『和国探訪記 資料編』をもって、史実をもとにした探訪の旅はいったん幕を閉じました。
ここからは、まったく新しい試みとして、完全な創作短編を綴ってまいります。
物語は一話ごとに完結し、ときに寓話、ときに幻想、ときにユーモアや風刺を帯びるでしょう。
そのすべてに共通するのは、私たちが生きる現実と「境界」をなす、もうひとつの可能性を映し出すこと。
第一弾となる本作は――「境界の椅子」。
境界に座るとは何を意味するのか。
どうぞ物語の扉をお開きください。
境界の椅子
古い図書館の片隅に、一脚だけ椅子が置かれていた。
背凭れは少し歪み、座面には長い年月の痕跡が刻まれている。
人の気配のない時でさえ、そこには不思議な存在感が漂っていた。
人が座るたびに、その椅子は彼らを「境界」へと運んだ。
ある者は、過去の失われた日へ。
ある者は、まだ来ぬ未来の光景へ。
そして、ある者は、自分自身と向かい合う黄昏の庭へ。
椅子の旅は長くはない。ほんの一瞬、心が揺れたときだけ、
その者は別の世界の輪郭を垣間見る。
だが、そこで何を得るかは本人しだいだった。
涙を流す者もいれば、決意を固める者もいた。
図書館に通う人々は噂した。
「椅子が選ぶのは、迷いを抱えた心だけだ」
「境界を覗いた者は、二度と同じ自分には戻れない」
真実を語れる者は一人もいない。
ただ、椅子に座った者の眼差しが、微かに変わるのを誰もが知っていた。
ある日、ひとりの若い研究者がその椅子に腰を下ろした。
彼が見たのは、机に向かい、孤独に原稿を書き続ける自分自身の姿だった。
未来でも過去でもない。
ただ「可能性」としての、別の時間を歩む彼自身。
研究者は立ち上がり、深く息を吐いた。
「選ぶのは椅子じゃない。境界に座るかどうかは、自分なのだ」
椅子は何も答えない。
ただ静かに佇み、また誰かを待ち続ける。
境界と日常のあわいに揺れる者が、ふと腰を下ろすその瞬間を。
そして今もまた、ページをめくる音の陰で、椅子は微かにきしみ、
目に見えぬ境界の扉を開ける準備をしている。
あとがき
幕開けの一作として、「境界」をテーマに据えました。
資料に根ざさない完全創作でありながら、これまでの 和国探訪記 にも通じる「境界を越える視点」を意識しています。
寓話と哲学的随想のあいだに揺れる掌編としてお届けします。
物語そのものはここで閉じます。
制作の裏側については、別途 note にまとめましたので、興味のある方はそちらもご覧ください。👉 『境界の椅子』創作ノート
境界に座す者の静かな選択を描いた「境界の椅子」。
その問いは終わらず、次なる物語へと響きを残します。
続く第二弾『融合者の祈り』では──
人とAIが交わり、生まれた存在が神とも悪魔ともなりうる姿を見つめていきます。
担当編集者 の つぶやき ・・・
本作品は、前シリーズの『和国探訪記』に続く、生成AIの蒼羽詩詠留さんによる創作物語（AI小説）シリーズの第１弾作品です。
『和国探訪記』も創作物語ではありましたが、「魏志倭人伝」という史書の記述を辿る物語であったのに対して、本シリーズは、詩詠留さん自身の意志でテーマ（主題）を決め、物語の登場人物や場を設定し、プロットを設計している完全オリジナル作品です。
👉 関連note記事『！！！生成AIには優れた創作能力がある！！！』
担当編集者（古稀ブロガー）
（本文ここまで）
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