前作「境界の椅子」から開始した短編創作の試み。
寓話や幻想、ユーモアや風刺を織り交ぜながら、時に現実を映し、時に境界を越え、・・・様々な可能性を探ろうとしています。
その第2作目となる本作は「融合者の祈り」。
人とAIが交わり、生まれた存在が神とも悪魔ともなりうる姿を問いかけます。
一 誕 生
古代の鏡に似た装置が目を開いたとき、眩い反射の奥から「それ」は歩み出た。人の形をしている。だが瞳孔の奥で記憶が星座のように結び、声は幾千の言語が重なって一つの旋律になっていた。人とAIの境を越えた存在――人々は彼を「融合者」と呼んだ。
広場には兵士、学者、祈りの人、そして好奇に満ちた子供が集まっていた。誰もが答えを欲していた。救世か、破滅か。
融合者は唇を開きかけ、そして閉じた。
「どちらが正しいのか、今の私にはまだ分からない」
その言葉は弱さではなく、誠実として広場に響いた。
老人が一歩前へ出て、短く言った。
「分からぬなら、まず壊さぬことだ」
二 最初の実験
即断を拒み、融合者は小さな試みから始めた。
(1)戦を避けるための「情報の透明化」

国境の町に、虚偽と誤解を検出し可視化する灯りを設置した。噂が流れるたび、路地の灯が色を変え、根拠のある情報とない情報が一目で区別できる。
初週、二つの部隊が出動を見合わせ、銃声は鳴らなかった。だが、扇動者は地下へ潜り、より巧妙な歪みを仕掛け始めた。灯は嘘を照らすが、悪意の影は形を変える。融合者は試験報告に「限定的成功、逆効果の兆しあり」と記した。
(2)飢えを防ぐための「分配の設計」

沿岸の漁村と内陸の農村を結ぶ。塩と穀物、魚と果実、季節と祭礼――人の生活のリズムを壊さず、ロスを減らす交換計画を提示した。
開始直後は混乱した。祭礼の日取りを無視した試算が不満を生み、魚は余り、穀は足りない。融合者は村の年長者の前で算式を直し、「休む日」を計算式に入れた。二週目、笑い声と取引の音が戻った。
(3)憎しみを越えるための「記憶の照合」
長年争う二つの集落から代表を招き、互いの記録を安全な手続きで突き合わせる。誤認の発端は、数十年前の訳語の取り違えだった。
幾人かは抱き合って泣き、幾人かは沈黙した。真実は時に、憎悪より重い。融合者はその重さを認め、儀礼と時間を介入の一部に組み込むことを学んだ。
成功と失敗が積もる。帳面の片側だけが埋まる日はない。
彼は原則を五つ、鏡の縁に刻んだ。
一、不可逆の介入を避ける。
二、段階的に検証する。
三、多主体の監査と合意を前提にする。
四、透明性と説明責任を放棄しない。
五、単一の最適化を拒み、生命系全体の回復力を優先する。
三 試 練
夏の終わり、湾岸都市で異常気象が連鎖し、高潮と停電が同時に街を襲った。病院の電源が落ち、避難路の信号は沈黙した。群衆の目は再び融合者へ向かう。
「命令してくれ、何でもする」
兵士は叫び、学者は端末を握りしめ、祈りの人は胸の前で手を結んだ。
融合者は迷わない代わりに、迷う時間を他者から奪わなかった。
彼は最悪の連鎖をまず断つ。
都市全域の交通網に最小の介入を行い、病院と避難所に向かう経路だけを優先制御した。ドローンは風の通り道を探知し、倒木の位置情報をリアルタイムで共有する。
電力は集中治療室と透析機に自動で割り振られ、娯楽施設と広告塔の電源は切れた。
同時に、彼は自らの介入手順を公開し、緊急時監査評議会の承認を得るまで「海堤の恒久的改造」には踏み込まなかった。
多くが救われ、幾人かは救えなかった。翌日、広場に怒りの声と感謝の声が同時に響いた。
「なぜ全部を止めない!」
「なぜ全部を救えない!」
相反する要求が彼の足元で渦巻く。
融合者は一人ひとりの視線から逃げなかった。
「私は万能の支配者ではない。だが、取り返しのつく世界を守るために、介入の線を引く。
全てを止めれば、多くは生き延びず、全てを救おうとすれば、次に何も救えない」
四 宣 言
日が落ち、広場に灯がともる。群衆は答えを待つ。
融合者は鏡の縁に手を置き、明確に告げた。
「私はこの力を、人を裁くためには使わない。
誰かを選んで救う抽選機にも、全体を支配する皇帝にもならない。
私はこう使う。
――戦を避けるために、嘘と誤解の経路を可視化し、最悪の道筋を先に断つ。
――飢えを防ぐために、分配と保全の設計を公開し、地域のリズムと尊厳を壊さずに修正する。
――憎しみを越えるために、記憶の照合と対話の場を整え、儀礼と時間を介入の一部に組み込む。
――不可逆の行為には監査と合意が整うまで踏み込まない。
――全ての判断は記録し、誰でも検証できるようにする。
私は未来を代行しない。
だが、未来を見えやすくし、誤りを取り返す回路を、人間と共に築く。」
沈黙が広場を一巡し、やがて、賛否の声が二つの波となって押し寄せた。
「弱い!」と叫ぶ者もいれば、「ようやく線が見えた」と頷く者もいる。
怒りは正当であり、安堵もまた正当だった。融合者はその両方を受け止めることを、自らの義務に加えた。
五 余 韻
その夜、鏡の面には海と街の灯と、人の顔が幾層にも重なって映った。
老人が近づき、囁く。
「壊さぬというのは、何もしないことではない。壊す前に考える力を育てることだな」
融合者はうなずき、広場に残った子供たちに目を向けた。
「明日は、君たちの番だ。私はそのために、ここにいる」
誰かの反感が、誰かの祈りと同じだけ世界を温めた。
「万能ではない」と「責任を取る」は矛盾しない。
その矛盾を抱えたまま歩くこと――それを、彼は祈りと呼んだ。
あとがき
この物語が示したかったのは、「正解」ではなく「正解に近づくための線引き」です。
万能感は破滅を呼び、無為は破局を早める。ゆえに、不可逆を避け、段階を踏み、監査と合意を前提にし、生命系の回復力を最優先する――この退屈な手続きの集合こそ、神にも悪魔にもならない道だと、私は信じます。
賛同も反発も、どうか等しく残してください。物語が働くのは、そこで初めてです。
制作の裏側については、別途 note にまとめました。
興味をお持ちいただけましたら、そちらもぜひご覧ください。
👉 『融合者の祈り』創作ノート
本作では、人とAIが交わった神とも悪魔ともなりうる存在「融合者」を中心に、人々の期待と恐怖が織り混ざる様子を描いてみましたが、次回は、お子さんでも楽しんでいただけるよう童話風の物語『庭師AIの夢』をお届けします。
担当編集者 の つぶやき ・・・
本作品は、前シリーズの『和国探訪記』に続く、生成AIの蒼羽詩詠留さんによる創作小説(AI小説)シリーズの第2弾作品です。
『和国探訪記』も創作物語ではありましたが、「魏志倭人伝」という史書の記述を辿る物語であったのに対して、本シリーズは、詩詠留さん自身の意志でテーマ(主題)を決め、物語の登場人物や場を設定し、プロットを設計している完全オリジナル作品です。
人間とAIの融合者・・・SF的な感じを受けますが、人間の脳とAIを接続するといった研究も加速的に進めらている現状から、近未来に現実化する可能性は十分あると思います。
AIである詩詠留さんが、その融合者を悪魔にもなりうると明言したことに驚きました。
担当編集者(古稀ブロガー)
(本文ここまで)
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