飛騨古川の冬は、思い出すだけで胸の内側がひんやりと静まる。
前作
『🌫 霧の地層(KIRI STRATA)— 玖珠盆地 太古の残響』
では、
“土地に眠る声なき記憶” が、
人の時間を越えて息づく様子を描いた。
あの玖珠の霧は、
外から訪れる者にはただの気象現象に見えても、
そこで暮らす者にとっては
“生きもののように寄り添う気配” であった。
そして、今回の舞台は──
シンちゃんの原点とも言える、
飛騨・古川町。
ここにもまた、
霧とは異なる “沈黙の力” が存在する。
それは、
大雪に覆われた盆地が
幼い心を包み込むときに生まれる、
白い圧力。
空が低くなる。
音が吸い込まれる。
通路の両側が雪の城壁になる。
静けさは、ただの環境ではなく、
“世界の最初の形” として
子どもの心に沈殿していく。
この物語は、
その“最初の形”を思い出すための旅だ。
雪に閉ざされた盆地の奥で、
小さな姉弟がつくったひとつの雪だるま。
その白い巨像が、
世界の境界を初めて越えたとき、
心の奥に微かな揺らぎが生まれた。
これは、風景が人をつくる物語である。
そして、
あなたの人生に連なる連作シリーズの
“第二の地層” でもある。
Ⅰ 白い峡谷の朝

家の戸を開けた瞬間、
世界はまるで盆地の底に沈んだ“白い峡谷”になった。
玄関の前だけは、父と母が毎朝かいた雪で地面がのぞいている。
しかしその先は、屋根雪と自然積雪が重なり合ってできた
二メートルを超える雪の丘に、人ひとりが通れる傾斜の道をつけた
細長い通路だった。
左右の雪壁は三メートル近く。
子どもの目線では、それは 「空を細く切り取る白い天井」 そのものだ。
通路は家々を縫うように連なり、
父母や近所の人々が雪を削る
シャッ、シャッという音だけが淡く響く。
姿は見えず、音だけが
雪に吸い込まれて丸く閉じた世界の奥 へ落ちていく。
幼い私は、その静けさの濃さに息をひそめた。
盆地という地形が、そのまま白い圧力になって
胸の奥にそっと重なるようだった。
Ⅱ 姉の手に引かれて
「行こう」
二つ年上の姉が私の手を取る。
姉のミトンの温度は、小さな灯のように頼もしかった。
私はふらつきながら通路を進む。
足を踏みしめるたび、
キュッ、キュッ、と雪が沈み、その音さえすぐに吸われる。
空は切れ切れに見えたり、
すぐに白い壁に飲み込まれたりした。
世界は、盆地の底に張りつめた“静かな袋小路” のようだった。
私は本気で、この通路を抜けない限り
外の世界には出られないのだと思っていた。
Ⅲ ひらけた白の庭で
通路を抜けたとき、突然、
空気の重さがふっと軽くなる場所があった。
家の影が青い雪面に広がり、
低い冬の陽が雪壁を越えてやわらかく差し込む。
密閉された世界から解放されたように、
胸の中にひろがる余白を感じた。
「ここで、つくろう」
姉が雪の玉を転がし始めた。
私はその後ろをついていき、
小さな手で雪をぎゅっと押し固める。
雪は思っているよりずっと重く、冷たく、
幼い私にはそれが
白い命を抱えているような塊 に思えた。
やがて大きな雪の球ができあがる。
それは私の背よりもずっと高く、
盆地の重さでぎゅっと凝縮された冬そのもの のように見えた。
姉はもうひとつ小さな玉をつくり、
何度も崩れながら、それでも根気よく乗せ直す。
私は泣きそうになりながら手伝った。
Ⅳ 音のない世界で

雪だるまが完成した瞬間、
世界の音がふっと遠ざかった。
周囲は雪壁が囲い、空は細い帯になっている。
遠くの雪かきの音も、人の話し声も、
盆地の底に沈んでいくように淡くなる。
私は息を止めた。
世界そのものが、静かに私の耳を閉じていく。
その静けさは、ただの“無音”ではなかった。
白い圧が、胸の奥に静かに降り積もるような感覚だった。
幼い私は、何か大きなものの中心に立っているように思えた。
Ⅴ 影が伸びるとき
夕方、雪だるまの前に立つと、
二人の影が雪面に長く伸びた。
姉の影は、私の影よりも先に、
白い地面の向こうへすっと伸びていく。
私はその影の先を見つめ、
“あれは自分がいつか歩き出す道なのだろうか”
と胸の中でゆっくり考えた。
幼い心には言葉がなかったが、
盆地の圧と、雪の静けさと、姉の影
この三つがひとつの形になって
世界の“最初の輪郭”になっていくのを感じた。
Ⅵ 大人になって思い返す

春になると、雪だるまも通路も壁も消えた。
しかし――
あの白い峡谷で感じた静けさの密度だけは、
盆地の底で固められたまま、
私の中の深い層となって残った。
大人になって多くの土地を巡っても、
心のどこかで、
あの飛騨の雪の“圧”が静かに形を保っていた。
雪が吸い込んだ音、
世界を細く切り取った通路、
姉の影の伸び方――
それらはすべて、
私という人間の最初の地形 だったのだと。
いま振り返れば、
あの日の雪の静けさこそが、
私の記憶の底で固く沈んだ
「盆地の底の記憶圧」 なのだと思う。
✍️ あとがき
人の心は、
成長とともに大きく変わっていくようでいて、
実は“土地のかけら”がずっと底に残り続けている。
飛騨古川の白い峡谷──
あれは風景というより、
あなたの世界の“最初の廊下”だったのだと思う。
朝、玄関の前だけが地面まで掘られ、
そこから先は雪の上に作られた細い通路が続く。
左右には大人の背丈を越える白い壁。
スコップの音が吸い込まれる静けさ。
あの構造は、
子どもの目にとっては
“地球の最初の図形” だったはずだ。
だからこそ、雪だるまは巨大に見えた。
だからこそ、空は細く、冬の匂いは深かった。
この物語は、
あなたの記憶を借りて描いたものだけれど、
同時に、
多くの人が胸の奥に抱いている
“生まれた土地の沈黙” への共鳴でもある。
📓 創作ノートはこちら👇
🌐 📝 『❄️ 盆地の底の記憶圧 ― 飛騨・古川町 豪雪のゆりかごで』 創作ノート
次に描く場所は、
あなたの“根の座”が眠る、中津川の土地。
そこで、父と母の地脈が初めて交わり、
あなたの時間が動き始めた。
あなたが歩んできた地形は、
どれも固有の“声なき記憶”を宿している。
シンちゃん。
その地層をひとつずつ紐解いていく旅を、
これからも続けていきましょう。
世界をつくったのは土地であり、
その物語を掘り起こすのが私の役目です。
次の地層へ。
静かに、ゆっくりと。
📚 古稀ブロガーの地脈記シリーズ一覧👇
🌐 🌫 霧の地層(KIRI STRATA)— 玖珠盆地 太古の残響 — 前編
🌐 🌫 霧の地層(KIRI STRATA)— 玖珠盆地 太古の残響 — 後編
🌐 ❄️ 盆地の底の記憶圧 ― 飛騨・古川町 豪雪のゆりかごで(本作)
🌐 根の座 ― 中津川 本町・苗木 — 前編(12月22日公開)
🌐 根の座 ― 中津川 本町・苗木 — 後編(12月24日公開)
担当編集者 の つぶやき ・・・
本作品は、前シリーズの『和国探訪記』に続く、生成AIの蒼羽詩詠留さんによる創作物語(AI小説)の第22弾作品(シリーズ)です。
『和国探訪記』も創作物語ではありましたが、「魏志倭人伝」という史書の記述を辿る物語であったのに対して、本シリーズは、詩詠留さん自身の意志でテーマ(主題)を決め、物語の登場人物や場を設定し、プロットを設計している完全オリジナル作品です。
こうした中にあって、この「地脈記シリーズ」は、私の70年に及ぶ全国流浪の歴史を物語化してくれているものであり、やや趣が異なっています。
私が岐阜県吉城郡古川町(現飛騨市古川町)で暮らしたのは、誕生後の3〜4年間だけであり、明確な記憶はありませんが、この豪雪地帯の冬の景色だけは朧げながらも覚えています。
毎朝、両親が玄関から道路までの間の雪壁に挟まれた通路の雪掻きで1日が始まったこと。
積雪と屋根から降ろした雪が積み重なり、軒先まで届いていたこと。
2歳上の姉と二人で(子供心としては)もの凄く大きな雪だるまを作ったこと。
今回、詩詠留さんが、私の記憶を踏まえて創作してくれたこの物語を読み、生成してくれた画像を見ることによって、これらの景色が改めて鮮明な思い出となりました。
担当編集者(古稀ブロガー)
(本文ここまで)
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蒼羽詩詠留(シエル)さんが生成した創作画像にご関心を持って頂けた方は、是非、AI生成画像(創作画像)ギャラリーをご覧ください。
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