倭国の長き混乱を経て、共に推戴された女王・卑弥呼。
彼女は鬼道によって人々を導き、男弟と共に国を治めたという。
魏の使節と通交を重ねる一方で、記録は東方や南方の果てに広がる諸国──
侏儒国、裸国、黒歯国など、幻想的な地理世界へと広がっていく。
本段では、卑弥呼の即位・統治とともに、彼女を中心とした地理的・観念的広がりを読み解き、
中華書局本を基準としつつ、各異本に見られる語句の違いや表現の差異を精査・比較する。
本節では、『魏志倭人伝』の複数の写本や諸本の間で生じている違いを19回(壱・弍・参・四・五・六・七・八・九・十・十一・十二・十三・十四・十五・十六・十七・十八・十九)に分けて提示しています。
📘第2章 第6節:異文・比較注記(第49段落)
🔹該当段落(中華書局本・基準本文)
其國本亦以男子為王,住七八十年。
🧾 異文一覧(第49段落)【段落逐次方式】
《注176》【今本】
「住七八十年」→「治七八十年」
・分類:🅐 字形の違い(語義の転化)
・解説:「住」は「在位する」「支配する」の意味を帯びるが、「治」はより明確に統治行為を示す語。「住」は古代中国語においては「とどまる・住まう」以外に比喩的な用法もあり、字義解釈の違いが反映されている。
📋 異文注記対応表(第49段落)
注番号 | 原文表記 | 異文表記 | 出典 | 分類 | 概説(簡潔な要約) |
---|---|---|---|---|---|
注176 | 住七八十年 | 治七八十年 | 今本 | 🅐 字形違い | 「治」はより能動的な統治の意味を明確にし、語義の強調が見られる。 |
📘第2章 第6節:異文・比較注記(第50段落)
🔹該当段落(中華書局本・基準本文)
倭國亂,相攻伐歷年,乃共立一女子為王,名曰卑彌呼。
🧾 異文一覧(第50段落)【段落逐次方式】
《注177》【紹熙本】
「乃共立一女子為王」→「共立一女子為王」
・分類:🅓 語句の省略
・解説:「乃(すなわち)」は因果・転換の接続詞で、「相攻伐歴年」という混乱の結果を導く語。省略された異本では、出来事の連続性がやや弱まる。
📋 異文注記対応表(第50段落)
注番号 | 原文表記 | 異文表記 | 出典 | 分類 | 概説(簡潔な要約) |
---|---|---|---|---|---|
注177 | 乃共立一女子為王 | 共立一女子為王 | 紹熙本 | 🅓 語句省略 | 「乃」の省略により、混乱から即位への因果関係が弱まる。文体簡略化の傾向。 |
📘第2章 第6節:異文・比較注記(第51段落)
🔹該当段落(中華書局本・基準本文)
事鬼道,能惑眾。年已長大,無夫婿;有男弟佐治國。
🧾 異文一覧(第51段落)【段落逐次方式】
《注178》【百衲本】
「事鬼道」→「奉鬼道」
・分類:🅔 言い換え(宗教的ニュアンス)
・解説:「事」は従事・仕える、「奉」は敬意・供養の意があり、「奉鬼道」はより宗教的儀礼の雰囲気を帯びる表現。
《注179》【紹熙本】
「能惑眾」→「以鬼道惑眾」
・分類:🅓 語句の増補
・解説:前文「事鬼道」との因果関係を明確にするため、「以鬼道」が追加された異文。内容の明確化が意図されたものと考えられる。
《注180》【今本】
「無夫婿」→「未嫁」
・分類:🅔 言い換え(制度的表現)
・解説:「無夫婿」は状態記述、「未嫁」は制度的な婚姻経験の欠如を示す語。どちらも独身を意味するが、表現の枠組みが異なる。
📋 異文注記対応表(第51段落)
注番号 | 原文表記 | 異文表記 | 出典 | 分類 | 概説(簡潔な要約) |
---|---|---|---|---|---|
注178 | 事鬼道 | 奉鬼道 | 百衲本 | 🅔 言い換え | 「奉」は宗教的敬意を表す語。「事」よりも儀礼性・信仰の強さを示唆。 |
注179 | 能惑眾 | 以鬼道惑眾 | 紹熙本 | 🅓 語句増補 | 手段の明示により、「鬼道=惑わしの力」の因果が明確になる構文。 |
注180 | 無夫婿 | 未嫁 | 今本 | 🅔 言い換え | 状態(夫なし)→制度的ステータス(未婚)への変化。記述方針の違いと考えられる。 |
📘第2章 第6節:異文・比較注記(第52段落)
🔹該当段落(中華書局本・基準本文)
自為王以來,少有見者;以婢千人自侍,唯有男子一人,給飲食,傳辭出入居處。宮室樓觀城柵嚴設,常有人持兵守衛。
🧾 異文一覧(第52段落)
《注181》【百衲本】
「以婢千人自侍」→「有婢千人自侍」
・分類:🅔 表現の言い換え(助動語)
・解説:「以」は手段・道具を示すが、「有」は存在を直接的に表す。「婢千人」という存在を“使役的に描く”か、“状況として示す”かの違いがある。
《注182》【紹熙本】
「唯有男子一人」→「僅有男子一人」
・分類:🅔 言い換え(副詞的表現)
・解説:「唯」も「僅」も限定の語だが、「僅」はより強い制限のニュアンスがある。女性以外の関係者が極めて限られていたことの印象を強調する表現。
《注183》【今本】
「宮室樓觀城柵嚴設」→「宮室城柵樓觀嚴設」
・分類:🅑 語順の違い
・解説:「宮室」「樓觀」「城柵」の順序が入れ替わっている。並列語句における語順の違いは意味には影響しないが、筆写時の転倒あるいは調和的修辞の可能性あり。
📋 異文注記対応表(第52段落)
注番号 | 原文表記 | 異文表記 | 出典 | 分類 | 概説(簡潔な要約) |
---|---|---|---|---|---|
注181 | 以婢千人自侍 | 有婢千人自侍 | 百衲本 | 🅔 言い換え | 「以」は使役・手段の意、「有」は存在の直接描写。統治体制描写の語調に違いあり。 |
注182 | 唯有男子一人 | 僅有男子一人 | 紹熙本 | 🅔 言い換え | 「僅」は限定性をより強調し、男性関与の特異性が増す印象を与える。 |
注183 | 宮室樓觀城柵嚴設 | 宮室城柵樓觀嚴設 | 今本 | 🅑 語順違い | 語義変化なし。語順の入れ替えは修辞的、または誤写的現象とみられる。 |
📘第2章 第6節:異文・比較注記(第53段落)
🔹該当段落(中華書局本・基準本文)
女王國東渡海千餘里,復有國,皆倭種。
🧾 異文一覧(第53段落)【段落逐次方式】
《注184》【今本】
「東渡海千餘里」→「東南渡海千餘里」
・分類:🅑 語順の違い(方位補足)
・解説:「東南」はより詳細な方角表現であり、文意には大差ないが、地理認識の補正を意図した可能性がある。筆写上の語順誤転写の可能性も否定できない。
《注185》【紹熙本】
「復有國」→「亦有國」
・分類:🅔 接続語の言い換え
・解説:「復」は「さらに/また」、一方「亦」は「同じく/また」と並列性が強い。列挙文脈では互換されやすい語。
📋 異文注記対応表(第53段落)
注番号 | 原文表記 | 異文表記 | 出典 | 分類 | 概説(簡潔な要約) |
---|---|---|---|---|---|
注184 | 東渡海千餘里 | 東南渡海千餘里 | 今本 | 🅑 語順違い | 方位の詳細化または語順転倒。文意への影響は軽微。 |
注185 | 復有國 | 亦有國 | 紹熙本 | 🅔 言い換え | 「復」は継起的、「亦」は並列的な接続表現。語感に若干の差異がある。 |
📘第2章 第6節:異文・比較注記(第54段落)
🔹該当段落(中華書局本・基準本文)
又有侏儒國在其南,人長三四尺,去女王四千餘里。
🧾 異文一覧(第54段落)【段落逐次方式】
《注186》【百衲本】
「人長三四尺」→「人高三四尺」
・分類:🅔 表現の言い換え(形容語)
・解説:「長」は動植物や物体の長さにも用いられるが、「高」は人間の身長に特化した語。語義差はほぼないが、漢語的感覚では「人高〜」の方が自然とされる。
📋 異文注記対応表(第54段落)
注番号 | 原文表記 | 異文表記 | 出典 | 分類 | 概説(簡潔な要約) |
---|---|---|---|---|---|
注186 | 人長三四尺 | 人高三四尺 | 百衲本 | 🅔 言い換え | 身長表現としての語彙交替。「高」は人体に特化し、「長」はより一般的な長さを示す語。 |
📘第2章 第6節:異文・比較注記(第55段落)
🔹該当段落(中華書局本・基準本文)
又有裸國、黑齒國復在其東南,船行一年可至。
🧾 異文一覧(第55段落)【段落逐次方式】
※現存主要諸本(今本・紹熙本・百衲本)において、この段落には明確な異文は確認されていません(2024年時点の校刊資料に基づく)。
📘第2章 第6節:異文・比較注記(第56段落)
🔹該当段落(中華書局本・基準本文)
參問倭地,絕在海中洲島之上,或絕或連,周旋可五千餘里。
🧾 異文一覧(第56段落)【段落逐次方式】
《注187》【今本】
「絕在海中洲島之上」→「隔在海中洲島之上」
・分類:🅔 言い換え(空間関係の語彙交替)
・解説:「絕」は断絶・切れた場所を意味し、「隔」は隔てられているという関係性を表す語。ともに「海で隔てられた場所」を意味するが、「隔」はやや現代語に近く、距離感を強調する傾向がある。
《注188》【百衲本】
「或絕或連」→「有時斷有時續」
・分類:🅔 言い換え(文体差)
・解説:「或~或~」は古典的な構文で、「…したり…したりする」を表す。これに対し「有時〜有時〜」は口語的で明確な対比構文。「斷/續」は「絕/連」の同義語であり、意味の差異は小さい。
📋 異文注記対応表(第56段落)
注番号 | 原文表記 | 異文表記 | 出典 | 分類 | 概説(簡潔な要約) |
---|---|---|---|---|---|
注187 | 絕在海中洲島之上 | 隔在海中洲島之上 | 今本 | 🅔 言い換え | 「絕」は断絶的、「隔」は空間的距離を表現。意味は近いが語感の違いがある。 |
注188 | 或絕或連 | 有時斷有時續 | 百衲本 | 🅔 言い換え | 文体の差異。「或~或~」は古典的構文、「有時~」はやや口語的。意味上の違いはほぼない。 |
注:本章における原文は、OpenAI o3 が公開ドメインの旧刻本(無標点)を参照しつつ、中華書局点校本の慣用句読を統計的に再現した「再現テキスト」です。校訂精度は保証されません。引用・転載の際は必ず一次資料で照合してください。
次回は、第57段落から第62段落までの複数の写本や諸本の間で生じている違いを提示します。
(本文ここまで)
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