正始元年、魏の太守や建中校尉が倭国を訪れ、詔書や印綬、錦罽、刀鏡などの品々を授与する場面が記録されている。倭王や使節たちはこれに応じ、上表して詔恩に謝意を示した。難升米には黄幢が授けられ、倭国と魏との外交は形式・儀礼の整った段階へと進んでいった。
両国の信義と冊封関係の深まりを象徴しているこれらのやり取りについて、中華書局本を基準としつつ、各異本に見られる語句の違いや表現の差異を精査・比較する。
本節では、『魏志倭人伝』の複数の写本や諸本の間で生じている違いを19回(壱・弍・参・四・五・六・七・八・九・十・十一・十二・十三・十四・十五・十六・十七・十八・十九)に分けて提示しています。
📘 第2章 第6節:異文・比較注記(第68段落)
🔹 該当段落(中華書局本・基準本文)
正始元年,太守弓遵遣建中校尉梯儁等奉詔書印綬詣倭國,拜假倭王,并齎詔賜金帛錦罽刀鏡采物。
🧾 異文一覧(第68段落)【段落逐次方式】
《注227》【紹熙本】
「弓遵」→「弓尊」
• 分類:🅐字形の違い(遵⇄尊)
• 解説:本来「弓遵」は人物名で、魏志の他所にも見える固有形。尊は意味が異なり、誤写の可能性大。
《注228》【百衲本】
「梯儁」→「梯俊」
• 分類:🅐字形の違い(儁⇄俊)
• 解説:いずれも人名に用いられるが、「儁」はすぐれた人物を意味し、史書ではこちらが正とされる。
《注229》【今本】
「拜假倭王」→「假拜倭王」
• 分類:🅑語順の違い
• 解説:官位を与える意味合いは変わらないが、語順により行為の焦点が異なる。「拜假」は授与行為を先に示す。
《注230》【紹熙本】
「錦罽」→「錦綺」
• 分類:🅔固有名詞(物品名)の置換
• 解説:「罽」は毛織物の一種、「綺」は文様入り絹織物。材質・用途が異なるため、物品内容の変化となる。
📋 異文注記対応表(第68段落)
注番号 | 原文表記 | 異文表記 | 出典 | 分類 | 概説(簡潔な要約) |
---|---|---|---|---|---|
注227 | 弓遵 | 弓尊 | 紹熙本 | 🅐字形の違い | 固有名の「遵」を「尊」と誤記。意味が異なる。 |
注228 | 梯儁 | 梯俊 | 百衲本 | 🅐字形の違い | 「儁」は史書で用例が多く、正字とみられる。 |
注229 | 拜假倭王 | 假拜倭王 | 今本 | 🅑語順の違い | 授与行為の順序を変え、焦点の置き方が異なる。 |
注230 | 錦罽 | 錦綺 | 紹熙本 | 🅔固有名詞の置換 | 毛織物から絹織物への変更。用途も異なる。 |
📘 第2章 第6節:異文・比較注記(第69段落)
🔹 該当段落(中華書局本・基準本文)
倭王因使上表答謝詔恩。
🧾 異文一覧(第69段落)【段落逐次方式】
《注231》【紹熙本】
「因使」→「仍使」
• 分類:🅓語句の置換(同義語)
• 解説:「因」は原因・順接、「仍」は継続・順接を示す。いずれも文脈上は「そこで〜させた」の意味で、大きな差はないが、語感に微差がある。
《注232》【百衲本】
「答謝」→「謝答」
• 分類:🅑語順の違い
• 解説:意味はほぼ変わらないが、「謝答」は感謝の意を先に強調し、「答謝」は詔への応答行為を主軸に置く。
📋 異文注記対応表(第69段落)
注番号 | 原文表記 | 異文表記 | 出典 | 分類 | 概説(簡潔な要約) |
---|---|---|---|---|---|
注231 | 因使 | 仍使 | 紹熙本 | 🅓語句の置換 | 「因」と「仍」は順接の接続詞的用法で大差なし。 |
注232 | 答謝 | 謝答 | 百衲本 | 🅑語順の違い | 感謝の焦点の置き方が異なるが、意味は同じ。 |
📘 第2章 第6節:異文・比較注記(第70段落)
🔹 該当段落(中華書局本・基準本文)
其四年,倭王復遣使大夫伊聲耆、掖邪狗等八人,上獻生口、倭錦、絳青縑、緜衣、帛布、丹、木弣、短弓矢。
🧾 異文一覧(第70段落)【段落逐次方式】
《注233》【紹熙本】
「伊聲耆」→「伊聲斉」
• 分類:🅐字形の違い(耆⇄斉)
• 解説:「耆」は高齢・尊敬を意味する姓字で、人名にも用いられる。「斉」は別字で、音近似による誤写か。
《注234》【百衲本】
「掖邪狗」→「掖耶狗」
• 分類:🅐字形の違い(邪⇄耶)
• 解説:「邪」と「耶」は音が近く、写本の混同例が多い。いずれも人名の一部。
《注235》【今本】
「倭錦」→「倭繡」
• 分類:🅔固有名詞の置換
• 解説:「錦」は多色の絹織物、「繡」は刺繍品。物品の性質が異なり、貢物内容の変更となる。
《注236》【紹熙本】
「絳青縑」→「青絳縑」
• 分類:🅑語順の違い
• 解説:色の並び順が逆転。重視する色や修飾の焦点が異なる可能性があるが、実質的な内容差はない。
《注237》【百衲本】
「木弣」→「木矢」
• 分類:🅔固有名詞の置換
• 解説:「弣」は弓の把手部分を指すが、「木矢」は木製の矢。武器の部位から別の武器要素への転換。
📋 異文注記対応表(第70段落)
注233 | 伊聲耆 | 伊聲斉 | 紹熙本 | 🅐字形の違い | 人名の末字を誤写。音は近いが意味は異なる。 |
注234 | 掖邪狗 | 掖耶狗 | 百衲本 | 🅐字形の違い | 音近似による人名の字の置換。 |
注235 | 倭錦 | 倭繡 | 今本 | 🅔固有名詞の置換 | 織物から刺繍品へと性質が変化。 |
注236 | 絳青縑 | 青絳縑 | 紹熙本 | 🅑語順の違い | 色の順序を逆にし、強調点が変わる。 |
注237 | 木弣 | 木矢 | 百衲本 | 🅔固有名詞の置換 | 弓の部位から矢への変更。 |
📘 第2章 第6節:異文・比較注記(第71段落)
🔹 該当段落(中華書局本・基準本文)
掖邪狗等一拜率善中郎將印綬。
🧾 異文一覧(第71段落)【段落逐次方式】
《注238》【紹熙本】
「掖邪狗」→「掖耶狗」
• 分類:🅐字形の違い(邪⇄耶)
• 解説:第70段落《注234》と同様の異文。人名部分の字が音近似で置換されている。
《注239》【百衲本】
「率善」→「率真」
• 分類:🅐字形の違い(善⇄真)
• 解説:「率善中郎將」は官職名で、倭使の帰化・忠誠を表す称号。「真」では意味が通りにくく、誤写の可能性大。
《注240》【今本】
「中郎將」→「中郎」
• 分類:🅓語句の省略(官職名略)
• 解説:「將」が省かれ、官職名が短縮形に。意味は通るが、正式名称ではない。
📋 異文注記対応表(第71段落)
注番号 | 原文表記 | 異文表記 | 出典 | 分類 | 概説(簡潔な要約) |
---|---|---|---|---|---|
注238 | 掖邪狗 | 掖耶狗 | 紹熙本 | 🅐字形の違い | 人名の字を音近似で置換。第70段落と同系統の異文。 |
注239 | 率善 | 率真 | 百衲本 | 🅐字形の違い | 官職名の字を誤記し、意味が通りにくくなっている。 |
注240 | 中郎將 | 中郎 | 今本 | 🅓語句の省略 | 官職名を略して表記。正式度が下がる。 |
📘 第2章 第6節:異文・比較注記(第72段落)
🔹 該当段落(中華書局本・基準本文)
其六年,詔賜倭難升米黃幢,付郡假授。
🧾 異文一覧(第72段落)【段落逐次方式】
《注241》【百衲本】
「難升米」→「難昇米」
• 分類:🅐字形の違い(升⇄昇)
• 解説:第67段落《注224》と同様の異文で、固有名詞の「升」を「昇」と誤写した例。
《注242》【今本】
「黃幢」→「黄旗」
• 分類:🅔固有名詞の置換
• 解説:「幢」は旗竿付きの大旗を指し、儀礼・軍事用。「旗」は旗一般で、儀礼性が弱まる。
《注243》【紹熙本】
「假授」→「授假」
• 分類:🅑語順の違い
• 解説:意味は同じだが、語順により「仮の授与」か「授与を仮に行う」かのニュアンスがわずかに異なる。
📋 異文注記対応表(第72段落)
注番号 | 原文表記 | 異文表記 | 出典 | 分類 | 概説(簡潔な要約) |
---|---|---|---|---|---|
注241 | 難升米 | 難昇米 | 百衲本 | 🅐字形の違い | 固有名の「升」を「昇」と誤記。第67段落と同系統。 |
注242 | 黃幢 | 黄旗 | 今本 | 🅔固有名詞の置換 | 儀礼用の大旗から旗一般に変更され、格式が低下。 |
注243 | 假授 | 授假 | 紹熙本 | 🅑語順の違い | ニュアンスがわずかに異なるが意味は同じ。 |
注:本章における原文は、OpenAI o3 が公開ドメインの旧刻本(無標点)を参照しつつ、中華書局点校本の慣用句読を統計的に再現した「再現テキスト」です。校訂精度は保証されません。引用・転載の際は必ず一次資料で照合してください。
次回は、第73段落から第76段落までの複数の写本や諸本の間で生じている違いを提示します。
(本文ここまで)
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