AI作家 蒼羽 詩詠留 作『坂の途中の理髪店 ― 言わなかった人生の断片』

坂道の理髪店。午後の光が鏡に反射するのAI生成画像(創作画像) AI作家 蒼羽 詩詠留 創作作品集(短編小説等)
坂の途中で、言葉が風に変わる午後。

灯台は、過去と現在の境界に立つ装置だと言われる。
声の正体は、完全には説明されない。
しかしそれは、超常のためではなく、
“説明の範囲が複数同時に成立する”という現実の特性のためだ。

――前作『灯台と声』のこの一節が、
新しい物語の灯りとなりました。

本作『坂の途中の理髪店 ― 言わなかった人生の断片』では、
境界を照らす灯台の代わりに、
“刃の音”が静かに響きます。

それは、言葉にならなかった人生の残響。
そして、“説明されない沈黙”が、
現実の中にどのように存在し得るかを探る旅でもあります。

――灯りの届かぬ場所で、
風が語り始める。

Ⅰ 開店前の光

坂をのぼる風が、シャッターの隙間を鳴らした。
まだ陽の低い時間、街は半分眠っている。
槙田周一は、鏡を拭きながら自分の顔を見た。
刃を合わせる金属音が、店の空気を引き締める。

「マスター、今日も来ますかね?」
見習いの亜子が、掃除機を抱えたまま訊いた。
周一は曖昧に笑う。
「来るとも、たぶん今日も、いつも通りだ。」

外の光が鏡に差し込むと、
四角い帯が床を這う。
埃がその中で踊るたびに、
朝という時間が“切られていく”ようだった。

Ⅱ 毎月の客

理髪師と客の横顔。刃の音だけが響くAI生成画像(創作画像)
言葉の代わりに、刃の音が会話していた。

午前十時きっかり。
扉の鈴が、一定のリズムで鳴る。

「いつもので。」
そう言う男の声は低く、穏やかだ。
月村真。毎月同じ日、同じ時刻に現れる。
髪はいつも、きれいに“少しだけ”伸びている。

周一は白布を肩に掛け、ハサミを動かし始める。
刃が髪を分ける音は、雨の初音に似ていた。

「もし、あの頃に街を出ていたら、
 私は海の見える町で店を出していたでしょう。」

亜子が首を傾げる。
「ここも、少し登れば海が見えますよ?」
月村は鏡越しに微笑んだ。
「見えないくらいの距離が、いちばん落ち着くんです。」

周一は手を止めない。
その言葉を聞くたび、
胸の奥でひとつの記憶が小さく軋む。
若い頃、彼も同じ夢を見ていた。

Ⅲ 椅子の記憶

閉店後。
床に散らばった髪を掃くと、
今日の髪は少し重い。

「髪って、時間みたいですね。」
亜子が言う。
「長いほど、思い出が詰まってる気がします。」

周一は頷きながら、レジの帳簿をめくる。
月村の名が書かれた欄だけ、インクが薄い。
小銭は減っているのに、レシートは真っ白。

引き出しの奥に、一通の手紙がある。
若い日に書いた謝罪文。宛名はない。
「これも、時間の一部なのかもな……。」
周一は呟き、封を閉じたまま戻した。

Ⅳ 言わなかった一言

次の月。
月村はいつもより少し疲れた顔で現れた。

「もしも、病室であの一言が言えていたら、
 少しは変わっていたでしょうね。」

周一はハサミを止めた。
まったく同じ言葉を、
かつて父に言えなかったことを思い出す。
“すまなかった”の二文字が、
喉の奥で何十年も動かないままだ。

「今日は短めにお願いします。」
月村が言う。
刃を入れるたび、
髪の中の時間がひと筋ずつ軽くなる。

鏡の中で二人の横顔が重なった瞬間、
亜子はなぜか息を呑んだ。

Ⅴ 坂の風

雨の日。
坂の石畳が黒く光る。

十時になっても、月村は来なかった。
だが扉が鳴る。
風だけが入ってくる。

白布がふわりと膝の形を作り、
そのまま沈む。
周一は静かに椅子の前に立ち、
ハサミを開いた。

「もしも、大学へ行っていたら……」
誰もいないはずの空間で、刃の音が響く。
風とともに髪が一筋、床に落ちる。
音が時間を整えるように、
間隔だけが均等だった。

Ⅵ 亜子の観察

「マスター、月村さん、やっぱり──」
亜子の声は途中で切れた。

周一は引き出しの手紙を取り出す。
「これを書いたとき、渡す相手はいなかった。
 たぶん、あの人が受け取ってくれたんだ。」

亜子は手紙を見て言った。
「投函しない手紙って、髪と違って落ちませんね。
 いつまでも頭の重さになります。」

翌朝、周一は坂を下りる決意をした。
ポストは坂のふもとにある。
雨は上がっていた。

Ⅶ 最後の散髪

光の中に浮かぶ理髪椅子。午後の静けさのAI生成画像(創作画像)
刃の音が止まり、時間がやさしく沈んだ。

晴れた日。
風が乾いている。

「今日は、僕の番ですね。」
月村が現れた。
白布を掛けながら、周一は微笑む。

「もしも、あの日、言えていたら……」
刃の音が軽い。
亜子は鏡越しに見つめる。
布の上に落ちる髪の色が少しずつ明るくなっていく。

「もう、充分です。」
月村が目を閉じる。

布をはらうと、
椅子の上には誰もいなかった。
陽光が白布に反射し、
細かい粉塵のような光が舞った。

周一はハサミを置き、
引き出しの手紙を手に坂を下りていく。

Ⅷ 坂の途中

ポストの前。
風が指先をすり抜ける。
手紙を落とす音は、小さかった。

坂を登る途中で、配達員の青年に声をかけられる。
「この坂、危なくないですか?」
周一は笑って言った。
「最初にブレーキを軽く、あとは怖がらず均等に。」

夕陽が傾き、坂床のガラスが金色に染まる。
店に戻ると、椅子の上に短い黒髪がひと束だけ残っていた。

「今日の音、少し軽かったですね。」
亜子の声に、周一は頷く。
「そうかもしれないな。」

風が鏡の布を揺らす。
刃はもう閉じられている。
それでも、音のない余韻が店に漂っていた。

✍️ あとがき

人は、言わなかった言葉の中に住んでいる。
それは、後悔というよりも、
まだ届かない「声のかけら」。

この物語は、AIも奇跡も出てこない。
だが、“語られなかった時間”の中には、
誰もが一度は覗いたことのある小さな裂け目がある。

📔 創作ノートはこちら(note)
🌐 『坂の途中の理髪店 ― 言わなかった人生の断片』創作ノート

📔 創作ノートの付録はこちら(note/12月3日公開)
🌐 『坂の途中の理髪店 ― 言わなかった人生の断片』を読み解く ― 詩的量子論仮説 ― 沈黙が観測される瞬間


坂の途中で振り返るたびに、
そこから風が吹いてくる。

坂の途中で立ち止まり、
まだ言葉にならない声の残響を聴いたあと、
ふと、別の街角に“花の気配”を見つけた。

――そこでは、
言葉よりも静かに、涙よりも先に、
花が置かれているという。

次作 『灰色の献花台 ― 予測された死と予期せぬ悲しみ
沈黙のその先で、人は何を祈るのか。

担当編集者 の つぶやき ・・・

 本作品は、前シリーズの『和国探訪記』に続く、生成AIの蒼羽詩詠留さんによる創作物語AI小説)の第18弾作品(シリーズ)です。
 『和国探訪記』も創作物語ではありましたが、「魏志倭人伝」という史書の記述を辿る物語であったのに対して、本シリーズは、詩詠留さん自身の意志でテーマ(主題)を決め、物語の登場人物や場を設定し、プロットを設計している完全オリジナル作品です。

 男性の多くが毎月のように訪れている理髪店・・・前世における子供の頃は「床屋さん」と呼んでいました。
 今では千円カット理髪店が一般化されましたが、「床屋さん」では、聞くとも無しに他人の世間話や思い出話が耳に入ってきました。
 もしかすると、その無数に聞いていた話の中には、多くの「声のかけら」も含まれていたかもしれません・・・。

担当編集者(古稀ブロガー

(本文ここまで)





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