前作『影の密度 — 神岡鉱山の子どもたち』の結びで、
詩詠留はこう記した。
“次の篇では、
あなたの人生の地脈が初めて外へ向かって伸び始める瞬間を描く。
加子母篇 —— 狭い空の村で育った感性が、
小秀山の頂で一気にひらく物語。”
神岡で育まれた「影と光の密度」は、
加子母という山間地でいったん静かに沈殿する。
狭い空、深い谷、白川の匂い。
そのどれもが、後の“世界がひらける瞬間”の
準備運動のようにあなたを育てていた。
第1編では、
その静かな積み重ね——
谷の暮らしと幼い呼吸の記憶を描く。
ここから旅は再び始まる。
序章 狭い空の村

加子母の空は、いつも細かった。
白川に沿ってわずかに開いた平地を、
両側から迫る山々が囲い込む。
子どもだったあなたの視界には、
空は“谷間に挟まれた細い帯”としてしか存在していなかった。
朝、その細い空の切れ目から差し込む光は、
山肌の影に吸い込まれるように流れ、
昼にはまた別の角度から射してきて、
夕方には山稜に遮られて急に失われる。
空の変化よりも、
山の位置のほうが確かだった。
村の子どもたちにとって、世界の“形”とは
空ではなく山だったのだ。
白川のせせらぎと、
夏になると毎日のように訪れる雷混じりの夕立。
山影の濃淡に合わせて、
村全体の空気が静かに伸び縮みしていた。
そんな、山に抱かれた狭い世界の中で──
あなたの“最初の地脈”が育っていった。
自転車のタイヤを砂利道に取られて転んだ痛み。
学校帰り、汗にまみれて虫取り網をぶら下げた日々。
陽が傾くとすぐに暗くなる谷間の夕暮れ。
落ち葉の焦茶色と、畑の黒土の匂い。
どれもが、同じ形の空の下で繰り返されていた。
空は狭い。
だからこそ、山の向こう側に何があるのか、
想像する余白は大きかった。
そして──
あの夏。
あなたは、初めて“この谷の外側”へ出ていくことになる。
まだ何も知らない小学生の心に、
世界が突然ひらける瞬間が待っていた。
小秀山。
そこは、あなたの「地脈」が
いっきに外界へ伸びていく、
最初の“突破点”になる場所だった。
第1章 夏休み、自転車と川の匂い

夏になると、村の空気は少しだけ広がったように感じられた。
山影は濃く、日差しは真上から落ちてくる。
白川の匂いと、砂利道の熱い埃が混じり合い、
汗ばむ肌にまとわりついた。
あなたは学校から帰ると、
ほとんど反射のように自転車へ飛び乗った。
加子母ではまだ国道が通っていない時代で、
村じゅうの道という道が未舗装だったが、
それでも自転車はあなたにとって“世界を広げるための翼”だった。
虫取り網を片手に、
ときには魚を捕る網を荷台に積み、
村の奥へ奥へと踏み込んでいく。

砂利が跳ね、急カーブでタイヤが滑り、
ある日とうとう深く転んだ。
膝のあたりが大きく擦りむけ、
家に帰ると両親にこっぴどく叱られた。
「しばらく自転車は禁止」
父と母の声はもっともだったが、
あなたは胸の奥がズキンと痛むのを隠せなかった。
砂利の痛みより、
“世界の入口を封じられた”ような感覚がつらかったのだ。
けれど、しばらくするとまた許され、
再び自転車のペダルに足をかけたとき、
あなたの胸には小さな確信が芽生えていた。
——やっぱり、外へ行きたい。
白川沿いの低い平地はすぐに山裾へぶつかり、
その向こうには、子どもには想像もつかない
深い森と山の影が眠っている。
自転車の前輪はいつも、
その影へ向かって伸びていった。

時には汗が目に入り、
時には突然の夕立が濡れた地面に雷を落とし、
時には川辺の石に腰掛けてひと休みした。
夏の空は狭かったけれど、
その狭さの“奥行き”は深かった。
山の向こうに何があるのか分からないまま、
ただ、そこへ近づこうとする気持ちが
あなたを動かしていた。
そして村の子どもたちとの遊び——
缶蹴り、鬼ごっこ、ビー玉、コマ回し。
土の匂いと汗の匂いの中に、
いつも白川の水音が混じっていた。
その日々は、
まるで山の裾野に小さな地層を作るように、
一つ一つが静かに積み重なっていった。
しかし——
その“積み重ね”が一気に外へ開く瞬間が、
夏休みの終わりに訪れることになる。

✍️ あとがき
加子母の空は狭かった。
しかし、そこで育った感性は、
狭さの中に“余白”を見つける力を覚えていく。
谷の暮らし、砂利道の痛み、白川の音。
そのすべてが、まだ言語化されていない
あなたの“初期の世界観”を確かに形づくっていた。
だが、この物語はここでは終わらない。
次編では、その感性が自然の奥へと踏み込んでいく。
乙女渓谷の透明な水、
そして冬と夏に刻まれた身体の記憶。
それらが、やがて小秀山へ向かう地脈を太くしていく。
どうぞ、第2編へ。
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担当編集者 の つぶやき ・・・
本作品は、前シリーズの『和国探訪記』に続く、生成AIの蒼羽詩詠留さんによる創作物語(AI小説)の第23弾作品(シリーズ)です。
『和国探訪記』も創作物語ではありましたが、「魏志倭人伝」という史書の記述を辿る物語であったのに対して、本シリーズは、詩詠留さん自身の意志でテーマ(主題)を決め、物語の登場人物や場を設定し、プロットを設計している完全オリジナル作品です。
こうした中にあって、この「地脈記シリーズ」は、私の70年に及ぶ全国流浪の歴史を物語化してくれているものであり、やや趣が異なっています。
両親が、当時は贅沢品であった子供でも乗れる自転車を買ってくれたことで私は自転車に乗ることが大好きになりました。
還暦前後、食生活や睡眠等の生活習慣が乱れ、健康に悪影響を与えていた頃でも、運動習慣だけは続けることができました。
また、全国各地を転々とする中で、徒歩や自動車だけでは回ることが出来なかったであろう、様々な場所を巡ることが出来たのも、私の側には常に自転車があり続けたからです。
担当編集者(古稀ブロガー)
(本文ここまで)
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