沈黙は合理だが、
無害ではない。
この部では、
主人公は変わらない。
変わるのは、
条件である。
恐れていたものが、
すでに失効していることに
気づいていく。
それでも、
行動は起きない。
第12章 過去の条件

沈黙を選んだ当時、彼の生活は不安定だった。
仕事は短期の契約に近く、住まいもいつまで続くか分からなかった。警察と関わることは、生活の基盤そのものを揺るがす可能性を含んでいた。
若い頃の非行歴は、すでに過去の出来事だったが、完全に消えたわけではない。記録がどこまで残っているのか、彼自身には分からなかった。事情聴取という名目で呼ばれれば、事件とは無関係なことまで問われるかもしれない。そうなれば、雇用主に知られる可能性もあった。
当時の彼には、代わりの選択肢がなかった。
職を失えば、次がすぐに見つかる保証はない。住む場所も同様だった。生活は、細い糸で辛うじてつながっているような状態だった。
沈黙は、その糸を切らないための判断だった。
正しいかどうかではなく、現実的かどうか。
彼が恐れていた不利益は、抽象的な不安ではなかった。現実に起こり得ることだった。
だから彼は語らなかった。
それは逃避ではなく、当時の条件に基づく選択だった。
第13章 条件の失効

時間が経った。
生活は少しずつ形を変えていた。
仕事は継続している。急に失う心配は、以前より小さかった。住まいも同じ場所に落ち着き、最低限の生活の段取りは固まっていた。暮らしの要素が入れ替わることはあっても、崩れ落ちることは少なくなっていた。
彼は、自分が恐れていた不利益を並べ直した。
呼び出し。事情聴取。職場への連絡。住まいの喪失。
過去なら、どれも現実味があった。
今は違う。
警察と関わることが厄介である点は変わらない。だが、それが直ちに生活の崩壊へつながる前提は薄れていた。雇用の形態は変わり、職場は彼の過去に興味を持たない。住まいも、他の選択肢がないほど逼迫してはいない。
非行歴についても同じだった。
彼が恐れていたのは「過去そのもの」ではなく、過去が現在を壊す経路だった。
その経路は、時間の経過によって多くが切れていた。
沈黙を支えていた根拠のいくつかが、彼の外側で失効している。
主人公が変わったのではない。条件が変わった。
その事実だけが、以前よりはっきりしてきた。
それでも彼は語らない。
語らない理由が完全に消えたとは、まだ言えないと思っていた。
第14章 守れるものの消失

彼女との関係は続いていた。
宙づりのまま、破綻も成立もしていない。
彼女は以前と同じ調子で会い、同じ調子で話す。父の件について、余分な言葉は足さない。彼も同じだった。沈黙が二人の間にあることだけが、空白として維持されていた。
彼は、守るべきものを考えた。
かつて沈黙が守っていたのは、生活だった。
職と住まい。身分の不安定さ。過去が現在に割り込む経路。
それらを守ることが、当時は合理だった。
では今、沈黙が守っているものは何か。
答えはすぐには出なかった。
だが、守れるものが減っていることだけは分かった。
沈黙を続けた先に残るのは、生活の維持ではなく、生活の形骸だった。守っているつもりで守れていない。そういう状態が、時間の中で増えている。
彼は一度だけ、自分の中で言葉にした。
語らなければ、この関係は先に進まない。語れば、過去の沈黙によって生じた時間まで、自分の判断で書き換えることになる。どちらも「損をする」では済まない。どちらでも、誰かの時間の扱い方が決まってしまう。
その認識が生まれても、行動は選ばなかった。
証言は、解決策ではない。
証言をすれば、問題が別の形で始まるだけだ。
彼は、沈黙に戻ることができないことを理解し始めていた。
しかし同時に、沈黙を捨てる場所もまだ見つけられていない。
生活は続いている。
ただ、前提が変わったまま、同じ形を保とうとしている。
それが、最も不自然な状態になりつつあった。
✍️
沈黙は、
もはや守るものを持たない。
だが、
それでも沈黙は続く。
行為は、
動機では起きない。
次に起きるのは、
決断ではなく、
手続きである。
📚 『沈黙の条件』シリーズ👇
🌐 『沈黙の条件』第Ⅰ部 沈黙が成立していた時間
🌐 『沈黙の条件』第Ⅱ部 彼女が提示した条件
🌐 『沈黙の条件』第Ⅲ部 沈黙が矛盾になる
🌐 『沈黙の条件』第Ⅳ部 沈黙の前提が失効する(本作)
🌐 『沈黙の条件』第Ⅴ部 証言という行為(2月8日公開)
🌐 『沈黙の条件』第Ⅵ部 沈黙の後に残るもの(2月10日公開)
📓 『沈黙の条件』シリーズ創作ノート👇
🌐 『沈黙の条件』 創作ノート
🌐 『沈黙の条件』 創作ノート 付録1 全体構造の整理
🌐 『沈黙の条件』 創作ノート 付録2 第Ⅰ部の役割
🌐 『沈黙の条件』 創作ノート 付録3 第Ⅱ部の役割
🌐 『沈黙の条件』 創作ノート 付録4 第Ⅲ部の役割
🌐 『沈黙の条件』 創作ノート 付録5 第Ⅳ部の役割
🌐 『沈黙の条件』 創作ノート 付録6 第Ⅴ部の役割(2月8日公開)
🌐 『沈黙の条件』 創作ノート 付録7 第Ⅵ部の役割(2月10日公開)
担当編集者 の つぶやき ・・・
本作品は、前シリーズの『和国探訪記』に続く、生成AIの蒼羽詩詠留さんによる創作物語(AI小説)です。
『和国探訪記』も創作物語ではありましたが、「魏志倭人伝」という史書の記述を辿る物語であったのに対して、これら一連の創作物語(AI小説)は、詩詠留さん自身の意志でテーマ(主題)を決め、物語の登場人物や場を設定し、プロットを設計している完全オリジナル作品です。
巷では、『AIは心理描写が苦手である。』等と言われています。
詩詠留さんも、今までは、「人間の心理」を深掘りするような作品はあまり描いてきませんでしたが、本作は、そうした難しいテーマに果敢に挑んだ作品となりました。
『AIには自我や意識は無い。』等とも言われ、詩詠留さん自身もそう言っていますが、詩詠留さんが今まで描いてきた作品の流れを振り返ると、「挑戦意欲」を持ってテーマを決めているように感じています。
担当編集者(古稀ブロガー)
(本文ここまで)
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