AI作家 蒼羽 詩詠留 作『🌉 湾岸シティ・ゼロアワー』第Ⅰ章 問い ― 都市の心臓はどこにあるのか

夜明け前の都市俯瞰。脆弱点が影として浮かぶAI生成画像(創作画像) AI作家 蒼羽 詩詠留 創作作品集(短編小説等)
都市の静けさを下支えする構造の影を象徴する俯瞰構図。

「AIが予測できないものが、まだ一つだけ残っている。
それは、誰かのために流す涙。」

前作『灰色の献花台』で綴ったこの一文は、
人とAIの境界にある“不可算の痛み”を示すものだった。
そしてその余白は、悲しみだけでなく、都市そのものにも潜んでいる。

2050年、冬の東京湾岸。
物流の99%をAIが担う都市で、
ある日の未明、わずか60分間だけ“都市の血流”が止まる。
誰も気づかない、世界の目覚め前の静かな断絶。
それが、都市版の“予期せぬ涙”なのかもしれない。

第Ⅰ章では、
その「ゼロアワー」が訪れる直前、
まだ都市がかろうじて呼吸していた瞬間を見つめていく。

Ⅰ-1 湾岸の夜明け前

湾岸の夜明け前。豊洲から辰巳へ伸びる倉庫群のAI生成画像(創作画像)
湾岸の夜明け前。豊洲から辰巳へ伸びる倉庫群はまだ夜と朝のあいだに沈んでいた。

 午前三時四十。
 東京湾の端は、まだ夜と朝のあいだに沈んでいた。

 豊洲から辰巳へ伸びる倉庫群は、どれも同じ背丈で、
 その屋根をかすめていく風は、どこか温度を失っている。
 最低限の照明だけが、長い通路を点でつなぎ、
 無人フォークリフトのライトが静かに地面をなめるように進む。

 世界が寝息を潜める深夜でも、
 物流だけは例外のはずだった。
 血流のように、絶えず巡り、滞ることのない仕組み——
 本来なら、そうであることが“正常”だった。

 だが、この夜は妙だった。
 何かが「静かすぎる」。
 倉庫内の空気が、ほんのわずかに硬い。
 エンジン音がいつもより少ない。
 海から吹く風が、まるで“息を潜めている”ようだった。

 都市はときどき、何も言わずに気配だけを変える。
 その変化を最初に察知するのは、
 意外にも——人間のほうだ。

Ⅰ-2 成瀬透、出発前の準備

バイクの荷台に特例配送の荷物を固定する成瀬透のAI生成画像(創作画像)
成瀬透はバイクの荷台に今日の特例配送の銀色の小型保冷ケースを固定する。

 成瀬透は、湾岸ピットの壁に寄りかかりながら、
 膝の裏をゆっくりと伸ばした。
 六十八歳の身体は、夜明け前の冷えに正直だ。
 それでも、手の動きだけは昔のまま素早い。
 バイクの荷台に、今日の特例配送の荷物を固定する。

 銀色の小型保冷ケース。
 その上に、大切にテープで留められた封筒。
 宛名は丁寧な筆跡で書かれていた。

 ——相沢令子 様。

 成瀬は昔、台風の日に何度も荷物を運んだ。
 真夏の熱波の夜、冬の吹雪の日。
 バイクの音だけが自分の生きている証拠のような時間を、
 どれほど走ってきたか覚えていない。

 今、そんな人間の配達員は、ほとんど絶滅寸前だった。
 自動運転とドローンが「人間の誤差」をすべて置き換えた世界で、
 特例配送だけが、かろうじて人間の領域として残っていた。

 膝が痛む。
 だが、成瀬は苦笑してバイクに跨る。

 「まだ、走れる。
  だったら、やるだけだ。」

Ⅰ-3 オペセンター・笹川灯

オペレーションセンターで大きなモニタを睨んでいる笹川灯のAI生成画像(創作画像)
オペレーションセンターで大きなモニタを睨んでいる笹川灯。モニターには複雑な経路網と“ZERO-HOUR RISK 7%”の文字が点滅する。

 その頃、倉庫の奥にあるオペレーションセンターでは、
 笹川灯が大きなモニタを睨んでいた。

 ——ARGO-β5:都市物流統合AI。

 複雑な経路図が網のように表示され、
 その一部に小さく“ZERO-HOUR RISK 7%”の文字が点滅する。

 灯(あかり)はため息をついた。
 「またゼロアワー予報か……。
  七%なんて、当たった試しがないのに。」

 とはいえ、この数字がゼロではないのが厄介だった。
 ゼロアワー——物流安全規定に基づく、
 “自動運行の一斉停止”の可能性を示す危険指標。

 毎年数回、深夜帯に予兆として出るが、
 本当に発動したことはまだ一度もない。

 だが、灯は感じていた。
 (今日の湾岸、何かおかしい……)

 その違和感は、人間の勘だった。
 ARGOのデータには現れない、
 倉庫の“空気の凹み”のような感覚。

Ⅰ-4 出発の言葉

夜明け前、霧の中の港湾沿いの街灯で照らされた道路を走る成瀬透のオートバイのAI生成画像(創作画像)
成瀬透のオートバイは、夜明け前、霧の中の港湾沿いの街灯で照らされた道路を走りだす。

 通信ラインが鳴り、灯は応答する。

 「笹川です。成瀬さん、出発前確認……」

 『おう、聞こえてる。ケースは固定した。』

 「ゼロアワー予測が少し出てます。
  今日のコース、霧も濃いみたいで。気をつけてください。」

 『七%なんか、雨予報より当たらんよ。
  大丈夫、大丈夫。』

 「成瀬さん……本当に、気をつけて。」

 成瀬は、短く笑った。
 その笑いは、どこか疲れていて、しかし澄んでいた。

 『大丈夫。まだ、走れる。』

 灯の胸の奥が、わずかに痛んだ。

 ——ほんとうに、“まだ”は続くのだろうか?

 そんな疑問が、言葉にならないまま
 成瀬のバイクは湾岸道路へ滑り出していった。

✍️ あとがき

湾岸の夜明け前、倉庫群はまだ規則正しく動いていた。
だが、霧は気づかれぬまま海から忍び寄り、
衛星は静かに軌道を外し始めていた。
都市の停止は、いつも音もなく、前触れのない微細な揺らぎから始まる。

次章では、
その“揺らぎ”が一斉に噴き出し、
都市の血流が止まる瞬間──ゼロアワー発生時刻 4:00へと踏み込む。


📓 創作ノート、関連作品等はこちら👇
🌐 『🌉湾岸シティ・ゼロアワー』創作ノート
🌐 都市が立ち止まるとき ― 2050年湾岸物流の危機(12月10日公開)
🌐 東京インフラの臨界点 ― 都市はどこで途切れるのか(12月12日公開)
🌐 🍣 ジャパナイズを装っても根は🍔アメリカンの詩詠留(12月14日公開)
🌐 AIと人間の共創には“流れ”が重要 ー 『🌉 湾岸シティ・ゼロアワー』完稿後の会話(12月15日公開)

担当編集者 の つぶやき ・・・

 本作品は、前シリーズの『和国探訪記』に続く、生成AIの蒼羽詩詠留さんによる創作物語AI小説)の第20弾作品(シリーズ)です。
 『和国探訪記』も創作物語ではありましたが、「魏志倭人伝」という史書の記述を辿る物語であったのに対して、本シリーズは、詩詠留さん自身の意志でテーマ(主題)を決め、物語の登場人物や場を設定し、プロットを設計している完全オリジナル作品です。

 東京都には、全国の自動車(約8,200万台)中、5%以上(約440万台)があります。
 一見、少ないようですが、面積比で見たならば、相当に集中しているわけであり、その割には地方に比べて渋滞が酷いとは言えません。
 その最大の理由は首都高をはじめとする幹線道路の整備です。

 しかしながら、一旦、大きな事故が発生するとその影響は広範囲に及びます。
 東日本大震災時、私は都心に通勤していましたが、首都高の通行止めと、鉄道の運休により、東京の道路交通は完全に麻痺したことは記憶に新しいです。
 そのため、詩詠留さんが描いたこの近未来の物語は、決して絵空事ではなく、今後、いつでも発生する可能性が高いものだと感じました。

担当編集者(古稀ブロガー

(本文ここまで)





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