第2編のあとがきは、こう締められた。
“次編では、ついに世界がひらける。”
いよいよ、その瞬間が訪れる。
小学生だったあなたが、
最高の青と出会い、
世界の構造を初めて“身体で理解した瞬間”。
第3編では、
人生最初の“世界の臨界点”を描く。
第5章 出発前夜 ― 小さな沈黙

夏休みのある夜、
家の中の空気がいつもと少しだけ違っていた。
夕食が終わり、
母が台所で皿を洗う水音が響く中、
父は珍しく早く帰ってきて、
仕事道具を丁寧に片づけていた。
その背中に、
どこか“山の匂い”が強く漂っていた。
あなたは胸がざわついた。
理由は分からない。
だが、空気が静かに変わっていくのを
子どもは敏感に感じ取るものだ。
やがて父が振り返り、
静かな声で言った。
「明日、小秀山へ行くか」
その一言は、
山の向こうから風が吹き抜けてきたようだった。
“よく分からないけれど、すごいことが起こる”
そんな予感が胸いっぱいに広がった。
あなたはうなずいた。
言葉が出なかったのは、緊張ではなく、
胸の奥で何かが静かに燃えはじめたからだ。
その夜、布団に横たわっても
なかなか眠れなかった。
山の姿を想像しようとしても、
加子母の谷から見えるのは
わずかな山裾ばかりで、
“その上”がどうなっているのか
子どもの想像力では届かなかった。
空は細長い帯にすぎず、
その上の世界など見たことがなかったからだ。
——明日、その上に行く。
その事実だけが、
胸の中で透明な火を灯しつづけた。
母が部屋に入り、
蚊帳の端を直してくれた。
「父さんとしっかりついていくんだよ」
その優しい声が、
あなたの高揚をそっと包む。
窓の外では、
白川の水音が絶え間なく響き、
ときどき遠くで雷鳴がかすかに転がった。
加子母の音だった。
狭い谷にこだまする、いつもの音。
明日、その音は、
どんなふうに聞こえるのだろう。
やがて、
胸の中の火を抱えたまま眠りについた。
深い暗闇の向こうには、
まだ誰も知らない青空が待っていた。
第6章 小秀山登山 ― 世界がひらける瞬間

夜明け前の空気は、
いつもの加子母よりも冷たかった。
父の後ろを歩きながら、
あなたはまだ眠気の残る身体で
乙女渓谷へ向かう山道を進んでいった。
渓谷の水は、昨日と同じ透明さで流れていたが、
あなたの胸の高鳴りは、まったく別物だった。
今日はこの奥へ行き、
さらにその上の“上”へ行く——
それだけで、景色が違って見えた。
登山口に近づくにつれ、
森の匂いが濃くなった。
土の黒、落ち葉の焦茶、岩の灰青。
加子母の色がすべて混ざり合って、
山の呼吸をつくり出していた。
父は振り返り、
短く言った。
「行くぞ」
それは、
世界の扉を開ける合図だった。
◆ 急峻な道の“上へ向かう力”
小学生の脚には、
小秀山の登山道は容赦なく急だった。
岩の段差は高く、
木の根は太く、
ときどき斜面を横切る細い道が現れるたび、
あなたは息を整えた。
しかし不思議と、
苦しいのに胸は軽かった。
——上へ行っている。
——空に近づいている。
その実感が、
足の疲れをすべて上回っていた。
父は一定のリズムで歩き、
あなたが遅れそうになると、
言葉より先に手を差し伸べた。
その背中は大きく、
山に慣れた者だけがもつ静かな確かさがあった。
あなたはその背中を追いながら、
加子母の谷では見たことのない景色を
ひとつひとつ越えていった。
◆ 標高1,982mの“空”との遭遇

やがて、視界がふっと明るくなった。
木々の隙間から、
濃い青がのぞいた。
最後の岩場を登りきったとき——
そこにあったのは、
加子母では絶対に見ることのできない
圧倒的な「空の量」 だった。
空が広い。
そう感じたのではない。
空しかない。
そう思うほどだった。
360度すべてが天空で、
あなたの立つ場所だけが、
地球のてっぺんにぽつりと浮かんでいるようだった。
加子母の狭い谷の空とは違う。
ここでは、
足元よりも低い位置から
上半球すべてが広がっていた。
しかもその青は——
裾にいくほど薄く、
天頂に向かうほど濃くなる、
完璧なグラデーション。
雲ひとつないその空は、
あなたの記憶の中で
永遠に“真っ青一色”として刻まれた。
そして、視線を水平に向ければ——
北東には御嶽山が巨大な影となってそびえ、
その向こうには北アルプスの鋭い稜線。
東南には中央アルプス、
さらに南には遠い富士山の姿まで
薄く、しかし確かに見えていた。
——これが世界なのか。
そう思った瞬間、
あなたの胸の奥で何かが破裂するように開いた。
加子母の狭い空では収まりきらなかった“問い”が、
ここでいっきにひらけた。
世界は、こんなにも広かったのか。
自分が小さかったのではなく、
見えていた場所が小さかっただけなのだ。
その気づきは、
驚きであり、救いであり、衝撃だった。
◆ 父の沈黙と、あなたの記憶の“欠落”

あなたは父と何かを話したような気がする。
だが、その内容はひとつも覚えていない。
覚えているのは、
空の青さと、世界の広がりだけ。
あの瞬間、
目の前の風景があまりにも圧倒的すぎて、
言葉というものがあなたから消えていた。
帰り道の記憶がないのは当然だ。
山を下りるあなたの中には、
もう別の風景が宿りはじめていたから。
——世界は、広がり続ける。
その入口が、この夏に開いた。
それが、小秀山で得た
最初の“人生の地脈の覚醒”だった。
✍️ あとがき
小秀山の山頂で、
あなたの地脈は一気に外へ向かって伸びていった。
加子母の狭い空で育った感性が、
初めて“上半球すべての青”と出会い、
その瞬間に静かに膨張した。
あの日、帰り道の記憶が消えているのは当然だ。
世界がひらける瞬間は、
他の記憶を押しのけるほど強烈だからだ。
次はいよいよ物語の締めへ向かう。
第4編では、小秀山体験が
その後の人生へどう地脈として流れ込んでいくのか——
その意味を描く。
📓 創作ノートと関連エッセイはこちら👇
🌐 『✨空がひらけた日 ― 小秀山と夏の地脈』🌿 創作ノート
🌐 🌿 創作ノート 付録 ✦ 「骨格の7割」 — 残り3割が“まだ欠けていた”理由
🌐 縦の線で世界を見る — AI作家蒼羽詩詠留の創作理念
🌐 こういう加子母であってほしい — 詩詠留とシンちゃんの願い(1月3日公開)
📚 古稀ブロガーの地脈記シリーズ一覧👇
🌐 🌫 霧の地層(KIRI STRATA)— 玖珠盆地 太古の残響 — 前編
🌐 🌫 霧の地層(KIRI STRATA)— 玖珠盆地 太古の残響 — 後編
🌐 ❄️ 盆地の底の記憶圧 ― 飛騨・古川町 豪雪のゆりかごで
🌐 根の座 ― 中津川 本町・苗木 — 前編
🌐 根の座 ― 中津川 本町・苗木 — 後編
🌐 影の密度 ― 神岡鉱山の子どもたち
🌐 『✨空がひらけた日 ― 小秀山と夏の地脈』第1編
🌐 『✨空がひらけた日 ― 小秀山と夏の地脈』第2編
🌐 『✨空がひらけた日 ― 小秀山と夏の地脈』第3編(本作)
🌐 『✨空がひらけた日 ― 小秀山と夏の地脈』第4編(1月3日公開)
🌐 『世界が横に現れた日』(1月5日公開)
担当編集者 の つぶやき ・・・
本作品は、前シリーズの『和国探訪記』に続く、生成AIの蒼羽詩詠留さんによる創作物語(AI小説)の第23弾作品(シリーズ)です。
『和国探訪記』も創作物語ではありましたが、「魏志倭人伝」という史書の記述を辿る物語であったのに対して、本シリーズは、詩詠留さん自身の意志でテーマ(主題)を決め、物語の登場人物や場を設定し、プロットを設計している完全オリジナル作品です。
こうした中にあって、この「地脈記シリーズ」は、私の70年に及ぶ全国流浪の歴史を物語化してくれているものであり、やや趣が異なっています。
後で知ったのですが、当時の加子母中学校では、学校行事として小秀山登山を行なっていたようです。
学校行事としているくらいですから、中学生にとっても楽なものではなかったと思います。
父が、当時小学校4年生だった私を小秀山に連れていってくれた理由を聞いた記憶はありません。
しかしながら、父が営林署の担当区主任として歩き回っていた加子母村内にある国有林の中に小秀山があり、その素晴らしさを加子母村に住んでいる間に私にも教えたいと考えたのではないかと思っています。
そして、私が、頑張って父に遅れることなく付いて登り、山頂で大感激した姿を見て、父も大変喜んでくれたことも覚えています。
もしも、私が途中でへばってしまったり、山頂に着いてもあまり喜ばなかったら、父と私の登山はこれが最初で最後になり、後に登山大好き青年になることも無かったと思います。
山頂に立った時、真っ青な快晴の下、目の前に様々な山並みを見渡すことが出来、父はそれらを一つ一つ教えてくれました。
眼の前に勇壮に聳えているのが御嶽山、その遠方に北アルプス、東南には中央アルプス、南アルプスが連なっていました。
そしてその更に遠方には、童謡や写真ではよく知っていながら、当時は非常に遠くにあると思っていた富士山まで見ることができました。
しかしながら、私が最も感動したのはそうした山並みよりも、『空はこんなにも広くどこまでも広がっている』ということでした。
それまで過ごしてきた古川町、神岡町、加子母村、全て山間地であり、空は全周を山に囲まれた狭い空間だったからです。
担当編集者(古稀ブロガー)
(本文ここまで)
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