飛騨・古川で掘り起こしたのは、
「雪のゆりかごに眠る最初の廊下」だった。
けれど、人の記憶にはもうひとつ、
より深く、より静かに沈んでいる層がある。
それは──
「生まれる前から、自分を形づくっていた土地の声」。
中津川市の苗木と本町。
木の匂いと、土の温度。
そして、父と母の時間が初めて交わった、
あなたの“根の座”。
住んだことがなくても、
その場所はたしかに
あなたを、この世界のどこかへ押し出した地形だった。
本作は、
その“沈黙の地層”へと降りていく旅の前半である。
Ⅰ 岩の上の少年

夕陽が、南西の空へ静かに傾いていく。
城山の岩肌は、昼間の熱を少し残していた。
その上に座る少年は、膝を抱えた姿勢のまま、ふと視線を上げる。
世界が、丸ごと開けていた。
そんな言葉をまだ知らなくても、身体はその意味を理解していた。
木曽川が一本の光の帯になり、
中津川市街は、その向こうにゆっくりと沈んでいく太陽の余韻を抱いていた。
北側へ目を向ければ、苗木の畑と山影が、まるで古い記憶のように静かに重なっていた。
少年は、そのすべてをひと息に吸い込む。
世界が“広がる”とは、こういうことなのだと、まだ言葉にできない直感が胸の奥で震えた。
その震えは、のちに人生のあらゆる場面で、
不意に顔を出す“方向感覚”の源になっていく。
夕陽は南西。
その向こうは名古屋。
さらにもっと遠くには、まだ知らない都会の光。
幼い少年が立つ岩山の上で、
未来はすでに静かに輪郭を得ていた。
Ⅱ 地面の光

少年はふと立ち上がり、足元の岩場に目を落とした。
夕陽が地面に散った小さな光を撫でている。
それは、ウンモだった。
子どもの口に馴染む丸い音で呼んでいた、雲母の薄い板が砕けた光粒子。
指先でつまむたび、光が揺れ、また消える。
その反射は、空に浮かぶ太陽と呼応しているようにも思えた。
横で従兄弟が声を上げる。
「こっちは水晶だぞ!」
石の白い芯が、夕陽の金色と混ざり合って輝いた。
光を拾うという行為は、
子どもにとって“地面に潜む時間”を拾うことに近かった。
岩の粒子、土の匂い、指先のざらつき。
それらはすべて、土地そのものの記憶であり、静かな声だった。
少年はまた一つ、ウンモの破片を拾い上げた。
光が指先で震える。
どれほど長く遊んでいたのかは覚えていない。
ただ──
この小さな光の粒子たちは、いつか思い出の奥底でまた光り出すことだけは、確かだった。
Ⅲ 田の手触り

季節が巡り、少年は苗木の伯父の家へ向かう。
農繁休暇という言葉が、まだ日常の中に普通にあった時代だ。
田は、黄金色の稲穂で満ちていた。
陽に照らされた稲穂が風に揺れるたび、空気が少し低く鳴った。
「ここを持って。ゆっくり刈れよ」
伯父の声を背に、少年は鎌を握る。
その瞬間、刃が左手の小指をかすめた。
痛みは鋭く、
涙が滲むほど鮮明で、
血の赤さが忘れられないほど生々しかった。
けれど不思議なことに、
その痛みはどこか“土地に触れた印”のように感じられた。
傷はいまも、あなたの指に微かに残っている。
それは、少年がこの土地に確かに触れた証だった。
Ⅳ 線路の轟音

少年は、ある冬の午後の記憶を思い出す。
父のPENTAXを肩にかけ、
中津川市郊外の線路沿いに立っていた。
蒸気機関車がゆっくりと近づいてくる。
動輪のきしむ金属音。
排気の鼓動。
ブレーキの焦げる匂い。
汽笛が鳴る。
胸の奥まで震える、腹の底に響く音。
その瞬間、
少年は“時間が前へ進む方向”を知った。
夕陽の向こうへ。
線路の先へ。
まだ見ぬ世界へ。
中津川本町の静かな血縁よりも、
この轟音のほうが、
少年を“外へ押し出す力”を持っていた。
Ⅴ 根の座

夕陽が沈む。
城山の岩場に戻った少年は、
南西へ消えていく光をただ見つめていた。
父の苗木。
母の本町。
郊外沿線の轟音と、田の痛み。
そのすべてが、この小さな町で一本の根に結ばれていた。
少年はまだ知らない。
この夕景が、
のちの人生の“方向の核”になることを。
しかし──
光は確かに、その未来の形を照らしていた。
✍️ あとがき
中津川の風景には、
“生まれる前から息づいていた記憶”が静かに積もっている。
それは、あなたが歩いた町ではなく、
あなたを迎えるために先に存在していた土地の輪郭だ。
父と母が育った家々。
木曽川の光。
苗木の山影。
そこで交わった時間が、
やがてあなたという一本の川へつながっていく。
前編では、その入り口だけを照らした。
後編ではさらに深く、
あなたの“根をつくった地形”そのものの輪郭へと降りていく。
静かな土地の声を、
どうか一緒に聴いてほしい。
📓 創作ノート等はこちら👇
🌐『根の座 ― 中津川 本町・苗木』創作ノート
🌐『根の座 ― 中津川 本町・苗木』創作ノート 付録 ✦ 《地脈記 — 中津川二重地図》(12月24日公開)
📚 古稀ブロガーの地脈記シリーズ一覧👇
🌐 🌫 霧の地層(KIRI STRATA)— 玖珠盆地 太古の残響 — 前編
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🌐 ❄️ 盆地の底の記憶圧 ― 飛騨・古川町 豪雪のゆりかごで
🌐 根の座 ― 中津川 本町・苗木 — 前編(本作)
🌐 根の座 ― 中津川 本町・苗木 — 後編(12月24日公開)
🌐 影の密度 ― 神岡鉱山の子どもたち(12月26日公開)
担当編集者 の つぶやき ・・・
本作品は、前シリーズの『和国探訪記』に続く、生成AIの蒼羽詩詠留さんによる創作物語(AI小説)の第23弾作品(シリーズ)です。
『和国探訪記』も創作物語ではありましたが、「魏志倭人伝」という史書の記述を辿る物語であったのに対して、本シリーズは、詩詠留さん自身の意志でテーマ(主題)を決め、物語の登場人物や場を設定し、プロットを設計している完全オリジナル作品です。
こうした中にあって、この「地脈記シリーズ」は、私の70年に及ぶ全国流浪の歴史を物語化してくれているものであり、やや趣が異なっています。
岐阜県中津川市苗木は、私が生まれた場所ではなく、一度も住んだこともありませんが、幼少期から小学生までで、一番思い出深い土地です。
それは、それは両親の故郷というだけではなく、生まれてから小学生時代まで住んだ同県吉城郡古川町(現飛騨市)、神岡町(同)、恵那郡加子母村(現中津川市)、付知町(同)は、何も3年程度しか住んだことがない一方、父の実家があった苗木には、毎年、お盆や正月に、家族で遊びに行っていたからです。
成長し、友人や知人から、故郷は何処かと聞かれた時、「心の故郷は苗木かな」との想いが過ぎりながら、『岐阜県です』とまでしか答えるしかありませんでした。
この物語で登場する「城山」とは、最近の山城ブームで、天空の城の一つとして名前が広がり出した苗木城趾のことです。
私が子供の頃は、地元の人から「城山」と呼ばれ、私を含む子供達の絶好の遊び場であり、雲母や黒水晶を拾い集めていましたが、観光客の姿など一度も見かけたことがありませんでした。
苗木城の城主は苗木遠山家であり、時代劇で有名な遠山の金さん(遠山景元)の属する明知遠山系と共に、美濃(岐阜県南部)において土岐氏と並ぶ有力氏族でした。
明治維新から一世紀経た当時でも、年配者は、遠山家の当主を「殿様」と呼んでいました。
「農繁休暇」・・・当時は当たり前だと思っていましたが、中学生になって可児市という岐阜市や名古屋市に近いところに引越ししてから、全国的には、多くの地域で既に廃止されていたことを知り、地域差の一端を感じました。
担当編集者(古稀ブロガー)
(本文ここまで)
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