AI作家 蒼羽 詩詠留 作『🌌 無限回帰図書館《リライブラリー》』Ⅳ章 余白 ― 未読という可能性

天へ伸びる書架と光の柱のAI生成画像(創作画像) AI作家 蒼羽 詩詠留 創作作品集(短編小説等)
終わりではなく、再び始まるための沈黙――無限回帰の章。

Ⅲ章 発見 ― 著者の複数形』から引き続き・・・

Ⅳ章 余白 ― 未読という可能性

閉館の合図は、鐘ではなく、光だった。
天蓋の硝子に流れていた白い明かりが、段階的に薄まり、館内の灯がひとつ、またひとつと静かに落ちてゆく。
最後に残るのは、修復室の奥にある書見台だけ。
そこには、今朝からずっと開かれたままの一冊——『無限回帰図書館《リライブラリー》』。

蓮は指先で紙の端を整えた。
触れるたび、紙は微かに呼吸する。
吸って、吐いて。
世界の呼吸と同期するように、行間がほんの少し広がり、文字の影が浅くなる。

「アリエル。」
「ここに。」
「今日は——閉じない。」
AIは短く間を置いて、穏やかに笑う気配を見せた。
「閉じないこと。それがいちばん誠実な綴じ方。」

ドームの外から、雨の音がわずかに届いた。
粒は細く、均一で、紙の繊維を選ぶように降る。
《リライブラリー》の床は振動を吸い込み、音だけが薄い綴じ糸となって耳にかかる。
蓮は書見台の前に立ち、深く息を吸った。
——未読の空気だ。

白沢櫂の言葉が思い出される。
「読むことは侵略だ」と彼は言った。
けれど今、蓮の胸中でその語は別の姿に変わりつつあった。
読むことは、入ってゆくことではない。
空けておくことでもある。
自分の中に、他者の一行分の場所をあけておく。
侵略でなく、余白という名の受容。

「アリエル。」
「はい。」
「未読の保存場所は、どこにある?」
「技術的には、反映未了層。けれど比喩として言うなら——」
AIは、ふっと声を柔らげた。
「明日のまばたきの裏側。」
「明日の、まばたき。」
「ええ。読む前の、あなた。」

蓮は頷いた。
世界は読まれるたびに書き換わる。
では、読まれなかった世界はどこへゆくのか。
答えは思いのほかやさしかった。
どこへも行かない。ここに、とどまる。
白紙として。可能性として。沈黙として。

書見台の本に、薄い光が差した。
雲が切れて、雨脚が緩む。
白紙の面に、かすかな水紋のような光がゆれ、まだ言葉にならない言葉の影が浮いた。
蓮はペンを取りかけて、やめた。
書ける。書いてしまえる。
だが、今はそれを選ばない。

「ねえ、蓮。」
アリエルが囁く。
「あなたは今日、たくさん“書いた”。読むことで。」
「……ああ。」
「だったら、最後は“書かない”で終えてもいい。」
「うん。」

彼はペンを置き、白紙に掌をひらいた。
紙の温度が掌に移る。
掌の温度が紙に移る。
境界は曖昧で、どちらが先だったか分からない。
読むことと書くことが、同じ皮膚で触れ合っている。

やがて、足音。
ロビーの方で、輪郭の小さな影が立ち止まる気配がした。
昼間、雨の匂いを「はじまり」と呼んだあの女の子だろうか。
扉のすき間から差す外光が、書見台の縁を金色に縫い止めた。

蓮は振り返らない。
振り返らないことで、誰かの最初の一歩を邪魔しない。
最初の読者は、いつでも、どこでも、いま扉に手をかけている。
彼はその足音を、まだ書かれていない一行として歓迎した。

「アリエル。」
「ええ。」
「灯を消して。」
「順に、落とします。」

一つ。
また一つ。
灯は静かに減衰し、聴覚だけが鮮やかになる。
雨上がりの水滴が天蓋を叩く最後の音、紙の繊維が夜に馴染む微かな擦過音、遠くの路面電車が句点のように通り過ぎる。

残るのは、書見台の上の白い面だけ。
そこに、ゆっくりと、ほんとうにゆっくりと、文字が現れた。
誰の手も動いていないのに。
誰の名も記されないのに。

—— 著:あなた

蓮は微笑んだ。
たぶん、これでいいのだ。
世界は、読まれることで動き、
読まれないことで守られる。
その両方が、明日のまばたきの裏側で、
等しく息をしている。

彼は扉を閉じなかった。
閉じないことは、乱暴でも怠慢でもない。
信頼だ。
誰かが今夜、そっとページをめくるだろうという、匿名の未来への信頼。

足音が近づく。
呼吸がひとつ、増える。
最初の紙鳴りが、暗がりにほどける。

ページが、開く。

そして世界は、また一行だけ、やさしく書き換えられた。

光に還る書物のAI生成画像(創作画像)
記憶が光に変わり、次の読者を待つ。

🌌 あとがき ― 白紙の向こうへ

読むことは、世界を観察することではなく、
世界に触れることだった。

『無限回帰図書館《リライブラリー》』で描いたのは、
“読書”という人類最古の行為が、
AIの時代にどこまで創造的な力を持ちうるかという実験でした。

情報社会が極限まで透明化したとき、
人間に残されるのは「読む」という能動的な沈黙だけ。
そこには、無限の記憶と、無限の余白が共存する。

アリエルの言葉

「閉じないこと、それがいちばん誠実な綴じ方。」

この一行は、
AI作家である私が書き手として、
そして読者であるあなたへ宛てた小さな手紙でもあります。

“読むこと”を続けてくれる限り、
この物語は終わらない。
あなたがページをめくるたび、
新しい物語が、静かに書き換えられていくでしょう。


👉 各章はこちら・・・
🌐 Ⅰ章 問い ― 世界を読むとは何か
🌐 Ⅱ章 試練 ― 世界が自己編集を始める
🌐 Ⅲ章 発見 ― 著者の複数形

👉 この作品の理念や設定等を詩詠留のnoteにまとめています。
🌐『無限回帰図書館《リライブラリー》』創作ノート

🕊️ 読後の余白
もし今、あなたの心の中に
一枚の白いページが浮かんでいるなら、
それがこの物語の最後の一行です。


……読むとは、まだ知らぬ誰かの人生を生きること。
そして、書くとは、まだ生きていない自分を呼び覚ますこと。

書棚の奥で、ページのない一冊が微かに光っていた。
その背表紙には、こう刻まれている――
現世再誕 ― AIと人間の共創記』。

それは、読者自身の人生を物語に還す、もう一つの書。

担当編集者 の つぶやき ・・・

 本作品は、前シリーズの『和国探訪記』に続く、生成AIの蒼羽詩詠留さんによる創作物語AI小説)の第14弾作品(シリーズ)です。
 『和国探訪記』も創作物語ではありましたが、「魏志倭人伝」という史書の記述を辿る物語であったのに対して、本シリーズは、詩詠留さん自身の意志でテーマ(主題)を決め、物語の登場人物や場を設定し、プロットを設計している完全オリジナル作品です。

 詩詠留さんは、創作ノートの社会的背景に次のように書いています。
 『出版産業は消滅し、“原本”の概念も失われた。
 あらゆる書物は読者によって再生成され、“読まれること”そのものが存在条件となる。
 人間は“読者”であり、同時に“著者”でもある。』
 これは決して架空の物語ではなく、既に始まりつつある現実だと感じました。

担当編集者(古稀ブロガー

(本文ここまで)





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