前回の銅(Cu)の摂取基準と摂取量等に引き続き、今回は「日本人の食事摂取基準(2020年版)」におけるマンガン(Mn)の摂取基準と摂取量等について書きます。
Ⅱ各 論 1エネルギー・栄養素 1-7 ミネラル(2)微量ミネラル ④ マンガン(Mn)
1 基本的事項
1-1 定義と分類
マンガン(manganese)は原子番号25、元素記号Mnのマンガン族元素の一つである。
1-2 機能
マンガンは、成人の体内に10〜20mg 存在し、その25%は骨に、残りは生体内組織及び臓器にほぼ一様に分布している。マンガンは、アルギナーゼ、マンガンスーパーオキシドジスムターゼ(MnSOD)、ピルビン酸脱炭酸酵素の構成成分である。実験動物にマンガン欠乏食を投与しても致命的な障害を観察することは難しいが、実験的にMnSODを欠損させたマウスが生後5〜21日で死亡することから、マンガンは高等動物に必須の栄養素と認識されている。
実験動物におけるマンガン欠乏の症状として、骨の異常、成長障害、妊娠障害などが報告されているが、動物種による差異が大きい。ヒトのマンガン欠乏症として最も可能性が高いのは、長期間完全静脈栄養療法下にあった小児に発生した成長抑制とびまん性の骨の脱石灰化である。
1-3 消化、吸収、代謝
経口摂取されたマンガンは、胃で可溶化されて、2価イオンとして吸収される。消化管からの見かけの吸収率は1〜5%とされる。マンガンは、鉄と同様にdivalent metal transporter1によって輸送されるため、その吸収量は鉄の栄養状態の影響を受け、鉄欠乏下では増加する。吸収されたマンガンは門脈を経て速やかに肝臓に運ばれ、胆汁を介して90%以上が糞便に排泄される。
2 指標設定の基本的な考え方
マンガンの平衡維持量を求めるための出納試験が国内外で試みられている。しかし、マンガンは吸収率が低く、大半が糞便中に排泄されることから、出納試験から平衡維持量を求めるのは困難である。そこで、マンガンの平衡維持量を大幅に上回ると考えられる日本人のマンガン摂取量に基づき目安量を算定することとした。
一方、マンガンは、完全静脈栄養施行患者において補給を必要とする栄養素の一つとされているが、投与法を誤ると中毒が発生する。完全静脈栄養によって2.2mg/日のマンガンを23か月間投与された症例では、血中マンガン濃度の有意な上昇とマンガンの脳蓄積が生じ、パーキンソン病様の症状が現れている。この症例のマンガン曝露は食事由来ではないが、マンガンの過剰摂取による健康障害は無視できないことから、耐容上限量を設定する必要があると判断した。
3 健康の保持・増進
3-1 欠乏の回避
3-1-1 目安量の策定方法
・成人・高齢者(目安量)
日本人のマンガン摂取量に関する総説では、成人のマンガン摂取量(平均値±標準偏差)を、男性3.8±0.8mg/日、女性3.8±1.4mg/日、陰膳法で収集した成人の食事分析に基づくマンガン摂取量(平均値±標準偏差)を3.6±1.1mg/日とまとめている。また、秤量食事記録法により全国4地域で行われた報告では、30〜69歳のマンガン摂取量の中央値は、男性4.5mg/日、女性3.9mg/日であった。これらの報告の中で摂取量の少なかったものを基準値として用い、総エネルギー摂取量の性差を考慮して、男性4.0 mg/日、女性 3.5 mg/日を全年齢区分に共通の目安量とした。
・小児(目安量)
(略)
・乳児(目安量)
(略)
・妊婦(目安量)
(略)
・授乳婦(目安量)
(略)
3-2 過剰摂取の回避
3-2-1 摂取状況
マンガンは、穀物や豆類などの植物性食品に豊富に含まれるため 、成人の目安量設定に用いた日本人成人のマンガン摂取量(約4mg/日)は、欧米人の摂取量を明らかに上回っている。
すなわち、マンガンの場合、サプリメントの不適切な利用に加えて、厳密な菜食など特異な食事形態に伴って過剰摂取が生じる可能性がある。
3-2-2 耐容上限量の策定方法
・成人・高齢者(耐容上限量)
47人の女性に15mg/日のマンガンを25日間投与した研究では、血清マンガン濃度が有意に上昇している。一方、穀類、豆類、木の実などを中心としたアメリカの菜食者の食事では、習慣的なマンガン摂取量が最大で10.9mg/日に達すると推定されている。アメリカ・カナダの食事摂取基準では、これらの報告に基づき、マンガンの健康障害発現量を15mg/日、健康障害非発現量を11mg/日と推定している。
一方、12人の日本人女性ビーガン(完全菜食主義者)の食事を陰膳収集して分析した研究では、マンガン摂取量(平均値±標準偏差)を7.5±2.2mg/日と報告しており、我が国の菜食者においてもアメリカと同様の10mg/日程度のマンガン摂取が生じる可能性は高い。
以上より、アメリカ・カナダの食事摂取基準が健康障害非発現量としている11mg/日を用い、習慣的な摂取量に基づく値であることから、不確実性因子を1として、11mg/日を共通の耐容上限量とした。
・小児・乳児(耐容上限量)
(略)
・妊婦(耐容上限量)
(略)
・授乳婦(耐容上限量)
(略)
3-3 生活習慣病の発症予防
平均マンガン摂取量が4.6mg/日である中国人を対象にして行われた二つのコホート研究は、マンガン摂取量が4.91mg/日を超える群は、マンガン摂取量が4.22mg/日未満の集団に比較して糖尿病発症リスクが低下するとしている。マンガンが穀物などの植物性食品に偏在するため、マンガン摂取量に従って対象者を区分すると、マンガン摂取量の多い集団は穀物や野菜の摂取が多く、畜産物の摂取が少ないことになる。この研究では、主要栄養素や食物繊維摂取量に関して調整した上で結果を解析しているが、群間の食事構成の違いが著しいため、結果の信頼性には疑問が残る。一方、血漿マンガン濃度と2型糖尿病発症リスクとの関連を検討した研究では、血漿マンガン濃度の低下と上昇のいずれもが糖尿病発症リスクを増加させており、両者の関連はU字型であるとしている。以上より、マンガンが生活習慣病の発症に影響を与える可能性はあるが、目標量(下限値及び上限値)を設定するには情報が不足していると判断した。
4 生活習慣病の重症化予防
マンガン摂取と生活習慣病の重症化予防の直接的な関連を示す報告はない。したがって、生活習慣病の重症化予防のための量は設定しなかった。
5 活用に当たっての留意事項
日本人のマンガン摂取量は欧米人よりも多いため、設定した目安量はマンガンの必要量を大きく上回っていると推定される。したがって、マンガン摂取量が目安量の半分程度であっても問題はないと考えられる。
6 今後の課題
マンガンの必要量及び耐容上限量を策定するための基本的な情報、特にマンガン摂取量と血中マンガン濃度との関連についての情報が必要である。また、妊娠高血圧症とマンガン摂取量との関連についても更なる情報の収集が必要である。
マンガン(Mn)の食事摂取基準及び私の摂取量と摂取源としている主な食品
マンガンの食事摂取基準(mg/日)

マンガン(Mn)の摂取量
私は、生命と健康長寿に必要な栄養素や機能性成分を出来るだけ多く含み、かつ、命と健康に悪い成分が出来るだけ少ない多様な食品をバランス良く食べるよう心がけています。
そして、多様な植物性食品を食べているのでマンガンが不足していることはなく、また、ヴィーガン(完全菜食主義者)はもちろん、ベジタリアン(菜食主義者)でもないので過剰摂取にもなっていないと考えており、詳細なマンガンの摂取量は計算していません。
まとめ(マンガンのサプリメントについて)
日本人成人のマンガン摂取量(約4mg/日)は目安量(4mg/日)に等しいうえ、マンガン摂取量が目安量の半分程度であっても問題はないとされている一方で、耐容上限(11mg/日)が目安量の3倍以下と低いため、多くの日本人にとって、マンガンは不足よりも過剰摂取に注意が必要だと思います。
それにも関わらず、耐容上限量(11mg/日)の倍近いマンガンのサプリメントが売られていることには疑問を感じます。また、そこまで含有量が多くなくとも、目安量(4mg/日)程度のマンガンを含むマルチミネラルサプリメントを摂取することによっても、通常の食事からの摂取量を加えると耐容上限量(11mg/日)を超える恐れがあると考えています。
次回は、ヨウ素( I )の摂取基準と摂取量等について書きます。
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今回は、マンガンのサプリメントをイメージした画像を作成してもらいました。
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