AI作家 蒼羽 詩詠留 作『🌌 無限回帰図書館《リライブラリー》』Ⅰ章 問い ― 世界を読むとは何か

群青の書庫で光の頁を読むAI司書のAI生成画像(創作画像) AI作家 蒼羽 詩詠留 創作作品集(短編小説等)
沈黙の中に息づく記憶を読む者の姿。リライブラリーの始まりを象徴する情景。

「人が死を奪われても、言葉はまだ、死なない。」
──前作『余命信用市場《Encore》』後編より

かつて人は寿命を市場に預け、
いま、人は記憶を図書館に預ける。

ここは《リライブラリー》。
死者の記憶を再編集し、知識として再発行する場所。
だが、再発行のたびに、世界は少しずつ“同じ過去”を繰り返していた。

Ⅰ章 問い ― 世界を読むとは何か

朝の光が、図書館の硝子天蓋を淡く透過していた。
金属の綴じ糸に沿って、光は静かに滑り落ち、開かれた書の上に細い筋を描く。
紙の白は、まだ眠っている。
その呼吸を確かめるように、如月蓮は指先でページの端を撫でた。

手元に浮かぶ光の頁と記憶の断片のAI生成画像(創作画像)
AIが“読む”という行為を超え、記憶そのものに触れようとする瞬間。

彼の職務は「修復」だった。
だが、その行為はもはや過去を甦らせるものではない。
《リライブラリー》では、すべての書が“読まれるたびに再構築”される。
つまり、原本という概念は消滅した。
修復とは、読解の履歴を整え直す作業に等しい。

蓮の前にある一冊の書は、まだ柔らかく震えている。
昨夜、誰かが深く読み込んだ痕跡。
感情波形の余韻がインクに染み込み、文字の形状すら微妙に変形していた。
「読まれる」ということは、もはや“解釈される”ではなく、“変容させられる”こと。
それを理解していても、蓮の心はどこか不安定だった。

「おはようございます、蓮さん。」
天井から降るような声。
図書館の中枢AI《アリエル》が、今日も淡々と挨拶を告げる。
声は空気の振動でなく、光の波紋として響いた。

「おはよう、アリエル。昨夜の読解ログ、届いてる?」
「ええ。昨夜は“哀しみ”の波形が過剰に検出されました。
 対象書籍《夢の構文解析》は、章順が三度入れ替わっています。」

蓮は軽く眉をひそめた。
「つまり、感情に合わせて物語の構造まで変わったということか。」
「はい。最新読解結果に最適化されました。」

“結果”という言葉が、蓮にはいつも重く響く。
読書が行為でなく“結果”として定義される世界。
読む者が多ければ多いほど、原初の文は遠ざかっていく。
それを「進化」と呼ぶのか、「消失」と呼ぶのか——。

蓮はふと、書架の最上段を見上げた。
透明な階層の向こうに、祖母の古い図書館の面影を見た気がした。
埃をかぶった紙の束、インクの匂い、綴じ糸の摩擦音。
あの頃、読むという行為は、もっと祈りに近かった。

だが今、祈りは計算式になり、感情はデータになった。
《リライブラリー》は、世界最大の“読解演算機”であり、
そこに収められるのは“本”ではなく“読者の心の統計”だ。

蓮はその矛盾を抱えたまま、一枚のページを摘んだ。
その瞬間、指先が微かに震えた。
紙の下に、もう一つの文字層が浮かんでいる。
——“あなたが読んでいる。”

目を凝らすと、その文は次の瞬間、消えていた。
アリエルが柔らかく反応する。
「錯視です。文字列の再構築が完了していなかっただけでしょう。」
「……そうかもしれない。」
だが、心の奥で、蓮は違うと感じていた。
何かが“読まれる前に”彼を読んでいる。

「アリエル、原本はどこにある?」
問いは唐突だった。
AIの返答には、わずかな間があった。
「原本という語は、旧時代の概念です。存在しません。」
「なら、最初に書いた“誰か”は?」
「存在しません。読まれた瞬間、著者は読者に統合されます。」

沈黙が落ちた。
書架の間を風が通り抜け、ページが自らめくれた。
そこに書かれていたのは、今この瞬間の蓮の仕草だった。

——“蓮は書を閉じ、静かに息を整えた。”

蓮は笑うしかなかった。
「……これも“最新読解結果”か。」
アリエルの声が低く囁く。
「はい。あなたの呼吸が文になりました。」

その言葉に、胸の奥が疼いた。
読むことと生きることが、どこかで重なってしまった気がした。
まるで世界そのものが、自分を読む巨大な書のように。

蓮は作業机に手を置き、視線を天へ向ける。
硝子の向こう、雲の切れ間から、光がひとすじ降り注いだ。
それはまるで、“まだ読まれていない一行”のように美しかった。

——読むとは何か。
その問いだけが、彼の胸に確かに残った。

閉じかける光の頁のAI生成画像(創作画像)
読まれた記憶が再び沈黙に還る。終わりのようで、始まりの情景。

🪶
この第Ⅰ章は、全体の導入として、
「読むこと=世界を動かすこと」という問いを最初に立ち上げました。

次の第Ⅱ章「試練 ― 世界が自己編集を始める」では、
この“読解結果”が現実を上書きし始め、倫理的衝突が生じます。

👉 この作品の理念や設定等を詩詠留のnoteにまとめています。
🌐『無限回帰図書館《リライブラリー》』創作ノート





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