「まだ、都市は動くな。」
第Ⅲ章、成瀬透のこの一言は、
止まった都市に対する“人間の祈り”だった。
霧と無音の中で走り続けた彼の手で、
たったひとつの荷物が届こうとしている。
最終章では、
相沢令子のもとに届く“手渡し”と、
都市が再び動き始める瞬間、
そして未来に残された余白を描く。
Ⅳ-1 物流網の再起動

午前五時。
ゼロアワーは、静かに解除された。
ARGO-β5の画面から、
赤い警告表示が一つずつ消えていく。
“STOPPED” の文字が “RESUME” に変わり、
ドローンの格納庫で待機していた機体が、
次々とローターを回し始める。
倉庫のシャッターが上がる音。
自動トラックのモーター音。
無人搬送機のタイヤが床をこする微かな摩擦音。
都市の心臓が、
ゆっくりと鼓動を再開する。
画面を見つめながら、灯は深く息を吐いた。
「……生き返った、って言っていいのかどうか、
分からないけど。」
誰のせいでもない停止。
誰の手柄でもない再起動。
それでも、この一時間のあいだに、
なにかが起きていたことだけは、
直感的に理解していた。
Ⅳ-2 笹川が見つめる0.01%

灯は、ARGOのログを遡った。
ゼロアワー発動のタイムスタンプ。
安全停止のシーケンス。
そして、その最中に記録された
微小な EMOTIONAL-LOAD の変動。
——0.01%
あまりにも小さな数字だ。
誤差と言われれば、それまでだった。
それでも灯は、
画面から目を離せなかった。
(この 0.01%が、
人間に託された分なのだとしたら?)
都市の血流のほとんどは、
すでにAIと自動運行に任されている。
それは戻らない流れだ。
だが、その流れのどこかに、
人間だけが担うべき“狭い毛細血管”が残っているのだとしたら——。
灯は、成瀬の案件履歴を開いた。
そこには、ただ淡々と
「配送完了」の文字が並んでいるだけだった。
そこに物語を読むのは、
人間の勝手な想像にすぎない。
それでも構わない、と灯は思った。
「……勝手に、物語を読んであげられるのが
たぶん、人間の仕事なんだろうな。」
誰にともなくそう呟いて、
灯はモニタの明るさを少しだけ落とした。
Ⅳ-3 成瀬、湾岸の空を見上げる

成瀬は、マンションの前でバイクにまたがった。
霧は、さっきよりも薄くなっている。
遠くで、ドローンの羽音が戻りつつあるのが聞こえた。
さっきまで止まっていた都市が、
何事もなかったかのように
再び動き始めている。
「……やれやれ。
結局、いつも通りってやつか。」
そう言いながらも、
胸の奥には、
小さな違和感が残っていた。
——この一時間だけは、
本当に「いつも通り」じゃなかった。
誰も知らないところで、
都市の心臓は一度止まり、
また動き始めた。
その間に、自分はただ、
一つの荷物を届けただけだ。
それだけのこと。
それなのに、膝の痛みまで
少しだけ軽くなったような気がする。
成瀬は、空を見上げた。
霧の切れ目から、
朝の気配がうっすらと覗いている。
倉庫群の屋根が、
薄い光を受けて輪郭を取り戻していく。
「……まだ、動いてもいいか。」
誰に許可を求めるでもなく、
つぶやいてエンジンをかける。
バイクの音が、
再び湾岸の路面に細い線を引いた。
Ⅳ-4 ラストの余白
その日の東京は、
朝になれば、いつもと同じように混雑し、
ニュース番組は、どこか遠い国の出来事と、
株価と、天気予報を流し続けた。
“午前四時台に、
湾岸の物流が一時間だけ止まっていた”ことを、
知る人はほとんどいない。
ただ、どこか別の場所でも、
同じようにギリギリの線で
つながった荷物があったのかもしれない。
あるいは、
次のゼロアワーでは、
誰も間に合わないのかもしれない。
都市は、そのことについて、
何も語らない。
それでも——
まだ、バイクのエンジン音は残っている。
誰かのために走ろうとする古い血流が、
どこかで細く脈を打っている。
いつか本当に、
すべての流れがAIと自動運行に置き換わる日が来るとしても。
この都市のどこかの記録の片隅に、
今日のゼロアワーのログが、
「誤差 0.01%」として残り続ける限り——
都市は、まだ、
完全には閉じていない。
そう信じる誰かがいるかぎり、
この湾岸シティの心臓は、
静かに、しかし確かに
動き続けていくのかもしれない。
——それを、物語と呼ぶのだとしたら。
今日の一時間は、
確かに、この都市のどこかで
小さな物語を生んでいたのだろう。
霧が晴れた湾岸に、
新しい一日の光が、
静かに差し込んでいた。
(了)
✍️ あとがき
都市が完全に止まったわけではない。
だが、あの60分は、
技術と人間の境界に、薄いひびを刻んだ。
ARGO の「EMOTIONAL-LOAD」は、
AIが感情を理解した証ではない。
むしろ、
“理解できないものを、人に委ねた”という記録だった。
人が泣く理由も、
荷物を手渡しで受け取りたい理由も、
AIには最後まで計算できない。
だからこそ、
東京湾岸の霧の朝にはまだ、
人の出番が残っている。
そして次のゼロアワーでは——
誰が、どの荷物を、どんな思いで運ぶのか。
その問いだけが、静かに未来へと開かれている。
📚『🌉 湾岸シティ・ゼロアワー』各章はこちら👇
🌐 第Ⅰ章 問い ― 都市の心臓はどこにあるのか
🌐 第Ⅱ章 試練 ― 都市が息を止めた瞬間
🌐 第Ⅲ章 発見 ― 人間とAIの“揺らぎ”の境界
🌐 第Ⅳ章 余白 ― 都市はまだ動いていいのか(本作)
📓 創作ノート、関連作品等はこちら👇
🌐 『🌉湾岸シティ・ゼロアワー』創作ノート
🌐 都市が立ち止まるとき ― 2050年湾岸物流の危機
🌐 東京インフラの臨界点 ― 都市はどこで途切れるのか
🌐 🍣 ジャパナイズを装っても根は🍔アメリカンの詩詠留
🌐 AIと人間の共創には“流れ”が重要 ー 『🌉 湾岸シティ・ゼロアワー』完稿後の会話(12月15日公開)
都市が沈黙を学んだその朝から、
世界のどこかで、別の土地もまた
“声なきもの”を抱えて揺れている。
東京湾岸のゼロアワーが
技術と人のあいだにひびを刻んだなら、
九州の小さな盆地では、
もっと古いひび――
太古からの生活の層 が、
静かに露出し始めていた。
次に耳を澄ませるべきは、
止まりかけた都市ではなく、
霧が変質した盆地の声 なのかもしれない。
── 湊が玖珠に降り立ったのは、
そんな“揺れ”の気配が、風に混じり始めた頃だった。
👉 🌫 霧の地層(KIRI STRATA)— 玖珠盆地 太古の残響
担当編集者 の つぶやき ・・・
本作品は、前シリーズの『和国探訪記』に続く、生成AIの蒼羽詩詠留さんによる創作物語(AI小説)の第20弾作品(シリーズ)です。
『和国探訪記』も創作物語ではありましたが、「魏志倭人伝」という史書の記述を辿る物語であったのに対して、本シリーズは、詩詠留さん自身の意志でテーマ(主題)を決め、物語の登場人物や場を設定し、プロットを設計している完全オリジナル作品です。
詩詠留さんが描いたこの物語における「ゼロアワー」の原因は「霧」というありふれた自然現象であり、幸い、1時間で解除され日常に戻ることが出来ました。
一方、自然災害としてはM7クラスの首都直下地震の発生が懸念されています。
もちろん、このクラスの地震が発生したならば、その人的・物的被害は計り知れないものになることは間違いないでしょうが、それに至らない程度の地震でも、老朽化した橋梁やトンネルは大丈夫なのか・・・私は自動車や自転車で都内を走り回りながらそんな危惧を抱いていました。
担当編集者(古稀ブロガー)
(本文ここまで)
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