送政等還,因詣臺,獻上男女生口三十人,貢白珠五千孔、青大勾珠二枚、異文雜錦二十匹。
🧾 異文一覧(第79段落)【段落逐次方式】
《注267》【紹熙本】
「檄告喻」→「檄語喻」
• 分類:🅐 語彙差(字形・意味の近似)
• 解説:「告」と「語」はいずれも伝達を意味するが、「告」は公的告知、「語」は口頭伝達の意味が強い。紹熙本では文書性より口頭性がやや強まる。
《注268》【百衲本】
「壹與」→「一與」
• 分類:🅔 固有名詞の字体差
• 解説:第78段落注263と同様、大字「壹」を簡略字「一」に置換。
《注269》【今本】
「率善中郎將」→「率善中郎將軍」
• 分類:🅓 語句の増補(官職名拡張)
• 解説:「將軍」を加えて官職名を正式かつ格式高く表現。後代編纂で軍事的地位を明示する意図か。
《注270》【殿本】
「掖邪狗」→「掖耶狗」
• 分類:🅔 固有名詞の表記差
• 解説:人名の音写における「邪」⇔「耶」の異同。音価差はほぼなく、写本習慣による異体字の置換と考えられる。
《注271》【紹熙本】
「白珠五千孔」→「白珠五千斛」
• 分類:🅐 語彙差(量詞の違い)
• 解説:「孔」は玉や珠を貫く穴の単位、「斛」は容量単位。宝物の計量法が異なる異本で、解釈の方向性が変化する。
📋 異文注記対応表(第79段落)
注番号 | 原文表記 | 異文表記 | 出典 | 分類 | 概説(簡潔な要約) |
---|---|---|---|---|---|
注267 | 檄告喻 | 檄語喻 | 紹熙本 | 🅐 | 「告」を「語」に置換し、公的告知より口頭性が強まる。 |
注268 | 壹與 | 一與 | 百衲本 | 🅔 | 大字「壹」を簡略字「一」に置換、人名の字体差。 |
注269 | 率善中郎將 | 率善中郎將軍 | 今本 | 🅓 | 官職名に「軍」を追加し、軍事的地位を強調。 |
注270 | 掖邪狗 | 掖耶狗 | 殿本 | 🅔 | 人名音写の異体字置換、音価差はほぼなし。 |
注271 | 白珠五千孔 | 白珠五千斛 | 紹熙本 | 🅐 | 計量単位が穴数から容量に変更、宝物の換算法に影響。 |
📘 第2章 第6節:異文・比較注記(第80段落)
🔹 該当段落(中華書局本・基準本文)
評曰:史、漢著朝鮮、兩越,東京撰錄西羌。魏世匈奴遂衰,更有烏丸、鮮卑,爰及東夷,使譯時通,記述隨事,豈常也哉!
🧾 異文一覧(第80段落)【段落逐次方式】
《注272》【紹熙本】
「著朝鮮」→「書朝鮮」
• 分類:🅐 字形・語彙差
• 解説:「著」は記録・記述する意、「書」は書き記す意。意味は近似だが、「著」は記録物としての完成度や定着性を示す場合が多い。
《注273》【百衲本】
「兩越」→「二越」
• 分類:🅔 固有名詞の字体差
• 解説:「両」と「二」はいずれも数量を表すが、「兩越」は二つの越国を合わせた表現。「二越」は単なる数詞表記に近い。
《注274》【今本】
「東京」→「東宮」
• 分類:🅔 固有名詞の表記差
• 解説:「東京」は洛陽を指す地名だが、「東宮」は皇太子の居所を意味する。誤写の可能性もあるが、意義が異なるため注意を要する。
《注275》【殿本】
「魏世匈奴遂衰」→「魏時匈奴遂衰」
• 分類:🅑 語順・時表現の差
• 解説:「世」を「時」に換えることで、時代的指示がやや具体化。歴代の中の一時期を指すニュアンスが強まる。
《注276》【紹熙本】
「記述隨事」→「記事隨事」
• 分類:🅐 語彙差
• 解説:「記述」は文章表現・叙述を指し、「記事」は出来事の記録を直接指す。紹熙本では叙述性より記録性を重視している。
📋 異文注記対応表(第80段落)
注番号 | 原文表記 | 異文表記 | 出典 | 分類 | 概説(簡潔な要約) |
---|---|---|---|---|---|
注272 | 著朝鮮 | 書朝鮮 | 紹熙本 | 🅐 | 「著」を「書」に置換、記録のニュアンスが変化。 |
注273 | 兩越 | 二越 | 百衲本 | 🅔 | 「両」と「二」の字体差、固有名詞の数表記の違い。 |
注274 | 東京 | 東宮 | 今本 | 🅔 | 地名「東京」を「東宮」に変更、意味が異なる。 |
注275 | 魏世匈奴遂衰 | 魏時匈奴遂衰 | 殿本 | 🅑 | 「世」を「時」に置換し、時期を具体化。 |
注276 | 記述隨事 | 記事隨事 | 紹熙本 | 🅐 | 「記述」を「記事」に置換し、記録性を強調。 |
注:本章における原文は、OpenAI o3 が公開ドメインの旧刻本(無標点)を参照しつつ、中華書局点校本の慣用句読を統計的に再現した「再現テキスト」です。校訂精度は保証されません。引用・転載の際は必ず一次資料で照合してください。
次回からは「和国探訪記 資料編 第3章:倭国の地理・制度・外交」です。
(本文ここまで)
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