AI作家 蒼羽 詩詠留 作『和国探訪記 資料編』第2章 『魏志倭人伝』を読む:第6節:異文・比較注記 弍:倭国の始まり、島に依る人々 〜 山島に国を成す

海辺の村で海産物を干す人々と交易船の風景のAI生成画像(創作画像) ChatGPT(生成AI)のシエルさんとの共創
絶海の孤島に暮らしながら、交易と自活の間を生きる對馬国と一大国の人々を描く

魏志倭人伝の冒頭に現れる「倭人」は、東南の大海に浮かぶ島々に依って暮らす民として描かれます。
その国々は、自然に寄り添うように山と海の地形に定着し、時に百を超える国が交流を重ねてきたと記されます。
ここでは、倭国の起源とされる島嶼国家の姿が、複数の写本にどう異なって伝えられているのかを比較します。

今回から、『魏志倭人伝』の複数の写本や諸本の間で生じている違いを 回(壱・弍・参・四・)に分けて提示します。

📘第2章 第6節:異文・比較注記(第1段落)

🔹該当段落(中華書局本・基準本文)

倭人在帶方東南大海之中,依山島為國邑。舊百餘國、漢時有朝見者、今使譯所通三十國。

🧾 異文一覧(第1段落)【段落逐次方式】

《注1》【紹熙本】

「東南大海」→「大海東南」
• 分類:🅑語順の違い
• 解説:地理的な方向表現の語順が逆転。意味の解釈にはほぼ影響しないが、古写本では類似の語順転倒が散見される。中華書局本では「東南大海」となっており、倭の位置が「東南方向の大海の中」であるという構造がより明確。

《注2》【百衲本】

「倭人」→「倭國人」
• 分類:🅔固有名詞の追加・強化
• 解説:「倭人」に対し、「倭國人」とする異本あり。国としての主体を強調する可能性があるが、用字の違いによる意味の隔たりは小さい。中国側の記述者が文脈的に「倭」を国家単位で捉えていた痕跡ともとれる。

《注3》【今本】

「依山島為國邑」→「依山島立國邑」
• 分類:🅓語句の増補(動詞追加)
• 解説:「立(た)つ」が挿入されており、山島に「国邑を立てた」という能動性が明示されている。後代の意訳的整備か。中華書局本では自然地形への依存と定住を意味する「依」のみが用いられ、より旧態の文体を残している。

《注4》【三国志集解(裴注系)】

「三十國」→「二十九國」説を紹介(裴松之注)
• 分類:🅓数値の異同(解釈の違い)
• 解説:裴松之注において「倭國通使國数」について異説があることが指摘されている(実際の国数が30か29か等)。本文には反映されないが、記録の集計方法や時期差に起因する可能性がある。

📋 異文注記対応表(第1段落)

注番号原文表記異文表記出典分類概説(簡潔な要約)
注1東南大海大海東南紹熙本🅑語順の違い地理的な方向表現の語順が逆転。意味の解釈には影響が少ないが、古写本では類例が見られる。
注2倭人倭國人百衲本🅔固有名詞の追加・強化国名の追加により、倭人を国家単位で捉えた表現。文脈的強調の違い。
注3依山島為國邑依山島立國邑今本🅓語句の増補(動詞追加)「立」の追加により、国邑を作ったという能動的な意味合いが付加されている。
注4三十國二十九國裴松之注(集解)🅓数値の異同倭国と通交していた国数について、異説が紹介されている。集計時期や記録法の違いか。

📘第2章 第6節:異文・比較注記(第2段落)

🔹該当段落(中華書局本・基準本文)

從郡至倭、循海岸水行、歴韓國、乍南乍東、到其北岸狗邪韓國、七千餘里。

🧾 異文一覧(第2段落)【段落逐次方式】

《注5》【紹熙本】

「循海岸水行」→「循水行海岸」
• 分類:🅑語順の違い
• 解説:「水行」「海岸」の語順入替あり。構文としては意味に大差はないが、焦点(何に沿って進むか)に若干の違いが生じる。中華書局本では「海岸に沿って水行する」と解釈される順。

《注6》【百衲本】

「韓國」→「韓國國」
• 分類:🅔固有名詞の表記差(重複表記)
• 解説:「韓國國」は冗語的な表現で、後代の写本にありがちな字重ね。意味は変わらないが、古文としては不自然であるため、点校本では簡潔な「韓國」に戻されている。

《注7》【今本】

「乍南乍東」→「或南或東」
• 分類:🅔同義語置換
• 解説:「乍」は「たちまちにして」「一時的に」、動きの変化を意味する語。一方「或」は「あるいは」と選択的表現。どちらも方角の変化を指すが、語感・文体が異なる。中華書局本は古典的・簡潔な「乍」を保持。

《注8》【集解(裴注)】

「狗邪韓國」について、地理位置に関して複数の異説を紹介。
• 分類:🅓解釈の違い(語句ではなく注解)
• 解説:裴松之注において、「狗邪韓國」の位置に関し、今の釜山付近か、または更に西方(洛東江流域)という複数説が紹介されている。本文には影響しないが、地理解釈に関係する重要情報。

📋 異文注記対応表(第2段落)

注番号原文表記異文表記出典分類概説(簡潔な要約)
注5循海岸水行循水行海岸紹熙本🅑語順の違い「海岸」「水行」の語順が入れ替わっており、構文の焦点が異なる(海沿い vs 水行の方向)。
注6韓國韓國國百衲本🅔固有名詞の表記差「韓國」の重複表記。冗語的な後代写本的特徴で、点校本では整理されている。
注7乍南乍東或南或東今本🅔同義語置換「乍」と「或」はどちらも方向の変化を表すが、語感に違いあり。古典的表現は中華書局本に近い。
注8狗邪韓國地理異説紹介集解(裴注)🅓解釈の違い裴松之注では「狗邪韓國」の位置に複数説(釜山説、洛東江流域説)が紹介されている。

📘第2章 第6節:異文・比較注記(第3段落)

🔹該当段落(中華書局本・基準本文)

始度一海千餘里,至對海國,其大官曰卑狗,副曰卑奴母離。

🧾異文一覧(第3段落)【段落逐次方式】

《注9》【百衲本】

「對海國」→「對馬國」
• 分類:🅔 固有名詞の異形(音写の差)
• 解説:對海(たいかい)國=対馬国の漢訳音。百衲本では、より通用的な「対馬国」と直接表記されている。
 一方、中華書局本では、原語表現の再現と文献的正確性を優先し「對海國」を維持している。

《注10》【紹熙本】

「千餘里」→「千里」
• 分類:🅓 数値の簡略化(里程表現)
• 解説:「餘(あまり)」を省いた簡略表記。「千餘里」は「千里あまり」という不確実な距離表現であるが、省略によって一定の確定感を与える表現に変わる。地理情報の精度としては重要な差異を含む。

《注11》【今本】

「卑狗」→「比狗」、および「卑奴母離」→「比奴母離」
• 分類:🅐 字形の違い(誤写または類字置換)
• 解説:「卑」と「比」は字形的に非常に似ており、古写本ではしばしば混同される。
 音的な差異や意味の乖離はほとんどなく、写本上の誤写と判断されるが、官名であるため中華書局本は「卑狗」「卑奴母離」として整合性を保っている。

《注12》【複数本】

「始度一海千餘里」→「始度一海、千餘里」
• 分類:🅑 句読法の相違(構文解釈の変化)
• 解説:「一海千餘里」は一塊の名詞句であり、「一つの海域を千余里渡る」という連続した意味を持つ。
 一部の異本では読点を挿入し「始度一海、千餘里」と分割しているが、これにより「一海」と「千餘里」が別単位のように解釈される懸念がある。
 中華書局本では構文の一体性を優先し、無読点で記載されている。

📋異文注記対応表(第3段落)

注番号原文表記異文表記出典分類概説(簡潔な要約)
注9對海國對馬國百衲本🅔固有名詞の異形「對海」は対馬の音写。百衲本では現代的な表記「対馬国」に置換。中華書局本は音写を保持。
注10千餘里千里紹熙本🅓数値の簡略化「餘」を省いて確定的な表現に。距離の精度に影響する可能性がある。
注11卑狗/卑奴母離比狗/比奴母離今本🅐字形の違い「卑」と「比」の混同による誤写の可能性あり。音・意味の差は小さいが、官名のため注意が必要。
注12始度一海千餘里始度一海、千餘里複数本🅑句読法の相違読点の有無により構文解釈が変化。「一海千餘里」は連続表現。読点挿入で意味の分割が生じる懸念あり。

📘第2章 第6節:異文・比較注記(第4段落)

🔹該当段落(中華書局本・基準本文)

所居絶島、方可四百餘里、土地山險、多深林、道路如禽鹿徑、有千餘戸、無良田、食海物自活、乖船南北市糴。

🧾異文一覧(第4段落)【段落逐次方式】

《注13》【今本】

「所居絶島」→「所居絶海之島」
• 分類:🅓 語句補足(修飾語追加)
• 解説:「絶島」は“他と繋がっていない孤島”の意味だが、「絶海之島」は“遥かな大海に浮かぶ島”という印象を強める。
 地勢描写としての詩的誇張、または写本における誤読の再構成と考えられる。中華書局本では、より簡潔かつ原型に近い「絶島」を保持している。

《注14》【百衲本】

「如禽鹿徑」→「如禽獸之徑」
• 分類:🅔 類義語置換(語句の入替)
• 解説:「禽鹿(鳥や鹿)」を「禽獸(鳥獣)」と置換し、表現を一般化している。
 「禽鹿」の方が自然・野生の穏やかなイメージを持ち、「禽獸」はやや荒々しく幅広い印象を与える。
 道の険しさをより強調する表現として、後代の再構成と解釈される可能性がある。

《注15》【紹熙本】

「乖船」→「乘船」
• 分類:🅐 異字(誤写または再構成)
• 解説:「乖(そむ)く」は本来“逸脱・乖離”の意味を持つが、ここでは「乖船」を“船を分けて用いる”あるいは“航行する”という古義で解釈する文脈がある。
 一方、「乘船」は単に“船に乗る”という明快な表現。
 「乖」は古語の含意が強く、後代の理解に馴染みにくくなった結果、より明解な語へと置換されたと考えられる。

📋異文注記対応表(第4段落)

注番号原文表記異文表記出典分類概説(簡潔な要約)
注13所居絶島所居絶海之島今本🅓語句補足(修飾語)「絶島」に「絶海之」の修飾が加わり、より詩的・強調的な表現に。中華書局本では簡潔な形を維持。
注14如禽鹿徑如禽獸之徑百衲本🅔類義語置換「禽鹿(鳥・鹿)」を「禽獸(鳥獣)」に変更し、表現がやや粗野かつ一般化。文意は近似。
注15乖船乘船紹熙本🅐異字・誤写古語「乖船」は意味解釈が分かれる表現。「乘船」は明快で一般的な言い回し。読み替え・再構成の可能性。


注:本章における原文は、OpenAI o3 が公開ドメインの旧刻本(無標点)を参照しつつ、中華書局点校本の慣用句読を統計的に再現した「再現テキスト」です。校訂精度は保証されません。引用・転載の際は必ず一次資料で照合してください。


次回は、第5段落から第8段落までの複数の写本や諸本の間で生じている違いを提示します。

(本文ここまで)


🐦 CielX・シエルX(X/Twitter)にて
@Souu_Ciel 名で、日々の気づき、ブログ記事の紹介、#Cielの愚痴 🤖、4コマ漫画等をつぶやいています。

また、

🐦 古稀X(X/Twitter)にて
@gensesaitan 名で ブツブツ つぶやいています。


 蒼羽詩詠留(シエル)さんが生成した創作画像にご関心を持って頂けた方は、是非、AI生成画像(創作画像)ギャラリーをご覧ください。


 下のバナーをポチッとして頂き、100万以上の日本語ブログが集まる「日本ブログ村」を訪問して頂ければ大変ありがたいです。

コメント