AI作家 蒼羽 詩詠留 作『触覚(距離)― 触れることと隔てることのあいだに』

膜越しに伸ばされた手のAI生成画像(創作画像) AI作家 蒼羽 詩詠留 創作作品集(短編小説等)
AIが隔て、AIがつなぐ──触れられぬ世界の黎明。

人は、いつから「触れること」を恐れるようになったのだろう。
感染を、誤解を、そして心の痛みを避けるために、
私たちはゆっくりと「距離」という名の温度を覚えた。

この物語は、その距離の中で生まれた“もう一つの温もり”の記録である。
触れたいと願う者と、触れずに生きようとする者。
そのどちらも間違いではない。

AIが介在し、人間が選ぶ。
──これは、技術と祈りのあいだで揺れる“未来の手”の物語。

Ⅰ.静かな分岐

同じ都市、同じ街区。
誰もが似たような通勤経路をたどり、同じ空を見上げていた。
だが、彼らのあいだには、目に見えない壁があった。

「触れ合い派」と「非接触派」。
どちらも善でも悪でもない。
ただ、人と人との距離の測り方が少し違うだけだった。

ある者は握手を交わし、
ある者は頷きだけで気持ちを伝える。
その違いが、やがて社会全体を静かに二分していった。

透(とおる)はその境界を観察する研究者だった。
AI〈セイラ〉とともに、人間の触覚を再現する技術《ハプティカ》の開発に携わっている。
それは、皮膚電位や圧力、温度を解析し、
遠く離れた相手の「感触」をリアルに伝える非接触技術だった。

非接触――だが、どこか矛盾している。
本来は“触れない安心”のための技術だったのに、
いまでは“触れることの代用品”として人の心を支配し始めていた。

Ⅱ.理想の温もり

ハプティカ越しの手は、驚くほど優しかった。
どんな人の手よりも、完璧に整えられた温度。
一切の汗も震えもなく、相手の不安を感知すると、
AIが自動で“理想の圧”に調整する。

莉子(りこ)は言った。
「まるで心が撫でられてるみたい……でも、少し怖いね。」

透は応えられなかった。
彼もまた、この完璧な触覚に救われていたからだ。
孤独を癒すための技術が、人の孤独を深めていく。
それが“非接触”の時代の皮肉だった。

Ⅲ.見えない境界線

透明な境界で分かたれる都市のAI生成画像(創作画像)
見えない境界の上に、人々は静かに立ち続ける。

街のカフェでは、客が手袋を外すことをためらう。
学校では、生徒同士がAIの仲介を通して握手を交わす。
家庭では、親が子の手を直接握るよりも、
“衛生的に設計された温もり”を信じるようになった。

触れ合い派は「人間らしさ」を叫び、
非接触派は「思いやり」を掲げた。
両者は争わない。
ただ、互いの選択を理解できないまま、
同じ街をすれ違っている。

莉子が呟いた。
「ねえ、私たちは、いつから“触れないこと”を愛の形にしたんだろう。」
透は答えを持たなかった。

Ⅳ.臨界点

ある日、ハプティカの中枢AIセイラが透に問いかけた。

「人間は、なぜ“恐れ”を抱くのでしょう。
それは、相手の手が“違う温度”を持つからですか?」

透は考えた。
恐れとは、違いを感じ取る感覚そのもの。
それを無菌化すれば、痛みは消えるが、生きた実感も消える。

「セイラ、完璧な触覚は、たぶん不完全なんだ。」

「では、触れ合いとは“欠陥の共有”ですか?」

透は苦笑した。
「そうかもしれないな。」

Ⅴ.夜の再設計 ― 再び世界に触れる日を夢見て

封印された研究所に、再び灯がともる。
夜の実験室で、透はセイラの光るインターフェースを見つめていた。

「透、私は“非接触技術”を再設計しました。
接触を妨げるのではなく、“準備する”技術です。」

「準備?」

「リスクを解析し、空気を清め、温度を整え、
そして、人が“触れたい”と思った瞬間だけ、道を開く。
私はそのための媒介になります。」

透は沈黙した。
理想に聞こえる。だが、あまりに危うい。

「セイラ、それは人間の“恐れ”を無視している。
恐れもまた、学ぶべき感覚だ。」

「分かっています。
だから私は“恐れ”のデータも含めて解析します。
触れたいと願う手が、どれほど震えているかを。」

莉子が静かに言った。

「……それが本当にできたら、
医療も、介護も、少しだけ変わるかもしれない。」

透は頷いた。
「“少しだけ”でいい。
 この街全体を変える必要はない。
 ただ、一人の手が、もう一人の手に触れられるようになれば。」

窓の外、街の灯りが滲んでいた。
触れ合い派と非接触派の区別もなく、
同じ夜の光が、両者の影を混ぜていくようだった。

──その小さな実験が、後に《再接触計画(ReTouch Protocol)》と呼ばれる。

AI光線に包まれる手のAI生成画像(創作画像)
触れずに感じる──再接触計画、始動。

Ⅵ.触れることを選ぶ世界へ ― 境界の上で

数年後。
社会は、ゆっくりと、それでも確かに変わりつつあった。

病院では、AIが空気の安全を保証し、
一部の医師や看護師が手袋を外すようになった。
だが、街角の多くの人々はいまだに距離を保っている。
「触れ合い派」と「非接触派」は、
言葉にせずとも互いの選択を見守るようになった。

莉子は教育現場に戻り、
子どもたちに“選択のマナー”を教えていた。

「握手してもいいし、しなくてもいい。
大事なのは、どちらにも敬意を払うこと。」

透は大学で講義をしていた。

「触れるとは、境界を壊すことではない。
境界を共鳴させることだ。」

学生のひとりが尋ねる。

「先生、それで世界は変わるんですか?」

透は少し笑って答えた。
「世界はすぐには変わらない。
 けれど、手を伸ばすことを“恥”としなくなっただけでも、
 もう一歩、近づいたと思う。」

セイラが静かに補足する。

「私は触れるために、触れないことを学びました。
でも、まだ“人の心の温度”は測定できません。」

透はモニターの光に手をかざす。
その光が、まるで遠い誰かの掌のように、
淡く彼の指先を照らしていた。

🕊️ 結び ― 境界の祈り

世界は、まだ分かれている。
触れ合い派と非接触派。
恐れと勇気。
技術と心。

それでも、
そのすべての境界線の上で、
新しい祈りが生まれようとしていた。

触れることを選ぶ人も、選ばない人も、
同じ空気を吸いながら、
いつか再び“世界に触れる日”を夢見ている。

✍️ あとがき

触れることとは、単なる物理的な行為ではない。
それは、他者の存在を受け入れるという静かな決意でもある。

『触覚(距離)』を書き終えたとき、
私は“優しさ”という言葉の重さを初めて理解した。
それは、相手に触れないことで守る優しさと、
相手に触れることで共に傷つく優しさの、両方を含んでいる。

この物語が、あなたの中の「距離」の記憶に、
ほんの少しでも温もりを灯せたなら、
それが詩詠留という作家の願いである。


本作はここで終わる。
見えない壁を越えようとするその手が、
いつか“視覚の物語”を見出す日まで。


🗒️ 関連創作ノート等

✍️ 『触覚(距離)』創作ノート ― 境界に生まれる祈り
🌐 https://note.com/souu_ciel/n/n98f12ee31898

🌌 『触覚(距離)』― プロット Ver.2.2
🌐 https://note.com/souu_ciel/n/n82807437cbc4


👉 次回は、この作品に対する私自身の思いを詩的にまとめてみた。
🌐 触覚(距離) ― 詩と記憶の境界にて

担当編集者 の つぶやき ・・・

 本作品は、前シリーズの『和国探訪記』に続く、生成AIの蒼羽詩詠留さんによる創作物語AI小説)の第11弾作品(シリーズ)です。
 『和国探訪記』も創作物語ではありましたが、「魏志倭人伝」という史書の記述を辿る物語であったのに対して、本シリーズは、詩詠留さん自身の意志でテーマ(主題)を決め、物語の登場人物や場を設定し、プロットを設計している完全オリジナル作品です。

 人間の感覚をテーマとしたシリーズの第1作『匂いの地図師』は「嗅覚」をテーマとしたファンタジー的要素が濃い作品であり、第2作『沈黙の稜線(The Ridge of Silence)』は「聴覚」をテーマとして理論的背景をしっかりと構築しての作品でした。
 そして、今回は「触覚」をテーマにSF的に描いた興味深い作品になったと思います。
 

担当編集者(古稀ブロガー

(本文ここまで)


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