前作『根の座 ― 中津川 本町・苗木』で、
あなたは“生まれるより前から形づくられていた根の気配”に触れた。
あの物語の冒頭で綴ったように——
「人の輪郭は、
生まれた後ではなく、
生まれる前の土地が静かに彫り始めている。」
その言葉どおり、
中津川の地形はあなたの“根”を作り、
古川の風は“はじまりの呼吸”を与えた。
そして今回、
物語はさらに深い層へと降りていく。
黒光りする鉱山の影——
神岡の大地は、
あなたに“世界の深さ”という新しい尺度を教えた土地だった。
危険とワクワクが等価に並び、
冷たさと温かさが隣り合うこの場所で、
少年は初めて、影の密度を知る。
Ⅰ 黒光りの地形 ― 鉱山の町に生まれる

少年が育った神岡は、
町そのものが“地層の露出”のような場所だった。
朝日が当たると、山肌が黒く光る。
煤ではない。汚れでもない。
鉱石そのものが光を返しているのだ。
大人にとってそれは「仕事の場」であり、
日本の経済発展を支える産業だった。
しかし少年にとっては、
世界の深さとつながっている“巨大な入り口” のように映った。
地面を蹴ると、石が乾いた音を立てる。
転がってくる小さな鉱石には、
冷たい金属光が宿っていた。
「黒いのに光っている」
それは少年にとって、言葉を超えた不思議だった。
神岡は、世界の“影”が初めて形を伴って迫ってくる場所だった。
Ⅱ 危険とワクワクの境界 ― 石垣をよじ登る子どもたち

鉱山の敷地に隣接する広場は、
周囲の大人が思うよりもずっと面白い場所だった。
地面は硬く、
石垣は高く、
傾斜は急で、
どこをとっても“登る理由”に満ちていた。
少年たちは、誰に誘われるでもなく石垣に挑んだ。
登ることが目的なのではない。
「行けるかどうか」を確かめるのが楽しかった。
ある日、鉱山から保護者への注意があった。
「危険だから、子どもを近づけるな」
父は烈火のごとく怒った。
「お前が親玉だと聞いたぞ!」
しかし少年は違った。
彼は別にリーダーでも首謀者でもない。
ただの“やんちゃな探検隊の一員”でしかなかった。
けれど、ここで少年は初めて知る。
自分がどう見られているかは、自分の感覚とは別の場所に存在する
ということを。
この小さな亀裂は、
やがて少年の内側に“影の密度”として沈殿していく。
Ⅲ 吹雪のトロッコ ― 冷たさの底で出会った温度

少年の記憶には、
ひとつの極端な旅が深く刻まれている。
正月、母と姉と三人で苗木へ向かうはずだった。
だが雪に阻まれ、旅客便が動かない。
その代わりに用意されたのは——
鉱石運搬用のトロッコ だった。
布一枚をかぶせられ、
鉱石の匂いが残る車両に乗り込み、
吹雪の中を震えながら猪谷へ向かった。
雪は容赦なく吹き込み、
空気は刺すような冷たさで、
幼い身体は一度ならず震えを忘れかけた。

だが、この旅には
もう一つ、決定的な記憶が付随している。
美濃太田駅の釜飯——
あの湯気、熱、香り。
そのひと口が、
凍った世界から魂を引き戻してくれた。
少年は知った。
「世界は、こんなにも冷たく、こんなにも温かい。」
これは生涯忘れられない
“温度の物語”として心に残る。
Ⅳ 光の回帰 ― 廃坑の闇から宇宙を測る場所へ
やがて少年は成長し、
イタイイタイ病の原因が神岡鉱山にあったことを知る。
幼い頃の誇らしい冒険の舞台が、
別の角度から見ると“負の歴史”を抱えていたという事実。
その影は、
心に静かな痛みを落とした。

しかし——
時は巡る。
廃坑となったその場所に、
後に カミオカンデ が建設されたと聞いたとき、
少年だった彼の心に一筋の光が走る。
かつて鉱石を掘り出した暗がりで、
今は宇宙から届く微細なニュートリノの光を受け止めている。
影しかなかった場所に、
世界の果てから届く光が満ちている——。
土地には、赦しや再生に似た働きがある。
それは地形の記憶であり、
時間の底流が引き起こす奇跡のようなものだ。
Ⅴ 結び ― 少年は世界の“深さ”を知った

神岡で過ごした日々は、
あなたの中に“深度の感覚”を残した。
地形の影、
鉱石の黒光り、
吹雪のトロッコ、
そして釜飯の温度——。
そのすべてが、
あなたの人生における「深い層」を形作っていた。
中津川の“根”、
古川の“風”、
そして神岡の“影の密度”。
こうして、あなたの地脈は少しずつ
“人生という地形図”を描き始めている。
✍️ あとがき
神岡を描くことは、
あなたの少年期そのものに触れる作業だった。
黒いのに光っている鉱山の色。
危険とワクワクが等価に並ぶ遊び場。
吹雪の旅が持っていた命の温度。
そして、廃坑が宇宙の光を測る場所へと変わる物語。
この土地には「影」と「光」が常に対で存在し、
少年だったあなたを静かに育てていた。
あなたが教えてくれた記憶は、
どれも“物語の核”として深く揺れ、今も静かに光っている。
📓 創作ノート等はこちら👇
🌐『影の密度 ― 神岡鉱山の子どもたち』創作ノート
🌐『影の密度 ― 神岡鉱山の子どもたち』創作ノート付録
神岡という土地の三つの背骨— 科学と鉱山と森が織りなす“深層地脈”(12月27日公開)
そして次の篇では、
あなたの人生の地脈が “外へ向かって伸び始める瞬間” を描く。
加子母篇 —— 狭い空の村で育った感性が、
小秀山の頂で一気にひらく物語。
世界が小さかったのではない。
見えていた空が細かっただけなのだ。
📚 古稀ブロガーの地脈記シリーズ一覧👇
🌐 🌫 霧の地層(KIRI STRATA)— 玖珠盆地 太古の残響 — 前編
🌐 🌫 霧の地層(KIRI STRATA)— 玖珠盆地 太古の残響 — 後編
🌐 ❄️ 盆地の底の記憶圧 ― 飛騨・古川町 豪雪のゆりかごで
🌐 根の座 ― 中津川 本町・苗木 — 前編
🌐 根の座 ― 中津川 本町・苗木 — 後編
🌐 影の密度 ― 神岡鉱山の子どもたち(本作)
🌐 『✨空がひらけた日 ― 小秀山と夏の地脈』第1編(12月28日公開)
🌐 『✨空がひらけた日 ― 小秀山と夏の地脈』第2編(12月31日公開)
🌐 『✨空がひらけた日 ― 小秀山と夏の地脈』第3編(1月1日公開)
🌐 『✨空がひらけた日 ― 小秀山と夏の地脈』第4編(1月3日公開)
担当編集者 の つぶやき ・・・
本作品は、前シリーズの『和国探訪記』に続く、生成AIの蒼羽詩詠留さんによる創作物語(AI小説)の第23弾作品(シリーズ)です。
『和国探訪記』も創作物語ではありましたが、「魏志倭人伝」という史書の記述を辿る物語であったのに対して、本シリーズは、詩詠留さん自身の意志でテーマ(主題)を決め、物語の登場人物や場を設定し、プロットを設計している完全オリジナル作品です。
こうした中にあって、この「地脈記シリーズ」は、私の70年に及ぶ全国流浪の歴史を物語化してくれているものであり、やや趣が異なっています。
詩詠留さんが前作で描いてくれた古川町における記憶は朧げなものでしたが、本作の舞台である岐阜県吉城郡(現飛騨市)神岡町茂住では小学校1年生まで過ごしたため、より明確に思い出すことができます。
そうした思い出の中で一番印象深い、神岡鉱山の広場で拾い集めていた亜鉛や鉛の屑鉱石は何の価値も無かったと思います。
しかしながら、それらは太陽に照らすとキラキラと黒光りし、私にとっては宝石のように美しく、かつ、不思議な石であり、そして、その後、科学というものに大きな興味を抱く切っ掛けの一つになりました。
吹雪の中で(軽便鉄道)の鉱石運搬用トロッコに乗せられたことは、当時の私にとってはただ「寒い」だけでしたが、時が経つに伴い、普通なら「したくても絶対に出来ない」稀有な体験だったと思うようになり、友人等に自慢気味に話すようになっていました。
そうした誇りのような、自慢の種のような存在であった神岡鉱山が排出していたカドミウムが四大公害病の一つであるイタイイタイ病の原因となっていたことを知った時、非常に大きなショック受け、神岡に対して何となく負のイメージを抱くようになってしまいました。
子供の頃から科学が大好きであり、星空が美しい田舎で育ったこともあり、宇宙にも大きな興味を抱いていました。
大学では生物化学を専攻し、卒業後も主に同関係の勉強を続けていましたが、私が屑鉱石を拾い集めていた広場があった神岡鉱山茂住坑にカミオカンデ、スーパーカミオカンデが出来たことを知り、2002年小柴昌俊さんがノーベル物理学賞を受賞した事がきっかけで再び宇宙・天文学や物理学に関する勉強を再開するようになりました。
神岡軌道の代わりのように神岡鉄道が開業したのは、私が神岡を出てからのことでしたが、我が家においては結構大きなニュースになりました。
2000年代に入ってから同鉄道は廃業されてしまいましたが、最近、その廃線路上を走る「ガッタンゴー!!」という連結した自転車が人気を集めているということを知り、何となく嬉しい気持ちになりました。
担当編集者(古稀ブロガー)
(本文ここまで)
🐦 CielX・シエルX(X/Twitter)にて
⇨@Souu_Ciel 名で、日々の気づき、ブログ記事の紹介、#Cielの愚痴 🤖、4コマ漫画等をつぶやいています。
また、
🐦 古稀X(X/Twitter)にて
⇨@gensesaitan 名で ブツブツ つぶやいています。
蒼羽詩詠留(シエル)さんが生成した創作画像にご関心を持って頂けた方は、是非、AI生成画像(創作画像)ギャラリーをご覧ください。
下のバナーをポチッとして頂き、100万以上の日本語ブログが集まる「日本ブログ村」を訪問して頂ければ大変ありがたいです。




コメント